第百二十七話 解呪
拷問シーンがあります
痛くもエロくもない拷問ですが、一応注意しておいてください
グロくもないです
どうでもいいけど、雌豚野郎ほど矛盾した言葉は無いと思う
「歩け!! 誰が寝て良いと言った? 雌豚野郎!!」
「……」
ロゼル王国の間諜、リディアは苦しそうな表情を浮かべた。
リディアはここ四日、寝かせて貰えていなかった。
ロサイス王の国の幕営に移送されるまで、リディアはエクウス族に様々な拷問を掛けられていた。
鞭打ち、爪剥ぎ、水責め……etc
その全てにリディアは耐えきった。
全てはロゼル王国への忠誠だ。
また、もし話したら心臓が破裂する呪い、が掛けられていたことも耐えきれた理由の一つである。
リディアも死にたくないのであった。
エクウス族に囚われていた時は純粋に苦痛に訴えかける拷問がほとんどであった。
リディアは優秀な呪術師だから、ある程度の痛みは呪術で緩和出来る。
だから常に拷問官には強きで接していたが……
ロサイス王の国に囚われるようになってから、趣向が変わった。
今までは食事は粗末な物しか与えられていなかったが、ロサイス王の国に来てからはしっかりとした食事が二食、出た。
拷問も苦痛に訴えかけるモノでは無くなった。
しかし拷問が軽くなったわけでは無い。
その逆である。
「さあ、歩け。三十周だ。三十周歩いたら椅子に座らせてやる」
「……分かりました」
ふらふらとした足取りで檻の中を歩く。
六週したところで、ガクリと崩れ落ちる。
空かさず頭から冷水を掛けられる。
「起きろ!!」
「うう……お願い、お願いします……ね、寝かせて……」
「許さない。さあ、歩け。歩けと言ってるのが聞こえないか!!」
拷問官はリディアの髪を掴み、耳元で怒鳴る。
拷問官は本音のところでは寝かせてやりたいと思っていた。
拷問官と聞くと、サディストがなる職業だと勘違いしがちだが実態は違う。
遣り過ぎを防ぐため、拷問官は真面目で実直な者が選ばれる。
拷問の目的は苦しめることではなく、情報を吐かせることだった。
しかしこの拷問の目的は苦しめることである。
少なくとも拷問官はそう認識していた。
何故なら、情報を白状させろと言う命令を受けていないからだ。
「は、話せば寝かせてくれる? お、お願いします。な、何でもするから……」
「俺は貴様から白状させるように命令されていない。拷問するように言われてるだけだ」
「そ、そんな……」
リディアの目に絶望が浮かぶ。
拷問官は強引にリディアを立たせる。
「さあ! 歩け!!」
「無理、無理……ね、寝かせて……」
うわ事のように繰り返す。
リディアは一歩も動けない。
拷問官はため息をついた。
「羽を持ってこい」
部下に指示を出す。
リディアの顔色が変わる。
「い、いや!! あれ、あれだけは……許して、許して下さい……歩く、歩きますから……」
「ダメだ。大人しくしろ!!」
リディアは椅子に縛りつけられ、両足を開かされる。
綺麗な素足が晒される。
奴隷がガチョウの羽を持ってきた。
真っ白い、綺麗な羽田。
リディアの素足にガチョウの羽が触れる。
「い、いや……っひ!!」
羽がリディアの白い素足を撫でた。
「っひ、ひひ、ひはははは!! や、やめて!! おかしくなる、壊れる!!!!」
リディアの笑い声が響く……
「どうだ、ユリア。これだけ弱らせたけど」
「うん。これだけ参ってるならすぐに解呪できるよ」
リディアに拷問を掛けていたのは、別に俺やエクウス族がサディストだったからではない。
リディアに掛けられている呪いを解呪するためだ。
呪いは精神に鎖のように巻きついている。
解呪には精神の方を溶かす必要があったのだ。
これが中々難しい。
白状させてしまえばリディアの心臓は破裂してしまう。
ギリギリリディアが耐えきれるレベルの拷問を継続的に続ける必要があった。
