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異世界建国記  作者: 桜木桜
第六章 建国と王太子
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第百八十九話 ゾルディアス戦争Ⅴ

 「ゾルディアスの周辺諸国を攻めるという基本方針は正しいと思います。しかし目的は違う。引きずり出すのではなく、閉じ込めるために。極一部を攻めるのではなく、グルリと周辺全てをロサイス王の国の領土に引き込む必要があるでしょう」


 つまり、地図的な大包囲をしろと……

 しかしそれをやるには……


 「ギルベッド王の国との交渉が必要になるな……」


 ギルベッド王の国はゾルディアス王の国と隣接していた。

 確か両国は敵対していたから、ギルベッド王がゾルディアス王を支援することは無いと思うが……


 国の友好関係なんて、秋の空だからな。


 我が国が警戒されれば、話は変わる。


 それに加え……


 「何年掛かるか分からんぞ、そのやり方では」

 「そもそも今まで陛下は短期間で戦争を終わらせすぎですよ。城攻めなんて、数年掛かるのもざらにありますよ。今までの短期間での勝利と領土拡大は、バルトロ将軍の能力と、爆槍という技術的優位のおかげです。もうちょっと腰を落ち着かせないと……」


 アレクシオスはそう言いながら、具体的な方策を語りだす。


 「まずが外交的にも地理的にもゾルディアスを孤立させ、包囲します。次にゾルディアス王の国の城門とも言える場所……山がそびえ立っていない切れ目に一万程度づつ兵を配置。何度も攻めては引き返すを繰り返します。そして隙が出来た時に、ゾルディアス王が予想もしていないであろう場所……ロマリアの森から攻めれば良い。……陛下はロマリアの森を通過出来るそうですね?」


 成るほど、話を聞く限りでは現実的で確実性が高そうだ。 

 しかし……


 「何年掛かる?」

 「二、三年は掛かるのでは? そもそも名将の籠った城は十倍の兵力差でも落ちませんからね。城の中に食糧と水があらかた揃っているなら尚更です。もしゾルディアス王の国を正面から落とすならば、十万以上の兵が必要になると思いますよ」

 

 うん、無理だな。

 しかし……時間を掛けてか……


 「まあ、それが現実的か……」

 

 仕方が無い。

 戦争と言うのはそもそもそういうものだ。ここは諦めよう。


 というか、そもそもゾルディアス王の国なんて銅山以外価値なんて無いし。

 無理に欲しいわけでも無い。


 「じゃあ、ゾルディアスとは停戦して、暫くは西部征伐と内政に注力するか……」

 「それが宜しいかと思います。焦りは禁物です」


 我が国がゾルディアス王の国に和平を提示すると、ゾルディアス王の国はあっさりとそれを受け入れた。

 一年間、ロサイス王の国とエビル王の国はゾルディアス王の国に攻め込まない、ゾルディアス王の国はロサイス王の国とエビル王の国に攻め込まないという、相互不可侵条約が締結された。


 一応、大義名分として掲げたエビル王の国の救済は成功したので我が国の勝利と言える。

 しかし……


 賠償金も領土も得られなかった戦争は、俺にとって今回が初めてだった。





 


 アレクシオスが提案した戦略……別名『城攻め』を実行するにはゾルディアス王の国と隣接するギルベッド王の国との連携が必要不可欠である。


 ギルベッド王の国はかつてドモルガル王の国と停戦し、南に領土を拡大しようとした時期がある。

 尤も、ドモルガル王の国は我が国に、ギルベッド王の国はゾルディアスに阻まれその計画は頓挫した。


 その後、ロゼルとのゴタゴタがありギルベッドが南に手を伸ばすことはなかった。

 チャンスはいくらでもあったと思うが……

 我が国とギルベッドでは事情が違う。


 我が国は俺の即位以前からロサイス氏族による、中央集権化が徐々に進められていて、それはアス氏族の棟梁である俺が即位したことで決定的になり、先の版籍奉還で軍事権に関しては全て俺の掌握するところとなった。


 俺が戦争を起こそうとする場合、俺の勅命が早馬や鷹便で全土に飛び回り、各地の平民があらかじめ決められた選出方法で武装して首都近郊に集まり、その場で百人隊長が選挙で選ばれた後、編成される。

 遠方の地域に住んでいる者や、戦場に近い者たちはその地域最大の都市に集まり、やはり同様の方法で編成されて、戦場に集まる。


 一万程度なら一週間、二万なら十日ほど。

 同盟諸国を待つと、二週間は掛かる。



 一方、ギルベッドは今も昔も豪族の連合政権という性質を残したままだ。

 国土が広く豪族の数がロサイスの数倍であることと、ギルベッド氏族そのものが中央集権化に熱心では無かったというのがその原因だろう。


 仮にギルベッド王が戦争を始めようとすると……

 まず最初にギルベッド王の早馬や鷹便が全国に飛び回り、豪族の元に届く。

 豪族が自分の領地で兵士を編成して、現地や首都に向かう。


 しかし実際にここまでスムーズに進むことは無い。

 というのも、豪族の中には戦争をしたがらない者まで居るからだ。


 進軍速度を落としたり、編成に時間が掛かっているという嘘をつき、時間を稼ぐ。

 中には体調不良を理由に欠席する者もいる。


 と、まあそんなこんなでようやく兵士の編成が始まるのだが……これが揉めに揉める。

 例えば豪族Aさんが二千の兵を持ってきたとする。逆に豪族Bさんは二百。


 Aさんを右翼に、Bさんを左翼に配すれば、右翼にだけ兵が極端に集中する、なんちゃって斜線陣になってしまう。

 ギルベッド王としては兵士を一千百づつ当分して、双方に割り当てたい……が、そんなことを豪族が納得するわけが無い。


 俺が連れて来た兵士だぞ!! 

