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異世界建国記  作者: 桜木桜
第四章 包囲網と蜘蛛
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第百三十五話 これからのこと

ようやくタイトル回収かな?



 「世界記憶(アカシックレコード)……」

 「魔法……」


 「おい、二人とも。いつまで呆けているんだよ」


 禁忌の森(ロマリアの森)から戻った後も、二人はグリフォン様から言われた言葉が気になっているのか、ぶつぶつと呟いていた。


 「アルムスは気にならないの?」

 「全く」


 俺はユリアの質問に首を大きく横に振って答えた。

 実際、どうでも良かった。

 そもそも俺は呪術が使えない。


 呪術を弾いたり、感づいたりする程度は出来るが……

 女性の呪術師のように何等かの現象を引き起こすことは出来ない。


 男だからだ。

 男は呪力を上手く練ることは出来ない。


 そもそも存在するかどうか分からない物に夢中になれない。

 目の前の物……金や領土や女の方が余程気に成った。


 「もしかしたら……私の魔術式世界記憶(アカシックレコード)の一部かもしれない」

 

 テトラが呟く。

 まあ、世界のすべてが書かれていると言うのであれば数式の一つや二つ、書いてあるだろうな。


 「二人は魔法使いに成りたいのか?」

 「ううん」

 「別に」


 二人は揃って首を横に振った。

 別に魔法そのものには興味無いようだ。


 「魔法があれば、不治の病も治るかもしれないし、死んだ人も生き返るかもしれないぞ」


 誰のこと、とは言わないが。


 「えーとね、私に呪術を教えてくれた人が言ったんだけどね……死んだ人の命は大地に溶けて、世界と一つに成るんだって、そして魂は次の生命に宿る。これを円環の理って言うらしいけど……世界は円環の理によって回り続け、生き続けることが出来る。だから不死は人が手を出してはならない禁忌の領域。絶対にダメ……」


 地球でも聞いたことが有るような死生観だ。

 どこの人も同じようなことを考えるのだろう。


 グリフォン様も、魔法は『世界の法則を書き換える禁忌』って言ってたな。

 たくさんの人が魔法を使えば、世界の均衡が崩れてしまうのかもしれない。


 それは良くないことだろう。

 多分、分からないけど……


 「過去に魔法を使った人は死んじゃったって言ってた。私は死にたくない。まだアルムスと一緒に居たい」

 

 テトラは頬を赤らめて、俺にしなだれかかった。

 俺はテトラの柔らかい髪の毛を撫で、指に絡ませる。


 「でも気にはなるんだろ?」

 「……世界の真理、とやらには少し」


 テトラは小さく頷いた。

 

 「世界に真理なんて有るのかね?」


 そんな物は結局、無いんじゃないか?

 と思う。


 いくら探しても人間が到達できる所には無い。

 神が世界を作ったのであれば、人の手に届くような場所に置くはずがない。


 「まあ、今考えても無駄なのは本当だよ」


 ユリアは俺に抱き付き、俺の頬に唇を押し付けた。


 「今はもっと、別のところに興味がある」

 「奇遇だな。俺もだよ」


 俺はユリアの髪をかき上げて、額に唇を押し付けた。

 次に両頬に唇を付け、耳を甘噛みする。


 「ん……」

 「戦争も終わったし、二人目を作ろうか?」


 ユリアの唇を一度、舐める。

 

