表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界建国記  作者: 桜木桜
第四章 包囲網と蜘蛛
136/305

第百三十六話 第三次ペルシス・キリシア戦争

日付間違えた


 アルムスたちがアデルニア半島で包囲戦を戦っていた時のこと……


 アデルニア半島から真っ直ぐ東にある、キリシア半島では歴史的な大戦争が行われようとしていた。


 即ち、第三次ペルシス=キリシア戦争である。


 切っ掛けは、諸王の王を称するペルシス帝国皇帝、クセルクセス帝のキリシア侵略である。

 クセルクセス帝は四十万の大兵力と、七百隻を越える大艦隊を結成してキリシア半島に押し寄せた。


 目的はペルシス帝国内部にあるキリシア系諸都市の独立運動を抑え込むこと。

 そしてもう一つ、東テーチス海の制海権を握るためである。



 対するキリシア諸都市は、当時の有力都市である、アルト、テルバイ、クラリス、レイムの四都市を中心に、『対ペルシス大同盟』を結成。


 歩兵十三万と四百隻の三段階船を用意。


 

 

 両軍は大平原で対峙した。





 「どうどう? クセっちー、勝てそう?」

 「百万と三十万だぞ。勝てぬと思うか?」


 ペルシス軍本営。

 そこでは金髪の髪を持った中年男性と、金髪の髪と褐色の肌を持つ美女が絡みあっていた。

 お互い全裸である。

 

 子作りの真っ最中であった。


 女―砂漠の民(アラーム人)族長、アイーシャは男―諸王の王(ペルシス皇帝)、クセルクセスの胸板を指でなぞる。


 「でもでもー、クセっちのお父さんとお爺さんはこの兵力差で負けたじゃん?」 

 「それは我が国の兵が軟弱だったからだ」


 第一次ペルシス戦争と第二次ペルシス戦争。

 二度の大戦でペルシス帝国はキリシア連合に敗北していた。


 理由は二つ。


 一つは士気の差。

 キリシア連合の兵士たちは祖国を守ろうと、確固たる意思が存在した。

 一方、ペルシス帝国の兵士たちは皇帝に無理やり連れてこられた農民や傭兵。


 この違いが大きな士気の差を招いたのである。


 二つ目の理由は言語。

 ペルシス帝国の公用語はペルシス語だが、ペルシス語を話せる兵士は全体の三分の一である。

 下士官同士言葉が伝わらなかったため、指揮系統の混乱を招いたのである。


 「じゃあじゃあー、今回の兵士は強くなってるの?」

 「いや、変わって居ないぞ」


 クセルクセスは首を横に振った。

 アイーシャは首を傾げる。


 「じゃあどうして勝てると思うの?」

 

 それにクセルクセスはニヤリと笑って答えた。


 「外交、そして武器の差だよ」






 銅鑼の音が戦場に響き渡る。

 その音を掻き消すように、兵士たちの足音と鎧が擦れる音が響く。


 両軍合わせて五十三万の軍隊が集結しているのだ。

 両軍の兵士が動くたびに、大地が揺れる。



 最初に動いたのはペルシス軍が誇る戦車隊五万である。

 四頭立ての巨大な戦車で、御者、弓兵、槍兵の三人が乗っている。


 車輪には巨大な鎌が付いている。

 幾度も、ペルシス帝国の敵を踏み潰し、領土を拡張させた最強の切り札である。


 「はははは!!! 我がペルシス軍最強戦車隊の前に平伏すが良い!!」


 戦車隊を率いる将軍が高笑いしながら、先頭を走る。

 その後を五万の戦車が続く。


 唸りを上げて、キリシア軍の歩兵に突撃した。

 戦車隊の車輪がキリシア人を踏み潰し、鎌が肉を切り裂く。


 キリシア軍の陣形はあっという間に崩れて……行くように思われた。


 「側面から押し倒せ!!!」

 「あれ? あれあれ??」


 将軍の乗る戦車が傾き始める。

 一度傾いてしまえば、倒れるのはあっという間であった。


 「待て!! 私は皇帝の弟……」

 「死ねええ!!」


 将軍はあっさりと死んだ。

 