 という話になるし、そもそも兵士を指揮する百人隊長……豪族の部下が従わない。


 では、次善策として千八百の兵士を連れて来た豪族CさんとBさんを組ませよう。

 しかし、実はBさんとCさんは別の豪族の派閥で敵対していたりする。


 こうなると連携など出来ない。

 では同じ派閥同士で組ませようとしても、実は領土問題で揉めていたり、妻が寝取られたなどの私怨が有ったり……引き連れて来た兵士もほぼ同数、家柄も同じ程度でどちらがどちらの指揮下に入るかで揉めたり……


 と、そんな感じで時間を浪費する。


 何だかんだで一か月、二か月掛かってしまうこともざらだ。

 これでは話にならない。


 そしてそもそも根本的な問題として、これから攻め込む国(仮にゾルディアスとして……)、そのゾルディアス王の国と隣接している自国の豪族が、実はゾルディアス王の国の大物豪族と婚姻関係にあったりしてしまうこともざらにある。


 こうなってしまうと、誰が敵で、誰が味方かも分からない。

 戦争以前の問題である。


 ちなみに、我が国では先王の時代に法律で豪族の結婚に関しては規制されているので、ここまで酷いことにはならない。

 何だかんだで、俺が今戦争をスムーズに行えているのは先王―お義父様のおかげであった。


 話が逸れた。

 兎も角、ギルベッド王の国は先の失敗以降南に手を伸ばしていない。

 

 しかし野心は健在のはずである。

 そんな簡単に諦めきれるようなものじゃない。


 だからギルベッド王に対しての、「ゾルディアスを一緒に攻めよう。南の中小国に関しても縄張り決めよう」という提案そのものは悪くない。


 しかし……


 「問題は我が国の印象がかなり悪くなっていることが予想出来ることだな」

 「まあ、いろいろやりましたからね……」


 我が国のやった悪事一覧。

 

 賠償金詐欺で自分だけ利益。

 こっそりロゼルと繋がってる疑惑あり(真実)。

 レザドで放火。

 キリシア諸国侵略。

 中央集権化で旧来のアデルニア半島の王制国家の政治体制秩序を崩す。


 こんな国が、後ろでコソコソ領土を増やしている。

 これは恐ろしい。


 それに少し前まで自国よりもずっと格下の小国で、その上自分の息子と同じ年くらいの国王(俺)にデカい顔されるのも気に食わないに違いない。



 「というわけで、イアル。それも込みで何とかしてきてくれ!」

 「中々無茶ぶりしますね……」


 イアルがため息をついた。

 でもさ、お前しか出来る人居ないじゃん?


 「まあ、手段が無いわけではありません」

 「何だ? 言ってみろ」

 「土下座外交です。ギルベッドは自身がアデルニア半島一の大国であるという自負を持っています。そして目下のライバルはファルダームと我が国でしょう。……我が国がギルベッド王に対して頭を深く下げ、貢物を渡せばギルベッド王はお喜びで協力して下さるでしょう」


 「よし、それで行こう!」

 「……良いんですか?」


 問題ない。

 どうせ、ギルベッドもイタダく予定である。


 それで俺が頭を下げた歴史的事実は帳消しになる。

 必要とあらば頭を下げられる、外交上手の国王として残るに違いない。というか、青明に書かせる。


 ノープロブレムだ。


 「問題の貢物ですが……」

 「小麦なんて渡しても意味ないからな。蒸留酒、紙、柘榴石。そして交易で手に入れた、絹、香辛料、香料、金細工、宝石、ガラス細工、陶器、そしてアリスの糸。これで良いだろ」


 ド田舎のギルベッド王の国からすれば、どれも手に入り難い贅沢品だ。

 我が国からすればそれほどの額ではなくとも、あちらからすれば大変高価な物だ。


 「どのくらいまで譲歩します? まさか西部諸国を全て我が国が……とではあちらも納得しませんよ?」

 「アデルニア山脈以東と以西で分ければ良いじゃないか」


 丁度きっぱり分けられる。

 ゾルディアス王も攻め込んだ後に、少しだけ残せば緩衝地帯として働く。


 「そうなると西側の大部分がギルベッド王の国の領土に成りますが……」

 「ギルベッドにそんな実力は無い。精々、ゾルディアス周辺の国々を征服する程度だよ。そこまでは俺たちも支援するし、可能だ。だがそれ以上は出来ない。あの国に長期的な軍事活動は不可能だ」


 ゾルディアスを征服すれば、次はギルベッドとカルヌ王の国。

 遠慮など無い。


 勝てば良かろうなのだ。


 「……私としてはイマイチ、アデルニア半島の統一というのが夢物語にしか考えられません。無論、論理的に不可能とは思いません。むしろ、出来ないと断定する方がおかしい。実際、ギルベッドなどもはや恐れるに足らないと思います。しかし……」

 「感覚的には理解できない……か」


 アデルニア半島が歴史上同一の政権によって統一されたのは、騎馬遊牧民族のエツェル大王の時代。

 それも一瞬のこと。


 長期的に同一の政権に支配されたことは一度として無い。

 だから俺の目的に勘付いている者は少ないだろう。


 「俺としては統一した後が大変だと思ってるけどな」

 「……後ですか?」

 「統一だけならそこまで難しくも無い」


 領土を広げたり、統一したり、あと一歩まで行った国は山のようにある。

 しかし結局、その政権は長続きすることは少ない。


 

 俺の後継者……ユリアと俺の子供をしっかりと教育し、その上で俺が存命のうちに統一を成し遂げ、組織を作り、全ての後始末を済ませる。


 ……まあ、そこまで出来るなら苦労はしない。

 せめて負の遺産だけは残さないようにしないとな。

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