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異世界建国記  作者: 桜木桜
第六章 建国と王太子
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第百八十七話 第一次ゾルディアス戦争&第一次西部征伐 Ⅲ

もう二度と登場することのないキャラのために名前を考える暇は無いのである


 「俺に続け!!」


 ロンが馬の腹を蹴り、剣を振り上げて敗走する敵の背を追う。

 それに続き、ロサイス軍一万がロンの背を追う。


 エビル王の国より少し南、ゾルディアス王の国の東南にある、小さな国……国と名乗っているだけで実態は豪族と大して変わらない規模の国の軍、千と交戦し、ロンは勝利したのだ。

 敵は地の利を生かし、奇襲で一万の軍勢を壊滅させようと朝駆けを仕掛けたが、バルトロの教え通り強固で要塞のような陣を作り上げていたロンにあっさりと跳ね返され、逆に追い詰められている最中である。


 「貴様が敵将だな? いざ尋常に勝負!!」


 逃げるのを諦め、ロンと対峙する敵国の王。

 無論、圧倒的に優位な状況でこの一騎打ちを受け入れる必要は無い。


 しかしロンは一騎打ちを受け入れる。

 士気に影響することを恐れたのである。


 「ロン・アエミリウス!」

 「キッシュウ・マヌケロス!!」


 キッシュウ・マヌケロスと名乗った敵国の王の剣と、ロンの剣が交差する。

 マヌケロスの剣先が宙を舞い、鮮血が地面を汚した。


 「……見事」


 マヌケロスは鮮血の海に沈む。 

 ロンはマヌケロスの首を斬り取り、空に掲げた。


 「敵将はロン・アエミリウスが討ち取った!!」


 自分たちの王の死を知り、敵軍の兵士たちは肩を落とした。 

 ロサイス軍、死者約三十、負傷者約五十。

 マヌケロス軍、死者約三百、負傷者約四百、捕虜約三百。


 こうしてアデルニア半島の小国が一つ、地図から消失したのだった。







 「マヌケロス家の成人男子は全員投獄。女子と子供は首都に護送するように」


 ロンはマヌケロス王の国の王都……人口三千人の街にある屋敷で兵士たちに指示を出す。

 戦争は勝利することよりも、勝利した後……戦後処理の方が大切なのだ。


 本来ならイアルやライモンドがやるような仕事であるが……マヌケロス王の国の人口は僅か一万ほど。

 この程度の小国、わざわざロサイス王の国の大物政治家が手を下すまでも無い。


 ロンに政治の経験を……というアルムスの意向で、戦後処理までもロンに任せているのだ。


 「ロン、豪族……というか現地有力者はどうする?」

 

 グラムはロンに尋ねた。

 わざわざ言い換えたのは、豪族と言えるほどの規模ではないからである。


 精々村長が良いところだ。


 「温存した方が良いんじゃないか? 後で赴任する地方官もその方が便利だろうし」


 現地有力者というのは、一般市民と支配者を繋げる役割を果たす。

 殺すよりも、温存した方が役に立つのだ。


 「ロン、次は俺が率いるからな?」

 「分かってるよ。順番で決めたもんな」


 ロズワードがロンに対して念押しをする。

 アルムスは三人に対して、順番で軍を率いるように命令した。三人とも同じだけ功績と経験を得られるようにするためである。


 三日交代が三人のした約束だった。


 「あとどれくらいの国がゾルディアス王の国と同盟を結んでいたっけ?」

 「まだ三十以上はあるよ。どれも小国や小さな規模の豪族ばかりだ」


 グラムは地図を広げて、ロンの質問に答える。

 まだまだ戦争を続けなくてはならない。


 もっとも、ゾルディアス王の国が腰を上げるまでの話だが。


 「ロン・アエミリウス様! ヒケゴシー家から使者が参って居ます。どういたしましょう?」

 「通せ」


 ヒケゴシー家はここから西の方にある、豪族家である。 

 マヌケロス家と同盟関係にあった国で、ロン達三人の次の攻略対象であった。


 使者の男はロンたち三人に対して深く頭を下げ、条件次第で降伏する意思を伝えた。


 「ヒケゴシー家の支配を御認め下さるか、それとも貴族家として存続させて頂ければ……」

 「悪いが、どちらも認められない。ヒケゴシー家の領土は全て没収の上、臣民権保有の国民として首都に移住して貰う」


 ロンは首を横に振った。

 当たり前な話だ。


 ヒケゴシー家もマヌケロス家同様、その総兵力は千程度。恐れるに足らない。

 ヒケゴシー家がロサイスに齎す損失よりも、ヒケゴシー家を豪族、貴族として存続させる方が将来的な損失は大きい。


 貴族というのは、数が少ないからこそ価値がある。

 そう易々とその地位を渡すわけにはいかないのだ。


 「せ、戦争に成りますぞ!」

 「構わない、むしろ望むところだよ」


 ロンは笑顔で答える。

 使者は言葉を詰まらせる。


 『戦争になる』という脅しは、圧倒的強者と弱者の間では通用しない。

 特に最初から捕食するつもりの肉食獣に対しては。


 「そうそう……」


 ロンは青い顔の使者に追い打ちを掛ける。


 「俺たちは暇じゃない。そう何度もそちらの言い分を聞いている暇は無いんだ。だけど慈悲はある。明日までには返事を待ってあげよう。そうすれば土地以外の財産には手を出さないし、男子を処刑したり、投獄したり、島流しにすることは無い」


