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異世界建国記  作者: 桜木桜
第五章 南部征伐とキリシア人
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第百五十四話 戦後処理Ⅰ

 「これで良いだろ」


 トマトの苗が植えられた王家直轄地の畑を眺める。

 植えた苗は合計五十。


 取り敢えず、俺が食べる分は困らない。

 トマトは家庭菜園では定番中の定番であるため、育て方は知っている。


 だがこの世界のトマトが俺の知ってるトマトと同一かどうかは分からないため、一応経過を見る必要はあるだろう。


 

 「しかし……キリシア人は観賞用として楽しんでたんだろ? どうして野菜だって分かったんだ?」

 

 俺はライモンドに尋ねる。

 するとライモンドは答えた。


 「食べれば分かるじゃないですか」


 ……いや、普通怪しいものは食わないだろ。

 俺だって、いくらトマトにそっくりだからと言っても、最初は犬に食わせてから食べるぞ。


 トマトモドキの可能性があるからな。


 ライモンドは冒険家だな。


 「陛下はこの野菜について知ってるんですか?」

 「まあな。使い道はたくさんあるぞ」


 尚、俺は前世では若干のトマトアレルギーを持っていたためか、生トマトは苦手だった。

 舌が若干ピリピリするのだ。

 まあ、それで蕁麻疹が出てきたち腹を下すということは無かったけど。


 どういうわけか、火を通せば違和感は起こらないんだよな……

 

 この体がトマトアレルギーか分からないが、生は苦手なので食べない。


 しかし……


 「トマトソースとか、トマトケチャップとか、乾燥トマトとかは美味しいぞ。料理のバリエーションが増える」

 

 「それは良いですね!」


 ライモンドは少し嬉しそうだ。

 が、強いて言えばそれだけである。


 所詮トマトだ。


 まあ、トマトは雨が無い方が美味しく育つし、夏の降雨量の少ないアデルニア半島では育てやすい野菜かもしれない。


 「まあ、トマトは良いだろ。一先ず、今後の方針について話し合おう」



 主要家臣を招集しないとな。




 「さて、今日集まって貰ったのは今後の方針を決めるためだ」


 俺は集めた家臣たちを見回す。

 

 ライモンド、バルトロ、イアル。

 ロン、ロズワード、グラム、ソヨン、ルル。

 ユリア、テトラ。


 以上のメンバーだ。 

 

 中央集権化という最終目的を共有している者同士である。


 「今回得た千ターラントという資金を有効利用するためにも、やることを明確にしなければならない。まず一番の課題は臣民権の問題だ」


 つまり、兵役拒否(ストライキ)問題の完全解決である。


 「確か、臣民権は……法律上の平等と財産の保障。納税、兵役の義務でしたよね」


 俺はライモンドの質問に頷く。


 「臣民権は文字通り、全ての人民を俺が支配するという物だ。……つまり、版籍奉還が必要になる」


 法律を作るのはそこまで面倒なことでは無い。

 今までの慣習法を明文化するだけだからだ。


 問題はその法律と、代わりの義務である兵役による奉仕を全土に広めることだ。


 豪族にはその土地の支配権と、人民への命令権を持つ。

 これを全て取り上げて、俺の支配下に置かなければならない。


 ロサイス氏族はすでに版籍奉還を済ませてある。

 手本の実例は存在する。

  

 問題はこれを他の氏族にどう強要させるかだが……


 「内容を暈かそう。名目上だけでも、やらせるんだ。……すでにディベル氏族への懐柔は進んでいる」


 俺の政権で最も割を食っている氏族家はディベル氏族である。

 彼らは領土の多くを削られ、さらに俺に忠誠を示すために多くの兵を出させられている。


 彼らの財政は崩壊寸前のはず。


 一先ず、彼らに借金の肩代わり等を約束して、名目上だけでも版籍奉還をさせる。

 そうなればアス氏族も倣わずにはいられない。

 そうすれば、国全土に統一的な税制を実施することが出来る。


 「問題は王家による土地の収奪だと思われちゃうことだよね。豪族は自分たちの土地を奪われることに拒否反応を示すから。お父さんもそれに苦労したわけだし……」


 ユリアが呟いた。

 問題はそれだ。


 あまりに王家の力が強くなり過ぎると、豪族たちを刺激してしまう。 

 何か上手い詭弁は無いだろうか……


 「国有地、というのは?」


 テトラが口を開いた。

 国有地?


 「アルムスの私領である王家直轄地と国有地、荘園に分ければ良い。豪族が大昔から持つ土地は荘園として残し、それ以外の支配地は国有地として扱う。王家直轄地とは別の扱いにする。ある程度の反感は抑えられる……と思う」


 つまり……

 王室財庫と国庫を分けてしまうということか。


 制度上、混乱しそうだが……

 政治的な一時凌ぎとしては悪くないかもしれない。



 「新たに得た土地の分配は混乱しそうですね」


 バルトロが問題点を指摘した。

 戦争で勝ち得た土地は、王の物? 国の物? 


 中々面倒そうな問題だ。

 俺としては王の物にしたいが、不平を言う者が出てくるだろうな。


 

 「まあ、国有地で良いだろ」

 「宜しいんですか?」


 ライモンドが首を傾げる。

 俺があっさりと認めたことが不可解なのだろう。


 「分けたところであまり変わらないしな」


 つまり、王室財庫は俺が自由に使える金で、国庫は元老院だとか豪族会議の議決が無いと使えない金ということだろう?


