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異世界建国記  作者: 桜木桜
閑章Ⅴ 小国と大国と超大国そして魔女
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第百七十八話 戦後処理Ⅱ

六章始まります

 晴れて第三次南部征伐が終了した。

 この戦争の結果、南部のキリシア人植民市の大部分が我が国の領土及び我が国の同盟国となったわけで……


 流石に領土を拡大し過ぎたんじゃないか?

 という思いが脳裏を過ぎる。


 我が国の強大化を恐れて、ファルダームやギルベッド王の国が妨害工策を仕掛けてくるかもしれない。

 仕掛けてこないにしても、内心面白くないに違いない。


 自分たちはロゼル王国と向き合って何も出来ないのに、対ガリア同盟の加盟国にして提唱国であるロサイス王の国が、南で領土をせっせと拡大しているのだから。


 第二次包囲網を作られることだけは防ぐ。

 同時に国内を引き締めなくてはならない。


 つまり今、やるべきことは外交と内政の引き締めだ。

 

 というわけで……

 本格的な戦後処理に移ろう。




 

 まず先にやるべきことはロサイス・キリシア同盟の結成である。

 ポフェニアとの講和の前に形だけ同盟を組んだが……ポフェニアの脅威は過ぎ去ったわけでは無い。

 細部を決めなくてはならない。


 とはいえ、ポフェニアが攻めて来たら各国が海軍か陸軍、どちらか得意な方を出し合って共同して利権を守る……という趣旨に関してはどの国も異論はない。

 揉めたのは軍事同盟の部分ではなく……


 キリシア人都市国家同士の利権争いである。

 

 というのも、同じキリシア人同士だからといって仲が良いわけでは無いのだ。

 ポフェニア人は大嫌いだが、隣街のキリシア人も大嫌いというほどでは無いにしても嫌いなわけだ。


 漁業権だとか、港の利用だとか、領土問題だとか……

 面倒くさいことで揉めに揉めていた。


 これに関税という油を注ぎ込む勇気は俺にはなかった。


 しかしこういう諸問題は我が国がどうしようにも解決できない問題である。

 どちらかの言い分を取ればどちらかが損をした気分になるし、折衷案を取れば双方に不満が残る。

 かといって放置し続けると、同盟に棘として残る。


 面倒くさい……

 これが王制国家ならば、国王がバシッと決めてしまえるがキリシア人都市国家の大部分は直接民主制国家である。

 その所為でも揉めに揉める……


 はあ……


 「まあ、見守っておくしかあるまい。一先ず、軍事同盟の部分だけ先に調印して貰い、紛争解決は当事国同士の交渉に任せよう」

 「宜しいんですか?」


 俺はイアルの問いに頷く。


 ぶっちゃけ、キリシア人の都市国家なんぞ当てにはしていない。

 我が国の直轄地であるレザド、同盟市であるネメス、そして友好国であるゲヘナ。

 

 これだけで十分に対抗できる。


 俺がロサイス・キリシア同盟に求めているのは、我が国の国際的地位の向上の手助け。

 今はこれで十分だ。

 

 「最悪、関税同盟とかは国家間で個別交渉すれば良いしな」

 「なるほど、そういうことであるなら私からは何もありません」


 納得してくれたようで、イアルはあっさりと引き下がった。

 外交問題はその都度対処するしかあるまい。


 「さて……まず問題になるのはゲヘナに逃亡した元レザド議員だな」


 無論のことながら、祖国の危機に裸足で逃げ出すような奴を貴族にする気もないしレザドの国政に噛ませる気は無い。

 レザドに残っていた大量の資産……屋敷、畑、奴隷、大型船、持ち運べない大きさの美術品

の類は全て没収。

 その上で。捕縛してある。


 彼らが何の反抗心も抱いていないというのであれば、俺は適当に放逐するのだが……

 生憎、彼らは俺に対して敵愾心を燃やしている。


 元商人なだけあり、コネは豊富だ。

 金は無くとも放置するのは危険、しかし何の力も無いから裁判をするのも面倒。


 うーん、イライラするな。


 「何か意見はあるか?」


 俺はイアルとライモンド、エインズろアレクシオスに問いかけた。

 ライモンドは答える。

 

 「あのような卑怯者、死刑で宜しいではないですか。何か問題が有るのですか?」

 「まあな……なあ、エインズ?」


 俺はエインズに目配せをする。

 エインズはため息交じりに深く頷いた。


 「中には擁護するキリシア人も大勢いるのです。ネメスやゲヘナには彼らの友人も多いですからね。商人に大切なのは名によりも信用であり、人脈です。困ったらお互い様、出来るだけ助け合うモノです……特に、このような生命の危機には」


