第百三十八話 夢
百三十七話の人物紹介と地図はまだ間に有って無いので、近いうちに投稿します
明日明後日には間に合わせるつもりです
今日は二話投稿です
二話目は十八時
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気が付くと、俺は不思議な場所にいた。
一面が薄いピンク色の空間。
下に目を向けると、底が無い。
俺の体は宙に浮いていた。
上を見上げると、天井が無い。
前、後ろ、右、左を確認するも、果てが見えない。
おそらく、空間のという概念が存在しないのだろう。
この世界には。
そして気付く。
これは夢だな。
あの後、ユリアとテトラと共にベッドに入ったのだ。
そして子作りした後、目を瞑った。
その後から記憶が無い。
変な夢を見るな。
早く醒めろ。
―ああ、目を覚まされると困るよ―
子供のような声が聞こえた。男か女かは、分からない。
ただ、何となく女のような気がする。
俺は周囲を確認するも、姿は見えない。
―おお、ちゃんと聞こえてるんだね、初めまして。私は……名乗らなくても分かるかな?―
……妖精か。
―正解! 物分かりが早くて良いね―
一体、何の用だ?
―ふむ、案外冷静だね。有意義な話が出来そうだ。恥ずかしがらずに最初から話しかけておくべきだったかな?―
何の用だ? と聞いて居るんだけどな。
俺は忙しいんだ。
早く頭を休めたい。
用件を済ませて、早くレム睡眠に入りたいんだよ。
―むしろ、用件があるのはあなただと思うけど? 私に聞きたいことが有るんじゃない?―
何故、俺に加護をくれた?
この世界に呼んだ?
―ふふ、期待通りの質問だね。加護を与えたのは便利だから。役に立ってるでしょ? 麻里に勝てたのは私があなたの加護の能力の枷を外したからだよ―
世界に呼んだ理由は?
―呼んだ……うーん、認識のズレがあるね。そもそも、人はどうして異世界転移・転生するか知ってる?―
知るか。それを聞いてるんだ。
―逆因果と運命力が関係している―
何だ?
それは。
―時間と言う物は無数に枝分かれしているというのは知ってるね? 所謂、世界線という奴だよ。そうだね、分かりやすく言うと……今のユリアちゃんやテトラちゃんはあなたのおかげで幸せになっている。他にも幸せになった人が大勢いる。そしてあなた自身も、この世界に来てそこそこ楽しんでいる―
それで?
―そしてあなたたちはこう思うんだ。アルムスが居て良かった。異世界転生して良かった。この思いが過去に影響を及ぼす。これが異世界転移の条件の一つ―
……無茶苦茶じゃないか?
未来によって過去が決定されるなんて……こじつけだ。
―それを私に言われてもね? 私たちだって深くは知らないよ。もしかしたら間違っているかもね―
そしてお前が正しいことを言っているかも、分からないと。
―ふふ、まあ、信じるか信じないかはあなた次第だと思うな。さて、話を戻すよ。次は運命力。これは自分の望む未来や過去を選び取る能力。これは人によって違うけど……この運命力の総計が逆因果への影響の強さだよ。多くの人が異世界転生を望み、あなたも心の奥底で刺激を欲していた。だから条件が整った―
つまりお前たちが呼んだわけでは無いと?
―背中を押したり、飛ぶ時代や場所はある程度操作出来るけどね。私たちに世界の境界線を越える力は無いよ。あと、あなたが転生した理由だけどそれは転移の直前に死んだから。魂だけ、越えて来た。そして偶々、離魂草を誤食して器が空になった子供に入りこんだ―
グリフォン様は転生者は見たことが無いと言ったけど、珍しいのか?
―どうかな? 比率はそこまで変わらないかも。条件が整うのと同時に死ぬ人は珍しいけど、条件を整ったからと言って転移出来るとも限らないからね。肉体という制約の無い魂だけの方が、境界線は越え易い。……まあ、針の穴の中に象を通すのと鼠を通すくらいの差だけどね。どっちも難しいよ―
まあ、針の穴に鼠を通せるなら象も通せそうだな。
グリフォン様が知らなかったのは……そもそも転生者が自分を転生者と名乗らないからかな?
