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異世界建国記  作者: 桜木桜
第一章 禁忌の森とグリフォン
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第十話 カブ

 現在、我々はカブを育てている。

 気温から大体、八月くらい。カブはすくすくと成長中である。

 カブは六十日ほどで大きくなり、かつ非常に育てるのが簡単な植物だ。

 つまり俺たちにうってつけといえる。


 このカブは食べるためというよりもヤギや牛の飼料用の側面が強い。

 

 さて、カブの栽培は一応順調といえる。強いと言えば……


 「リーダー! ここにも虫が居る!」 (ロンが葉っぱを捲りながら)

 「うわ、マジかよ」 (ロズワードが覗き込みながら)

 「キリがないね」 (ため息交じりにソヨンが呟きながら)

 「っひ!」 (テトラが軽く悲鳴を上げながら)

 「……」 (無言で踏みつぶすグラム)


 という感じである。


 やっぱり森の中にあるという立地が悪いのかもしれない。

 害虫天国だ。

 見つけ次第始末しているが、キリがない。あと気持ち悪い。


 とにかくこの辺は虫が多い。夏真っ盛りになり、藪蚊も元気に活動している。ウザくて仕方がない。

 

 だが俺はついに打開策を見つけたのだ!!


 「これを見ろ」

 「何それ」

 「シロバナムシヨケギクという花だ。通称除虫菊」

 この花はピレスロイドという殺虫作用のある成分を含んでいる。

 天然の殺虫剤だ。ピレスロイドは俺たち哺乳類には作用が薄いので、とても安全だ。

 

 ちなみに蚊取線香の材料でもある。


 除虫菊の原産地は地中海沿岸なので、もしかしたら生えているかな? と思って探してみたのだ。この世界はたまに変な奴(グリフォン)が居るが、基本的に地球の植生とほとんど同じだし。


 「こいつの群生地を見つけた。これを煮詰めて、カブに掛ければ虫は消滅するはずだ」

 「掛けるだけで良いの? それは良い。大賛成」

 テトラが嬉しそうに言った。彼女は虫嫌いなのだ。


 「マジで? それいいじゃん。早速摘みに行こうよ」

 ロンも賛成してくれる。

 みんな異存はないようだ。当たり前だけど。


 「じゃあ行こう!」

 早速花畑に向かった。



_____________


 花畑で俺たちは黙々と花を摘む。

 光景はとてもロマンチックだが、使用用途は殺虫剤。

 少々シュールだ。


 「テトラ、これを」

 俺は花束状にした菊をテトラに手渡す。これで両手が開く。

 「え! そ、そんないきなり……」

 何故かテトラが顔を赤くした。


 「……テトラちゃん」

 ソヨンが呆れた顔でテトラに耳打ちする。するとテトラの顔がさらに赤くなる。

 

 「……紛らわしい……」

 何故か睨まれた。理不尽だ。


 「取り敢えずこれくらいでいいかな。あんまりとって無くなるのは問題だし」

 できれば村で育てたいが、そんな暇はない。植えるだけで虫が寄って来なくなるんだけどな。

 


 村に帰って、まず土器を用意する。その中に菊の花と水を入れる。


 「後はこれを煮詰める」

 薪をくべて、ゆっくりと時間を掛けて煮詰める。

 後はこれを冷まして、カブの葉っぱに散布すればいい。


 「本当に効果あるの?」

 「多分」

 俺も実際に使ったことはないから分からない。蚊に効くのは間違いないけど。

 「ところで、何でそれで虫が死ぬんですか? 呪い?」

 ソヨンが聞いてきた。そういう方向の発想をするか……

 「毒だからだよ」

 俺がそう言うと、子供たちが顔をギョッとさせる。


 「大丈夫大丈夫。人には効かないからね。大量に飲めば分からないけど」

 そう言うと、子供たちは安心した表情を浮かべた。


 ……アルムスが大丈夫って言ってるから大丈夫に決まってるという発想なんだろうな。嬉しいけど、複雑だ。出来れば自分の頭で考えて欲しい。


 「じゃあ早速散布しようか」

 こうして害虫を追い払うことに成功した。


_________


 「大きくなってきたなあ」

 「食べるのが楽しみだなあ」

 ロンが涎を垂らしている。

 最近は木の実ばかり食べているので、こういう野菜には飢えている。


 ……一応冬の飼料用に育ててるんだけどな。

 少しなら食べてもいいか。


 「そろそろ肥料が必要かな」

 そろそろ収穫時期が近い。もっと大きくするにはこのタイミングで肥料を投入する必要がある。


 「肥料って何?」

 「作物に上げるご飯みたいなものかな。さて、何を上げればいいのか……」

 植物に必要な三大栄養素はリン酸、窒素、カリウムだ。とはいえこの三つを効果的に得られる化学肥料が存在しない。となると……


 「森の土でも持ってくるか」

 森の土は落ち葉が腐ったモノで出来ている。有機肥料として使えるはずだ。


 「変な虫が入らないようにしないとだけどな」

 カブトムシの幼虫とか。


__________


 

 「っひ! アルムス!」

 テトラが抱き付いてきた。いったい何なんだよ。


 「ミ、ミミズが……」

 それくらいでビビるなよ。グラムを見習え。普通に指で掴んで潰そうと……おい、潰すな!


 「ミミズは土を良くしてくれるから土と一緒に土器の中に放り込んでくれ」

 「そ、そうなの?」

 グラムは驚いた顔を浮かべながら土器の中にミミズを入れた。

 

 「何でなの? こんなのが」

 テトラはあからさまに嫌そうな顔をした。

 「ミミズは土の中を動き回るだろ? それによって土が耕されるんだ」

 糞については黙っておこう。絶対嫌がる。


 「へー」

 納得してくれたようだ。良かった良かった。


 「そろそろ集まったし畑に播こうぜ」

 「うん!」

 

 村に戻り、畑のカブに土を掛けていく。

 美味しいカブができますようにと。


__________



 「ようやく収穫か」

 ついに時が来た!!


 といってもカブを地面から引っこ抜くだけだから案外簡単だ。

 そもそもそんなに育てていない。

 次はもっと沢山育てよう。


 「リーダー! 食べようよ」

 「待て待て。落ち着け。これは冬のヤギや牛の食い物だ。俺たちが食べれるのは少し。今から計算……いや、計算してくれ。テトラ」

 「私が?」

 「そうだ。責任重大だからな」

 俺はそう言ってテトラの肩を叩く。テトラはニヤッと笑う。

 ようやく算数が活かせるんだ。これでやる気が無い子たちも重要性が少しは分かるだろう。




 今日の夕飯はカブになった。

 カブパーティーだ。


 とはいっても碌な調味料は無い。

 ただ茹でただけのカブだ。


 だが噛めば甘味があって旨い。少なくとも森の木の実や野草(雑草の味がする)よりは美味しい。


 「美味しい」

 「そうだな」

 茹でたカブの葉っぱを食べる。シャキシャキして美味しい。美味しいけど……


 醤油を付けて食べたい。せめて塩が欲しい。

 

 茹でたカブを食べる。柔らかく、甘い。だけど……

 

 漬物にして食いたい……


 採集も狩りも農業も体を動かす。

 動かせば汗が出てくる。

 汗が出れば塩分が失われる。


 最近、碌に塩分をとってないな。

 機会があったら塩を手に入れよう。


 俺は決意した。


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