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異世界建国記  作者: 桜木桜
第五章 南部征伐とキリシア人
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第百四十七話 第一次南部征伐Ⅲ

 「これで二つ目、好調だな」


 バルトロはゆっくりと開く城門を見ながら酒を飲む。

 初戦から四日、バルトロはすでに二つの都市を陥落させていた。


 一つ目の都市は三日、二つ目の都市は一日で陥落させている。


 この圧倒的な速さには理由が有った。


 一つは都市の城壁そのものが丈夫では無く、掘も浅いこと。

 所詮、人口が一万も満たない都市国家。

 包囲してしまえば陥落させるのは容易だ。


 二つ目は攻城兵器。

 征服したてのキリシア系諸都市が反乱を起こすことは予想されていた。

 故にアルムスやバルトロはあらかじめ、大量の攻城兵器を作り置きしていたのだ。


 それが威力を発揮した。


 そして三つ目……



 「破城鎚(アリエス)が城壁にぶつかる前に降伏すれば税は増やし、賠償金を課すが今まで通りの自治は認める。城壁にぶつかった後に降伏した場合、命は助けるが財産と自治は保証しない。そして陥落するまで降伏しなかった都市の住民は全て奴隷にする。今回は城壁に破城鎚(アリエス)をぶつけた後だが、都市が陥落する前に降伏した。よって命は許そう」


 バルトロは楽しそうに酒を飲む。

 そして降伏を伝えた使者を見下ろし、底冷えする声で命じる。


 「都市の住民三千人、城壁の外に退去せよ。猶予は一時間だけ与える。持って来て良い荷物は衣服だけだ。金銭の持ち運びも禁じる」

 「そ、そんな……せめて農具は……」

 「死にたいのか?」


 バルトロは冷酷に言い放つ。

 使者は項垂れ、バルトロの言葉を受け入れた。


 一時間後、都市の全住民が城壁外側に締め出された。

 無事に住民が外に出たのを確認し、バルトロは兵士たちに告げた。


 「今から略奪を許可する。が、奪い合いは禁じる。略奪した物は一度、全て提出しろ。後に功績に従って分配する。三時間以内に済ませるように」

 「「「おーーーー!!!」」」


 兵士たちは喜び勇んで、都市の中に入っていく。

 キリシア系諸都市は、アデルニア系諸都市や村々よりも遥かに豊かな富を蓄えている。


 略奪し甲斐のある都市だ。


 兵士たちは家々に押し入り、絵画や陶器、金細工、銀細工、宝石、貨幣、ガラス窓、農具、武器、そして家の木材や石材に至るまで、尽くを奪い尽す。


 あっという間に都市はボロボロの廃墟と化してしまった。


 略奪が終わると、バルトロは都市の各所に油と黒色火薬を播くように命じた。

 全ての作業が終わるのと、日が傾くのは同時だった。

 

 「さあ、火を付けろ」


 バルトロの命令で都市に火が放たれる。

 放たれた火は油と黒色火薬に引火し、あっという間に都市を飲み込んだ。


 赤々と燃え上がり、都市の周りだけ昼間のように明るくなる。


 「いいねえ、良い眺めだ。ははは!!!」


 バルトロは上機嫌で酒を飲む。

 その様子をキリシア系アデルニア人たちは涙を流しながら見つめた。





 「良いんですか? あんなに派手にやって」

 「陛下からは降伏した者は許せ。反抗した者は徹底的に叩けと命じられている。問題ねえよ」


 バルトロは酒を飲みながら、心配そうな表情を浮かべているロズワードに答えた。

 

 最初の都市は激しく抵抗し、陥落した後に市街戦となった。

 バルトロは都市を徹底的に焼き払い、指導者たちを皆殺しにして、住民を尽く奴隷として本国に輸送した。


 二つ目の都市は、最初の都市がどのような末路を辿ったかを知っていたため、戦闘が始まってから早期に降伏した。

 そのおかげで命だけは助かった。


 残虐に思うかもしれないが、非常に効果的な方法である。

 結果的に戦死者は少なくなる。


 ロズワードは当然そのことを理解している。

 ロズワードが心配なのは、アルムスがどう感じているかだ。


 アルムスの占領政策が甘いのは、家臣、国中だけでなく周辺国にまで知れ渡っていることだ。


 「ロズワード君、思い返してみなよ。陛下は一度裏切った相手や反乱分子を許したことが有ったか? 敵は敵だから反抗するのは当たり前。ストライキは反乱に至っていないため、許す。だが武力蜂起は厳しい態度で臨んでいただろう?」


 アルムスが優しいのは敵と味方だけ。

 裏切り者や反乱分子は容赦なく粛清した過去がある。


 尚、平民が豪族の屋敷を包囲した事件は少々特殊な事例であるため除外される。


 「陛下も具体的には命じられなかった。つまり判断は俺に任されたってことでしょう。陛下も怒らないよ」

 「なら良いんですけど……ところでこの後、どうします?地図によるとここから少し離れた場所に、五千人規模の都市が有るそうですよ?」


 夜が明けた後、ここを占領するか?

