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異世界建国記  作者: 桜木桜
第五章 南部征伐とキリシア人
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第百三十九話 財政改革

今日は二話投稿です


2/2

 「へえ……そんな夢見たんだ」

 「ああ。全く……その所為で眠いよ」


 自然と欠伸が出る。

 あまり深く眠ることが出来なかった。


 最悪だ。


 「一人称が『俺』ね……分かった。気を付けるよ」


 ユリアは頷いた。

 まあ、あまり間に受けなくてもいいと思うけどね。


 「……」

 「どうした? テトラ」


 テトラは少し考え込んでいるようだ。

 難しい顔をしている。


 「ん……その時間が何とか……というのが気に成って」


 好きだな……

 そういう話題。








 我が国の国家財政は千ターラントである。

 その内訳を説明しよう。


 塩の専売……四百ターラント

 紙の専売……百ターラント

 葡萄酒(蒸留酒)の専売……百ターラント

 商業税……百ターラント

 地税……三百ターラント



 と、まあ見て分かると思うが収入の大部分が専売による物だ。

 違和感があるかもしれないが、小国の国家財政などこんな物である。


 どの国も変わらない。

 ロサイス氏族の財力は塩の専売が源なのだ。



 さて、この中で減収が確定しているのは地税である。

 出兵する際に、兵士に向けて税金を下げることを約束してしまった。


 正直、後悔しているが……

 あの時はあの対応以外方法は無かった。



 彼らは職務放棄をしただけで、反乱を起こしたわけでは無い。

 それを軍で鎮圧すれば、本格的な内乱に繋がってしまう。

 大体、彼らを無理やり戦場に連れて行っても役に立つはずがない。


 現在の地税は三割。

 これを一割に変更する。


 まあ単純計算で地税は百ターラントになると考えれば良い。


 二百ターラントの減収……

 まあ、何とかなるだろう。



 ところで歳出も気に成るところだ。

 

 我が国の歳出は……


 インフラ整備……二百ターラント

 人件費……四百ターラント

 借金返済……二百ターラント(五十年払い)

 国境警備……百ターラント

 百ターラント……蓄財


 人件費は元々殆ど無かったが、俺が王に成ってから増大した。

 官僚……所謂公務員を雇ったからである。

 人を雇うには金が必要なのだ。


 ちなみに官僚のおかげで徴税能力は増加して、収入は増えているので彼らをただ首にしてもあまり意味はない。


 国境警備費が少ないと思うかもしれないが……平時はこんな物だ。

 戦争が有れば臨時で予算が組まれる。

 勿論、治水や都の造営も臨時予算……蓄財の方から金を出す。


 問題は蓄財の方の金がすっからかんになってしまったことだ。

 治水と都の造営と戦争の所為だ。


 俺の所為と考えることも出来る。というか、俺の所為だな。


 また戦争のために千ターラントを追加でキリシア商人から借りてしまった。

 借金返済による支出は増加すると考えられる。


 ちなみにロゼル王国からの賠償金は未だ受け取っていない。

 あちらも大金を用意するのに時間が必要なのだろう。

 予定では五か月後に受け取ることになっている。


 論功行賞で土地を希望した豪族には土地を支払っているが、銀を欲した豪族への支払いは賠償金を受け取った後になる。




 

 「現段階では本格的な財政難には陥って居ない。が、今後のことを考えて大規模な財政改革が必要だ」

 「私も同意見です。治水や都の造営も未だ、完成していませんし……しかし、どうしましょう? 減収は確定していますが……踏み倒しますか?」


 いや、それは不味い。 

 本当に反乱が起きる。


 今、俺の人気は絶頂にある。

 絶頂にあるということは、落ちた時の落差が大きいということだ。


 「まず人件費だが……これ以上の増加を無くすために官僚組織の構築はここで打ち切りにする」

 「我が国の税収の四割を占めますからね……ですが、税金をどうやって納めさせますか?」


 従来のやり方は村長などの有力者に徴税を請け負わせていた。

 しかし彼らが実際の税率以上の税を集めて、その差額を着服したり、税収を過小報告する例が相次いだ。


 だからこそ官僚制を強化して税収を上げようというのが、今までの方針だった。

 

