表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界建国記  作者: 桜木桜
第五章 南部征伐とキリシア人
151/305

第百五十一話 第二次南部征伐Ⅱ

 第二次南部征伐が始まってから一週間が経過した。

 現在、四つ目の都市を攻略中である。


 この都市の住民はキリシア・スピリッツに溢れているようで、俺たちの降伏勧告を蹴り飛ばした。

 その所為で三日も足止めされている。


 尤も、それは今日で終わりだ。


 「陛下。坑道が完成しました」

 「よし、全軍に突入準備をさせろ。合図と共に城壁を崩せ」


 坑道を掘り、坑道を材木の柱で補強する。

 そして坑道が城壁の下まで届いた後、葦や油などを坑道にばら撒き、退却と同時に火を付ける。


 すると坑道を支えていた材木が焼失して、坑道が崩れる。

 当然、その上に乗っている城壁も崩れ落ちるという寸法である。


 大昔からある伝統的な作戦だ。

 今回はそれに加えて、ダメ押しで火薬も使う。


 

 「崩せ!!」


 俺の合図と共に、低い笛の音が鳴り響く。

 同時に焦臭い臭いが漂ってきて、すぐに城壁が崩れ去った。


 「突撃!!!」


 一斉に四万の軍勢が崩れた城壁から流れ込む。

 斯くして、四つ目の都市もあっさりと陥落した。





 都市が真っ赤に染まる。

 炎に飲まれ、家々が焼け落ちていく。


 略奪を終えた後なので、勿体無いという感情は浮かばなかった。


 「陛下も少し厳しくなられましたね」

 「まあ、反乱で痛い目を見たからな」


 俺は苦笑いを浮かべた。

 これはキリシア諸都市へのメッセージである。 

 

 早く講和を結ばないと、全ての都市をこんな風に燃やしてしまうぞ、っと。


 それに兵士の鬱憤解消の一つでもある。

 今まで降伏した都市では略奪を一切禁じていた。


 しかし、そろそろ限界が近かった。

 ガス抜きには丁度良かったのだ。


 俺もかなりアデルニア半島の倫理観に染まってしまった感がある。

 

 しかし都市を炎上させるというのは中々効果的なやり方だ。

 視覚的な効果は勿論、略奪をすることで戦費も確保できる。

 それに敵の本拠地が炎上してしまうため、反乱のリスクも抑えられる。


 キリシア人は民族意識が強い。

 自治を認められないなら、燃やしてしまう方が結果的に死者は減る。


 「しかし今日で一週間。そろそろ戦争を止めにしてしまいたい頃合いですね」

 

 ライモンドが呟く。

 農作物は継続的な世話をしなければならない。


 すでに戦争が始まって一週間。

 大規模動員は国力に与える影響も大きい。


 

 「しかし今はチャンスですよ。イケるところまで占領しましょう。こんな機会、逃せば次は無いですよ」


 バルトロはまだまだ戦争を続けたいようだ。

 実際、敵の反撃準備は未だ整っていないようだ。

 

 今なら無抵抗でいくつも都市を攻略できる。

 悩みどころだな。


 「あちらから講和の申し込みが有れば受けるつもりだ。だがこちらから講和を申し込むつもりは無い」


 こちらから講和を申し込めば、足元を見られる。

 あくまで俺たちが受け入れる側でなくてはならない。



 「さて、バルトロ。この周囲には都市が三つあるそうだな」

 「はい、そうです。この都市は三つの都市に囲まれています。三方向に攻めることが出来る場所であり、逆に三方向から攻撃されやすい場所です」


 つまり攻めやすく、攻められやすい。

 維持するのが大変な戦略的要地である。


 まあ、燃やしてしまったから今はあまり関係ないが。


 「周囲の三都市はそれぞれ、一万六千、二万四千、三万の人口を有しています。この三都市を落とせば、この周囲の土地は完全に我らの物です」


 講和するにしても、是非切り取ってしまいたい。

 

 「しかし一方を攻めればもう一方が攻めてくるぞ。どうする?」

 「少し、考えが有ります」


 バルトロはニヤリと笑った。







 攻城戦は時間が掛かる。

 そして被害も大きい。


 我が国が現在の兵力を維持出来るのは、持って二週間。

 出来れば後一週間で終わらせたい。


 しかし規模の大きい三都市を攻城戦で、一週間で落とすのは無理がある。

 

 それに一都市に集中しようにも他の都市からの救援が来てしまう。

 兵力の分散は下策である。

 ではどうすれば良いか。


 それは……






 「陛下。北東の都市国家三国と同盟を結ぶことに成功しました」

 「そうか。これで六つ目か」


 俺は外交官として派遣した豪族の報告を聞きながら、地図に印を付ける。


 多くの諸都市は自国の独立を目指している。

 しかし独立、というのは非常に難しい。


 この辺の地域はアデルニア人の勢力とキリシア人の勢力の交わる地点にある。

 レザドやネメス、ゲヘナ等の有力なキリシア都市国家や、アデルニア人の王制国家……昔はベルベディル王の国、今はロサイス王の国に内政干渉を繰り返されている。


 大国の間に挟まれた小国群の選べる道は二つ。


 一つは小国同士で連合を組む。

 しかしこれは非常に難しい。


 数十を超える国の意思を一つにするなど不可能である。

 そもそも都市国家間には領土紛争もある。


 そうなると、答えは一つ。

 大国の庇護を受けるしかない。


 今までこの辺の諸都市はベルベディル王の国の庇護を受けていた。

 しかしベルベディル王の国の勢力は先の戦争により後退して、多くの諸都市は自立を迫られた。


 しかしいきなり自立など、不可能である。

 だからレザドやゲヘナと同盟を結び、諸都市は何とか自立したのだ。


 つまりこの辺の都市国家はレザドやゲヘナと同盟関係を結んでいる。

 さて……今までレザドやゲヘナは都市国家群を助けただろうか?

