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異世界建国記  作者: 桜木桜
第五章 南部征伐とキリシア人
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第百五十八話 第一回国勢調査

 臣民権の配布に合わせて、第一回国勢調査が行われた。


 今まで我が国では人口などは各豪族が独自に調査したり、王の代替わりの時など不定期で行われていた。

 土地は俺が王になるまでは殆ど測量されて居なかった。

 

 だが、こんな状況では臣民権を配布できない。

 

 国民の財産が分からなければ、その人間を軽歩兵にすべきか重装歩兵にすべきかも判別できない。

 というわけで、ここは一度、全て調べてしまおうということになった。


 無論、これには莫大な費用が掛かる。

 

 掛かった費用は五十ターラント。

 我が国の国家収入が千ターラントであることを考えると、かなりの負担だ。


 毎年行うのは不可能なので、五年に一度の頻度で行うことにする。


 


 「陛下。国勢調査の結果が出ました」

 「ありがとう、ライモンド。見せてくれ」


 俺は国勢調査の結果が書かれた紙を広げた。



_______

全人口   臣民権対象者及びその配偶者、家族 35万4569人

       限定的臣民権所有者及びその配偶者、家族(自治市) 3万4452人

       国民権所有者及びその配偶者、家族 (同盟市) 6万8904人

       奴隷人口  4万2567人

      

      総計 50万492人


 男女比 男性46% 女性54%


 年齢

 1~15(未成年) 35%

 15~30(成人)  30%

 30~40      25%

 40~50      7%

 50~         3%

 計          100%


 兵役世代  (15~40) 55%

 総兵力(自治市、同盟市含まず) 約9万



 資産及び身分


 第一階層(王族、貴族) 1%


 第二階層(準貴族、地主、商工業者。騎兵)  5%

 

 第三階層(自作農。重装歩兵) 74%


 第四階層 (小作人。軽装歩兵) 20%


 

 土地

 

 王家直轄地 65%

 貴族支配地 35%



___________




 「なるほど……想定していた以上に人口が多いな」


 五十万人も居るのか。

 ……いや、こんなものかな?


 今までの調査は適当だったし、最近になって随分と領土は増えた。

 別におかしなことでは無い。


 そして総兵力も分かった。

 約九万だ。


 最も、この九万を常時動かせるわけない。

 精々、半分の四万前後を二週間、三週間と言ったところか。


 長期間動員するのであれば、一万前後が望ましいだろう。


 それにしても……こうして表してみると分かりやすいな。

 我が国の状況が手に取るように分かる。


 例えば男女比。

 男性の方が8%も低い。


 元々女性の方が長生きする傾向があるため、女性の方が比率が高いのが標準だが……

 これだけ偏りがあるのは、男性が戦争で死んでいるからだろう。


 一回の戦争で死ぬ人数は少ないが、これが毎年のように重なれば大きな歪になる。


 まあ、十年もすればフィッシャーの法則で元通りになると思うけどね。



 あと興味深いのが奴隷人口である。

 人口の8%が奴隷だ。


 これは多いのか、少ないのかイマイチ判別できない。

 健全な数なのだろうか?


 だが四万の奴隷が武装蜂起しても、総兵力が九万である以上、鎮圧は容易だ。


 危機的な人数では無いな。


 少し問題なのは土地だ。


 約35%の土地が貴族の支配下にある。

 ここから採れる収益は膨大だ。


 早く国有地として、支配権を中央に集めてしまいたいが……

 今は無理だな。


 「ともあれ、あとは法律成文化を済ませれば臣民権を発布する準備が整うな」


 ここまで約十か月という月日が経過している。

 何とか一年以内には済ませることが出来そうだ。


 「はあ……ようやく休むことが出来ますよ」

 

 ライモンドは肩を落とす。

 ライモンドには大きな負担を掛けてしまった。


 本当は俺もライモンドを手伝いたかったのだが、ライモンドに寝るように言われてしまった。

 こういうのは自分がやるから、陛下は陛下の出来ることをして下さい。


 つまり子作りして、早く跡継ぎを作れということだ。


 俺はライモンドが睡眠時間を削り、必死に働いている間に俺はせっせとユリアやテトラと子作りに勤しんでいたのだ。

 

 胸が潰れる思いだった。


 まあ、だからといってライモンドの顔が思い浮かぶということは無かったのだが。


 生憎、俺の胤は活きが悪いらしく、今のところ二人に妊娠の兆候は無い。

 ライモンドのためにも、早く命中させなければ。






 「アルムス、見せたい物がある」

 

