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異世界建国記  作者: 桜木桜
第五章 南部征伐とキリシア人
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第百六十七話 第三次南部征伐Ⅲ

 「何故早く援軍に来なかった!! 貴様の所為で負けたであろうが!!」

 「何を言う! 貴様の指揮が悪かったのだろう? この蛮人(バルバロイ)が!!」


 仲良く後ろでを縛られ、喧嘩をするネメスの将軍とガリア人の傭兵隊長。

 こいつら、実は仲が良いんじゃなかろうか。


 「さて、お二方に聞きたいが……レザドとネメスにはどれくらいの兵力が残っているか?」

 「誰が言うか! 私は武人だ! この蛮人(バルバロイ)が!!」

 「……言えば部下の身の安全は助けて貰えるか?」


 前者がネメスの将軍、後者がガリア人の傭兵隊長である。


 やはり傭兵は他人の国よりも、自分自身の部下の方が気になるんだろうな。


 「き、貴様!! 裏切るのか!」

 「裏切るも何も、尋問に答えるだけだ。俺は傭兵隊長、部下の命を守る義務がある!」


 再び口論を始める二人。

 まあ、どちらも言っていることは間違っていない。正しいわけでは無いが。


 「傭兵隊長殿、あなたの部下の身は保証しよう。あなたの部下の名前を教えて貰えるか?」


 傭兵隊長は助けて欲しい、直属の部下の名前を二十人ほど述べる。

 生きていると良いんだが……


 「この二十人は奴隷にすることなく、後で解放しよう。そのためにも早く教えて欲しい」

 「……分かった。俺の証言が正しいと分かったらすぐに解放してくれ」

 「おい! 貴様!!」


 騒ぐネメスの将軍を尻目に、傭兵隊長はペラペラとレザドとネメスの残存兵力について答える。

 

 傭兵隊長の話をまとめると、レザドの兵力はゲルマニス傭兵部隊が三千。

 ネメスは予備兵力が二千ほど残っているらしい。


 どちらも大した敵ではないな。

 問題はやはりアレクシオスか。


 この土壇場でレザドがアレクシオスを投入すると、簡単に勝てる戦いでは無くなるな。





 「陛下、ゲヘナのアブラアム閣下からの親書が届いています」

 「見せろ」

 

 俺は近衛兵から親書を受け取る。

 封を破り、中を確認する。


 ……


 「ゲヘナがネメスに宣戦布告したようだ。ゲヘナの重装歩兵五千がネメスに雪崩れ込んでいるみたいだぞ」


 「とんだハゲワシ野郎ですね。あの男は」


 バルトロが肩を竦めた。

 全くだ。


 俺たちが苦労して勝利した後に横からネメスを掻っ攫おうとは良い度胸している。

 レザドを攻撃しないのは、流石にレザドを横から掻っ攫えば俺に不興を買うと思ったからだろう。


 「とはいえ、ネメスは守りに徹するはず。二千なら暫くは持ち堪えられるだろうさ。それまでに俺たちがネメスを食えば良い」

 「そのためには早くレザドを攻め落とす必要がありますね」


 残りの兵力は三千。

 流石に野戦では俺たちに勝てない。


 しかし籠城戦になれば、ゲルマニス傭兵部隊の機動力は生かせない。


 どちらにせよ、勝利は確定した。

 

 あとは時間との勝負。


 「あまり急いでも戦いに支障が出ます。今日は連戦でしたし、進軍はやめて野営しましょう。五日後にはレザドの首都に到着するはずです。焦りは禁物です」

 「分かっている。数では圧倒的に優っている。勝てない道理は無い」


 ここからレザドまではいくつか小さな都市国家が点在するが、無視して良いだろう。

 どうせ大したことは出来ない。


 今のうちに降伏勧告でも出しておこうか。


 まあ、待遇は同盟市だけどな。








 その夜の事。


 「さて、明日からはどうやって進軍する?」

 「軍を二つに分けます」


 二つに?

 良いのか?