 使者の表情が青を通り越して、真っ白に変わる。

 慌てた様子で踵を返した。


 「一度、戻らせて頂きます」

 「良い返事を期待しているよ」


 ロンはその後ろ姿に声を掛けた。




 次の日の昼、ヒケゴシー家から降伏を伝える使者が訪れた。




 一方、イアルは比較的規模の大きい豪族家や王を名乗る小国を訪れていた。

 イアルが大きい家を調略し、ロンたちが小さな家を武力で滅ぼす。


 それが西部征伐の基本方針であった。

 南部征伐と違うのは、レザドのように中核を成す大国が存在しないことである。


 その上、経済力も軍事力も大したこと無い相手ばかり。

 調略はキリシア諸都市以上に容易い。



 「ミエハリス殿。我が国にとって貴殿と戦うのは吝かでは無い。しかし、戦争は死人が出る。それはお互いに避けたいところでしょう。無益な戦は避けるべきだ。懸命なミエハリス殿の御英断を我々は望んでいます」


 イアルはゾルディアス王の国東南部最大の諸侯……ミエハリス家の当主に降伏を促した。

 ミエハリス家の総兵力は四千。

 軍事技術も武器の性能も、兵力も優っているロンたちからすれば、ミエハリス家も大した相手ではない。


 ロンたちが恐れているのは、周囲の諸侯はミエハリス家の元で結集することである。

 そうなれば数だけならば一万は届く。


 逆にミエハリス家が降伏すれば、西部征伐の難易度は大きく下がる。

 ミエハリス家程の軍を持つ家は、西部地方には数えるほどしかない。


 「うーむ、私も争いは望んでいないが……条件次第ですなあ」

 

 ミエハリス家当主はでっぷりと太った腹を揺らしながら、顎に手を当てる。

 その手には煌びやかな宝石が輝いている。


 ミエハリス家がこの地方周辺の頭一つ飛び抜けた軍事力を持ちながら、未だに国を名乗ることが出来ていないのは、この宝石が原因である。

 

 ミエハリス家の人間は代々見栄っ張りなのだ。

 集めた税金を宝石や絹の衣服に使い、治水や軍事費に回すことが出来ない。


 さらに贅沢をするために重税を掛けるため、民も疲弊している。


 今も彼の脳内には、どちらの方が贅沢が出来るか、見栄を張れるかのどちらかしかない。


 もしアルムスがミエハリス家の者なら、逆にロサイス王の国の侵略を利用して周辺国を取りまとめ、国を創る切っ掛けにするだろう。

 実際、アルムスはロゼル、ポフェニアの脅威を宣伝し、自らの国の地位を高めている。


 しかしミエハリスは小心者。

 大国ロサイスと渡り合う勇気は無い。


 「ミエハリス殿には一族全員、我が国の首都に移り住んで貰います。貴族としての地位をお与えしましょう。荘園も一定の広さを用意します」


 田舎の小豪族として終えるか、今太陽が昇る如く勢いづく国の貴族になるか……

 答えは明白である。


 「分かり申した。これからはロサイス王の国の貴族として、このミエハリス家、忠誠を誓います!」


 こうしてミエハリス家はロサイス王の国に降伏した。

 その結果、少なくともゾルディアス王の国東南部一帯の国々が団結する可能性は完全に潰えたのである。


 尚、ミエハリス家は三年後に借金で破産し、荘園も何もかも失いただの平民に落ちぶれることになるのだが、それはアルムスの知らぬところである。


 



 第一次西部征伐が始まってから一か月。

 ロンたち三人は合計七つの諸侯を取り潰した。


 ロンが三つ、グラムとロズワードが二つだ。

 ミエハリス家も含めれば八つの家が一か月で潰れたことになる。


 今までエビル、ベルベディル、ゾルディアスの三ヶ国に囲まれ、緩衝地帯として均衡を保ってきた場所にロサイスという大国が乗り込んだ結果だ。


 あとはミエハリス家より南の三家は無条件降伏したので、ゾルディアス、エビル、ロサイスの三ヶ国に囲まれた地域一帯がアルムスの直轄地になったことに成る。


 三人はさらに南、西の地域に手を伸ばすため、旧ミエハリス領に訪れた。

 ミエハリス家の屋敷は、一応豪族だったわけあってそれなりの防衛施設が揃っている。


 これを改修して、今後の西部征伐の拠点とするのだ。


 「うーん、酷い土地だな。民衆がガリガリに痩せている」

 「農地も放棄されている場所が多いな」

 「川も堤防が決壊しっぱなしだし」


 ロンたち三人は感想を漏らした。

 三人は丁度近くを歩いていた、ガリガリの農夫を捕まえて問いただした。


 「なあ、領主はどれくらいの税を採ってたんだ?」

 「六割ですだ」


 三人は顔を見合わせた。

 

 「こりゃ、後で三人で何とかするしかないね」


 ロンは肩を竦めた。





 三人が屋敷に到着すると、すでにイアルが待ち構えていた。

 イアルは笑顔で三人を迎える。


 「皆さん、お疲れでしょう? 取り敢えずお風呂と食事を用意しました。……お風呂にしますか、ご飯にしますか? それとも……」


 イアルは紙を取りだした。


 「バルトロ将軍からの指令書にしますか?」

 「「「指令書で!!!」」」


 三人は口を揃えた。

 イアルはロンに指令書を手渡す。


 グラムとロズワードがロンの手元を覗き込む。


 「なになに……」


 そこにはこう書かれていた。


 『ゾルディアス王が腰を上げた。三日後には衝突する。急ぎ、エビル王の国に帰還せよ』


 こうして第一次西部征伐と共に第一次ゾルディアス戦争も終わりを迎えようとしていた。


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