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異世界建国記  作者: 桜木桜
第五章 南部征伐とキリシア人
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第百五十七話 まとまれる者とまとまれない者

今回のタイトルはいつもよりオサレです

 「無事、終わったな……ライモンド」

 「何とかなりましたね、陛下。まだ油断は出来ませんが……」



 第二次南部征伐から四か月後、版籍奉還が行われた。


 この勅命の内容は注釈まみれで、非常に長く、分かり難いものだが……

 要約すると、土地の人民を国王に返還する、というものだ。


 そして各豪族は貴族として、国王の土地を管理する。

 今まで通り、その土地を支配する。


 つまり変わったのは名目だけ……

 のように思えるかもしれないが、決定的に変わった点が一つある。


 それは兵力だ。

 

 今までは豪族が自分たちの土地の民を引き連れて、戦争に参加してきた。

 大きな軍事権を持っていた。

 それが消失したのである。


 つまり豪族改め貴族たちが、反乱を起こすのは事実上不可能になった。

 まあ、俺の求心力が上昇したことで、この法律を通すまでもなく豪族たちが反乱を起こすのは不可能だったのだが。


 この法律は当初の想定以上にすんなりと決まった。


 上手く豪族たちを騙せたのだ。


 豪族たちには、「平民たちは支配されることを嫌っている。このままでは君たちの身と既得権益が危ない。幸い、平民は俺の権威は認めている。だから俺が君たちを、代官とする形で本領安堵しよう」と説明した。


 豪族たちは新しい形での本領安堵だと思い込み、素直に版籍奉還に応じたのだ。

 実際、そういう一面もある。

 世襲は認めているし、支配権は今まで通り保障しているのだから。


 こんなにあっさり騙されたのは、豪族たちに不安が有ったからだと思う。


 最近の平民は何かが違う。

 国王の権力と権威は上昇を続ける。


 この国から自分たちの居場所が無くなるのではないだろうか?っと。


 

 そこで俺が新しい官職と身分を保証した。

 彼らは安心して、それを受け入れたのだ。


 というか、これを拒否すれば豪族の居場所は本当に無くなる。


 『臣民権』とは即ち、国王の臣民の権利。

 つまりこれを受け取った平民は国王直属の家来に成るということ。


 豪族が版籍奉還をしなければ、その土地の平民は『臣民権』を得られない。


 国王である俺から不興を買い、平民からも恨まれることになる。

 中間管理職って大変だな。



 とはいえ、これで臣民権を発布出来る。

 

 この臣民権には、移動の自由や財産の保障、裁判に関する権利など、様々な権利や納税と兵役の義務などが詰め合わさっている。


 今まであやふやだったモノが、法律として、権利として示される。

 これでようやく(この世界に於ける)近代国家に成れた、と言って良い。


 「さて、次は法律の制定だが……どれくらい進んでいる?」


 俺はお茶を飲みながら、ライモンドに尋ねた。

 マーリンの持ってきたお茶だ。

 味が日本のお茶に似ている。これを土産として持ってきてくれたことに関しては、感謝しよう。


 「ようやく、我が国の慣習法を掘り起こし終えた所ですよ。アデルニア語には文字が有りませんからね……僅かに残るキリシア語の文献や、長生きしている老人に聞いて回りました」


 法律には成文法と不文法がある。

 アデルニア半島の法律は不文法が基本である。


 文字が無いのだから、当たり前だけど。

 だからこれを掘り起こすのは中々の手間である。


 まあ、全部ライモンドに押し付けてしまったが。



 「一応、レザド等のキリシア系都市国家の法律も参考にしながら、制定を進めようか。……あまり長引かせることは出来ないな。出来れば、三か月以内に終わらせたい」


 法律の成文化が終わらない限り、臣民権が機能しない。

 あまり長い間平民を待たせるわけにはいかない。


 「ああ、あと同時並行で進めなきゃいけないことが有るんだが……」

 「植民都市の件ですか?」


 俺は頷く。

 

 新たに獲得した占領地や、反乱をした地域は未だ不安定である。

 ここを安定させるためには軍隊を常駐させるのがベストだが、費用や占領地の不満など、現実的では無い。


 そこで話し合って考えたのが、植民市の建設である。


 要するに、移民だ。

 

