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異世界建国記  作者: 桜木桜
第四章 包囲網と蜘蛛
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第百十八話 会戦

 「報告です!!」


 斥候が声を張り上げて、入手した情報を俺たちに伝える。

 情報によると、レティス・ブラウスの軍勢二千とロゼル王国将軍カイラスの軍勢二万が交戦しているらしい。


 レティスは会戦を避けて、ゲリラ戦を繰り返しながら少しづつ退却しているみたいだ。

 地形を生かして善戦しているらしい。

 だが……


 「救援しなければ時間の問題ですね」

 ライモンドが呟く。


 悩むな。

 最優先はバルトロだが、彼らを放って置くのは仁義に反する。

 後々悪評になる可能性がある。


 それに二千の兵力を失うのは勿体ない。

 出来れば合流したい。


 「王様。私は救援に向かうべきだと思います。理由は二つ。一つは敵の戦力を削るチャンスだからです。敵将はクリュウ将軍ほど優秀ではない。ならば先にこの二万を片付けてしまいましょう。二つ目の理由は二千の兵です。兵は多い方が良い。各地に散っているカルロ派はレティス殿の軍勢も含めて四千。彼らはロゼル軍と正面からの対決を恐れて、兵を分散させていますが、我々がロゼルを破れば再び終結するはずです」


 うん。悪くないな。

 弱い敵から倒した方が良いだろうし。


 ここはバルトロを信じて、まず最初に近くのレティス殿を救出しよう。


 「ではこれからブラウス領に向かう!!」








 「ロサイス王様! またも助けていただき、ありがとうございます。このご恩は必ず……」


 レティス・ブラウスとの合流は比較的簡単に出来た。

 レティスが送ってきた案内役のおかげだ。


 カイラスが知らない進軍ルートを使うことで、妨害無しで合流に成功したのだ。


 地形の大切さがよく分かるな。


 「構わない。レティス殿。今は我らは共に戦う戦友。お互い、助け合っていこう」


 俺たちは挨拶を早々に済ませて、軍議を始めた。



 「敵軍はここから先の盆地に陣営を張っています。総数は二万。その内、千が騎兵です」

 「毛むくじゃらの化け物とやらは?」

 「確認出来ません」


 ふむ……

 雑魚の討伐に毛むくじゃらや騎兵は要らないということか。


 まあ、正解だろ。

 レティスは山間部に敵を誘いだして、奇襲を繰り返していたのだ。騎兵など居たところで役に立たなかったに違いない。


 「では我々も兵を整えてからすぐに向かおう。……こちらは歩兵九千に騎兵四千五百。総数では劣っているが、騎兵の総数はこちらが上だ」


 




 「カイラス様! ロサイス王とレティス・ブラウスが合流したようです」


 カイラスの副官が斥候からの情報をカイラスに伝える。

 カイラスは笑みを浮かべる。


 「そうか。……好都合だな」

 

 羽虫の掃討は思った以上にてこずっていた。

 何しろ、相手は会戦を挑んでこないのだ。少しづつ削るしかない。


 だがロサイス軍と合流すれば話は変わる。

 必ず会戦を挑んでくる。


 後はロサイス軍とレティス・ブラウス軍を合わせて一網打尽にしてしまえば良い。


 「はは!! ロサイス王の首は俺のモノだ!!」


 カイラスは上機嫌に笑う。

 元々クリュウやカイラスの読みでは、ロサイス軍は真っ直ぐバルトロ・ポンペイウスの救援に向かうと思っていたのだ。


 同胞を優先するはずだと。


 しかしアルムス王はバルトロよりも先にレティス・ブラウスの救援に向かった。

 決して想定していなかったわけでは無い。

 ただ、確率を低く見積もっていたのだ。



 「……カイラス様。クリュウ将軍からは会戦は避けるようにと……」

 「馬鹿を言え!! 敵将が目の前に居るのに戦わない馬鹿がどこに居る? クリュウは俺に手柄を立てさせたくないから、そんなことを言っているのだ!!」


 クリュウはカイラスを送りだす際に、こう言った。


 『ロサイス軍は数はこちらより少ないが、精強だ。騎兵の数も多い。それにあの王は何度も戦に勝利している。会戦は絶対にするな。挑発されても守りに入っていろ。王都を陥落させた後に、五万で一気に押し潰す。分かったな?』


