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異世界建国記  作者: 桜木桜
第三章 新体制と新王
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第百六話 口百法

今日は二話更新

2/2

 現在、我が軍の兵力は七千。これ以上の増強は不可能。これにムツィオが連れてきたエクウス騎兵二百が加わる。エクウス族は女や子供でも、弓が扱えれば戦士としてカウントされるので、この数字だ。


 エビル王の国とベルベディル王の国の戦力はそれぞれ五千。合計一万。

 エクウス族のレドゥスは三千の騎兵を率いて山越え中。


 そしてドモルガル王の国にはバルトロ率いる一万一千が敵九千弱に包囲されている。


 さてどこから対応すべきか。



 「ロサイス王様! キリシア諸国からの親書です」


 伝令が俺に手紙を手渡す。

 どうやら三国は会談をして、共同で我が国を支援してくれることを決めたらしい。



 ・レザドとネメスはそれぞれ千づつ、合計二千でベルベディルを背後から討つ

 ・ネメスは兵糧等の補給の支援をする

 ・また、ロサイス王の国からの要望が有れば軍資金を貸しても良い


 ということだった。


 「捨てる神あれば拾う神ありだな。特に軍資金はありがたい……」


 正直なところ、現在我が国の財政は火の車だ。もうかなり不味い。

 しかも来年辺りからの減税を決めてしまったので……


 戦争後のことは考えたくないな……


 兎に角、借金が出来るのは良いことだ。借り続けられる限り、財政は破産しない。

 破産というのは資金が集められなくなってから。借りることが出来るうちはまだまだ余裕と言える。


 ……外国からの借金ほど面倒なモノは無いが。

 ここはカエサルを見習って、相手が困るほど借りてやろうではないか。


 だが方針が決まったな。


 「諸君、ベルベディルはレザドとゲヘナが押さえてくれるはずだ。ベルベディルには千の兵を向けて、遅滞戦術で時間を稼ごう」


 問題はゾルディアスだな……

 こっちはどうするか。取り敢えずイアルにはゾルディアス王と会談をして、エビル王の国を引きつけて置くように頼んだのだが。


 「ロサイス王様! イアル殿からのお手紙です!」

 「早いな!」


 俺は手紙を引ったくり、すぐに目を通した。







 「ふむ……」

 イアルはアルムスから来た指令書に目を通した。

 

 今回の包囲網の顛末はすでにゾルディアス王から聞いて居る。その上で、帰国した方が良いのでは? とゾルディアス王に言われた直後だったのだ。


 「何と書かれていますか?」

 鷹便を飛ばすためにイアルに付いてきた呪術師が尋ねる。

 イアルは呪術師に手紙を手渡す。


 「読んでくれれば分かるが……つまり今まで通りゾルディアス王と会談をせよと。そしてエビル王に背後をチラつかせる。出来るならばゾルディアス王と同盟を組め。とのことです」


 イアルは説明しながら考えをまとめ上げる。


 まず同盟は不可能だ。今まで散々ゾルディアス王と会談して来たから分かる。

 あの王はロサイス王の国をギルベッド王の国同様に危険な国だと感じているのだ。


 その直感は大正解だ。ロサイス王の国がエビル王の国を併合すれば、次に狙われるのはゾルディアス王の国なのは火を見るよりも明らかである。


 とはいえ、ゾルディアス王の国にとってエビル王の国も脅威なのは事実だ。

 エビル王の国がロサイス王の国の領土を刈り取り、強大化すれば、苦悩するのはゾルディアス王の国である。


 「よし、行くか」


 イアルはゾルディアス王の宮殿に向かった。





 「イアル・クラウディウス殿か。どうした? 本国に帰るのか」

 「いえ、私が帰っても出来ることはありません」


 それにどうやって帰れと言うのか。ゾルディアス王の国からロサイス王の国に向かうにはエビル王の国を通らねば行けない。帰るのは不可能だ。


 「最初に言っておく。同盟は受けない。俺は強大国を隣国にするのを好まない。アデルニアは小さく別れていた方が良い」


 ゾルディアス王はイアルに言い放つ。

 ゾルディアス王、現在二十五歳。


 身長は低いが、その体つきはがっしりとしている。国土のほとんどが山である山岳民族の王らしい体つきだ。


 年が若いせいか、それとも本人の気質なのか、彼は自分の考えを直球で言う。遠慮しないのだ。


 「まさか、援軍など望んでおりません。我が国は勝ちますからね」

 「ほう?」

 