 と、いうわけだ。

 ネメスやゲヘナの支配階層には彼らのお友達が少なくない数がいる。

 彼らの気持ちを無視すると、ネメスの統治に支障が出るしゲヘナとの関係にも傷がつく。


 「では減刑して国外追放では?」

 「王が甘すぎる!! と国内から避難殺到だ」


 俺はイアルの提案を即座に却下する。

 アデルニア人は敵に背を向けるという行為を嫌う。


 母国を捨てて逃げるような奴をアデルニア人は許さない。

 平民も、貴族も、貧乏人も裕福なモノも含めて。


 同時にレザドの民衆も不満を持つだろう。

 下手すれば自分たちはポフェニア軍に殺され、奴隷として連れ去られる危機にあったのだから。


 「ではこういうのはどうでしょう、陛下」


 アレクシオスが口を開いた。

 俺を含めて四人の視線がアレクシオスに集まる。


 「彼らの処遇をレザドの人民に任せるのです。法務官を選挙で選び、弁護士を立ててやり、ちゃんとした裁判で裁くのです。自らの手で決定するのだからレザドの者は不満を抱くはずが有りません。アデルニア人たちも、当事者であるレザドの決定には納得するでしょう。そしてネメスの議員たちも、陛下に対して反感を抱くのは筋違いということで、関係が悪化することは有りません」


 ふむ……

 有りだな。


 しかしそれを採用するには一つ、問題がある。


 「レザドには一級市民と二級市民という二つの階層があるらしいじゃないか。……まあ、どちらも臣民として迎え入れるつもりだが」


 レザドはかなり独特な税制や身分制度の国だ。

 我が国との相違点も大きい。


 その辺りの擦り合わせをしなければならない。


 つまり、二級市民にも法務官を選び、立候補する権限を与えるか……

 という問題である。

 一級市民の反発が予想される。


 「僕が何とかして見せますよ。何しろ僕はレザドの英雄ですから」

 

 今、レザドではアレクシオスの人気が高まっている。

 まあレザドが今存続しているのはアレクシオスのおかげだからな。


 アレクシオスが説得するなら問題ないか。


 「同時並行でレザドに我が国と同じ税制……地税と売上税を導入して人頭税を撤廃する。これも一級市民からの反発が予想されるが……説得できるか?」

 「お任せください」


 アレクシオスはニヤリと笑って見せた。

 よし、レザドの問題はアレクシオスに任せて置けば問題ないな。


 実務は残留した議員や、派遣した官僚にやらせれば良いだけだし。

 アレクシオスには『顔』として役に立って貰おう。


 ……

 政治改革が終わった後、レザドをどうするか……つまりこのまま代官による政治を維持するか、それとも自治権を与えるかの問題もあるが、それは今考えることでは無いな。



 レザド問題は一先ずこれで良いだろう。

 しかし、もう一つ目の上の大きな問題がある。


 「ネメスの処遇はどうしましょうか?」


 ライモンドの言葉通り、ネメスの処遇は終わっていない。

 通常の都市国家ならば同盟市に組み込んだ後、細かい法律の擦り合わせを行って戦後処理は終わる。


 しかしネメスは普通(・・)の都市国家では無い。

 今まで他の都市国家のリーダー核だった都市であり、そしてその人口は七万を超える。


 経済力も高く、国家収入も我が国に並ぶ。 

 そして精強な海軍と陸軍を保有する。

 国内には小規模ながらも良質な鉄を産する鉄鉱石の鉱山が有り、ネメスの製鉄技術はアデルニア半島一。


 そのまま内に取り込むにはあまりにも危険すぎる。


 それに加え、我が国とネメスは一度も交戦してない。

 ネメスからすれば我が国に『負けた』という気は全く無い。


 「ネメス内部に我が国のアデルニア人の植民都市を建設するのはどうですか?」

 「ネメス人の土地を奪ってか? 敵愾心を煽るだけじゃないか」


 俺はライモンドの意見を却下する。

 実のところ、ネメスの海軍と陸軍は警戒するのと同時に期待もしているのだ。


 ネメスを極端に弱体化させたくはない。


 「一先ず、鉄鉱石の鉱山は没収する。鍛冶師には好待遇を条件に強引に引き抜くしかないな」


 そうすれば我が国全体の製鉄技術も上がるし、同時にネメスの武器製造能力も低下する。


 「後はレザドに軍を駐留させることで、常に睨みを利かせる……とか? でも弱いな」


 何か、上手い手は無いだろうか?


 「では陛下。陛下が都市国家にやっている政策をネメスでやるのはどうでしょう?」

 「……どういうことだ?」

 「分割統治ですよ」


 ライモンドの案はこうだ。

 ネメスの人間を三つの階級に分ける。


 まずネメスの議員たちには準貴族の位を与え、臣民権を付与する。

 ネメスの富裕層や知識層、軍人には臣民権を付与する。

 その他の者には通常の同盟市の市民と同じ待遇を与える。


 こうすれば三派閥が内部で勝手に揉めて、不満の矛先は俺に来ない……

 成るほど、良いアイデアかもな。

 

 「よし、ライモンドの案で行こうか」


 ライモンドの案なら極端にネメスを衰退させることも無いし、費用も掛からない。

 これだけでは不安が残るが、他の諸政策を組み合わせれば盤石になるだろう。


 「早速取り掛かろう」


 全体的な方針が決まり、ようやく戦後処理の最終段階に入ることが出来た。


 尚、元レザドの議員たちはレザド市民の裁判により全員が死刑になったことを記しておく。

六章は全体として、戦争と内政のバランスが整っています

ただ、周囲から大国は無くなってるので、大規模な戦争はそんなにありません

ただ章のタイトルから分かると思いますが、作品全体としてはそれなりの山場です

全体の丁度折り返し地点ですね



あと、最近『アヴィニョンにバビロン捕囚やめてクレメンス(五世)』というギャグを思いついた


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