 どうせ豪族たちは貴族として中央に集めて、元老院議員として政治をやらせる。

 これで中央集権化は成立する。


 なら、問題無いだろう。


 俺は、王に権力を集中させたいんじゃない。

 中央政府に権力を集中させたいんだ。

 権力はある程度分散させた方が、相互抑制が効く。


 今はそれで十分だ。


 「その代わり、軍は全て国王が掌握すれば良い。物を言うのは軍事力だ」

 「そういうお考えであるなら……分かりました」


 ライモンドは納得してくれたようだ。


 さて……


 「臣民権だが……臣民権を持つ者の権利と義務は、政治上を除いて平等としよう。具体的な法律に関しては後で煮詰めるとして……問題は臣民権を要らないと言う者、そして外国人に対してだ」


 まさか、キリシア商人たちに対しては法律が適用されません。

 などというわけにはいかない。


 「実は具体的な内容に関しては考えて来た。言い出しっぺは俺だしな」


 俺はそう言って、指を鳴らす。

 すると、俺の側に控えていたアリスが全員に書類を下った。

 

 書かれている内容をまとめると、こんな感じだ。



 『臣民権』


 ・義務

 

  直接税 兵役

  間接税 売上税


 ・権利

 

  国法の保護

  財産の不可侵

  利子の取り立ては一割以内

  債務奴隷禁止(自己破産可能)

  目安箱への投書


  取得条件

  

  成人男性。呪術師免許所有者。臣民権を持つ親から生まれた子供。臣民権を持つ者と結婚した者。

  解放奴隷の子供。その他、国王から与えられた者。


 ※地税は名目上廃止。ただし、借地料として一割を徴収。


 『国民権』

 

 ・義務

 

  直接税 収入の一割(農業、商業問わず) 兵役

  間接税 売上税


 ・権利


  国法の保護

  財産の不可侵


  取得条件

 

  アデルニア半島のロサイス王の国の自由民全て。(臣民権取得者は除く)

 


 『外国人』


 ・義務


  基本的に無し。

 ただし、一年以上の滞在の場合、人頭税(資産額により変動)


 ・権利


 国法の保護(制限有り)

 財産の不可侵(制限有り)


 備考……情勢次第では、財産の没収もあり得る。



 「こんな感じでどうだろうか?」


 俺がみんなに問いかける。

 みんなは難しそうな顔で唸っている。


 個人的に悪くない出来だと思っている。 


 まず、本土の国民には全員臣民権を付与する。

 自治市の住民には限定的な臣民権を付与する。


 自治市は外交、軍事を除く自治を全面的に認めている。

 その関係上、売上税は採れない。


 それは彼らが自治で使う費用だからだ。

 それを徴収してしまえば、実質的に上納税を強要するのと同じである。


 ただし、目安箱への投書は認めない。

 それ以外の、今後増えるであろう政治的権利も認めない。


 

 また、同盟市の住民にも臣民権は認めない。

 代わりに彼らには国民権を付与する。


 国法や財産の保護、自治は認めてやる。

 ただし、税金を納めて貰う。

 

 これで自治市と同盟市が結託することは無くなる。


 自治市は、限定的とはいえ臣民権を持っているというプライドが生まれ、同盟市を見下す。

 

 同盟市は納税の義務を負うことで力を落とし、同時に自治市を憎むようになる。


 そして得をするのは俺だ。


 また、自治市や同盟市の指導者たちには特例として臣民権を付与する。

 リーダー核である彼らを味方に付けるのだ。


 というのも、反乱を起こすのはいつだってインテリや金持ちなどの、政治指導者である。

 政治指導者が居ない反乱など、一揆と大して変わらない。ただの暴動だ。


 そして彼らが民衆を扇動するのは、権利が欲しいからだ。

 ならば始めから与えてしまえば良い。


 これで危険を冒して、反乱を犯すメリットが大きく減少する。


 尚、臣民権所有者が成人男性と呪術師免許所有者に限るのは兵役の義務が付くからである。

 


 

 


 

 「陛下。聞いても良いですか?」

 「良いぞ」


 ロンは手を上げた。

 質問は何でも言ってくれ。何か、大きな不備があるかもしれないしな。


 「何で態々、地税を借地料なんて名称に変えたんですか?」

 「我が国の内部に、自治市、同盟市という特別な行政区が出来たからだよ」


 同盟市は我が国の国民と同等以上の税を払っているから良いとしよう。

 問題は自治市だ。


 何しろ、自治市には税金を全て免除する、大きな自治権を与えているからだ。


 無論、自治のためには金が必要であり、そのために地税や商業税を彼らは集めている。

 負担は我が国の国民と同等であろう。


 しかし、道路等のインフラは国が敷設すると定めている。

 これは統一的なインフラ整備をするために、どうしても必要なことである。


 だが多くの平民にはそんなことは関係ない。

 

 自分たちの金で、税金を払って無い奴らの土地にインフラ設備が造られている。

 というのは気分の良い話ではあるまい。


 というわけで、名称を変えた。

 

 これだけで大きく印象が変わるはずだ。

 言葉のマジックである。


 「他には?」

 

 するとロズワードが手を上げた。


 「ええっと、借地料というのは国王領と国有地を平民が借りるから発生するんですよね? ……ということは、自治市や同盟市の保有する土地には発生しないということですか?」

 

 「そうだよ。有ってる」

 

 一見、本土の住民ばかり借地料を払うことになり、不利のように見えるが……

 自治市や同盟市は、別で地税を徴収しているので負担は変わらないのである。


 また自治市や同盟市の土地の一部は俺が国王直轄地として没収しているので、自治市や同盟市の住民がその土地を借りた場合は、俺に借地料を払うことに成る。


 「他には何か質問はあるか?」


 俺は辺りを見回す。

 特に反対意見も質問も無いようだった。


 

 「では、一先ずこれは決まりということで。後でじっくり煮詰めておこう。次は……」


 軍制改革かな?


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