 ある日のこと、テトラに袖をクイクイと引っ張られた。

 その顔は仄かに上気している。


 「何かあったのか?」

 「良いから」


 俺はテトラに連れられるままに裏庭に出ていく。

 裏庭には大きな魔術陣が描かれていた、中央には大きな水晶が置かれていた。


 魔術陣の周囲には、五人の杖を持った呪術師……いや、魔術師の女性が居る。


 「始めて」


 テトラが指示を出すと、周囲の五人は魔術陣の描かれた地面に杖を突き指す。

 魔術陣が薄らと輝き始める。


 光は徐々に強くなっていき……水晶までもが光り始める。

 水晶の光は徐々に強くなっていく。


 「止め」


 魔術師たちは杖を地面から引き抜いた。

 テトラはスタスタと歩いていき、水晶を拾い上げる。


 「見て」

 「……濁ってるな」


 先程まで透明だった水晶は真っ白く濁っていた。

 何なんだ? これは。


 「魔力蓄積器の完成版。これでこれくらいの魔石と同じくらいの魔力が溜められる」


 テトラは両腕を大きく広げて見せた。

 直系一メートル前後だ。


 「この大きさでか?」


 水晶は縦十センチ、横五センチ程の大きさだ。

 もしそれが本当なら、大きな技術革新だ。


 「うん。これで私の魔力全てと同等」

 「ちなみにユリアの場合はこの水晶がいくつくらいかな?」

 「一万個くらいじゃない?」


 あいつ、人間なのか?


 「アルムスはこれくらい」


 テトラは親指と人差し指でその大きさを示す。

 うん、俺には殆ど無いってことだな。よく分かったよ。


 「この水晶は使い回し出来るのか?」

 「実験では十回まで耐えられた。中の魔力は一か月で半減する」


 それは凄いじゃないか。

 これがいくつもあれば強力な魔力を使えるじゃないか?


 軍事力が跳ね上がる。


 「そんなに凄い物でも無い。まず透明度の高い水晶が必要。それに水晶を魔力蓄積器に変えるには、約五日間も必要。それに……」


 テトラは水晶を左手で持ち、右手で杖を振るう。

 テトラの杖の先から炎が噴き出し、直系約一メートルほどの火球になった。


 テトラは火球を空高く打ち上げる。

 火球は上空で飛び散って消滅した。


 「見て」


 テトラが水晶を突き出してきた。

 水晶は透明に変化している。


 「これで空。連発は出来ない」

 

 うーん……

 確かにこれなら黒色火薬を生産した方が効率が良いな。


 火の玉というのは見た目のインパクトはあるが、案外威力は小さい。

 質量の無い炎が一瞬当たり、霧散するだけでは人は死なない。


 「でも私頑張った」


 テトラは頬を少し赤くした。 

 青空色の髪を俺の胸に押し付けてくる。


 「褒めて」

 「良い子、良い子」


 俺はテトラの肌理細やかな髪を撫でる。

 そして強く抱きしめた。


 「取り敢えず、これを六つくらい生産してくれないか? それくらい集めれば、城壁を崩せる魔術を使えそうだし」

 「うん、分かった。……効率の良い方法を考えておくね」


 テトラはそう言ってから、顔を俺の胸から離した。

 

 



 その二日後のこと。


 「ねえ、ねえアルムス。ちょっと来て」


 ユリアが俺の袖をグイグイと引っ張った。

 満面の笑みを浮かべている。


 「どうした?」

 「良いから、良いから」


 俺はユリアに導かれるまま、ユリアの自室に向かう。

 ドアが開くのと同時に、甘い香りが俺の鼻にまとわりついた。


 「相変わらず、変な匂いがするな」

 「案外慣れるよ」


 ユリアはそう言いながら、机の上に乗っている壺を持ってきた。


 「これ、少し食べてみて」

 「……大丈夫か?」

 「大丈夫。私は生きてるし」


 なら大丈夫か……


 俺は壺の中に入っている、何等かの薬を口に入れる。

 どうやら蜂蜜で強引に甘くしているようで、甘い味と苦い味が絶妙な不味さを引きだしている。


 「何か体が熱いな……」

 「呪力や魔力を回復させる薬。個人差あるけどね」

 

 凄い発明じゃないか!!


 「ね? 凄いでしょ! だから……」

 「良い子、良い子……か?」


 俺はユリアの頭に手を置いて、頭を撫でる。

 ユリアは心地良さそうに、頭を俺の胸に押し付ける。


 俺はユリアの体重を支えながら、頭を撫で続けた。


 しばらくすると気が済んだのか、ユリアは離れた。

 顔が少し赤い。


 「何か恥ずかしいね。……テトラはよく人前でやったなあ……」

 「あいつは人の目を気にしないからな。ところでこの薬は何が原料なんだ?」


 俺は恐る恐る聞いてみた。

 ユリアは可愛らしい笑顔を浮かべた。


 「魔草っていう、強力な麻薬」

 「何てモノを食わせるんだ!」





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