 「敵は三千です。一方、こちらは四万三千。軍を二つに割っても十分過ぎるほどです。一万の別動隊を作り、各都市を攻略させます。司令官は……適当な豪族を当てましょう」


 まあ……本軍であるレザド攻略部隊を率いるのは俺である必要があるからな。

 かといってバルトロを抜きでやるわけにもいかない。俺の指揮は頼りないからな。


 小さな都市国家の攻略くらいなら誰でも出来る。


 「ならロンとグラムを任命しよう。二人でそれぞれ五千だ。二人とも、五千程度なら率いられるだろうし」

 「それが宜しいでしょう。彼らに功績を作らせる良い機会です」


 小さいとはいえ、国を一つ落とすのは十分な功績だ。

 というか、俺が豪族になった切っ掛けは小さな国を落としたからだしな。


 良い経験にもなるだろう。


 「アレクシオスの奴はどうする?」

 「……警戒し過ぎでは? 騎兵が三千ではどうにも出来ませんよ。我々に騎兵が一兵も居ないというならば別ですが、同数ですし……」

 「すまん。気を悪くしたか。決してお前の能力を疑っているわけじゃない。ただ……念には念をな」


 俺が今まで見てきた中で名将と言えるのは、


 バルトロ、アレクシオス、クリュウの三人だ。


 この三人とは二倍の兵力差があっても勝てる気がしない。


 無論、この中ではバルトロが最も優れた将だと思っているが、万が一ということもある。

 バルトロも常勝無敗というわけでも無いしな。


 「まあ、確かにアレクシオス・バルカは脅威です。対応策は考えてあります。もしアレクシオス・バルカと対峙した場合、正面に諸国のファランクスを配置します。両翼と背後には我々のマニプルスを配して守りを固め、同数の騎兵三千を最両翼に配する予定です。これなら手出しは出来ないでしょう」


 ファランクスは正面からの攻撃には非常に強い。

 正面は鉄壁。

 弱点である側面は柔軟性に優れるマニプルス。


 守りを完全に固めた上で、騎兵には騎兵をぶつける……か。


 奇抜さは無いが、非常に堅実で崩しにくい陣形だ。

 これならいくらアレクシオス・バルカでもどうしようもない。


 「敵が数で圧倒的にこちらよりも劣ってる以上、攻城戦になるだろうけどな。生憎、攻城兵器は山のようにある」

 「水運を使って本国から直接運べますからね」


 攻城兵器の弱点は重いことである。

 分解して持ち運んでも、嵩張る。


 よって現地での手作りが基本だ。


 難しい仕組みの攻城兵器……大弩バリスタなどは兎も角、破城槌ならばそこらへんの木を切り倒して先端を削るだけで作れる。


 もっとも、やはり破城鎚だけでは威力が足りない。

 だから長期化してしまうのが常々だが、今回に限りそれは無い。


 「じゃあ、ロンとグラムを呼ぶか。二人にも説明しよう」

 

 俺は近衛兵を使い、ロンとグラムを呼び出す。


 そして二人に別動隊についての説明をする。


 「レザド攻めに参加させられないが、これも十分な功績になる。レザド攻めは殆どがバルトロの功績になってしまうが、周辺都市国家の攻略は全てお前たちの功績になる。期待している」

 

 俺がそう説明すると、ロンとグラムは緊張した面持ちになる。


 「分かりました、リー……陛下! 期待に添えて見せます!」

 「五千という大軍は初めてですが……やり遂げて見せます!」


 ロンとグラムは力強く頷いた。

 この様子ならば大丈夫だろう。


 「一応、俺の軍から優秀な下士官や副官を派遣してやる。彼らの意見をよく聞け。あと、城攻めは……」


 バルトロによる、臨時の講義が始まる。

 二人は真剣な表情でそれを聞く。


 バルトロの話が佳境に差し掛かった時だった。



 「た、大変です!! 陛下!! 至急、お耳に入れたいことが……入室して宜しいでしょうか?」

 「早く入れ」


 幕営に近衛兵が駆け込んでくる。

 一体、何が起こったんだ?