 将軍の戦死を皮切りに、次々と戦車隊が打ち倒されていく。



 二度の戦争で、キリシア側はペルシス帝国の切り札が戦車隊であることは分かっていた。

 当然、対抗策を練っておくのは当たり前のことである。




 「はははは!! 見ろ、アイーシャ!! あいつ、死んだぞ!!」

 

 葡萄酒を飲みながら、ゲラゲラと笑うクセルクセス。

 アイーシャは苦笑いを浮かべる。


 「弟……じゃないの? と言うか、虎の子の戦車隊じゃ……」


 「弟だからこそ喜んでいるのだ。これで私の息子の皇位が確定した。めでたいな!! 大体、あんな無能死んで当然だ。私は散々、戦車など横から倒せば終わりだと言っていたのに、奴が強弁に有用性(笑)を語るから……時代は騎兵だ。戦車は古い!!」


 「仲間の敗北を喜ぶって……そんなんだから、負けたんじゃない? 二回も」


 アイーシャは呆れた表情を浮かべた。



 戦車隊を倒し、士気が上がるキリシア軍。

 著しく士気が下がるペルシス軍。


 だがクセルクセスは気にしない。


 クセルクセスは真の虎の子の出動を命じる。


 「期待しているぞ。パルトディア王」

 「皇帝陛下にキリシア人の死体の山を献上しましょう」

 

 パルトディア王―ペルシス帝国辺境にある騎馬遊牧民族の王はペルシス皇帝に頭を下げた。

 そして馬に跨り、弓を上げる。


 「行くぞ!!」


 パルトディア騎兵がキリシア軍側面に回り込む。

 典型的な重装歩兵で構成されたキリシア軍の弱点は、右側面だからである。


 尤も、キリシア軍もそれは承知のこと。

 キリシア軍の騎兵三万がパルトディア騎兵を迎え撃つ。



 「蛮族バルバロイを殺せ!!」


 キリシア騎兵が雄叫びを上げ、パルトディア騎兵に突撃する。

 一方、パルトディア騎兵は冷ややかな態度でそれを迎え撃つ。


 「全軍、射撃開始。馬鹿共に馬の扱いを教えてやれ」


 パルトディア王の号令を合図に、キリシア騎兵に矢が降り注いだ。

 

 「な、何だと!! 馬に乗りながら……っぐうあああ」


 キリシア軍の騎兵隊長が胸に矢を受けて落馬する。

 次々とキリシア軍の騎兵が矢に射貫かれ、落下する。


 突撃の勢いは半減した。



 「俺たちパルトディア人を相手に馬で戦おうなど、千年早いわ!!」


 そう叫ぶと、弓から剣に持ち替えたパルトディア王はキリシア騎兵に突撃する。

 他のパルトディア騎兵も後を続く。


 次々と斬り伏せられていくキリシア騎兵。

 キリシア騎兵はあっという間に壊滅する。


 「ほーら、時代は騎兵だろ?」

 「でもー、あれペルシス軍じゃなくない?」

 「細かいことは気にするな。ペルシス騎兵軍団はこの戦争が終わってから作る。無駄飯喰らい(戦車隊)が居無くなって浮いた金でな!!」





 一方、中央ではペルシス軍とキリシア軍の歩兵が激突しようとしていた。

 キリシア軍は長い槍と丸盾で武装した、重装歩兵である。


 ファランクスを組みながらペルシス軍に突進する。


 「弩を構えろ! ……発射!!」


 ペルシス軍の弩部隊の放ったボルトが、重装歩兵の丸盾を貫通する。

 バタバタと重装歩兵が倒れていく。

 

 「あれ? 見たこと無い兵器だね。何あれ?」

 「弩という。極東から仕入れた兵器だ。この辺りではあまり有名ではないな。女子供でも、人を殺せる矢が撃てるのが利点で、装填に時間が掛かるのと、何より数を揃えるのに莫大な費用が掛かるのが欠点だ」


