26.呼び出し 1(クラウディオ視点)
久しぶりにドレス姿のマリアンナを目にして、思わず固まってしまった。
1年生などまだまだ可愛い子どもだというのに、どうしてマリアンナだけはこんなに魅力的に見えるのだろう。
魅了も防ぐお守りを身に着けているのだから、魔法で魅了されているわけではないのに。
いつもより数倍輝いて見える彼女だが、少し様子がおかしい。
赤くなったり突然涙を流したり、椅子から落ちそうになったり一言で言うと挙動不審だ。
…いや、そんな彼女も可愛いのだけれど。
王太后様に会いに行って疲れたのだろう。
早く休んだ方がいいかもしれない。
そう思って、マリアンナの綺麗に結われた髪を乱さないように触れた。
すると、意を決したような眼をしてマリアンナが私を見た。
不意をつかれて心臓が鳴る。
だがそれは序の口だった。
次の瞬間、マリアンナが私の手を取り、彼女の頬に滑らせた。
柔らかく滑らかな肌の感触。
私からマリアンナに触れることはあっても、彼女の方から私に触れることなどなかなかない。
しかもこのように自分から肌に触れさせるなんて。
呆然としていると、恥ずかしそうに眼を潤ませ上目遣いで見つめられ息が止まるかと思った。
なんだこの生き物は。
可愛すぎる。
「あ、あの、今日は来てくれてありがとうございます。
…また、また会いに来てくれると嬉しいです…」
…攻撃力が高すぎないか?
まだ私の性格が分かる前に近寄ってきていたご令嬢に擦り寄られても、気分が悪くなるくらいだったのに。
まるで心臓を撃ち抜かれたような衝撃を受けた。
いや待て。
やはりマリアンナは警戒心が無さすぎではないか?
いくら兄のような存在といえども私もただの男だ。
あんな顔でいつでも会いに来てくれだなんて。
…いや、そこまでは言ってなかったか。
とにかく、またマリアンナに警戒心を持つように言い聞かせないといけないだろうか。
『兄さまだけです』
昔、マリオが言っていたような気がする。
『全部受け入れるのは兄さまだけです』
あの時私はマリオはマリオ、つまり男の子だと思って接していたけれど、マリオはもちろん自分がマリアンナで女だと分かっていた。
その上で、私を全部受け入れると?
私だけを。
…気に入らない。
私だけは警戒しないと同義ではないか。
自ら触れさせるなんて、私を男として全く意識していないに違いない。
もっと警戒して、意識してもらうにはどうすればいいだろうか。
「ぐっ…」
突然腹に衝撃を受けた。
シロだ。
普段から防御をしているはずなのに無視して衝撃を与えてくるとはさすが精霊だ。
「はっ!マリアンナは?!」
いつの間にか目の前からマリアンナが消えている。
『とっくに帰った』
「…夢か?」
『何を言っている。お前もさっさと帰れ』
そういえばお言葉に甘えて休むと言っていたような気がする。
しまった。別れの挨拶が出来なかった。
まあいい。
私が来ると嬉しいと言ってもらえたのだから。
城の私室に転移すると、エドガーが胡乱な目をして待っていた。
「遅いですよ」
「悪い」
文句は私の動きを止めたマリアンナに言ってくれ。
「王太后様から手紙が届いています」
「王太后様から?」
手紙を受け取りすぐに開封する。
……
「なんと?」
「…離宮にご招待いただいた。
了承の返事を書く。届けてくれ」
招待は夕方の時間だ。
本来招待なら何日か余裕を持たせる。
それが当日中ということは招待という名の呼び出しだろう。
やはり『精霊の乙女』のことが気になるのだろうか。
私とマリアンナが懇意にしていることは知っているだろうから、詳しい話が聞きたいのかもしれない。
指定の時間にエドガーを連れて王太后様の離宮に赴くと、既に王太后様が通された部屋で待っていた。
目上の者は後から来てほしい。
「お待たせして申し訳ありません」
「わたくしが早く来てしまっただけよ。気にしないで座って」
「失礼します」
王太后様の前に座ると、お茶が運ばれてきた。
「少し2人で話がしたいの。あなたたちは下がっていてくれる?
エドガーは部屋の前で待機していて」
人払いされたところで王太后様がお茶を飲んだのでそれに倣う。
一体何を言われるのか。
私たちは祖母と孫になるが、それほど気安い関係ではない。
「今日は『精霊の乙女』であるアイリスさんに来ていただいたでしょう?」
一瞬誰かと思ったが、『アイリス』はマルグリットの弟子としてのマリアンナの名前だ。
「ええ。彼女はどうでしたか」
楽しかったと言っていたから、粗相はしなかったのだろう。
「とても素晴らしい考えを持ったお嬢さんだったわ。
彼女なら相応しいと思って、アレクシスの婚約者になってもらいたいと伝えたのよ」
…私は今、うまく笑えているだろうか。