狂人扱いされそうだし。
それで、加護をくれた理由は?
さっきのは説明に成ってない。
―私たちはね、困ってるんだよ。あの麻里……マーリンの方が馴染み易いかな? 彼女が世界の法則を壊そうとしている。魔法を作ってね。私たちはそれを防ぎたいんだよ。あなたが王になればマーリンとぶつかるのは目に見えていたからね―
お前たちなら適当な加護を与えて、暴走させられるんじゃないか?
―マーリンには別の妖精が付いてるんだよ。邪魔をされちゃう。彼らは革新派、私たちは保守派というべきかな? 私たちは世界の法則に囚われて生きている。私たちはこの世界を安全な場所、外敵に襲われない場所だと思ってる。でも彼らは世界を牢獄だと考えている。だから世界を壊したいんだよ―
ふーん……
やっぱりやろうと思えば簡単に人間を殺せるわけか。
―勘違いしないでほしいなあ。私たちは人に干渉するのを極力避けてるよ。加護も必要な分しか渡さない―
アリスの父親はどうなんだ?
あれも必要だったのか?
―私たちにも派閥がある。アリスちゃんのお父さんに加護を与えて暴走させたのは、保守派でも革新派でも無い。強いて言うなら愉悦派かな? 彼らは世界を玩具、遊び場だと思ってるんだ。だから人間も自分たちに与えられた玩具だと思ってる。酷い奴らだよ―
ユリアにやたらと加護を与えたのはお前らか?
革新派か? 愉悦派か?
―どれでも無いよ。与えたのは……寵愛派と言えばいいかな? ああいう、特異点になる人間や気に入った人間にやたらと加護を与えて優遇するんだよ―
特異点?
―歴史のカギになる人物だよ。歴史は無数に枝分かれするけど、どこかで一度収束する。例えばアデルニア半島はいずれ、統一される。アデルニア人主導か、ガリア人主導かは分からない。ただ、アデルニア人主導で統一される場合ユリアちゃんを妻にした人間かその子孫がアデルニア半島を統一する。そう定められている―
つまり俺は確実に統一出来るのか?
―アデルニア人主導の場合はね。ガリア人主導の可能性もあるよ。例えば、あの時の戦争であなたがロゼル王国に負けたら、関係無かったね―
さっきから聞いてると、お前は未来を知っているみたいだけど……
未来予知が出来るのか?
―出来ないよ。私たちはあなたたちよりも高次の生き物だから、いろんなことを知っているし、そこから予想や推測も出来る。でも時間に縛られている点では変わらない。この後、どう分岐するかは私たちの与り知らないことだね―
万能じゃないのか。
俺はてっきり、お前たちなら何でも出来るのかと。
―私たちに出来ることは人でも再現できるよ。私たちが出来ないのは……死者の蘇生や不死。時間遡行や時間停止。永久機関。無から有の創造。この辺りかな? この辺りは禁忌……魔法でも使わない限り、不可能だね―
あっそう……
ところで今になってどうして急に出てきた?
―マーリンが魔法を完成させようとしている。彼女の憑依呪術を見たでしょ? あれは世界記憶からエツェルの情報を下ろして、疑似的な人格を作りだしたモノよ。マーリン自身は世界記憶を読み取れてないし、死者を復活させたわけじゃない。だけど限りなく魔法に近いモノだよ……―
どうしてこうなるまで放って置いた?
……言っておくが、俺はお前たちに協力する気は無い。
マーリンが俺に敵対するなら倒すが、マーリンがもう敵対しないというのであれば無理に殺す気は無い。
被害も多いだろうしな。
―別に良いよ。あなたたちはいつか、必ずぶつかるからね。……もし加護が必要になったら願うと良い。出来る限り融通を利かす―
急に視界がぼやけ始めた。
ゆっくりと意識が遠ざかっていく。
薄れゆく意識の中、妖精の声が響く……
―最後に一つ、忠告だよ。もし一人称が『俺』の妖精が出て来たら注意した方が良い。愉悦派だよ。あいつらは人を騙す。大丈夫。あなたは運命力が強い。あなたが拒む限り、彼らは加護を与えられない―




