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31.出会い

6年生の薬学の授業はなかなか面白い。


1年生の必修授業の初級薬学でナイフの使い方から指導されているのを横目にぼんやりと待っているのとはさすがに違う。


高度な薬品になってくると、混ぜる速さを一定にしなければならなかったり、魔力も魔石を使って一気に入れることはせず、少しずつ調節しながら入れなければならなかったり難しくなる。


「…殿下、これでは効果が平民用と変わりませんわ」

「……」

「魔力が入っている分高額になって味まで不味いかもしれないのに効き目が少ないとは、なんて酷い!

このままでは先に進めませんから、今日は居残りをお願いします」


薬学のハンナ先生は、相手が王子であろうと容赦がない。

授業に関することであれば教師の身分がどうであっても不敬にはならないからだ。


他の者の目があるため、不当に厳しくしたりはしないだろうが。



薬のことになると熱くなるらしいハンナに対して、何も言い返せないクラウディオは首を垂れていた。



「マリアンナさん」


「は、はい!」


しょんぼりしているクラウディオが何だか可愛くて、にやにやしそうになるのを堪えていたマリアンナは突然呼ばれて我に返った。


「あなたの薬は大変素晴らしい出来ですね」

「ありがとうございます」


「この後詳しく解析してみたいのだけれどいいかしら」


ハンナの目がキラキラと輝いている。


「はあ…提出したものですから、どうぞご自由にしてください」


「ところでこの後は何か授業は入ってる?」

「いえ、今日はもう帰るだけです」


「あら!でしたら少し付き合っていただきたいのだけど時間はあるかしら」


解析に付き合えばいいのだろうか。


「はい、特に予定はないので時間はあります」


「それは良かったわ!殿下が作り直しするのを見ていてもらえるかしら」


「「は?!」」


横でマリアンナが褒められるのを恨めしげに眺めていたクラウディオまで声を上げた。


「という訳で殿下、再提出をお願いします」


ハンナは問答無用といった感じでにこりと微笑む。



授業が終わり学生たちが部屋を後にする中、マリアンナとクラウディオが残った。

ハンナは自分の研究室に戻りたいところだけど…と前置きして部屋に残って離れた調合台に座った。


マリアンナとクラウディオを2人きりにしないためだ。



「…では兄…殿下、始めましょうか」


親しい人ではない他の人がいる中で、王子として接することがないため戸惑ってしまう。

更に婚約を申し込まれた人というのが気恥ずかしい。


「…ああ。おかしい所があれば遠慮なく言ってくれ」



クラウディオが自分の調合台に立ち、作業を始めた。



「殿下、もう少し均等に刻むといいですよ」

「分かった」

「もっと火力を下げてください」

「よし」

「もう少し早く混ぜて」

「あ、ああ」

「魔力はもっと針に糸を通すくらいに細く注いで」

「本当に遠慮がないな!」


「ぶっ…!くく」


入口のほうから笑い声が聞こえてそちらを見ると、扉の向こうに綺麗な金髪が見えた。

俯き加減で口元を抑えていて顔は良く見えない。


「あ、兄上!どうしてこんな所に」


クラウディオが焦って声を上げた。


兄上?兄…?

えっ!!第1王子殿下!?


マリアンナは慌てて入口のほうに体を向けて礼をする。


「悪い。邪魔をしたな。

先に最後まで仕上げるといい」


少しだけ開いていた扉が大きく開かれ、第1王子殿下が部屋に入ってきた。

後ろには護衛もいるようだが部屋には入ってこない。


クラウディオは慌てて出来上がった薬を瓶に移し栓をした。


その間にマリアンナは使った道具を浄化しておく。



「どうかしたのですか、兄上」


クラウディオが椅子に腰かけ待っていたアレクシスに声をかける。


「今日の放課後に魔法の演習をする予定だっただろう?

父上から呼び出しがあって時間がなくなってしまった」


「そのくらいの事、兄上自ら来なくても誰かに言づければ良いのに」


「丁度隣の棟で授業を受けていたから、下で会えると思ったんだ。

そしたら出てきた者がお前は居残りだというから笑いに来たんだよ」


「兄上…」


「いやあ、もっと面白いものを見せてもらったけどね。

あのクラウディオが女の子に指導されて…遠慮なく…ふっ、…ははっ」


思い出して可笑しくなったようだ。


マリアンナはやってしまったと血の気が引いていた。


「少し見てもらっていただけです」


「いやいや、なかなか興味深かった。

…君は1年生かな?優秀な子がいると耳にしていたけど、名前は?」


突然話を振られ、マリアンナは慌てて姿勢を正して淑女の礼をする。


「マリアンナと申します」


「弟が世話をかけた」


「いいえ。生意気にも色々と口を出してしまい」

「そんなことはない。的確な指導だった」


謝罪しようとしたところでクラウディオが口を挟んだ。


「ああ。そう見えたよ。

クラウディオに対してあんなにはっきりと物を言う女性を初めて見たし、クラウディオが女性と気安く会話をしているのも初めて見た。

貴重なものを見せてくれてありがとう」


本心から言っているようで、不敬で罰しようなどといった話にはならないようだ。


マリアンナはほっと息をついた。



「それじゃあ私は失礼するよ。

今後もクラウディオをよろしく頼む。マリアンナ嬢」


アレクシスはそう言い残してさっさと出て行ってしまった。



「…驚きました」

「ああ。そうだな…」


「薬、提出してきますか?」

「…そうだな」



そういえば第1王子が入ってきても反応のなかったハンナはどうしているのだろうとそちらを見ると、解析に夢中で周りが目に入っていないようだった。



何度か呼び掛けて見てもらった薬は無事に合格をもらえた。




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