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異世界建国記  作者: 桜木桜
第四章 包囲網と蜘蛛
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第百三十三話 鎖

大したことはありませんが、暴力的&グロテクスなシーンがあります

と、保険で書いておきます

 

 剣闘試合というのを知っているだろうか?

 

 剣闘士同士の殺し合いを見る、娯楽の一つだ。

 剣闘士と言うと、奴隷をイメージする人も多いと思うが……


 それを専門とする職業の人間もいるらしい。

 儲かるからだろう。


 そして……下世話だが、女にモテるらしい。

 

 公開処刑と言い、剣闘試合と言い、何で昔の人間はそんな血生臭いモノを好むのか理解に苦しむが……

 冷静に考えてみると、日本でもグロい漫画や小説はもてはやされる傾向がある。


 エロとグロは大昔から、みんな大好きということだろう。


 人間の性質そのものは、倫理観が発展した現代日本も大昔の人も異世界人も、大して変わらない。


 中々興味深い。

 冷静に考えてみると、地球の人類史上ホモ・サピエンスが誕生したのは二十五万年前。

 農耕を始めたのは約一万年前だ。

 つまり人類は誕生から現代まで、ほとんどの期間ウホウホやっていたわけである。


 そして自然法思想……基本的人権の概念が産まれたのは、ここ数百年のこと。


 たかが数百年で人間が変わるわけない。

 人間は結局、猿の時代からあまり進化出来ていない。



 話しが大きく逸れた。

 人類の歴史などどうでも良い。



 何故、俺が剣闘士の話を始めたのか。

 その理由は簡単だ。


 経った今、剣闘試合が行われようとしているからである。







 「盛り上がってるなあ」

 

 俺は用意された特等席から、闘技場を見下ろす。

 闘技場は観客で埋め尽くされている。


 席を埋めている人間の三分の二はドモルガル王の国の人間で、三分の一はロサイス王の国の兵士だ。


 ロサイス王の国の民を観戦する権利がある。

 というカルロの配慮である。


 特等席に居るのは俺以外に、ライモンドとバルトロ。

 カルロを中心とするドモルガル王の国の重要人物。

 そして見届けに来た各国の使者。


 カルロが立ち上がり、大きな声で叫んだ。


 「皆、今日はよく集まってくれた!!」



 歓声が上がる。

 カルロはロゼル王国を撃退して、ドモルガル王の国に平穏を齎した英雄だ。


 その支持の厚さは、国民の目を見れば分かる。


 会場が異様な熱気に包まれる中、カルロは大きな声で観客に告げる。


 「これより!! 剣闘試合を開始する! 剣闘士は……」


 民衆の視線が東側の門に集まる。

 重厚な門が開き、兵士二名に一人の男が連行される。


 男は両手をロープで縛られていた。

 中央まで進むと、兵士はロープを解いてから男を蹴り飛ばす。


 「アルド!!!」


 カルロがその名前を告げると、観客たちは一斉に歓声を上げた。

 剣闘試合と言う名の、公開処刑がこれから始まる。


 自分たちを不幸にした男の無残な死を見ることが出来る。

 民衆は大興奮だ。



 異様な熱気と狂気が渦を巻く。

 心臓が高鳴り、自然と気分が高揚する。


 これから起こる惨劇を忌避する感情と、どこか期待する感情が混ざり合う。


 成るほどね、熱狂するわけだ。

  

 これは体験してみなければ分からない。

 この高揚は感じてみなければ、分からない。


 剣闘試合を民衆が望む気持ちが今、初めて理解出来た。


 字が読めない民衆は、本を読むことさえ叶わない。

 娯楽に飢えている民衆にとっては、この剣闘試合はさぞかし刺激的だろう。



 「対戦者は……」


 民衆の視線が西側の門に集まる。

 出てきたのは金髪の女性。


 「アリス!!」


 観客から歓声が上がる。

 中には口笛を吹いて、アリスに向かって「抱かせてくれ」などと叫ぶ者まで居る。

 大人気だな。


 アデルニア人は遺伝の関係か、金髪が珍しい。

 金色の豊かな髪を持つアリスは、それだけでモテる。



 ちなみにアリスもアルドも素手だ。 

 一応剣闘試合という体裁を取るに辺り、片方が素手でもう片方が武器を持っているというのは卑怯だからだ。


 まさかアルドに武器を持たせる分けにもいかないし。


 まあ、アリスは素手でも人を殺せるので問題は無い。


 「さて、ルールは簡単だ。相手を殺せば良い。アルドは解放するし、アリスは奴隷の身分から解放される。始め!!」


 カルロが開始を宣言すると、再び観客が大歓声を上げる。



 「さあ!! やっちまえ!!!」

 「恨みを晴らせ!!!」

 「少しは持ってくれよ!! アルド!!!」

 「アリスちゃん、結婚してくれ!!!」


 さてさて……

 どうなることやら。






 