 一般的に農地は長子が継ぐ。

 というのも、分割相続だと土地が細分化されて、最終的に一族総貧民という状態になってしまうからだ。


 だから次男、三男は家から追い出される。


 彼らは婿養子として他の家に言ったり、小作人に成ったり、新たに農地を開拓したりしなくてはならない。


 彼らを不安定な地域に植民させる、というのが俺の考えだ。

 経済政策でもあり、軍事政策でもある。


 農民はイコール兵士だからだ。

 

 問題はどこに植民するかだが……

 焼き払った都市の跡地がある。


 都市を焼き払われた住民は難民として国外に逃亡したり、内地(王家直轄地)で小作人として働いたり、ロマリアの森の開拓に駆り出されている。


 つまり都市を建てるのに十分な場所と、彼らが耕していた農地が丸々残っているわけだ。


 農地は放って置くとすぐに荒れ果ててしまうが、まだ一年も経っていない。

 これくらいの期間なら、少し耕すだけで回復するはずだ。



 「今回の臣民権で移動の自由が全面的に認められたから、募集を掛ければすぐに集まると思う。こっちも急いで進めないと……」

 「はあ……そうですね。そっちも進めておきましょう」


 「すまん。苦労を掛けるな」


 「何を言っていらっしゃいますか。陛下だって最近、寝ていらっしゃらないんでしょう?」

 「はは……まあな……」


 はあ……








 レザドは商人による自治で成り立っている商業国家である。

 

 故にレザドでは金がモノを言う。

 

 レザドには三つの階層が存在する。

 一級市民、二級市民、奴隷。


 一級市民は一か月に一度、莫大な人頭税を支払っている者だ。

 人口は二万。

 レザドで『市民』と言えばこの一級市民を指す。


 莫大な人頭税等の重い税金、有事の臨時課税など重い義務を負う代わりに、参政権、法の保護、私有財産権など、様々な権利を持つ。


 なお、投票できる票の数は納税額に左右される。


 大商人は自分の納めた税金で自分を議員に当選させ、その上自分の親戚や部下も議員に当選出来る。


 これに対して中小商人は連合して、自分たちの代表者を議会に送り込む。


 レザドの歴史は大商人と中小商人の勢力争いだ。


 

 一方、二級市民は税金を支払っていない者のことだ。

 正確に言えば、重い人頭税を支払えない人間である。


 その数は八万。


 彼らの多くは劣悪な建物が立ち並ぶ不衛生な地区で暮らしている。

 彼らには参政権が無く、法の保護も限定的である。


 犯罪を犯せば奴隷にされてしまう。


 尚、二級市民の中にも階層が存在する。

 住む家を持つ者と家すら持たない者。

 食べ物には困っていない者とパン一枚すらも満足に食べられない者。

 人頭税を払えない(・・・・)者と払っていない(・・・・・・)者。

 一級市民に仕え、そのおこぼれを貰う者と一級市民を妬む者。


 彼らが団結して一級市民に反旗を翻さないのは、そういった理由である。

 そもそも一級市民を倒せば彼ら自身の職が無くなってしまう。

 二級市民を雇って働かせているのは一級市民である。



 そんなレザドでは今、大規模な政治闘争が始まっていた。



 「あなたたちが、裏で武器や兵糧の支援をしていたことがこの戦争の原因!! あなた方が何もしなければ反乱は起こらず、アルムス王を刺激することは無かった!!」


 そう叫ぶのはエインズ。

 大商人派……所謂親ロサイス派の議員である。


 ロサイス王の国の紙や酒、塩の流通に関与出来ているのはエインズを中心とする大商人だけだ。

 故に大商人たちは親ロサイス派が多い。


 「何を言うか! 同胞が虐げられてるのを黙って見過ごせと? 貴様らはアルムス王に魂を売り渡したか!! あの王は元から野心的だったではないか! 関係ない!」


 そう主張するのは中小商人派……所謂反ロサイス派である。

 ロサイス王の国を中心とする経済に参加することが出来なかった彼らは、利益を一人占めする大商人たちを憎んでいる。

 故に反ロサイスの立場を採る。


 「ならば尚更刺激するべきでは無かった! 眠れるグリフォンの尾を踏む愚か者が何を言う!」

 

 「子猫をグリフォンにしたのは貴様らであろうが!!」

 