 クセルクセスはアイーシャに説明した。

 どうにかして、ペルシス軍の弱さを補おうと考えた末に辿り着いた兵器だ。


 ペルシス帝国の工業力が有って初めて実用化が可能となった兵器である。


 「でも止まらないね」

 「キリシア軍の練度は恐ろしいからな」


 キリシア軍の重装歩兵たちは倒れた仲間を踏み越えながら、勢いを衰え焦ること無く真っ直ぐペルシス軍に向かう。


 「長槍を構えろ!!」


 将軍の号令を受けて、ゆっくりとだがペルシス軍がキリシア軍を迎え撃つ準備を始める。 

 数が多く、指揮系統が不統一なペルシス軍の動きはお世辞にも早いとは言えない。


 ペルシス軍の迎撃準備が整うのと同時期に、キリシア軍の重装歩兵はペルシス軍と接触した。

 ファランクスの突撃を受けて、大きく陣形が歪む。


 三倍の兵力差をもろともせず、勇敢なキリシア軍の市民兵たちはペルシス軍の兵士を串刺しにする。


 過去の二度の戦いでは、このまま縦深突破されてペルシス軍は敗北していた。

 しかし今回は違った。


 ペルシス軍が徐々に押し返し始めたのだ。


 「あれれ? どういう事? クセっち。いつもの軟弱ペルシス軍ならあれで負けるじゃない」

 「武器の差だ。雑魚でもそれなりに戦える武器を用意したのだ」


 ペルシス軍の武器は鉄製の長槍である。

 戦場では、槍は長ければ長いほど、有利になる。


 ……というほど、話は簡単ではない。

 

 当たり前の話だが、槍は長ければ長く成るほど重くなる。

 つまり一定の長さまで延ばすと、逆に高い練度が必要になる。


 さらに側面からの攻撃に脆くなり、騎兵などの機動力に長ける部隊に側面から攻撃されれば耐えられない。


 そして長剣等で武装した、散兵戦術を採る敵にも無力だ。


 地球の歴史に於いても、古代ローマ軍のファランクスは散兵戦術を採るケルト人の蛮族に敗北し、その後散兵戦術に切り替えたローマ軍はギリシアで流行していたマケドニア式ファランクスを打ち破った。


 無敵の戦術など存在しない。

 ではクセルクセスはどうやって、ペルシス軍を使える(・・・)軍隊に変えたのか。


 まず第一に盾を廃止した。

 そして鎧も必要最低限に留めた。

 

 そうすることで、出来る限り長い槍を持てるようにしたのである。


 さらに側面には信頼出来るパルトディア騎兵を配して、側面の憂いを失くした。


 問題は防御力の低下による被害の増加と、それに伴う兵士の逃走だが……


 「もし逃げたら背後に配した我が軍の精鋭、不死隊と大量の弩部隊、大型弩砲(バリスタ)が軟弱者共を生ごみに変える手筈だ」

 「軍隊の精鋭を、兵士の逃走対策に回す何て名差配だねえ! 流石クセっち。発想が暴君!!」


 アイーシャがあからさまにクセルクセスを貶す。

 クセルクセスは気にしない。自覚しているからであろう。


 

 ペルシス軍の歩兵は押されながらも、キリシア軍の突撃に耐える。

 そして徐々に包囲を狭めていく。


 キリシア軍の騎兵を打ち破ったパルトディア騎兵が、キリシア軍の背後に回り込む。


 後もう少しで包囲が完成する。

 その時だった。


 ペルシス軍の歩兵部隊が大きく押され始めた。


 「あれは……」

 「キリシアの精鋭……神聖隊(クソホモ野郎)レイム重装歩兵(脳味噌筋肉)か」


 神聖隊もレイム重装歩兵も、キリシア半島では一、二を争う最強の部隊である。

 キリシア側の将軍はこの危機的状況に、最後の切り札を切ったのである。


 戦いの最後まで温存する。

 大きな賭けだったであろう。

 

