第百四十話 財政改革Ⅱ
※登場人物紹介と地理を投稿しました
一見して下さると幸いです
「次は……捕虜の処分だ。あれ、どうする?」
我が国が獲得した捕虜は一万一千二百人。
我が国の人口は戦争前が二十五万、新たに増加した人数は正確には不明だが十二万前後だろう。故に総人口は三十七万。
つまり総人口の約三十分の一の捕虜を得たのである。
これがどれくらい多いのかというと……
日本で例えるのであれば四百万人の戦争捕虜になる。
やべえ、日本人口多いな。
流石世界十位様。
今更ながら、日本はかなりの大国だな。
近くにアメリカ、中国、ロシアが居る所為で目立たないけど。
異世界来て実感した。
日本がこの世界に来たら、ロサイス王の国は吹けば飛んでしまうな。
「陛下はどうされたいですか?」
「労働力として全員囲い込んでしまいたいな」
約一万人の労働力。
使い方はいくらでもある。
例えば戦争で中止していた都の造営や道、治水・灌漑整備。
一万人の奴隷を投入すればあっという間に終わるに違いない。
賃金払わなくて良いし。
その後、農地の拡大にも使える。
この世界の奴隷はトラクターみたいな物だ。
基本、自作農ならば二人くらいは奴隷を所有している。
しかし……
「一万人も養えるかな?」
「どうでしょう? でも今年の税は豊作でしたし……少なくとも一年は賄えますよ。来年は収穫次第になると思いますが」
うーん……
奴隷は大して売れない。
何故なら市場に大量に流せば市場原理が働き、安く買い叩かれてしまうからだ。
「取り敢えず、分類しよう。売り捌くのは、見た目が綺麗な者、反抗的な者、怪我や病気持ち、または病弱な者。エクウス族に安く売る毛織物職人。確実に確保する必要がある、何かしら一芸に長けた者。そしてその他保留組」
保留組を売るか労働力にするかは……
「取り敢えずエインズを呼ぼう」
商売の専門家に意見を聞こうか。
「そうですね……一万人の奴隷となると……これくらいになるのでは?」
エインズは俺たちに額を提示した。
うーん、安い。
「それなら働かせた方がマシだな」
穀物を買っておかないと。
キリシア人から買うと高くなるからなあ……
ベルベディル王の国から買うか。
あそこは我が国と同じくらい農業国だし、今は金欠で困っているはずだ。
「ところでエインズ。我が国は新たな産業を始めたいんだが……キリシアやレザドで今、足りない物はあるか?」
「そうですね……」
エインズは困った表情を浮かべた。
まあ我が国で生産出来る物ならとっくにキリシアに有りそうだな。
「ああ、そう言えば……」
「どうした?」
「キリシアがペルシスに敗北したのはご存じですよね?」
それについては伝え聞いて居る。
ペルシス帝国によりキリシア本国が征服されてしまったらしい。
ただエインズたちはあまりショックではないらしい。
キリシア人は元々独立性の強い民族。
宗主国とはいえ、別の都市国家。
外国に征服されたからと言って、援軍を送ろう、助けようなどとは思わないのだろう。
というか、助けられないだろうし。
商売がやり辛くなったのは問題だろうけど。
「実はペルシスは大麻やケシの栽培を禁じているのです」
それはまた……
呪術や医療はどうするんだ?
「ペルシスは王宮呪術師以外が呪術を研究したり使ったりするのを固く禁じているのです。暗殺を防ぐためですね。ペルシスに征服されたキリシアも例外では無く、多くの大麻やケシの畑が燃やされたようです。全く、酷いモノです」
うーん、多くの大麻やケシの畑があるキリシアもどうかと思うけどな。
使用用途の九割は嗜好品だろ?
「そこでロサイス王の国で生産して下されば、我々は御大儲け出来るのですが……」
悪魔の囁きだな。
儲かるのは分かる。
確かに大儲け出来るだろう。
しかし現代日本人として、やっていいのだろうか?
どこぞの紳士の国じゃあるまいし、他国に麻薬を売りつけて荒稼ぎなんて……
でも俺らがやらなくても誰かがやるかもな。
それに最近の地球は大麻に関しては解禁する傾向だったし、ケシはモルヒネを作ることが出来る。
大麻とケシなら倫理的にギリギリセーフなんじゃないか?