 「アルムス……」

 テトラが後ろから抱き付いてきた。

 寂しそうな声を上げながら、俺の背中に膨らみを押し付けてくる。


 「後で私も……お願いね、今は席を外すから……」 

 「ああ。ありがとう。テトラ。愛してるよ」


 俺はそう言いながら振り返ると……

 頬を両手で掴まれた。

 強引に唇と唇を合わせられる。


 テトラの柔らかい舌が、俺の口内に入りこんでくる。

 生きているかのように舌が動く。


 突然だったので驚いたが……

 俺もテトラに合わせて、舌を動かした。


 二人の舌が複雑に絡み合う。

 溢れて来た唾液が二人の唇の隙間から零れ落ちる。


 テトラの唾液を啜り、飲み込む。

 何となく、蜂蜜に似た味がしたような気がした。


 テトラの方も俺の舌を吸い上げながら、唾液を吸い上げる。


 二人で自分たちの唾液の混合物を吸い合う。


 どちらがどちらの物を吸い込み、飲んでいるのか分からなかった。


 どれくらい舌を絡み合わせていたか……

 テトラは息苦しくなったのか、ようやく唇を離した。


 二人の間に唾液の橋が掛かり、途中で途切れる。


 テトラは途切れた橋を指で掬い、口の中に入れた。


 「ん……アルムスの味がする……」


 テトラは少し、惚けた表情を浮かべて視線を虚空に彷徨わせていたが……

 すぐに立ち上がった。


 「じゃあ、退室する。二人とも頑張って」


 テトラは何故か、勝ち誇ったような表情を浮かべて部屋を出ていった。


 「ううう……」

 

 振り返ると、ユリアが頬を膨らませていた。

 目が潤んでいる。


 「何でするの?」

 「いや、テトラが強引に……」

 

 奇襲だったから仕方が無いじゃないか。

 俺の責任ではない。

 中盤からは俺が主導してたけど。


 「機嫌を直してくれ」

 「別に……怒ってないもん」


 ユリアはそう言ってそっぽを向く。

 俺はユリアの両頬を手で掴み、強引にこちらに向かせた。


 「何でもするから許してくれ」

 「じゃあ、キスして」


 ユリアは目を瞑った。

 二人の唇が合わさる。


 「……これって、私とテトラの間接キスだよね?」

 「細かいことは気にするな」


 




 国に帰還してから二週間が過ぎた。

 慌ただしい二週間だった。


 軍隊の解散。

 捕虜を収容する施設の建設。

 各国と結んだ条約の確認と履行。


 そしてロゼル王国との賠償金受け渡し日時の調整。


 全てが終わり、一息ついた頃……

 それは起きた。





 「お父さん! お父さん!!」

 ユリアが悲痛な声で叫ぶ。

 お義父さんは僅かに瞼を開けた。


 「うるさいぞ。ユリア……」

 「お父さん!!」

 

 ユリアはお義父さんに抱き付いた。

 お義父さんはユリアの頭を優しく撫でる。


 お義父さんが倒れたという知らせを聞いたのは、一昨日の夜のこと。

 お義父さんは今日の夜まで、ずっと意識が無かった。


 「お義父さん、薬です。飲んでください」

 「今更薬なんぞ、意味ないぞ」


 お義父さんは俺が差し出した薬湯を手で制した。


 「痛み止めですよ」

 「……そうか」


 お義父さんは制していた手を下げた。

 痛み止め……つまり、現状を改善する薬は存在しないということだ。

 出来ることは……死の苦痛を和らげることだけ。


 「出来ればユリアに飲ませて欲しい」


 それもそうだな。

 俺は薬湯の入った器をユリアに手渡した。


 ユリアは薬湯を少量掬い、お義父さんの口元に運ぶ。


 お義父さんが飲むことが出来た薬湯は三口だけだった。


 お義父さんは疲れ果てたように目を閉じた。

 二週間前は元気だったのに……今は枯れ木のようになっている。


 「眠いな……」

 「……睡眠薬を混ぜているから」


 ユリアが悲しそうに微笑んだ。

 

 ユリアはお義父さんの病状を見て、もう助からないと判断した。

 だから楽に死ねるように……


 「兄さん、何かありますか?」


 ライモンドは紙とペンを用意して尋ねた。


 「……墓は死んだ妻と同じ場所に頼む。葬式は……簡素にしろ、と言うべきかもしれないが……賑やかに頼む」


 お義父さんは俺の方に顔を向けた。

 その目は虚ろで、光を写していなかった。


 「ロサイス氏族家の家父長権は全てアルムスに相続される。家臣一同もアルムスに忠誠を……これは今更言う必要は無いか……」


 声が少しづつ、小さくなっていく。


 「アルムスの次の王位はユリアの子を、頼む……」


 お義父さんは俺の目をしっかりと見つめる。

 おそらく、見えてはいない。

 しかしその視線はぶれることが無かった。


 「……後は好きにしろ。お前のしたいように。俺のことは……気にするな」


 お義父さんは目を閉じた。

 ユリアはお義父さんの手を取り、脈を採る。


 「……眠っただけみたい」





 その後、お義父さんが目を覚ますことは無かった。




 「ユリア、酒でも飲むか?」

 