 つまり、この政治闘争は責任の押し付け合いである。

 レザドの国際的な地位が落ちたのは誰の責任か? という話をしているのだ。


 「あのような野蛮な王と国とは縁を切るべきだ!」

 「何を言うか! ペルシスとポフェニアに制海権を握られている今、アデルニア半島の塩の流通や、紙、蒸留酒の取引は我らの生命線! それを断ち切るわけにはいかない!!」


 現在、レザドは非常に不利な立場に立たされていた。

 もともとキリシア人同士には、貿易の邪魔をしないようにしようという協約が存在した。


 それによりレザドは自由な商売が出来ていたが……

 キリシア本国がペルシスに敗北した。


 今、テーチス海を支配しているのはペルシスとポフェニアである。

 護衛船をつけていないと、海賊を装ったペルシスやポフェニアの海軍に船を沈められてしまう。

 その所為で輸送コストが跳ね上がり、貿易に支障が生じていた。


 「そのような事を!! このままでは我が国は侵略されてしまうぞ!! 今、抵抗しなければならない!!」

 「何を言うか!! 今の我が国の立場を分かっているのか? 南からはポフェニアが徐々にその支配権を広げつつあるのだぞ。北と南、両方に敵を作るわけにはいかない!!」


 アデルニア半島の南には、トリシケリア島を挟んでポフェニア共和国という都市国家が存在する。

 この国は近年、トリシケリア島でその勢力を拡大しつつある。

 仮にポフェニアがトリシケリア島全土を統一すれば、それはレザドへの橋が架かるのと同義。


 それだけは避けなければならない。


 「責任はお前たちにある!!」

 「いや! お前たちだ!!」


 結局、この日も結論は出なかったという。








 「ねえ、アレクシオス。どっちが勝つと思う? 親ロサイス派と反ロサイス派」


 メリアは子供を寝かせてから、アレクシオスに尋ねた。

 アレクシオスは兵法書を閉じ、愛妻の質問に答える。


 「親ロサイス派だろうね、彼らの方が経済力、議会でも議席、共に優っている。ただ……」

 「どうしたの?」

 「議員以外の一級市民や二級市民を含めれば、圧倒的に反ロサイス派だろうね」


 アレクシオスは肩を竦めた。


 「正攻法で戦うのであれば、政治では間違いなく親ロサイス派が勝つ。だけど、反ロサイス派が強硬な手段に出ればそれはまた別の話だね」


 「仮に親ロサイス派が勝って、反ロサイス派を追い出したら?」


 「その時はアルムス王が一番得するだろうね」


 「じゃあ逆は?」


 「それでもアルムス王は大義名分が出来たと喜ぶと思うよ」


 アレクシオスはニヤリと笑って見せた。

 

 「どっちに転んでもアルムス王には得しか無い。レザドが分裂するのはアルムス王が利するだけだよ。はあ……どうして共和制国家ってのは纏まりが無いんだろうね」


 アレクシオスは南の方角を眺める。

 自分の生まれ故郷、政争が激しく、いつも互いに足を引っ張り合う者たちの国を……

挿絵(By みてみん)

一応、テーチス海の地図です。例の如く、作者の都合により変化します。


紫……ペルシス様

ピンク……ポフェニア

赤……ロサイス

青……対ガリア同盟による同盟国―ファルダーム、ギルベッド、ドモルガル―

黄色……ロサイス王の国単独の個別同盟国―ドモルガル、エクウス―

オレンジ……個別同盟国(ロサイス王の国の圧倒的優位)―エビル、ベルベディル―



物語開始時の国力は、ドモルガル=ギルベッド≧ファルダーム>>ロサイス>エビル≧ゾルディアス》ベルベディル>>>フェルム という感じです。アルヴァ人やキリシア人国家は特殊なので、純粋に比べられませんが。


現時点での世間一般的評価だと、ギルベッド>ファルダーム≧ロサイス≧ドモルガル>>ゾルディアス≧エビル>>>ベルベディル です。


神の目から計る偏見無しの絶対評価だと、ギルベッド≧ロサイス>ファルダーム>ドモルガル>>>ゾルディアス>エビル>>>ベルベディル になります。


人口や領土、兵力など分かりやすい指標だけで比べるとでは、ギルベッド>ファルダーム≧ロサイス>ドモルガルの順になりますが、政治制度や経済力、国際的地位、人材まで含めるギルベッド≧ロサイス>……になります。


ギルベッド等の国々は貨幣経済が浸透しきっていなくて、経済力は弱い。その上、軍事制度が封建的で部隊が豪族単位。

一方、ロサイスは経済力も優れ、軍事の中央集権をいち早く成し遂げ、軍隊の組織化に成功しています。


いざ、四大国が戦争になったら、ロサイスは他の三ヶ国よりも三日ほど早く軍隊を編成出来るでしょうし、道路を利用して他国よりも数日早く国境に軍を進められます。

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