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異世界建国記  作者: 桜木桜
第五章 南部征伐とキリシア人
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第百四十一話 財政改革Ⅲ

復活!!

 「なあ、ユリア。テトラ。大麻とケシ、栽培した方が良いかな?」


 俺は二人を呼び出して尋ねた。

 二人は呪術師。 

 麻薬の専門家だ。


 餅は餅屋に聞くのが良い。


 「良いんじゃない? 私は賛成だよ? 儲かるし、国外に輸出する分なら良いでしょ」

 「……あんな頭の馬鹿になる草、使う方が悪い」


 ユリアは積極的な賛成、テトラは消極的な賛成のようだ。


 うーん……

 実際、麻薬の専売で不利益になることは何も無いんだよね。


 国内での麻薬の栽培や転売は徹底的に禁じるから、結果として麻薬の流行は阻止できる。

 呪術師にも安定的に、高品質の麻薬を供給できるし、国が呪術師の動きを制限できるという利点がある。


 そして何より儲かる。

 

 特に大麻は非常に有用だ。

 成長が早く、病気にも強い。

 農薬や肥料が無くても簡単に育つ。


 実は栄養豊富で、葉は繊維になり、根は土壌改良に役立つ。


 実は日本では第二次世界大戦後に、大麻取締法が制定される以前は栽培が奨励されていた。

 特に北海道は栽培が盛んで、今でも野生化した大麻が生えているほどである。


 そもそも大麻は毒性が弱い。

 

 だから地球では解禁傾向にあった。


 ちなみに大麻は成長するときに二酸化炭素を大量に消費するので、地球温暖化防止にも役立つ。この世界ではどうでも良いことだけど。



 利点しかない。

 

 それなのに俺がこれだけ悩んでいるのは……

 前世の倫理観との相違だろう。


 ……今更だな。

 現在のこの世界に、現代日本の倫理観は全く通用しない。


 

 「専売制にしよう。国内での大麻、ケシの栽培は今後、王家以外一切禁じる」


 大麻とケシを五対一くらいの割合で栽培する。

 麻薬に加工した大麻とケシは国から許可を受けた外国の商人と、国内の呪術師にのみ販売。


 国内での転売は堅く禁じる。

 

 また、大麻は麻薬以外にも繊維という重要な使い道がある。

 栽培した大麻の八割は繊維産業に回す。


 こちらは職人に対して一定の価格で大麻を卸す、という形で良いだろう。



 「これで大儲け出来るはずだよ……」


 何か、人間として不味いことをした気分になる。

 ……本当に今更だけどね。







 「ロン、ロズワード、グラム。よく来てくれた」


 大麻とケシの専売を決めた後、俺は三人を呼び出した。

 三人は跪き、頭を下げる。


 「「「陛下!!!」」」

 「最近、みんな陛下、陛下言うようになったな」


 俺は苦笑いを浮かべた。

 三人も笑っている。


 俺の権威が確固たる物になったことを、三人は喜んでくれているのだ。


 「それで、何の御用ですか? リーダー」

 ロンが尋ねた。


 「まあ、担当直入に言うとだな……近衛兵の重装歩兵と軽歩兵を解体する。今後、近衛兵は騎兵のみ……要するにロズワードが近衛騎士長になる」


 これからの戦争を決めるのは騎兵だ。

 重装歩兵や軽歩兵は徴兵された兵士でも十分こなせるが、騎兵は不可能だ。


 そして騎兵の維持には金が掛かる。

 重装歩兵や軽歩兵の維持に費やす金は無い。


 「つまり僕らはクビですか?」


 俺はグラムの問いに頷いて答える。


 「クビ……というか、別の役割をして貰おうかと考えてるんだ」


 今まで、我が国が専売にしていた商品は塩、蒸留酒、紙である。

 このうち塩は岩塩鉱山からしか産出せず、蒸留酒と紙は俺しか作り方が分からない(今は豪族たちに製法を伝えたので、その限りでは無い)


 だから密売することは不可能だった。

 しかし大麻やケシが違う。


 種を入手して、育てるだけだ。

 あとは呪術師にでも頼めば、麻薬に加工して貰える。


 簡単に密売が出来てしまう。

 麻薬の密売は反社会組織の財源にもなるし、折角専売にした意味が無くなってしまう。


 これは何としても防がなくてはならない。


 そのために厳しい取り締まりが必要になる。


 同時に国内のスパイの摘発などもして貰う。

 警察……というより公安警察に近いな。


 「裏方で地味な仕事だけど重要な仕事だ。これは本当に信用出来る者にしか任せられない。だからお前たちに任せたいんだ。ロズワードには騎兵を率いて貰うから、ロンかグラムのどちらかになるが……」