 しかしカイラスからすれば、クリュウが自分の才能に嫉妬しているからにしか見えない。

 人は見たいことだけを見る生き物だ。


 

 「会戦に応じる。……ふふ、この戦に勝てば第一功は俺のモノだ!!」






 両軍は大平原で向かい合った。

 丘の上を押さえているのはロゼル軍。


 地形ではロゼル軍の方が若干有利ではある。


 「まあ、この程度の地形は問題にならないだろ」

 俺は敵を睨む。

 

 俺たちと兵装が違うな。

 ガリア人はズボンを履いていて、槍ではなく剣を装備している。


 機動力はこちらの重装歩兵よりも上かもしれない。



 「ねえ、アルムス。大丈夫なの?」

 テトラが不安そうに俺を見上げた。

 俺はテトラの髪を撫でながら答える。


 「大丈夫だ。俺もそれなりに経験は詰積んでいる」

 今回、作戦の指揮を執るのは俺だ。

 俺も王と言う立場から、何度か兵を率いているが……ここまで大規模な合戦は初めてだ。


 だがそこまで不安ではない。

 輔佐としてライモンドとアレクシオスが居る。


 ロンとロズワードとグラムも千人隊長として前線に出てくれている。

 ソヨンやルルも呪術師として戦争に参加している。


 「私たちも居るしね」

 「唯一の不安はそれだな」

 「ちょっと酷くない?」


 ユリアは苦笑いを浮かべた。

 当然、冗談だ。頼りにしている。


 「お前の抗呪能力はピカイチだからな。頼りにしている。テトラもだ」

 「ん……私の魔術はそこまで役に立たないけどね。ユリアには負けるけど、敵の幻術対策は任せて。……ロゼルの呪術師は優秀だって聞いてるから」


 まあ、戦争で呪いはそこまで役には立たないけどね。

 勿論幻術は使える。

 だが対策方法も確立しているため、簡単にレジストされてしまう。


 呪いは攻撃よりも守りの方が遥かに簡単なのだ。

 


 「さて、そろそろ始めよう。……俺たちロサイス軍の必勝パターンで終わらせる」






 まず最初に攻撃を始めたのはロサイス軍の軽歩兵だった。

 グラム率いる軽歩兵がロゼル軍に近づき、投擲や矢で攻撃を始める。


 ロゼル軍も負けじと軽歩兵を繰り出し、飛び道具の応酬が始まる。


 「爆槍用意……放て!!」


 グラムの号令が戦場に響く。

 号令と共に爆槍が弧を描き、ロゼル軍の陣形を引き裂く。


 爆発と共に薬草の粉末が空気中を飛び交う。

 それを媒体にロサイス軍の呪術師が呪いを掛ける。


 「地は揺れて……」

 「天は回る!」

 

 ルルとソヨンが呪文の詠唱をする

 敵の平衡感覚を狂わせる呪いだ。


 「こいつはオマケ」


 テトラが杖を掲げる。

 杖の先から稲光が発生して、ロゼル軍の兵士を感電させる。


 「煙で前が見えない!!」

 「何だ、何だ???」

 「じ、地面が揺れてるぞ?」

 「今の光は??」

 「雷だ!! て、敵には雷神がついているのか?」


 ロゼル軍にパニックが広がる。

 だがロゼル軍の呪術師は優秀だ。すぐに平行感飼うを狂わせる呪いを解いてしまう。


 そして呪いを跳ね返す。

 人を呪えば穴二つ。

 それが呪いのルール。


 呪いを跳ね返すのは非常に簡単だ。掛けるよりも簡単なくらいだ。

 だから戦場で呪いを使うのは非常にリスクのある戦術だ。


 「馬鹿め。これで呪われるのはお前らだ!!」


 カイラスはニヤリと笑う。

 所詮、若輩の王だ。


 しかし呪いはとある女性によって完璧に防がれる。


 「まあ、跳ね返されるよね。これくらいは想定済みだから」


 ユリアだ。

 ユリアはたった一人で跳ね返ってきた呪いを、再び跳ね返す。


 さらにソヨンやルルたちは呪いを重ね掛けする。

 ロゼル軍の前線の陣形は崩れつつあった。


 「チャンスだな。行くぞ。全軍、俺に続け!!」


 アルムスは愛馬であるサクラに跨り、戦闘を走り出す。

 その後を重装歩兵が必死に追う。


 両脇の騎兵はロゼル軍の側面と背後に回り込むべく、一気に加速する。


 「ロン! 背中はお前に任せる。行くぞ!!」

 「了解です!! リーダー!!」


 アルムスはロゼル軍に斬りこんだ。

 ドラゴン・ダマスカス鋼の剣が太陽の光を受けて輝き、敵兵の首が空を舞って、影を作る。


 時折アルムスの背後を狙う敵は全てロンが防ぎきる。


 