 活躍する前に、キリシア側が押し潰されて負けてしまう可能性もあった。


 しかしキリシア側はこの賭けに勝った。

 突然現れた強力な敵にペルシス歩兵がたじろいでしまったのだ。


 今までペルシス歩兵は、自分たちの方が数が多いという安心感と背後の兵への緊張感のおかげで戦ってこれた。

 このバランスが揺らいでしまったのだ。


 一度崩れてしまえば、崩壊するのは早い。

 ペルシス歩兵は槍を放り投げて、逃げ出し始める。


 多くの矢が逃亡兵に降り注ぎ、不死隊の槍がその体を貫く。

 しかし一度決壊した水は元に戻らない。


 「……はあ」

 

 クセルクセスは頭を押さえた。

 今回はクセルクセスの敗北であった。


 「せめて一度はキリシアに勝ちたかったのだがな……」

 「仕方が無いよ。クセっち。クセっちは頑張った! あの弱兵があそこまで戦えたのはクセっちのおかげだよ。きっと並の皇帝だったらとっくに負けてた。凄いことだよ。だから……」


 アイーシャはドラゴン・ダマスカス鋼で出来た槍を片手で持った。

 大人の足程の太さの槍だ。


 それを振り回しながら微笑みかける。


 「後は私たちに任せてね」

 「本当はペルシスの独力で勝ちたかったのだがな。止むを得まい。頼んだ」


 クセルクセスは最強の切り札(化け物)を切った。






 

 「所詮、蛮族(バルバロイ)と言ったところか。大したこと無いな」


 キリシア有力都市の一つ、レイム。

 その王は逃げるペルシス歩兵を槍で突き刺し、殺しながら呟く。


 不満げな表情を浮かべている。

 暴れ足りないのであろう。


 レイムで生まれた者は皆、幼い頃から厳しい軍事訓練を受ける。

 それはレイムの王族ですら例外ではない。……いや、王族だからこそ、より一層厳しい訓練を課される。


 幼少の頃から叩きこまれた殺しの技術と、闘争心。

 それがレイムをキリシア最強の陸軍国にしたのである。


 「いや、全くですよ。戦場から逃げ出すだなんて……僕らからすれば考えられませんね」


 神聖隊隊長もレイム王に同調した。

 神聖隊は同性愛者のカップルで構成された、特殊な部隊である。


 神聖隊の隊員は恋人を守るために、そして己の強さを見せつけるために必死で闘う。

 決して逃げることは無い。


 キリシア半島に於いてレイム重装歩兵に対抗出来るのは、この神聖隊だけである。



 「このままの勢いで帝都ジャムシードまで攻め上ってしまおうか」

 「それは良いですね。ペルシスの美少年を大量に……ゴクリ」


 二人は会話に色を咲かせる。

 勝利が目前に迫り、キリシア軍全体が緩んだ、その時であった。


 

 「まだ勝ってもいないのに余裕だねー」


 そんな間の伸びた声が砂埃の向こうから聞こえた。

 レイム王と神聖隊隊長が目を凝らすと、砂埃の向こう側からラクダに跨った女が現れた。


 小麦色の肌に、金色の髪を持つ。

 美しい美女だ。


 真っ赤な生地の服を……否、血で真っ赤に染まった服を着ていた。

 逃げて来たペルシス歩兵を片っ端から斬り伏せながら、進んできたためである。



 「そこの御二方は名の通った将軍とお見受けします。私はアイーシャ。砂漠の民(アラーム人)族長です。そして後ろの五百人は我ら砂漠の民(アラーム人)の誇る世界最強の戦士たち」


 アイーシャは親指で自分の背後を指し示す。

 砂埃の向こう側から、やはり真っ赤に染め上がったラクダ騎兵が姿を現した。



 「これはこれは女族長殿。ご丁寧に。……それにしても女性が戦場に出るとは。ペルシス軍はよほど人材不足に見える」

 「あれあれ? 名乗らないの? 私名乗ったのに。失礼な人だねー」


 アイーシャはレイム王にお道化て見せた。


 「女に名乗る名などありませんねえ。アイーシャさん、でしたっけ? 早く逃げた方が良いですよ。もう勝敗は決した。これ以上戦場に留まればどんな目に合うか……まあ、僕は女に興味ありませんが」