 

 否、援軍すら出していない。

 なぜならレザドやゲヘナは、公式には内乱に中立を示していたからだ。


 しかし実際には諸都市を焚きつけて、我が国に武力介入をしてきた。 

 が、敗北した。


 両国はこの件について、「自分たちは無関係、諸都市の独断である」、と言い訳している。

 だから我が国が脅威を取り除くために、諸都市を攻略したり、同盟下に置くことに正面から抗議できない。


 そして今の今まで、レザドやゲヘナから遠回しな抗議や講和の仲介こそ来るものの、軍隊は来ていない。

 

 レザドやゲヘナは我が国と事を構えたくないのだろう。

 我が国の軍事力はレザドやゲヘナからすると大きな脅威である。


 それに我が国と交易することで、大きな利益を得ている商人達もいる。

 彼らからすれば、キリシア諸都市よりも我が国との友好関係の方が余程大切なのだ。


 気の毒なのは、キリシア系諸都市群である。

 いざとなったら助けてやると言われて、言う通りに戦争を仕掛け、敗北して、見捨てられたのだから。


 もはやキリシア系諸都市同士の結束はバラバラである。

 そこに付け入る隙が生まれる。


 各都市に個別講和を申し込むのだ。

 

 元々人口が数千ほどの小さな、都市とも呼べないような都市国家は、他の大きな都市国家に守って貰う形で安全保障を維持している。

 勿論、少なくない上納税を支払う代わりに、だ。


 彼らからすると、守ってくれる対象が変わるだけ。

 自治さえ約束してくれれば良い。


 斯くして小さな都市の切り崩しを図っているわけだが……


 それがどうして、大きな三都市の攻略に繋がるのかと言うと……


 「自国の属国だと思っていた諸都市が次々とロサイス王の国に下っていく様子はさぞかし、不愉快でしょうね」

 「しかも周囲の都市国家が我が国の自治市に成れば……彼らは敵中に孤立することに成るからな」


 俺とバルトロは三都市の指導者の心情を推察する。


 先程、小さな都市国家は大きな都市国家の庇護を受けていると説明した。

 まさに、この地域の地域大国である三都市は、周囲の小さな都市国家を庇護下に置いていたのだ。


 しかし三都市は都市に閉じこもり、ロサイス王の国(侵略者)と戦おうとしない。

 求心力は見る見るうちに低下を続ける。


 このままではこの地域の小都市は全て戦わずにロサイス王の国の支配下になってしまう。

 周囲を囲まれれば貿易も出来なくなるし、水源も止められる。

 ジリ貧だ。


 この状況を打開するには……


 「一か八かで勝負の出るしかないでしょうね。三都市の人口は合計で七万。限界ギリギリまで動員すれば、二万は用意できるでしょう。四万対二万、まあ勝てません」


 バルトロは肩を竦めた。


 老人や女子供に武器を持たせても、役に立つはずがない。

 あっという間に蹴散らされる。


 つまり三都市だけでは状況の打開は不可能である。

 出来ないモノは出来ない。


 そして援軍も当てに成らない。

 未だに諸都市の意思が統一されていないからだ。


 こうなると、三都市がと採る手段は三つ。


 「一つ、降伏する。二つ、やけになって会戦に挑む。三、永遠に来ない援軍を待つ。どれかですね」


 バルトロはニヤニヤと笑う。

 つまり詰んでいる。


 俺としては降伏が一番のおすすめだが……


 「陛下。三都市の動向を監視させていた呪術師からの伝令です。三都市が兵を上げました。その数は合流すれば約一万!」


 一万か。

 流石に女子供老人は参加させないようだな。


 そこまで馬鹿では無かったということか。

 まあ、俺たちも女子供老人を殺したくはない。良かった、良かった。


 「諸都市には城門を固く閉じ、援助も攻撃もするなと伝えて置け」


 小さな中小都市が攻撃したところで、一万の兵は大して減らない。

 だからといって、援助されるのも困る。


 この世界の戦争では食糧は現地徴発が基本である。

 我が国も略奪は控えているが、食糧の強制的買い上げは行っている。


 それが出来ないだけでも敵に大きな打撃を与えられる。


 「で、一万の兵をどう料理する?」 

 「毒で制します」


 バルトロは性格の悪そうな笑みを浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私がなろうで連載している他作品です
もしお時間があったらどうぞ
『三大陸英雄記~現代知識による帝国再建記~』
『蘇った真祖の放浪譚』
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