 「レザド南部の海岸に、ポフェニア共和国の陸軍が上陸した模様です! 真っ直ぐレザドに向かっているとか……」


 ポフェニア共和国……

 たしか、アデルニア半島の南の大陸にある海洋国家だったな。キリシア人と争っているという……


 アレクシオスの故国。


 「一体どういうことだ? レザドの救援に来たのか? それともハイエナか?」


 「そ、それは分かりません。呪術師の梟が旗を確認しただけのようで……数も不明です」


 数も分からないのか。

 ただ、千や二千なんていう数じゃないだろうな。


 相手は大国だ。間違いなく、万は超えていると考えて良いだろう。


 「一先ず、使者を送ってみましょう。連中の目的は分かりませんが……レザドの助け舟でもハイエナでも、我らの敵なのは確かでしょう」


 それもそうだな。

 俺は退く気は無い。


 あちらが退かない限り、ポフェニアは敵だ。


 「ところで軍を二つに分ける作戦はどうする?」

 「中止せざるを得ないでしょう。まずはポフェニア軍を撃破することを急いだ方が良い。敵の数も分かりませんし。各都市の攻略はレザド陥落後でも遅くは無いでしょう」







 ポフェニア軍が上陸した次の日の昼のこと。


 「軟禁が解けたのは良いんだけどね。議員たちが一人も居ないというのは凄いね。全く……」


 アレクシオスは肩を竦めた。


 昨日の昼頃、レザドにレザド・ネメス連合軍の惨敗の報が届き、レザド議会は大混乱に陥った。

 議会では徹底抗戦派と降伏派が入り乱れ、大乱闘の騒ぎとなった。


 そこへ、ポフェニア共和国の宣戦布告がレザドに届けられた。


 レザドを含むアデルニア半島南部のキリシア系諸都市は、トリシケリア島の領有権でポフェニアと対立していた。


 ポフェニアはトリシケリア島全土を手中に収めるために、レザドへの進軍を始めたのだ。

 レザドを落とせば、トリシケリア島とアデルニア半島の間の海域の制海権を得ることが出来る。


 ポフェニアの狙いはレザドの首都とその外港であるのは明らかだ。


 ポフェニア軍上陸の報を受け、レザド議会は大混乱に陥った。

 そして多くの議員たちが家財をまとめ、ゲヘナへ陸路で亡命してしまった。


 ポフェニアやロサイス王の国に侵略されるくらいなら、同じキリシア人であるゲヘナの元に身を寄せることを選んだのだ。


 「さて、僕も逃げようかな。雇い主もどこかへ行ってしまったようだし。メリア、早く家財をまとめて僕たちも亡命しよう。ロサイス王の国なら悪い扱いはされないだろうさ」

 

 「そうだね。ロサイス王は私たちに好印象を持ってたみたいだし。田舎の土地でも買って細々と暮そうか」


 二人はそんなことを話ながら、家財をまとめ始める。

 そこへ数人の男たちがやって来た。


 「待ってくれ!!」 

 「君たちは……逃げて居なかったのか?」


 アレクシオスの元を訪れたのは、レザドに残留した議員だ。

 

 レザドの議員には二種類いる。

 船で中継貿易に従事する商人の代表と、レザドに住む職人やレザドで小売店を営む商人の代表だ。


 数は後者の方が少ないが、愛国心が強いのは後者の方だ。

 

 議員のうち、逃走したのは全体の七割。

 約三割はレザドに残留していた。


 「お願いだ。レザドを守ってくれ。あなたしか指揮が出来る者がいないんだ!」

 「しかしねえ……」

 「金は払う!借金してでもだ!!」


 議員たちは膝を折り、頭を必死に下げる。


 「しかし兵はどこに居るんだい? 兵が居なければ……」

 「居ます!!」


 現れたのは、レザドの男たちだった。

 全員、家から持ちだした武器を持ってきている。


 中には頭に鍋を被り、鍋の蓋を盾に、箒の先に包丁を取り付けた冗談のような恰好の者も居た。


 ぞろぞろと現れた男たちは真っ直ぐにアレクシオスを見つめる。

 その目には自分たちの故郷を守ろうという固い意思が感じられた。


 「……しかし、素人だけではどうしようもない。ロサイス王の国とポフェニア、両方を相手取るのは不可能だよ」

 「……ロサイス王の国には降伏する。例え占領され自治権を奪われても、ポフェニアの傭兵共に略奪されるよるはマシだ!」


 ポフェニアは傭兵が主体の国である。

 その陸軍の素行の悪さは有名だった。


 ポフェニアに占領された街は破壊され、金品は奪い尽され、子供は殺され、女は犯される。


 ロサイス王の国の方が余程マシと言える。


 「しかしね、君たちと僕の雇用関係は君たちが僕を幽閉した時から破綻している。……肝心な時に僕を信用しないで、困った時だけ泣きつくというのは虫が良過ぎないかい?」

 「……分かっている。しかし我々は故郷を守りたいんだ!!」


 故郷を守りたい。

 アレクシオスには無縁の考えだった。


 アレクシオスはポフェニア共和国という国が、バルカ家という家が大嫌いだからだ。


 アレクシオスはため息をつく。


 「はあ……話にならないな。傭兵は利益と危険性を天秤に掛けて動く。この件は危険性に大きく傾き過ぎているよ。いくら金を積まれても引き受ける気は無い」


 アレクシオスはきっぱりと断った。

 そして言い放つ。


 「しかしお互い利害が有ったとはいえ君たちは駆け落ちして来た僕たちを受け入れてくれたわけだ。途中で裏切られたけど、その事実は変わらない。ここで逃げるのは子供の教育に悪いな。仕方が無い。無報酬で引き受けよう。ポフェニアのクソからこの街を守れば良いんだろ?」


 そう言ってアレクシオスは笑った。


そう言えば、そろそろ更新して一年経ちましたね。正確に言えばあと三日ですが

ということなので、もう一話を十八時に投稿します

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