29.告白
強く抱きしめられて、息が苦しくて悲鳴を上げてしまった。
「兄さまっ!苦しい…」
「あっ…すまない」
腕の力が緩み、包み込むような力加減になる。
…密着がすごくて気を失いそう。
兄さまへの気持ちを自覚してから、できるだけ頑張ろうと決めたもののどうにか恥ずかしさを堪えて自然に接することしかできなかった。
しばらくは2人きりになることもできなくて、早朝鍛錬もシロを叩き起こして一緒に来てもらっていた。
シロは精霊なのに朝が弱い。
このままでは何も進展しない。
今日こそはと意を決してシロを置いてきた。
2人きりになっても挙動不審にならないように訓練しなければ。
そう意気込んでいたのに、やってきた兄さまの様子がいつもと違う。
私を見る瞳に熱を感じる気がするのは気のせいだろうか。
第1王子殿下の婚約者候補になりそうだったことを言われて、話しておいたほうが良かっただろうかと後悔した。
即座に否定したら、私が、第1王子殿下のものになると思ったら胸が引き裂かれそうだったと。
――それは、どういう意味で?
「…私は君が、好きなんだ。マリアンナ」
…えっ?
「君に兄のようにしか思われていないことは分かっている。
…だけど、これからは少しは意識してほしい」
予想外の言葉にうまく反応できないでいると、兄さまが立ち上がった。
帰ってしまう!
ここで時間を置いてしまうと当分この話の続きが出来なくなるような気がして、咄嗟にその腕を取った。
待って。
え?兄さまが私を好き?
それこそ妹のようにではないの?
「あの、兄さまは…私を恩人だとか妹だと思っているのではないのですか?」
問いかける声が震える。
まさか。
「…恩人だとは思っているな。
あとは弟だと思ったことはあっても妹だと思ったことはない。
再会した直後から、ずっと可愛い女性だと思っている」
両手で大事そうに手を握られ、顔が熱くなった。
心臓が痛い。
頭がぐるぐるする。
兄さまは私を異性として意識してくれているの?
まだ子どもなのに?
確かに日本の子どもと違ってずいぶんと発育はいいけれど、こちらで生活している人にとっては9歳や10歳なんてまだ子どもだろう。
気が付いたら証拠はあるのかと聞いていた。
だって俄かには信じられない。
それまでずっと真剣な目をしていた兄さまが、一瞬不敵に笑ったような気がした。
次の瞬間体を持ち上げられ、気が付いたら兄さまの膝の上に乗っていた。
「ひえ?!」
顔にかかった髪をそっと耳にかけられる。
冷たい指先が耳にあたってぞくっとした。
兄さまの顔が近づいてきて、頬に柔らかい唇が触れる。
!!!
「私は、妹にこのように触れる趣味はない」
そのまま耳元で囁かれて、昇天するかと思った。
どうしよう。
胸が苦しくて涙が出そうだ。
どうしていいか分からず固まっていると、兄さまに謝られてしまった。
違うんです!
膝から降ろされそうになり、咄嗟に襟元を掴んで兄さまの頬に唇を押し付ける。
「私も、『兄』の膝に乗って口づける趣味はありません!」
そのまま勢いで気持ちを告げてしまった。
ああ、ムードも何もない。
だけど兄さまは本当に心から嬉しそうに笑ってくれて、ほっとした。
兄さまの胸に包まれ、心臓がどくどくと高鳴る。
本当はまだ寮で寝ていて、夢を見ているのではないの?
顔を上げたら目が覚めてしまうかもしれない。
恐る恐る体を離して顔を上げると、兄さまと目が合って心臓を射抜かれてしまった。
愛しくて堪らないというような、蕩けた表情。
…どれだけ好きにさせたら気が済むんだろう、この人は。
「…私は本当は、まだ寝てるんじゃないだろうか」
考えていたことがそのまま兄さまの口から出て、思わず噴き出してしまった。
「私も、同じことを考えていました」
気持ちを自覚してからほんの2週間ほどでこんなことになってしまって、嬉しいけれど正直頭は大混乱だ。
夢だったら、落ち着くまでこのまましばらく目が覚めなければいいのに。




