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異世界建国記  作者: 桜木桜
第五章 南部征伐とキリシア人
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第百七十六話 皇帝の憂鬱Ⅱ

今日は少なめ

 「災難だったな、ケプカ」

 「……申し訳ありません、セアル兄さん」


 ケプカは自分の兄……バルカ家当主セアル・バルカに対して頭を下げる。

 一方、セアルは首を横に振った。


 「仕方がないことだ。勝敗は兵家の常、時の運だ。……許せぬのは」


 アレクシオス。


 セアルは拳を強く握りしめた。


 「あの時、絞め殺しておくべきだった。……俺の責任だ」


 虹彩異色(オッドアイ)の子供は、その家と国に不幸を呼ぶ。

 それを回避するためには、産まれた直後に絞殺さなければならない。


 古くから伝わるポフェニアの伝承だ。


 それが的中してしまった。


 「聞くところによると、蛮族の国の貴族になったとか。何がコルネリウスだ。バルカの面汚しめ」


 セアルの顔に青筋が浮かぶ。

 その目には怒りの炎が燃え盛っていた。


 「今はアズル・ハンノの勢力が優勢。これは仕方が無い。我らは失敗したのだ……しかし、すぐに盛り返してやろう。その時は再びアデルニア半島に兵を進める。……必ずアレクシオスを殺してやる。これは奴と我々バルカ家の因縁だ。これに決着を付けない限り、我々バルカ家に安泰はない!!」









 「今頃、セアルの奴は怒り狂っているだろうな」

 「はは、あの脳筋が吠えている姿が目に浮かびますな。アズル様」


 アズル・ハンノはアルムス王からお土産として貰った蒸留酒を口に運ぶ。

 これほど強く、そして香りの良い酒は飲んだことが無い。


 「この蒸留酒も然ることながら、紙という産物も素晴らしい。それに我が国以上に整った道路が敷かれていた。蛮族と侮るわけにはいかんな」


 ロサイス王の国やキリシア諸国に対して高圧的に接したアズルだが、内心ではそこまでロサイス王の国のことを悪く思っているわけではなかった。

 むしろ評価している。


 小さな小国を数年でアデルニア半島有数の大国にまで伸し上げたアルムスの手腕は高く評価していた。


 「海を挟んでの隣国だ。敵対的関係よりも友好的な関係を築きたい。……今までテーチス海にはアデルニア人の海賊が出没していた。しかしあの王があの半島を統一すれば、海賊は無くなる。双方が歩み寄れば共存できるはずだ」


 ロサイス王の国はまともな海軍を持っていない。

 だからポフェニアは侵略される恐れはない。


 ポフェニアがアデルニア半島にさえ手を出さなければ、戦争が起こることは無い。


 「我が国は今のままで十分以上に豊かだ。今は利権を獲得するのではなく、守る方向に切り替えるべきだ。国内に未開拓の肥沃な土地があるというのに、何故軍事費を割いてまで遠征する必要があるだろうか、いや無い。それが分からないとは、バルカはとんだ愚か者共だ」


 アズルはため息をついた。






 キリシア半島、旧クラリス。

 鹿角湾と呼ばれる天然の良港を持ち、灰海とテーチス海、西方オクシデント東方オリエントを結ぶ交差点。

 地政学的なこの要所に、豪華絢爛、雄大壮麗な宮殿が着々と建設されていた。


 その建設途中の宮殿から少し離れた所に、大きな屋敷があった。

 宮殿に比べれば随分と小さいが、やはり巨大……ロサイス王の国の宮殿の五倍以上で、装飾には金や銀、大理石の彫刻が施されている。


 その屋敷のバルコニー……キリシアの美しい海を一望できる場所に、世界皇帝は居た。


 「ええい!! 気に食わん!! あの海猿共め!!」


 ペルシス帝国皇帝、クセルクセス三世は拳をテーブルに打ち付けた。

 テーブルが揺れ、皿に盛られていたイチジクが地面に落ちる。


 クセルクセスはそれを足で踏みつけた。


 ペルシス帝国とポフェニアとの間に結ばれた同盟。

 それはキリシア人の権益をポフェニアが得る代わりに、ポフェニア海軍がキリシア海軍を叩きのめすというものだ。


 その同盟は成功し、見事キリシア半島はペルシス帝国の手に落ちた。

 しかし……



 「少しポフェニアが強くなり過ぎた……失策だったな」


 今まではキリシア人の勢力が強く、ペルシス帝国は海上で不利に立たされていた。

 だからポフェニア人をキリシア人にぶつけ、その勢力を削ごうと考えた。

 