 アリスは目の前の男を見た。

 男は真っ青な顔で呆然としている。

 未だ、自分の置かれている状況が整理出来ていないのだろう。


 元自分の主人。

 そして今でも自分を縛りつける鎖。


 アリスの心臓が激しく拍動する。

 アリスは右手で胸を抑える。


 「殺せえええ!!」  

 「やっちまええええ!!!」

 「頑張れよー、アルド!!」

 「アリスちゃん、はあはあ」


 自分たちを見下ろす観客が、惨劇を望んでいることが分かる。


 アリスの故郷であるゲルマニスにはこのような残虐な催しは無かった。

 人と人を殺し合わせて、何が楽しいのか……


 アリスは理解に苦しむ。

 が、今はそんなことはどうでも良かった。


 「……アルド様、いやアルド。覚悟は良いですか」


 アリスは身構えた。

 アリスから殺気が溢れ出る。


 アリスの殺気を正面から受けたアルドは、尻餅をついた。

 強張った顔で、後ずさり、逃げ出そうとする。


 アリスはそれを冷ややかに見下ろしながら、追い詰める。



 「ひ、く、来るな!!!」


 アリスは一度目を瞑り、呼吸を落ち着かせる。

 

 ―自分なら出来る―


 アリスは指先から糸を出す。

 硬質化した糸は鉄のように固くなる。


 人の皮膚を引き裂くのは容易い。


 

 「覚悟!!!」


 アリスはアルドに襲い掛かった。

 右手を突き出し、糸で出来た針をアルドの目に突き刺そうとする。


 しかし針はアルドに突き刺さらなかった。

 アルドの目に触れる直前に、アリスの手が止まったからだ。


 アリスの手が震える。

 顔が真っ青になり、全身から汗が噴き出る。



 「はあ、はあ、はあ……」


 アリスは呼吸を荒くする。

 左手で右手を掴み、何とかアルドに突き刺そうとする。


 しかしアリスの右手は石のように固くなり、動かない。



 「何してる!!!」

 「早く殺せよ!! グズ!!」

 「おお!! アルド、チャンスだぞ!!」

 「アリスたーん!!」



 アルドは困惑の表情を浮かべる。

 どうして針が止まっているのか……


 しかし、震えるアリスを見てようやく状況を掴む。


 アルドはアリスの右手を手で払った。。


 「あ……」


 アリスは小さく声を漏らす。

 アリスは顔を真っ青にして、後ずさった。


 アルドはゆっくりと立ち上がり、アリスに近づく。

 

 「ご、ごめんなさい……」


 アリスは目に涙を浮かべて、アルドに許しを請う。



 「おい、何をやってる!!」

 「逃げてるんじゃないぞ!!!」

 「頑張れアルド!! 俺は期待してるぞ!!」

 「アリスちゃんをイジメるな!!!」


 観客たちは不満の声を上げ、石を投げつけた。

 小石がアルドとアリスに降り注ぐ。


 アルドは降り注ぐ小石を無視して、アリスの腹に蹴りを入れた。


 「うぐっ……」


 アリスが苦悶の声を上げて、蹲る。


 アルドはアリスの髪を掴み、顔を思いっきり殴った。


 「奴隷の分際で俺に何をしようとした? アリス」

 「す、すみません……」


 アルドは謝罪するアリスの顔を蹴り飛ばす。

 小さな悲鳴を上げ、アリスは地面を転がる。


 アルドはアリスの上に圧し掛かり、その綺麗な顔を殴りつける。


 「ふざけるな!! ふざけるな!! ふざけるな!!! 俺が、俺こそが、この国の王だ! 王になる男だ!! 何で、どうして!!!」


 理不尽な怒りをアルドはアリスにぶつける。

 アリスは綺麗な顔を泥と涙と鼻水で汚しながら、アルドに許しを請う。


 一方的な試合だ。


 「良いか、アリス。俺は寛容だ。お前にチャンスをやる。死ね、自殺しろ!!」

 「……」


 アリスは知っている。

 例え自分が死んでも、アルドに助かる見込みは無いと。


 アルドは解放される。

 身ぐるみはがされて、身一つで。


 アルムスもカルロも手は下さない。

 民衆が勝手にアルドを嬲り殺しにするのは目に見えているからだ。



 (でもどうせ死ぬなら……)


 自分がアルドに勝っても負けてアルドは死ぬ。

 迷惑を掛けることには成らない。


 じゃあ良いんじゃないか?