 だけど……

 やっぱり現実的には厳しいようだ。

 理想は現代日本のような、官僚機構の発達した国だが……

 理想と現実の区別は必要だ。



 「徴税請負人制度を導入しようかと考えている」

 「徴税請負人……ですか? 今までと何の違いが?」

 「簡単に言うと……今までは税の着服は違法だった。それを合法にする」


 どうせ、いくら取り締まったところで着服は無くならない。

 ならば最初から認めてしまい、その上で取り締まれば良い。


 「そうだな……集めた税金の五%を自分の収入として良い。としようか」


 五%はそこそこの量だ。

 収入としては悪くないはず。



 「同時に平民には年に一度、徴税請負人を訴える権利を与えよう。裁判に負けた請負人は全財産を没収」


 没収した財産は訴えた平民の物になる。

 そしてこれはこの国の慣例だが……


 裁判で財産の没収が有った場合、その財産の半分が国庫に入る。


 これで請負人は不正が出来にくくなり、

 平民は請負人の不正に目を光らせる。


 国は請負人が不正をしようがしなかろうが、税金が入る。



 「請負人制度の導入で空いた人材は商業税の回収に回そう」


 商業税は自己申告税である。

 当たり前だが、商人一人に付いて回り、その儲けを確認することは出来ない。

 そんなに暇ではない。


 とはいえ……

 商人はちゃんと税を治めてくれている。


 と言うのも、都市内部で商売をする場合は国に許可を求める必要があるからだ。

 そして代わりに税を治める。


 これである程度は回収できる。

 ……が、村々を渡り歩く行商人や道で開かれる市場などからは税金を回収出来ていない。


 行商人は仕方が無いとしても、市場から回収できないのは勿体ない。

 今度からはここからも税金を回収させて貰う。



 そして売上税も上げる。 

 今までは三%だったが、これを五%に変更する。


 我が国の経済成長と照らし合わせても、これくらいが適正だろう。

 

 後は諸産業を発達させて……

 問題は紙と蒸留酒の専売権を豪族に与えてしまったことだな。


 新たな産業が必要になる。

 考えて置かないと。



 そして忘れてはいけないのは……


 「塩の専売を強化したい」

 「塩ですか?」


 ロサイス王の国の主産業は岩塩である。

 岩塩は王が七割、その他ロサイス氏族が二割、一割を豪族が手中にしている。


 それに加えて、ベルベディル王の国の岩塩も我が国が押さえた。 

 おそらく、キリシア商人が取引している岩塩の六、七割は我が国の岩塩であると考えて良いだろう。


 岩塩を寡占状態に持ち込むために、手始めに国内の岩塩を全て抑えこみたい。


 「国内に存在する全ての岩塩を国有化したい。……豪族や他のロサイス氏族には土地や金銭を用意する」

 「……なるほど」


 実のところ、ロサイス氏族の有する岩塩の七割はライモンドが握っている。

 ライモンドが王弟時代に、先王に下賜された物だ。


 ……これを先王が死んだ後に言うのは少々卑怯かもしれないが。

 

 「私は構いません。土地も結構です。……豪族はどうします?」

 「それは俺が説得しよう」


 この国の豪族は、ロサイス氏族、アス氏族、ディベル氏族の三家が主流。

 そしてアス氏族の家父長権を持つのは俺で、ディベル氏族は俺に屈服している。


 説得は簡単だ。


 しかし……


 「土地は要らないのか?」

 「陛下(・・)は土地を減らしたくないでしょう? ……いえ、むしろ全ての土地を王権の元に集約させたいのでは?」


 ……気付いていたか。


 「私が陛下ならば、そう考えます。陛下はすでにアス氏族、ディベル氏族の両氏族に王と認められている。国民もあなたを信望しています。すでにロサイス氏族からの支持は不必要。ならば王権の強化のために、邪魔なロサイス氏族から力を奪おうと考えるのは自然です。先王も崩御してしまいましたしね」


 流石と言うべきか……

 

 気付かれてしまったな。

 もしかして他の豪族も気付いているのか?


 「ご安心を。これを知っているのは私だけですよ。あとは……バルトロ殿ならば勘付いて居るかもしれませんが、彼は邪魔をしないでしょう」

 「そうか……協力してくれるか?」


 ライモンドは俺の問いに頷いた。


 「時代の流れは変えられません。平民の力が強まり、豪族の力は弱まった。そしてあなたの力は日増しに強まっていく。この状況下で我々ロサイス氏族だけが安泰だと考えるほど、私も愚かではありませんからね。一つ、ユリア様の子を次の国王に。出来ないのであればロサイス氏族から入り婿という形をお願いします。これを約束して下されば、私は喜んで王権の強化に協力しましょう」


 「分かった。安心して欲しい。俺もユリアの子を次の王太子にするのが国の安定の第一だと考えている」


 気掛かりなのは、ユリアに強いプレッシャーが掛からないかどうかだ。

 まあユリアも俺も十九歳。

 あと二十年は子を産める。


 大丈夫だとは思うが……俺がちゃんと支えてやらないとな。


 「そうなれば話は早いですね。ロサイス氏族の所有する土地への徴税権と軍事権を全て、陛下に返還させましょう」

 「話が早いのは良いが……大丈夫か?」

 「条件は必要ですよ?」



 一つ、身分を保障すること。 

 二つ、秩禄を支払うこと。

 三つ、ロサイス氏族が所有する土地の私有権は認めること。(納税の対象にはなる)

 四つ、借金を肩代わりすること。

 五つ、国政への政治参加を認めること。


 「これくらいの条件が有れば、すんなり行くと思います」

 「借金……そんなに借金があるのか?」


 ライモンドは頷いた。


 「戦争や贅沢のために借金をする者が居るんですよ。徴税権が有るので、借りられる上限が高いのが性質が悪い……おそらく陛下が肩代わりするとおっしゃって下されば、多くの豪族が喜んで返上するかと」



 ……借金も背負うけどな。




 三か月後、ロサイス氏族との話し合いが終わり、ロサイス氏族の有する土地の全てが俺に返上された。

 

 尤も、代わりの代官や自治組織は用意出来ていないため、支配者はロサイス氏族のままだが。

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