 お義父さんの遺言通り、壮大な葬式が終わった後……


 一人で夜空を見ていたユリアの元に、葡萄酒が入った壺を持ってやって来た。

 ユリアは小さく頷く。

 


 俺はペルシス製のガラスコップに葡萄酒を注いだ。

 

 「号泣するお前をどうやって慰めようかと悩んでいたんだけど。案外、大丈夫そうだったな」

 「……死んじゃうって分かってたしね。何だかんだで生きたし……想定してた寿命よりも十年も生きたんだよ。お父さんは。孫の顔も見せられたし……」


 ユリアは少しだけ、笑った。 

 元気は無さそうだが……落ち込んでいるというわけでも無さそうだった。


 ユリアは葡萄酒を喉に流し込む。

 俺は空かさず、ユリアのガラスコップに酒を注いだ。


 「飲め、飲め」

 「……泥酔した私をグチャグチャにする気でしょう?」


 すでに酔っ払い始めたのか、ユリアは俺の腕に絡みついてきた。

 豊かな胸の感触が伝わってくる。


 流石に葬式の後からやるほど、俺も飢えていない。

 まあ、お義父さんは喜びそうだけど。


 「ユリア……大丈……何やってるの?」


 不機嫌そうな声が後ろから聞こえた。

 壺を持ったテトラが佇んでいた。

 テトラの視線は俺の腕……ユリアの胸が押し付けられている部分に注がれていた。

 

 俺の腕がユリアの胸の谷間に挟まれる形になっている。


 「あなたは出来ないでしょ?」


 ユリアは勝ち誇った笑みを浮かべる。

 

 「別に出来るし」


 テトラもユリアに張合い、胸を押し付けて来た。

 テトラもそこそこ良い胸を持っている。

 しかしユリアに及ばない。


 ちゃんと感触は感じることが出来るが……挟むことは難しい。


 今回はユリアに軍配が上がったようだ。


 「無駄な脂肪を蓄えて……」

 「僻み?」


 テトラの表情が歪む。


 「お前ら、俺を間に挟んで喧嘩するな」


 ため息をついた。

 テトラがユリアを元気付けようとしていて、ユリアがそれに乗っかっているという構図は分かるが……

 手段と場所を選んでほしい。


 「少し、真面目な話がある」


 「誰とするの?」

 

 テトラが舌なめずりする。


 「違う!!」


 「さ、三人で!!」


 「それも違う!!」


 お前たちは俺を何だと思ってるんだ。

 確かに、後継者問題は大事な話だが……

 

 今は違う!!


 「ユリア……」

 「わ、分かった!」


 服を脱ぎ始めるユリア。

 ダメだ、こいつ。


 「違う、そういう話じゃなくてだな……」


 俺は半裸になったユリアに服を着せながら……


 「俺は建国をしようと思う」

 「建国?」

 

 ユリアが首を傾げた。


 「アルムスはすでに王様でしょ?」


 ユリアは言っている意味がよく分からない、とでも言うように不思議そうな表情を浮かべている。

 

 「……アルムスが初代国王になる国を作るってこと?」

 「そういうことだ」


 俺はテトラの言葉を肯定した。


 「ロサイス王の国を解体して、新たに俺が始祖となる国を一から作り上げる。ロサイス氏族は王族では無くなり、新たに俺の縁者……そうだな、肖って『ユリウス氏族』とでもしようか。俺の正妻の名前は『ユリア』だし」


 国名もロサイス王の国では無く、ユリウス王の国に……いや、もっと良い名前があるな。

 俺のもう一人の父親であるグリフォン様から……禁忌の森(ロマリアの森)から採って『ロマリア王国』としようか。


 もはや国名に格助詞を入れる必要もあるまい。


 「えっと……じゃあ次の王位は……」

 

