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異世界建国記  作者: 桜木桜
第一章 禁忌の森とグリフォン
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第十四話 小麦

主人公は手先が器用な様子

俺の目の前には子供が十人居る。

 四人は四歳ほど、残りの六人は八歳ほど。


 要するに捨てられた子供なのだが……どうしてこのタイミングなのか。


 あと一月、二月辛抱すればいいじゃないか。

 もし辛抱できないほど深刻なら冬に入った段階で捨てるべきじゃないのか。


 「子供を捨てる時期は二回。一回目は小麦の収穫季節。不作だった場合、村長が権限で選出する。二回目は新年が終わった後。計算を誤って、追加で捨てなきゃいけなくなる場合。これは冬を乗り切れなさそうなことが冬の後半になってようやく分かるから遅くなる。あとせめて新年の祝いを終えてから送りだしてあげたいという親の思いもある」


 「なるほど。解説、ありがとう」


 俺は子供たちに名前を聞き、住居を割り当てる。

 助けられる命は出来うる限り助ける。


 グリフォンの支援は小麦を収穫し終わるまで続くので、大丈夫だ。

 それに来年、豊作ならば返してあげられる。

 

 「ねえ、アルムス」

 「何だ?」

 「小麦、足りる? 来年、不作だったら五十人くらいは覚悟したほうが良いよ」

 

 テトラ曰く、二年連続で続いたら間違いなく蓄えは底をつくと。

 今、育てている小麦で足りるのか? それがテトラの問いだ。


 「大丈夫だよ。こっちは肥料を上げて小麦を作ってるんだ。普通よりもたくさん収穫できる。それに畑も広くしてあるし。それに大麦も育てるからね」

 この地域は二圃式農業が主流だ。

 要するに小麦を収穫したら、その畑は一年間休ませる。

 食糧生産効率はとても悪い。


 一方俺たちは輪栽式農業。生産効率が全然違う。

 テトラの心配は杞憂だ。


 「でもさ、さすがに二年連続はあり得なくないか?」

 「分からない。でもこの呪いを掛けている集団はかなり質の良い呪術師を大量に抱えていて、且つ生贄を用意できるほどの財力がある人達。だから二年目もあるかもしれない。ただ……」

 「ただ?」

 「ロサイス王の国は別かも」


 ロサイス王の国……確かロマーノの森の南側の中堅国家だっけか。


 「他の大国じゃなくてどうしてロサイス王の国は安泰だと言いきれるんだ?」

 「ユリアが居るから」

 

 ユリアってロサイス王の国の人なのか? 俺は聞いたことないんだけどな。

 俺の顔を見て、テトラは答えてくれた。


 「彼女は結構有名人」

 「でも他の子供たちは初対面だった風だけど?」

 「……上の身分の人の中では。という話。今回の新年で彼女は十二歳。ロサイスの呪術師として働きだすはず」

 

 ユリアって十二歳なのか……


 「俺、十一歳じゃなくて十二歳っていう設定に変えていいかな?」

 「……勝手にすれば」

 

 良し。今日から俺は十二歳だ。

 どうせ正確な年齢なんて分からないし。十一歳も十二歳も大して変わらない。

 

 というか俺、本当は二十歳越えてるし。


 「労働力が増えたと思えばいいじゃないか。収穫が上がるよ。それよりも俺が心配してるのは老人だけど。老人を働かすのはな……」

 効率があまりよくない。

 実質、ただ飯食いになる。


 「老人はあまり捨てられない」

 「どうして?」

 「……子供は八人くらい居る内の一人だけど、母親と父親は一人しかいない」


 納得した。

 

 「そもそも、大体が五十歳になる前に死んじゃう。長生きした老人は健康の証みたいなものだから殺しにくい」


 縁起が悪いということか。

 長い間生きてれば周りの人にとっても思い入れが強そうだし。


 子供を捨てるよりも抵抗感があるのか。


 「聞かないの?」

 「何を?」

 「私がユリアについて知っていた理由」


 ああ、さっきの『上の身分の人の中では有名』発言か。


 「気になるけど聞かないよ。気が向いたら話してくれ」

 「そう……」


 テトラは安心したように、だが少し寂しそうに俯いた。


___________



 「凄いね! こんなに小麦が実るなんて。どういう呪術を使ったの?」

 「特に凄いことはしてないよ」


 俺の目の前には金色に輝く小麦の穂。

 大豊作と言ったところか。


 「お前のところは?」

 「ふふん! 私のおかげで大丈夫よ。豊作とまではいかないけど、今年は餓死者の心配はしなくて済みそう。お父さんが喜んでた」


 そうか。そいつは良かった。


 「ところであれは?」

 「大麦だけど」


 ユリアは不思議そうな声で聞く。


 「畑を休ませなくていいの?」

 「良いんだよ。ちょっとした秘訣があるんだ」

 