 ゾルディアス王は目を細める。本国が危機的状況にあるというのに、堂々としているイアルに興味を抱いたのだ。


 「貴国にそれほど余裕があるように思えないが?」

 「我が国の爆槍という兵器はご存じですね? ロサイス王は発明家でもあります。他にもいろいろと兵器があるんですよ」


 嘘だ。

 少なくともイアルはそんな兵器の存在は知らない。


 とはいえ、爆槍などどの国も思いつかなかった兵器だし、未だにどの国も原理はさっぱり分かっていない。

 だからイアルの言葉は真実かもしれない。そう思わせるだけの説得力は十分にあるのだ。


 「私が期待しているのはゾルディアス王の国がエビル王の国を叩くことです」

 「だから兵は出さんと……」

 「今、援軍を欲しているのではありませんよ。エビル王の国が我が国に負けたら貴国は軍を動かせばいい」


 イアルはロサイス王の国が勝つ前提の話を始める。

 ゾルディアス王はイアルの意図が読めない。


 勝ったらそのままエビル王の国に雪崩れ込めば良いのだ。ゾルディアス王の国など必要ない。


 イアルの提案ではゾルディアス王の国が漁夫の利を得る。

 そこのロサイス王の国の国益は無いように思える。


 「エビル王の国を打ち破るのは簡単です。ですがその首都を落とすとなれば骨が折れる。一対一ならば大したこと有りませんが、今は複数の国と交戦中ですからね。時間を掛けられない。そこで我が国が勝った後にゾルディアス王様に兵を上げて貰うのです。そうすれば貴国は容易にエビル王の国の領土を得られる。我が国は少数の防衛軍を残して、他の戦線を片付けられる」


 ゾルディアス王は静かにイアルを見つめ、その話を聞く。

 イアルはゾルディアス王の反応を見ながら、説得を続ける。


 「どうでしょう? 貴国がエビル王の国を落とさぬ限り、我が国と国境を接することはありません。我が国はエビルを飲み込む余裕がありませんから。エビル王の国を我が国との緩衝国とすれば、我が国と貴国の間で領土紛争が起こる可能性は無くなります」


 ゾルディアス王は頭の中で勘定を始める。

 イアルの提案、ゾルディアス王の国には何のデメリットもリスクも無い。


 何しろ弱ったエビルを叩くだけなのだ。


 ゾルディアス王の国は山岳国家なので、肥えた土地は少ない。

 だからエビル王の国の領土を奪うのは悪い話ではない。


 何しろエビル王の国とゾルディアス王の国との国境には盆地があり、そこでは中々の量の小麦が収穫できるのだ。

 ここを得ることが出来ればゾルディアス王の国は安泰だ。


 ゾルディアス王は武力に自信があった。何しろまだまだ若い王だ。若ければ若いほど、積極的になるのはどの世界でも共通だ。


 故にゾルディアス王は……


 「分かった。それで条件は? まさか無償で漁夫の利をくれるわけではあるまい。貴国は我が国に何を求める。俺に何をして欲しい? 言っておくが兵は貴国が勝たぬ限り動かさないぞ」

 「簡単です。『ゾルディアス王はロサイス王の国を支持する』そう一言、言ってくださるだけで結構です」


 ゾルディアス王は少し考え込む。

 

 (言うだけならいいんじゃないか? 何も損失は無いし……)


 「分かった。我が国はロサイス王の国を支持する」

 「ありがとうございます」


 こうして密約が交わされた。






 「よし、これで言質は取れた」

 イアルが欲しかったのはゾルディアス王の『我が国はロサイス王の国を支持する』の言葉だ。

 これさえあれば問題ない。


 「みんなを集めてくれ」


 イアルはゾルディアス王の国に一緒に付いてきた部下や呪術師を集める。

 そしてイアルは言った。


 「良いか、みんな。今すぐ『ゾルディアス王の国はロサイス王の国を支持する』を発言したとゾルディアス王の国中に広めてくれ。そうすればエビル王の国の間者が聞きつけるはずだ。それだけで良い。これで十分背後を脅かせる」


 これは真実だ。ゾルディアス王は否定することは出来ない。密約とはいえ、国同士の取り決めなのだから。


 大事なのは『支持』の内容が明らかでないこと。ただ私人としての気持ちだけとも取れるし、兵糧や軍資金の支援だけとも考えられるし、実際に背後を攻撃するとも取れる。


 エビル王の国は心配で心配で仕方が無くなるはずだ。少なくとも、ロサイス王の国に増援部隊は送れない。


 イアルが出来ることはこれだけだ。


 「さて、ロサイス王様に連絡するか」


 イアルは紙とインクを用意した。





 

 「よし! イアルがゾルディアス王の支持を取り付けた!」


 豪族たちが湧き返る。これはかなり大きい。

 例え発言だけでも、エビル王の国の背後を脅かせる。


 「ロサイス王様! たった今、エビル軍とベルベディル軍に動きが有りました! それぞれ二千が本国に帰還したようです!」


 おそらく両国にも知らせが届いたのだろう。

 エビル王の国はゾルディアス王の国に対応するために、ベルベディル王の国はレザド・ゲヘナ連合軍に対応するために。


 これで戦わずに四千の兵力が戦場から離脱したことに成る。それでも敵戦力はエクウス族含めて九千。我が軍よりも多い。


 「よし、方針が決まった。各個撃破する。まずエビル、ベルベディルには千づつ当てて遅滞戦術。五千をエクウス族にぶつけて撃破。ムツィオを王にしてからエクウス族の援軍を引き連れてベルベディルをレザド・ゲヘナ連合軍と挟み撃ち。その後連合軍と共にエビルを討ってから、バルトロの救援に向かう。意見のある者は居るか?」

 

 誰も手を上げない。つまり文句は無いということだ。


 「では決を採る!」


 こうして無事に対包囲網戦略は可決した。


 反撃はここからだ!!

章の整理は後でやります

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