 ユリアが少し不安そうな声を上げた。


 「アルムス」


 テトラが大きな声を上げた。

 テトラは首を大きく横に振る。


 「アンクスはダメだよ。アンクスは、私はキリシア人の血が入ってる。ロサイス王の国はアデルニア人が殆どだし、豪族は純血のアデルニア人だけ。……それに無用の混乱が起こる」


 俺はテトラの頭を撫でた。

 少し驚いた表情を浮かべた。


 「すまないな、テトラ。いろいろ、迷惑を掛ける」


 俺はユリアを振り返り、強く抱きしめた。

 

 「心配させてすまない。俺は何もロサイス氏族を滅ぼそうだなんて思ってないよ。そもそもアス氏族とロサイス氏族の家父長は俺だしね。先王の遺言もある。次の国王は君の子だ。それは変わらない」


 「……ご、ごめんなさい。わ、私は……」


 ユリアは消え入りそうな声を漏らす。

 自己嫌悪に陥ってしまっているみたいだ。


 「ユリア……別に気にすることは無い。私は興味無いから。そもそも私は一度、豪族から転落した身だし。それにアンクスが王に成っても不幸になるだけだよ」


 テトラはユリアに向かって微笑んだ。

 ユリアの目から涙が溢れる。


 「テトラ……」

 「……ユリア」


 二人は強く抱きしめ合った。

 

 ……偶に思うんだ。

 こいつら、レズなんじゃないかと。


 「ところで氏族名は『ユリウス』にするんだよね? 家族名はどうするの? グリフォン様から採って『ロマリア』にする?」

 「いや、そっちは国名にするつもりだよ」


 まあ家族名と国名を一致させるのは別に良いんだけど……

 正直、豪族や平民を刺激するんじゃないかと心配している。


 『アルムス王はロサイス王の国を乗っ取った!!』みたいな?

 まあ、実際そうだけど対面とか建前って大切だからね。


 「じゃあ……」


 テトラは顔を近づける。

 テトラの綺麗な空色の瞳が近づいてくる。


 鼻と鼻が触れ合いそうなほど近づいて……


 「『カエサル』は?」


 えっと……

 何でテトラからその名前が?


 「どうしたの?」

 「いや、何でもないけど……どうして『カエサル』かなって……」


 テトラは真っ直ぐ俺の指を向けた。


 「ん?」

 「灰色。アルムスと言えば、灰色の瞳(オクリス・カルッスィ)


 そう言えばアデルニア語って、ラテン語に似通ってたな。

 ならおかしくないか。

 

 灰色の瞳、というのはそこそこ珍しい色だ。

 黒っぽい灰色なら多いが、俺のような『鼠色』……灰色ど真ん中は珍しい。


 というか、会ったことが無い。


 「良いんじゃない? 『カエサル』で。素敵だと思う」


 ユリアも賛同を示してくれた。

 『ユリウス』で『カエサル』……

 うーん、ここまで肖ると逆に荷が重いような……


 でもあの人は王に成れなかったけど、俺は成ってるから俺の方が上…… 

 と考えることも……


 ああ、俺、これから建国するんだっけ。

 豪族の誰かに刺されたりしないだろうか? 


 まあ、良いか。

 テトラが決めてくれたんだし。


 今日から俺は、


 アルムス・ユリウス・アス・ロサイス・カエサル。


 ……長いな。

元王、想定以上に生きました

まあ、孫の顔も見れて本望でしょう


もう少しフラグを張っておけば良かったと後悔

まあ、人間死ぬときはぽっくり死ぬということで一つ


味方キャラで死ぬのはこいつが初かな?

個人的に鬱展開という気分はしません。だいぶ前から死ぬ死ぬ言ってたし。病死だし。

人間、いつか死ぬしね。

この人は好きなこと全部済ませて、心残り一つ無く死んだので、かなり良い死に方だったと思います。


ユリア「お父さん、死ぬ死ぬ言って中々死ななかったよね。初登場から、もう長くない、死にそう、死ぬ―って言ってたのに」

元ロサイス王「死ぬ死ぬ詐欺って奴だ。人間、死ぬと思ってるうちは死なない」


_____

四章はこれで終わりです

次回、閑話を一話入れてから五章。閑話ではかなり前に投げた伏線を回収します。


五章からは本格的に領土拡張に入ると思います

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