 俺が答えると、ユリアはまじまじと大麦を眺める。

 だがそんなに興味は無いようで、すぐに小麦へ視線を移した。


 「じゃあ早速儀式をするけどいいかな?」

 「ああ。よろしく頼むよ」

 

 ユリアは前に進み出る。

 ユリアの目の前には台があり、その上にはワインと鹿の肉、葡萄、オリーブが乗っている。


 ワインとオリーブと葡萄は俺が須恵器と交換して手に入れてきたものだ。


 「じゃあ行くよ」


 ユリアはそう言ってゆったりと舞い始めた。


 やっぱり綺麗だ。

 俺の心臓が自然と高まる。

 いつまでも見ていたい。だが舞いはすぐに終わってしまう。


 「どうかな?」

 「うん。綺麗だった」

 

 俺が素直にそう褒めると、ユリアは少し照れたように笑った。


 「じゃあ私はこれで」

 「ああ。送ってくよ」

 

 俺はユリアを湖まで送って行く。

 

 「そうだ。パンができたらユリアにプレゼントするよ。お礼だからね」

 「ふふ。楽しみにしてるね」


______________



 当然の話だが、小麦はそのままでは食べれない。


 脱穀する必要がある。


 穂から小麦の取り外し、もみ殻と分離させる。


 これをすべて手作業で行ったらかなりの重労働だ。


 そこで先人の知恵を貸してもらう。


 「これ、すごい楽ですね!!」

 ソヨンが小麦を千歯扱きで脱穀しながら俺に話しかけてくる。

 俺も自分で作ったものを褒められるのは嬉しい。

 人のパクリだけど。


 ちなみに本来の千歯扱きの櫛は本来竹か金属で出来ているが、竹は自生していないし鍛冶技術は俺には無かったので、木製である。

 だから非常に脆い。丁寧に扱ってくれ。


 「うむ……構造は単純。でもこれだけ効率が良くなるなんて……すごい発想」

 テトラが千歯扱きを見ながらぶつぶつ呟いている。


 「これが広まったらすごいんじゃない?」

 ロンが興奮気味に言った。

 

 まあ作業効率は上がるだろうね。

 でも本来未亡人の仕事である脱穀を奪っちゃうことでもあるから、良い点だけじゃないけど。


 広めるなら未亡人の仕事も一緒に考えないとな……


 俺が心配することでもないか。所詮子供のリーダーだし。時期が来ればこの集団は解散する。


_______________



 さて、次はもみ殻をとらなければならない。


 地球では機械が導入される前は、どの地域も石臼で脱穀を行っていた。


 臼には二種類あり、一つは石の板に丸い石を擦りつける方式。

 もう一つは円盤状の石板を二枚重ねて、一方を回転させる方式。

 

 少なくともこの周辺の地域では前者の臼を使用しているようだ。


 この方法でも脱穀は行えるが。長時間座りこみながら同じ作業をし続けなければならないので、腰痛の元になる。

 この年で腰痛に悩まされたくない。


 そこで円盤式の石臼を作った。


 作るのは物凄く大変だった。

 だって石と石をこすり合わせて丸く、平らにするんだぜ? 

 何度、諦めて従来の方法でやればいいじゃんと心の中の悪魔が囁いたか分からない。


 でもこれが完成すればずっと作業が楽になる。俺はそう信じた。

 

 加護? のおかげで石を擦り合わせること自体は大変じゃなかったのは不幸中の幸いか。

 こんな微妙なところで役に立ってもしょうがないんだけど。


 ちなみに座り続けて作っていたため、腰痛になった。

 アホみたいだな。


 「でもこれすごい楽だぜ!!」

 「ぼ、僕にもやらせて!!」


 ロズワードとグラムが燥いでいる。 

 

 ……こいつらが喜んでくれるならいいか。

 俺も腰痛になった甲斐があったというもの。


 「今度からはみんなと協力して交代で作れば良い。というか何で一人で作ったの?」

 「だってビックリさせたいじゃん」

 

 そう言うと、テトラに呆れられた。


 「千歯扱きで十分にびっくりした」

 「ふふん。まだもう一つビックリ道具があるんだぞ!」

 「あの変なやつ?」

 「変なやつとは失礼な。唐箕だぞ」


 俺は片隅に置いてある唐箕に触れる。

 渾身の出来だ。


 当然のことだが、俺は農具マニアでも何でもないので歴史の教科書で見た外見しか知らない。

 だが風の力で分別するという仕組みだということは知っている。


 原理さえ分かれば、試行錯誤でそれっぽいものはできるのだ。

 完璧とは言い難いが、少しづつ改良すればいい。


 何しろ俺は小学校の頃、図工で(よくできる)を貰った実力がある。

 これくらいはできて当然。


 「いいか。まずここにもみ殻と混ざってる麦を入れるだろ? でここを回す」

 俺はみんなに説明(自慢)するために実践しようと、唐箕を動かす。


 バキッ


 ……

 ……


 まだまだ改良が必要みたいだ。


 結局、みんなで頑張って分別した。


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