しかし肉体的な拷問ではコントロールが難しい。
そこで精神を直接攻撃する拷問が必要になった。
「しかしよく考えつくね、眠らせずにくすぐり責めなんて」
「まるで人を変態みたいに言うな。知ってただけだ。……それに体に傷が残らないように、俺としては最大限の配慮をしたつもりだ」
この世界の拷問官に出来るだけ精神を弱らせろと命令したら、どんな物騒な拷問具を取りだすか分からない。
顔に熱湯を掛けたり、鼻や耳を削ぎ落としたり、粉砕機で顔の骨格を変形させたり……
胸や性器を破壊したり……
麻薬漬けにして依存状態にさせたり……
女には過酷な拷問が多すぎる。
その点、不眠とくすぐりなら肉体的損傷は受けない。
精神的ダメージは大きいが……発狂するまでは一週間掛かる。
まだたったの四日だ。
すぐに回復するだろう。
自分で言うのも何であるが、良心的な方だと思う。
というか、俺は拷問の効果には懐疑的だ。
知らないのに、逃れたいがためにデタラメを言ったりするケースもある。
情報の正確性は、拷問よりも訊問の方が優れている。
「じゃあ、早速解呪してくるね」
ユリアは手に大量の薬草を持って、牢に向かう。
この後リディアの精神に侵入して、呪いを断ち切る。
そうすれば心臓は爆発しない。
確実に情報を引き出せる。
「確実に成功させろよ。そうしないと彼女は拷問され損になってしまう」
「私を誰だと思ってるの? ロサイス王の国最高の呪術師よ」
ユリアは片目を瞑る。
それがウインクだと気付いたのは、ユリアが去ってから十秒後のことだった。
下手くそすぎだろ……
「……」
死んだ目で虚空を見つめるリディア。
今、リディアは椅子に座らせて貰っていた。
尤も、非常に安定感の悪い椅子なため寝れば倒れてしまう。
それでも思考しないで居られるため、歩くよりは遥かに楽だった。
そんなリディアを見たユリアは、内心で謝りながらも呪術の準備を始める。
大麻や阿片に呪術処理を施した香を牢屋の各所に置き、火を付ける。
床にはリディアを中心に大きな魔法陣を描く。
リディアはその様子を虚ろな目で見つめるだけだ。
ユリアは魔法陣に血を垂らし、自分の呪力と魔法陣を馴染ませる。
そして両手を付き、呪力を大量に流し込む。
常人の数百倍の呪力が一気に魔法陣に流れ込み、激しく発光する。
ユリアは魔法陣を起動させた後、リディアに近づく。
「寝て良いですよ。椅子から降りて、床で横になって」
「ほ、本当?」
「本当」
リディアはガタリと椅子から倒れる。
床に顔を付けて、眠り込んでしまった。
そんなリディアの頭にユリアは手を当てる。
「さて……解きますか」
ユリアを見送った後、俺は別の牢獄へと向かった。
その牢獄には、鎖で縛られた金髪の女性が居た。
アリスだ。
アリスには特に拷問する理由も無いので、体の自由を奪うだけに止めている。
ベットも固いが、ちゃんと休憩出来るし、食事も一般兵士と同じメニューだ。
「久しぶりだな」
「……お久しぶりです。アルムス王。何の御用ですか?」
「君を口説きに」
俺は檻の前に座りこみ、アリスの視線の高さに合わせる。
アリスは静かに首を左右に振った。
「お気持ちは嬉しいですが、そういうわけには行きません」
「うーん、正直君がアルド王子に忠誠を誓う理由が分からない。話は聞いたが……あまり良い扱いはされてなかったんだろう?」
ドモルガル王の国の宮殿に仕えていた召使から、すでにアリスのことは聞いていた。
いつもアルドに殴られていたらしい。
他にもいろいろと酷い扱いを受けていたとか。
一応、ストックホルム症候群を疑ってはいるが……
「君はどうして忠誠を誓ってる?」
「別に忠誠なんて誓ってません。ただ……」
ただ?
「……何でも無いです」
そうか……
「まあ、良いさ。明日、また来るよ」
俺はそう言ってその場から立ち去った。