 ロンは静かに頷いた。


 「じゃあ俺がやります。陛下」

 「ありがとう。必要な予算や人材は遠慮なく言ってくれ。できる限り融通する」


 俺はグラムに視線を向けた。

 グラムは俺を真っ直ぐ見つめ、聞く。


 「僕はどうすれば良いですか}

 「お前にはロマリアの森の開拓を頼みたいんだ」


 俺はグラムにロマリアの森の開拓計画について説明する。


 「やっぱりロマリアの森の責任者はグリフォン様と面識があって、親しい人間が良いと思う。だからお前に頼みたい」

 「分かりました。村を作って、道で繋げるんですね?」

 「そうだ。……必要な物があったら遠慮なく言ってくれ」


 これで麻薬の取り締まりとスパイ対策、ロマリアの森開拓計画の責任者が決まったことになる。


 「陛下。騎兵はどれくらい増やすんですか?」


 ロズワードが手を上げて俺に質問した。


 「まあ、増やせるだけ増やすつもりだけど……」


 常備軍は金が掛かる。

 特に騎兵は金食い虫だ。


 千が限界かな?

 国力の伸び次第で変わると思うけど。


 「取り敢えず、二倍の六百まで増やそうと考えている。馬はエクウス族から確保するつもりだ」


 鉄器との物々交換だ。

 キリシア人から購入するよりも利益率が高くて便利だ。


 「分かりました。粉骨砕身して、騎兵を鍛えます!!」


 ロズワードは腕捲りした。

 あまり気合いを入れすぎるとお前は空回りするから、ほどほどにな。






 「陛下、調子はどうですか?」

 「まあ、悪くないかな。財政改革も進んでいる。……ところでお前が面会を求めるなんて珍しいな」


 バルトロが俺と話をしたいと言い、やって来たのは昨日のことだった。

 昨日はロンたちと話したりで忙しかったので、一日泊って貰ったのだが……


 「陛下。豪族の土地の没収はどのように進めるつもりですか?」

 「俺はお前に一言もそのことは説明してなかったはずだが……勘の良い奴だな」

 「戦場で匂わせていたじゃないですか」


 まあ、それもそうなんだけどね。

 バルトロはロサイス氏族でもアス氏族でもディベル氏族でもない豪族だ。


 計画について話すのはロサイス氏族の説得が終わってからにしようと考えていた。


 「今はロサイス氏族との交渉の最中だ。それが終われば、ディベル氏族の切り崩しを図る予定だよ。ディベル氏族は経済的に困窮している者が多いから、容易いと思う。次にお前のようなどの氏族にも属していない豪族」


 そして最後にアス氏族。

 アス氏族は先の内戦での勝者だから、経済的に余裕がある。


 アス氏族の説得は困難を極めるだろう。

 内戦を覚悟した方が良いかもしれない。


 「どれくらいの時間を掛けるおつもりですか?」

 「ざっと三年くらいかな? それくらいあれば十分出来ると思ってるよ。ところでそんな話をしに来たのか?」


 バルトロは首を横に振った。

 

 「違います。実は軍制改革をしようと思いまして」


 軍制改革?

 それに関しては騎兵の強化を図るために、昨日ロンたちを呼んだわけだけど……


 「もっと根本的な改革です。取り敢えずこれをお読みください」

 

 バルトロは紙にまとめた意見書を俺に提出した。

 よくまとめられている。

 流石、ただのアル中親父では無いな。


 バルトロの提案は次の三つだった。


 一つ、国民を財産と職業、年齢で六等分し、徴兵時の役割を定める。

 

 商業従事者と地主、豪族の子息……騎兵


 自作農(若者)……重装歩兵の最前列


 自作農(中年、熟練者)……重装歩兵の中列


 自作農(古参兵)……重装歩兵の後列


 小作農……軽装歩兵(投槍、弓兵)

 

 無産市民、無職……偵察、投石兵


 ロサイス王の国の軍隊は徴兵制で成り立っている。

 武器は自前の購入が原則だ。

 だから国民を財産で分けるのは利に適っている。


 騎兵の枠を作ったのも良いな。



 二つ、徴兵は各地域単位で行う。月に四度、訓練をさせる。


 今までは中小の豪族が各地を封建的に支配していたので、徴兵は彼らに任せれば良かった。

 しかし王権の伸長の結果、豪族は数を減らしてしまった。

 新たな徴兵システムの構築は急務だ。


 月に四回、訓練させるのも良いな。

 質を保てる。




 成るほど。

 確かに改革した方が良さそうだ。


 やはり俺は軍事は向かないな。

 バルトロに提案されるまで、軍事に気が向かなかった。


 さて、ここまでは良い。


 問題は三つ目。



 三つ、戦術の変更。


 これについて詳しく説明して欲しいな。


 「陛下。今までの我が軍の戦術はファランクスによる突撃でした。しかし俺の斜線陣や陛下の騎兵による側面攻撃により、戦術は変わりつつあります。突撃では無く、機動力のある部隊で側面に周り込み、敵を打ち破る戦い方です」