そこそも俺は大麻とケシの国内での生産を黙認していた。
呪術師にとって必要だからだ。
最終的には規制するつもりだったが、今はその準備の最中だ。
実のところ、国内にも少しづつ流行の兆しが見え始めている。
これは不味い。
下手に栽培する奴が出てくる前に徹底的に取り締まり、専売制にした方が治安維持という面では良いかもしれない。
一度儲かれば味を占めるし、真似をする奴も出てくる。
しかし儲かる前に国で徹底的に取り締まり、専売制にすれば……
「……まあ、考えておこう」
「良い返事を期待しています」
エインズはニコリと微笑んだ。
多分、何の悪気も無いんだろうな。
彼らにとって麻薬はただの嗜好品。
もしかしたら健康に良いとすら思っているかもしれない。
「あとは木ですね。これは慢性的に不足しています。船を作るのに大木が必要なのですが……領内の大木は全て切り倒してしまいましたから」
木か……
あれはすぐに復活しないからな。
一度禿山になれば中々植生は回復しない。
それどころか雨が降るたびに土砂崩れが起こり、大変なことに成る。
我が国には手付かずの森はたくさんあるが、大木となると殆ど使われて……
いや、あった!!!
「大木、何とか出来るかもしれない」
「本当ですか?」
「ああ。詳しくは話せないが……兎に角、目処が立ったら再び連絡する」
「それで何か心当たりが?」
「ロマリアの森だよ」
ライモンドは目を丸くした。
「確かに……あそこなら手付かずの木材が有りますね。それだけじゃない。動物もたくさん居るはず……グリフォン様の祟りは陛下のおかげで解決する……」
ロマリアの森は大きな木……樹齢百年は優に超えている樹木がたくさん生えていた。
大人が数人掛かりでようやく囲むことが出来るほど幹の太い木もある。
そして船には大木が必要だ。
キリシアの三段階船や五段階船には竜骨と呼ばれる部品がある。
これは船の背骨であり、寿命そのものだ。
そして竜骨は一本の木から作られる。
故に大きな船を作るためにはそれだけ巨大で丈夫な木が必要になる。
「折角だし、俺はロマリアの森を実効支配しようと思っている」
「実効支配……ですか?」
その通り。
あの広大な森を我が国の領土に編入出来れば、我が国の国力は跳ね上がる。
そしてギルベッド王の国やファルダーム王の国への奇襲攻撃も可能になる。
具体的には……
「開拓をしよう。そして各国に知られないように森の各地に村を作る。主産業は林業と動物の毛皮が良いな。利益率も高いし。そうやって少しづつ村を増やし、道路で繋げる。森全体に道路を張り、軍隊の移動を容易にした後……領有宣言をする」
グリフォン様の息子である俺がロマリアの森を支配する。
大義名分も立つ。
国名もロマリアだしね。
ロマリア王国はロマリアの森を支配して初めて成り立つ。
戦争に成っても、勝つ自信がある。
地の利はこちらに有るのだ。
負けるはずがない。
そうなると自ずと、捕虜の使い道も決まる。
「ガリア人は森に馴れている。開拓に使う奴隷としてはもってこいだ」
反乱を防ぐために、アデルニア人とガリア人奴隷の比率は五対一にする。
そしてガリア人奴隷には、「三十年後に解放する。その時までにお前の開拓した土地はお前の物だ」と伝える。
大喜びで働くに違いない。
まあ、ロマリアの森ばかり開拓するわけにはいかないけどね。
ロサイス王の国には未だ、農地に出来る土地がたくさんある。
木や毛皮は食えないが、小麦は食える。
食を確保しなければ国が成り立たない。
その辺の比重は後々考えれば良いことだけど。
あと、植林活動も同時にした方が良いかもしれない。
いくら木が売れるからと言ってやたら滅多ら切れば枯渇する。
そうだな……
グリフォン様の祟りを回避するために、木は計画的に、そして植林もしながら切ろう。
と、説明すればいいか。
祟りって便利な言葉だな。
「というわけでライモンド。早速準備に取り掛かろう」
「はい!」
忘れちゃいけないのはグリフォン様に許可を採ることだな。
まあ、大丈夫だとは思うけどね。
最近、調子が悪い
一週間休ませてください