 神聖隊隊長もアイーシャには名乗らず、馬鹿にした態度を取る。


 アイーシャはニヤリと笑った。

 

 「へえ……心配してくれるんだ」


 そして消えた。

 

 「ど、どこに消えた!」

 レイム王は慌てて周囲を見回した。


 「ここだよ」


 背後から声が聞こえた。

 レイム王が慌てて振り向くと、そこにはアイーシャが居た。


 左手に何かを持っている。 

 それが神聖隊隊長の頭であることに気付いた時には、すでにレイム王の頭と胴体は生き別れになっていた。


 アイーシャは叫ぶ。


 「さあ!! 狩りの時間だ!! 皆殺しにしろ!!!」








 アイーシャ率いる砂漠の民(アラーム人)の活躍により、戦況は大きくペルシス側に傾き始めた。

 まず神聖隊とレイム重装歩兵が一瞬で生暖かい生肉に変わり、動揺するキリシア軍に斬りこんだ。


 一瞬で仲間が生肉に加工される様を見たキリシアの重装歩兵は大きく混乱した。

 陣形が乱れ、隙間が生じる。

 その隙間に砂漠の民(アラーム人)が斬りこみ、傷口が広がっていく。


 

 

 砂漠の民(アラーム人)

 オアシスを渡り歩く遊牧民族であり、商業民族であり、狩猟民族であり、戦闘民族である。


 その人口はたったの五万。 

 しかし人口の百分の一に相当する五百人の戦士階級は全員が『狩人の加護』と呼ばれる戦闘系加護を持つ。


 故に世界最強。

 

 如何なる軍隊でも、彼らを戦闘で負かすのは不可能だろう。



 ……尤も、数の力には敵わない。

 故にペルシス帝国に屈しているし、十万のキリシア軍を壊滅させることは不可能。


 出来るのは敵を混乱させて、その動きを止めるだけ。

 しかし、それで十分。


 クセルクセスが不死隊を率いて、空いた穴を塞いだからである。


 再びキリシア軍はペルシス軍の海に囲まれる。

 頼みの神聖隊もレイム重装歩兵も壊滅。


 側面にはペルシス歩兵。

 正面にはアイーシャと不死隊。

 背後にはパルトディア騎兵が迫り来る。


 状況の打開は不可能。


 斯くしてキリシア軍十万は壊滅した。


 






 二日後のこと。


 都市国家クラリスの沖合。

 そこにはキリシア中から集まった戦闘艦四百隻が、ペルシス帝国海軍七百隻を待ち構えていた。


 ペルシス軍はキリシア半島に上陸するには、都市国家クラリスを陥落させる必要がある。

 クラリスは海に面した都市。

 攻略には制海権を得る必要がある。


 またペルシス軍は四十万を超える大軍。

 その兵站を陸上輸送のみで賄うのは、不可能である。


 必ず海上輸送が必要になる。

 

 陸上での敗戦は覆すことは出来ない。

 しかし海上で取り返すことは出来る。


 そしてキリシア人は海洋民族だ。

 隣町に買い物に行くのに、道路では無く船を使う民族である。


 一方、ペルシス人は生粋の陸上民族。

 兵士のほとんどは海を見るのが初めてというありさまで、海兵のほとんどは泳げない。

 

 海は陸上と違い、練度と船の性能の差が大きく出る。

 勝算は大きい。



 「見えてきました!! 将軍!! 金色の鷹の旗です!!」


 赤い生地に金色の鷹。

 この派手な旗はペルシス帝国の国旗である。


 東方(オリエント)の諸部族はこの旗を見るだけで震えあがる。

 しかし勇猛なキリシア人は決して怯まない。


 「ふん、海で鷹が勝てると思ってるのか? カモメでも書いておけ」


 将軍の言葉にどっと笑いが起こった。

 海の戦いならば絶対に負けない。


 船はキリシア人にとって足であり、海は道路。

 ペルシス人に負けるわけにはいかないのだ。


 「ん? 将軍。違う旗が見えます。あれは三日月……ポフェニアです!! ポフェニアの国旗です!!」

 「何!!」


 将軍は目を凝らす。

 時間の経過と共に、将軍の目にもはっきりと見えるようになった。

 