 「支援します!! 王様!!」


 グラムが矢を番え、次々と放つ。

 グラムの矢は次々にロゼル兵を射貫いていく。


 隊長クラスを狙って、グラムは矢を放つ。

 ロゼル軍は指揮系統がしっかりした軍ではないので、隊長クラスを失えば陣形が乱れる。


 そこをアルムスが突いていく。


 しかし歩兵の数ではロサイス軍とロゼル軍では二倍以上ある。

 徐々にロゼル軍はロサイス軍を押し込んでいく。


 「行け!! 一気に突き破れ!!」

 丘の上を取っているロゼル軍の方が、突撃した時の勢いは強い。

 ロゼル軍はロサイス軍を跳ね返して、食い破っていく。


 「不味いな……歩兵の兵数の差がモロに出ている」

 アルムスは迫りくるガリア兵を切り裂きながら、どうにか戦線を持たせるために兵士を鼓舞する。


 「下がるな!! 俺は軍神マレスの息子!! 神は我らとともにある!!」

 「その通りだ!! 下がるな!! お前たちの王が前線で戦っているのだぞ!!」

 アルムスとロンは声を張り上げる。

 兵士たちは必死に踏みとどまり、二倍のロゼル兵と戦う。


 自分たちの王が戦っているのに、自分たちが下がるわけにはいかない。


 とはいえ、兵力差は気力では補えない。

 徐々にロサイス軍は押されていく。

 だが……



 「全軍、騎射して敵の陣形を乱してから突撃しろ!!」

 背後に回り込んだムツィオは自分の配下のエクウス騎兵にそう命じる。


 「騎兵隊、突撃だ。……より多くの兵を討ち取った者には俺が報酬を特別に用意する!!」

 右側面に回り込んだアレクシオスが配下のゲルマニス傭兵の騎兵に命じる。


 「お前ら!! 外様の騎兵に負けるな!!」

 「そうだ!! 隊長の顔を泥で塗るような真似は許さんぞ!!」

 左側面に回り込んだロズワードとヴィルガル率いるロサイス騎兵がロゼル軍に突撃する。



 正面、背後、右側面、左側面……

 見事に包囲殲滅陣が完成した。






 「クソ!! 騎兵の数が出たか……」

 カイラスは混乱する兵をどうにか立て直そうとする。

 しかし全方位から囲まれてしまって居る状況で、立て直しのしようがない。

 

 「おい、撤退するぞ!!」


 カイラスはそう一言言うと、愛馬に跨り戦場から離脱しようとする。

 副官や護衛隊は慌ててその後を追う。


 撤退とは軍事的な戦術の一つであり、通常は、指揮官は兵士が無事に逃げられるように最後まで踏みとどまって指揮をする。

 カイラスのそれはただの逃走だ。


 「逃がさない!!」

 そんな声がカイラスの背中に投げかけれた。

 カイラスは慌てて振り返る。


 「ロズワード・カルプルニウスだ。その首、貰い受ける!!」

 ロズワードはそう言って剣を振り下ろす。

 カイラスは慌てて剣を抜き放ち、その剣を受ける。


 しかし……


 ザシュッ


 そんな音共に剣とカイラスの首が真っ二つに切断される。


 ガリアの未熟な製鉄技術で作られた剣と、ドラゴン・ダマスカス鋼。温室育ちの男と、大王の加護の眷属。

 そんな二人の戦いだ。


 当然の結果だろう。



 「敵将!! 討ち取った!!!」




 斯くして、戦いの形勢は一気にロサイス軍に傾いた。

 

感想の返信が滞っていますが、全て目を通しています


今回の話、何となく違和感があるので書き直すかもしれません

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