 ロズワードの問いにバルトロは少し考え込む。


 「うーん、捕虜の護送に千人も割いてるからな……二千の兵力で都市の占領は厳しいかな? 敵も四日前の戦いから立ち直る頃合いだろうし。……よし、この辺で進軍をやめようか。続きは陛下からの援軍が到着してからで」








 「あいつ、派手にやってるな……」


 俺は遥か遠方で赤く光る点を眺める。

 ゆらゆらの風に揺れている。

 おそらく、バルトロが炎上させた都市の炎だろう。


 「……まあ、これくらい厳しくやらないと鎮圧は難しいかもしれないしな」


 飴と鞭、という言葉がある。

 国を治めるには、両方が必要なのだろう。


 キリシア系諸都市には(自治)は与えたが、鞭は与えなかった。

 戦争終結にはその方が早いと思ったからだ。

 しかし裏目に出てしまった。


 これからは厳しく接しないとな。

 


 「それにしてもバルトロ将軍は凄いですね」


 俺と並んで炎を見ていたロンが呟いた。

 バルトロは三千の兵で四千を叩き潰し、すでに二つの都市を占領している。


 普通の指揮官ではあり得ない速さだ。


 「最初はただの酔っ払いだと思ってたんだけどな。出来る酔っ払いだったな」


 酔っ払いなのは変わらない。

 俺はあいつが酒を断っている時を見たことが無い。


 肝炎で死ぬんだろうな。あいつは。


 「敵兵力は一万五千くらい、という見積りでしたよね? バルトロ将軍が四千倒したから、残りは一万前後、ということに成りますか?」

 「まあ、連中が不屈の闘志を持ってたらの話さ。すでにいくつかの都市が離反を考えていると思うよ」


 離反はしなくても、戦争に消極的になるのは間違いない。

 都市国家の連合なんて、そんなものだ。


 おそらく、敵の数は……八千以下だろう。


 ちなみに俺が率いている援軍は三千と、一度捕虜の護送のためにバルトロ軍から離脱した千だ。


 これが明日にはバルトロの二千と合流して、合計六千になる。

 数は少々不利になるが、そこまでの差は無い。


 「気に成るのはレザドの動向ですね」

 「一応、イアルを派遣したけどな。あいつから送られた書簡によれば、積極的中立を約束してくれたみたいだけど。だが議員が勝手に支援する可能性はあるな」


 レザドは商人の国。

 国よりも一人一人の大商人の力が強い。

 

 つまり国の決定はあまり信頼できない。


 エインズのように親ロサイス派もいるだろうが、反ロサイス派も大勢いるだろう。


 「連中が変なことを仕出かす前に叩き潰す」

 

 勝負は明日からだ。


 





 「陛下、お待ちしておりました」


 バルトロは昨日、陥落させた都市から動かなかったようですぐに合流出来た。

 都市はすでに焼き尽くされ、真っ黒い炭の塊と化していた。


 「ご苦労だった。ところでどうやって四千の兵を破った? 書簡に書かれていた内容は読んだが……お前の口から聞きたい」


 俺は新戦術の内容と、勝利出来た理由をバルトロに求めた。

 バルトロはニヤニヤと楽しそうに笑みを浮かべながら、上機嫌に話す。


 「そうか……次の戦でも効果が見られたら、正式にそれを我が国の戦術にしよう。ところで斥候は放ったか? 敵の位置と数は分かるか?」


 バルトロは地図を広げた。


 「陛下、ここが現在地です。ここから一日ほど離れた場所に人口一万の都市が有ります。この反乱の中核となった都市です。現在、この都市に七千ほどの兵が集結しています」

 「道中の都市や村は?」

 「見捨てるつもりのようですね。まあ、今更間に合いませんし。正しい判断かと。おそらく、道中の都市は全て降伏すると思いますよ」


 まあ、勝てない戦いをするほど、都市同士仲が良いわけでは無いだろうしな。

 見捨てられたのであれば、義理を果たす必要は無いと考えるのは自然だ。


 

 「攻城戦になると思うか?」

 「いえ、それはあり得ません。敵が相当愚かではない限り。聞くところによると、この都市は籠城戦に適した造りではないようです。それに我が軍の攻城兵器の威力は敵も知っているでしょう。おそらく、野戦で決着をつけようとするはずです。敵の数もこちらより多いですから」


 籠城戦は守る側が有利になる。

 しかし籠城した時点で、攻める手段を失う。


 城壁を開けて敵を攻撃するのはリスクが高すぎるからだ。


 基本籠城戦は味方からの援軍を前提とする戦いだ。



 「国内は未だ混乱している。早期決着が望ましい。……出来るか?」

 「当たり前です。俺を誰だと思ってるんですか?」


 バルトロはニヤリと笑って見せた。

 

 「そうか、頼りにしている。お前なら必ず勝ってくれるだろうな」


 俺はバルトロの肩を叩いた。

 戦争が終わったら、旨い酒を用意してやらないとな。

 

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