 ファランクスの弱点は側面だ。

 ファランクスは側面を攻撃されると非常に脆く、あっという間に崩れてしまう。


 我々はその弱点を常に突いてきたわけだけど……


 「今までのファランクスでは我々の戦術に合いません。ファランクスは柔軟性に欠ける。また我々が敵に弱点を突かれないとは限らない。各国も先の戦いで騎兵の重要性を認識したはずです」


 ふむ……続けろ。


 「ファランクスの弱点はロゼル王国との戦いでも浮彫に成りました。一度混乱すれば、立て直しが出来ない。逆にロゼル王国の軍隊は中々崩れなかった。優れた柔軟性を持っていました」


 確かにロゼル王国の軍隊は我が国とは大きく違ったな。

 武器は長剣だったし、部隊と部隊の間が大きく離れていた。


 側面攻撃への耐性も強かった気がする。

 俺はてっきり、クリュウ将軍の指揮のおかげだと思っていたが……戦術の違いか。



 「具体的にはどうする?」


 俺がそう聞くと、バルトロは待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべた。


 「今までの我が軍は、十人部隊、百人部隊、千人部隊と分けていました。しかしこれでは柔軟性に欠ける。そこで十人部隊、百人部隊、五百人部隊、千五百人部隊に分けて、五百人部隊を基本の単位とします。

 五百人部隊と五百人部隊の間には広い間隔を開けます。そうすることで軍隊に柔軟性を持たせます。問題は軍隊が穴開き状態になることですが、それは柔軟な動きで対応可能です。

 部隊が損傷を受ければ、素早く後方の部隊と入れ替えます。そうすることで継続的に戦闘が可能になります。

 問題は兵士が戦術通りに動くか、ですがこれは月に四回の訓練で解決します。その上で百人隊長の権限を強化します」


 中々具体的だな。

 悪くないかもしれない。


 「そしてここからが重要なことですが……武装が槍では折角の柔軟性が台無しです。だから武装を剣に切り替えます。主兵装は投槍、盾、剣です。剣はロゼル王国の剣を参考にします」


 主兵装を剣に……か。


 これは有名は話だが、戦争では武器のリーチが長い方が有利になる。

 織田信長が兵士に長い槍を持たせたのは有名な話だろう。


 戦争の主役は槍だ。


 しかしバルトロもそんなことは十分承知だろう。

 その上で長剣にしようと提案しているのだ。


 大丈夫だろうか?

 盾があるから敵の槍は案外防げるのか?


 ……そんなに大きく変えても大丈夫だろうか?


 しかし何か変える必要があるのは分かるしなあ……


 そうだな……


 「じゃあこうしよう。先の戦争で刈り取った南部の土地が有ったな? あそことあそこに隣接する土地にお前を転封する。人口は……二万前後になるか。最大で三千前後の兵士を使えるように成るはずだ。その兵士を自由に訓練させてみろ。そして小競り合いで何度か戦い、自分の理論が正しいか確かめて来い」


 俺の提案にバルトロは目を剥いた。

 

 「俺にそんな広大な領地と兵を与えて宜しいんですか?」

 「領地は最後には没収する予定だから、別に痛手では無いな」 

 「はは、それもそうでしたね。まあ俺は戦争が出来れば十分です。政治は面倒なので、したくないですね」


 バルトロは苦笑いを浮かべた。


 「兵士に関してだが、俺はお前を信用している。ただ……兵士の数や状態に関しては逐一報告しろ」

 「……陛下……ありがとうございます。俺のために……それと政治はしたくないので、代官を派遣して下さい。軍隊の調練にのみ、力を割きたいのです」


 まあ、そういうことなら。

 ロサイス氏族から適当な人選をして、派遣しようか。


 丁度彼らは失業してしまうし。


 「やるからには完璧に仕上げろ。良いな?」

 「分かっています。陛下。世界最強の軍隊を作って見せますよ」




 後にバルトロの作り上げた戦術は、細部は変われど約五百年の長きに渡ってロマリア帝国の必勝戦術として活躍し、ロマリア帝国軍は西方世界をこの戦術で圧倒することに成るのだが……


 それはもう少し先の話であった。


バルトロの改革は暫定的なモノです

これからいろいろ試して、最適な形になります

ちなみに、五百年以降は騎兵と火器は幅を利かせるようになるので、流石に通用しなくなります


内政は次の更新で一先ず終了です。その後、話が若干動きます


追伸

感想を書きにくい内容であることは分かります

ギャグとか無いし、平坦な内政だし

でも無いと寂しいです


じゃあ、ギャグとか入れろやと言う話になるんですけど……


何か、感想を書いて欲しいです

二ページ埋まるくらい、一日で感想が来るとやる気が出ます

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