 怖い思いをしてまで、頑張る必要なんてあるのか……


 アリスは考えを巡らせる。




 「本当に、それで良いのか?」



 闘技場に澄んだ声が響いた。

 不思議とよく通る声だった。


 観客も、アルドも、アリスもその声を発した者に視線を向ける。


 アルムスだった。

 アルムスはアリスを見つめながら、大きな声でアリスに尋ねる。


 「お前は永遠に自由に成れない。それで良いのか? そんな鎖……蜘蛛の糸よりもか弱い鎖に縛られて、人生を終えて良いのか?」


 アルムスはそう言ってから、静かに座った。

 その目はしっかりとアリスを見つめている。



 「何なんだ、あいつ……まあ、良いや。アリス!! 死ね!!」


 アルドは再び、アリスを殴り始める。

 顔を、腹を、胸を殴られる。

 時折髪を引っ張られ、地面を転がされる。


 胸を鷲掴みにされ、服を引き裂かれる。


 アルドにされるがままに成りながらアリスは考える。


 (私は……自由に……)


 アルドの拳が再びアリスの顔に落とされる。

 

 しかしその拳がアリスの顔を撃つことは無かった。


 アリスがその拳を掴んだからだ。


 「おい、何だ!! アリス!! 放せ!!  殴れないだろ!!」

 「……なりたい、自由になりたい!!!」


 グチャリ


 不思議とその音は闘技場に響いた。

 

 「へ?……ああ、て、手が、手があああああ!!!」


 アルドは潰された拳を押さえ、悲鳴を上げる。

 

 指が曲がってはいけない方向に曲がり、骨が肉から飛び出ている。

 ぽたぽたと血が地面を汚す。


 「私は……お前を殺して……自由に成る!!」


 アリスはアルドの顔を殴りつけた。

 アルドは三回地面を跳ねた後、闘技場の壁にぶつかる。


 アリスは壁に叩きつけられ、呼吸を荒くするアルドの腕を掴む。

  

 「ひああああああああ!!!」


 アルドは十メートルほど、空に投げられる。

 丁度、闘技場の中央に落ちた。


 「あ、ぐ、あ……俺は、この国の、王、だぞ……」


 息も絶え絶えのアルドにアリスは馬乗りになり、何度も殴りつけた。


 「う、ぐ、あああ、た、助けて、マ、マーリンさん……」


 アルドは初恋の女性の名を叫ぶ。

 しかし彼女はやって来ない。

 

 今頃外交官の持ち込んだプリンを見て、食べたくなり、自作している最中だ。

 エプロンを付けて、鼻歌を歌いながら。

 お菓子作りは乙女の嗜みだ。




 「い、嫌だ、死にたくない、痛いのは嫌だ、助けて、許して……アリス!!」

 「あなたは……」


 アリスは殴るのを止める。

 

 「あ、アリス……許して」


 アルドの腹を踏み潰した。


 「ぐぐぐっつ」


 アルドの口からカエルが潰れたような音がなる。





 「私が!」バン


 アルドの口から空気が漏れる。




 「助けてと!!」ドン


 血が溢れる。



 「許しを請いた時!!!」ブチ



 内臓が潰れる。


 「一度として!!!!」ブチュ



 口から内臓が溢れ出る。



 「止めたことが!!!!!」グチュ



 尻から内臓が溢れ出る。



 「あったかあああああああ!!!!!!!!!!!!!」グチャ

 


 腹が裂けた。

 アルドは死に、アリスは自由になった。










 「よし、出来た!!」

 「何が出来たのだ? マングース殿。甘そうな匂いがするが……」

 「プリンよ。食べる? 二百年振りに作ったから味は保障しないけど」


 マーリンが差し出したプリンを、クリュウは匙で掬って口に運ぶ。

 クリュウは顔を綻ばせた。


 「これは旨い!!」

 「でしょう? 一つ、あげるわ」


 マーリンは得意顔でプリンをクリュウに手渡した。

 二人とも、帰った後の現実逃避の真っ最中だ。


 「うーん、悪くてクビかな? 宮廷呪術師。まあ、そろそろ頃合いかな。研究も大詰めだし、今は政治よりもそっちに集中しないと」

 「ほう……研究ですか。完成したら教えてください」

 「良いわ。ビックリすると思うわよ」


 他愛の無い世間話をし始める二人。


 「ところで良かったのですか?」

 「何が?」

 「アルド殿です」

 「誰それ?」


 マーリンは首を傾げた。

 クリュウは苦笑いを浮かべる。


 「ドモルガルの小僧です」

 「ああ、あのクソガキ? そう言えばアルドって言ったわね。それがどうしたの?」

 「いや、あなたに恋していたみたいだし……呪術抜きで」


 マーリンはこう見えてもモテる。地球に居た時も、異世界に来た後も。


 マーリン自身が美少女というのもある。

 コーカソイド系であるガリア人からすると、モンゴロイド系のマーリンはエキゾチックで魅力的に映るというのもあるのかもしれない。



 「別に? どうでも良くない? ああ、そう言えば今日が処刑される日だっけ。一応、祈っとく?」

 「そうですな」


 二人は五秒、目を瞑った。


 「はい、終わった。さあ、食べよう!!」

 「ですな」


 二人はプリンを食べ始めた。



一部、熱心なアルドファンが居る模様


あと二話で四章は終わりです

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