 間違いない。

 三日月の旗、ポフェニアの国旗である。


 これが意味することはたった一つ。

 ポフェニアがペルシス帝国と同盟を組んでいるということだ。


 ポフェニアはアデルニア半島から真っ直ぐ南に本国を持つ共和国である。

 ポフェニア人もキリシア人と同様に、海上貿易に従事する民族で、船を足とし、海を道路とする民族だ。


 操船能力はキリシア人と同等。


 「……何隻だ?」

 「……数え切れません。少なくとも三百はあるかと……」


 将軍の頬を冷たい汗が伝った。





 クラリス沖海戦。

 キリシア海軍四百隻VSペルシス海軍七百隻&ポフェニア海軍三百隻。

 結果、キリシア海軍全滅。

 

 クラリス沖海戦より、


 二日後、クラリス陥落。 

 十日後、アルト陥落。

 二十日後、テルバイ陥落。

 四十日後、レイム陥落。


 斯くしてキリシア半島全土はペルシス帝国によって征服。

 東テーチス海の制海権はペルシス帝国とポフェニア共和国が握ることになる。


 第三次ペルシス=キリシア戦争はペルシス帝国の勝利に終わった。


 この戦争の結果がアデルニア半島の政治・経済に大きな影響を及ぼすのは言うまでも無い。

 

 

クセルクセス三世


ペルシス帝国第四代皇帝。ペルシス帝国の最盛期を現出させた。


初陣は十二歳の頃、ミスル遠征の時。

歩兵と騎兵の複合軍隊を率いて、ミスル王国国王を捕虜とするなど、華々しい戦果を飾った。


十五の時にペルシス帝国はミスル王国全土を支配して、東方(オリエント)の統一を成し遂げた。時を同じくしてペルシス帝国国王が死去。

五年間の皇位継承権争いに勝利して、皇帝に即位した。


今までの弾圧統治から、有能な者ならば身分や人種を問わずに採用して、地方の税率を大幅に下げるなど寛容的な統治をする一方、反乱した民族を皆殺したり、各地に封建されていた地方領主を改易するなど、飴と鞭の政策を行った。


各地の地方領主を中央に集め、地方には知事(サトラップ)を派遣。そして各地に王の目、王の耳を派遣して地方の監視を行った。

また皇帝直属の近衛兵である不死隊を強化し、中央集権化に努めた。

国土を縦横する王の道を作り、国内を軍隊が迅速に動けるようにした。


また商業民族である砂漠の民(アラーム人)の経済活動を保護し、都、道路、神殿の建設など度重なる公共事業を行い、経済を大いに栄えさせた。


外征面では度重なる遠征を行った。

バラートへ二度の遠征を行い、香辛料の交易路を押さえた。

各地の遊牧民族には朝貢を強制し、パルトディア族等の騎馬遊牧民を支配した。

ペルシス帝国始まって以来の悲願であったキリシアへの遠征を成功させて、東テーチス海の制海権を得た。


これらの遠征により、クセルクセス三世は東方(オリエント)西方(オクシデント)に跨り、西はキリシア、東はバラートに広がる空前の大帝国を建設。

まさに『諸王の王』を文字通り体現した。


東西の統一と道路建設、そして同時期に極東の天華地方を緋帝国が統一したことにより、大陸を横断する大交易路が形成。

そしてキリシアの建築技術や自然哲学がペルシス帝国に流入。


ペルシス帝国は文化、経済、領土、軍事の面で最盛期を迎えた。


しかし……(続きは今度)

______


次回は登場人物紹介と、第五章の一話を投稿します

もしかしたら二話も投稿するかもしれません

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私がなろうで連載している他作品です
もしお時間があったらどうぞ
『三大陸英雄記~現代知識による帝国再建記~』
『蘇った真祖の放浪譚』
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