 しかしクセルクセスの想定以上にポフェニア人の力が強く、抑えきれなくなり始めたのだ。


 「……どこかに、海猿と戦える猿は居ないだろうか。ロゼル王国は森猿、ゲルマニス人どもは馬鹿猿……まともな猿は居ないな」


 クセルクセスはため息をつく。

 もはや、ポフェニアと対抗できる勢力はテーチス海には居ない。


 「一部、キリシアを存続させるべきだったか……いや、それは防衛上得策ではない。やはりキリシアは滅ぼすべきだった。しかしポフェニアがどうしても……」


 クセルクセスが悩んでいると、ドアの向こうから男が声を掛けた。


 「陛下、ご休憩のところ申し訳ありません、お耳に入れたいことがございます」

 「それは急ぎか?」 

 「いえ……ただ、陛下のお悩みが解決するかもしれません」

 「入れ」


 クセルクセスが許可を出すと、家臣がクセルクセスの元に進み出た。

 膝を突き、臣下の礼を取ってから顔を上げる。


 「ポフェニア軍がアデルニア半島に侵攻、そして敗北した模様です」

 「ほう……どれくらいの規模の戦いだ?」

 「ポフェニア軍二万、アデルニア半島の勢力四万です」


 クセルクセスは目を見開いた。

 四万というのは中々の大軍だ。


 それだけの大軍を組織出来る国は早々ない。

 少なくともクセルクセスの知識の中に、それだけの兵力を掻き集められる政治権力は存在しない。


 「どのような勢力だ?」

 「ロサイス王の国というアデルニア半島の王制国家とその同盟国です。国王はアルムスという二十代の若者です」

 「ほお……」


 クセルクセスは興味深そうに前に乗り出した。


 「当然、アルムスという男とロサイス王の国の歴史は調べてあるのだろうな?」


 クセルクセスが尋ねると、家臣は満面の笑みを浮かべた。

 

 「はい、ここ数十年のアデルニア半島の情勢は調べておきました。お聞きに成りますか?」

 「聞かせろ」


 家臣はクセルクセスに対してアデルニア半島の情勢を教える。

 アデルニア半島には大小の小国が存在し、抗争を続けていること。

 北にはガリア人の勢力が、そして南にはキリシア人の勢力が、そしてさらに南にはポフェニア人が虎視眈々とその領土を狙っていること。


 ロサイス王の国は数年前まで吹けば飛ぶような小国だったこと。

 それがアルムス王が即位して以来、急速に国力を増し始めたこと。


 そして数年前、ロゼル王国を野戦で打ち破り対ガリア同盟をアデルニア半島の国々と結んで、アデルニア半島に於ける地位を高めたこと。


 そして数週間前、ポフェニア軍を打ち破りキリシア人の指示を得てキリシア人たちと同盟を結び、南アデルニア半島南部に於ける軍事的指導権を得たこと。


 家臣のバルトロ・ポンペイウスという男が名将であるということ。


 アルムスは王族の出身では無く、平民の出であるということ。

 グリフォンという神獣が育ての親で、軍神マレスの息子であるという噂があるということ。

  

 二人の妻と二人の息子と娘が居ること。


 贅沢はせず、質素な暮らしをしていて偶に温泉に行く程度ということ。

 

 そして平民からの支持が厚く、豪族や貴族からは畏怖されているということ。


 征服した地域に住む者たちには寛容な統治をし、逆に逆らった者は容赦なく処罰していること。


 キリシア人やポフェニア人など、異民族であっても有能であれば家臣や貴族に取り立てること。



 「ふむ……外国勢力の脅威を語り、自らが矢面に立つことでその国際的な地位を高める。そして同盟を結び、少しづつ支配を確立するという外交手腕。貴族や豪族を粛清し、逆に平民から支持を集めることで自分の権力を確立する内政手腕。優れた家臣を登用し、その人物に指揮権を委ねる器の広さと勇気。新たに侵略した民に対して飴と鞭を巧みに駆使する統治手腕。自国が多民族国家であることを理解し、それを治めるために優秀であるならば多民族を政権に参加させる頭の柔らかさ。平民という出自を隠さず、逆に神秘性を持たせる切り替えの良さ。何より、感情を一切挟まず合理的な統治をする理性。……悪くないな。少なくとも猿では無さそうだ」


 尤も、伝聞だけでは完全に評価しきることは出来ないが。


 クセルクセスは少し目を瞑り、考え込む。

 そして瞼を開け、家臣を見下ろした。


 「お前は引き続き、アデルニア半島の情勢の監視に努めろ。そしてアルムスという王が、同盟するに値する人間か、見極めるのだ。……情報の取捨選択はするな。お前が見聞きした事は全て俺に伝えろ」

 「御拝命、承りました。陛下。必ずや、成し遂げて見せます。ペルシス帝国に栄光あれ」


レーニン(鶴)スターリン(房)フルシチョフ(鶴)ブレジネフ(房)ゴルバチョフ(鶴)エリツィン(房)プーチン(鶴)メドヴェージェフ(房)プーチン二回目(鶴)


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