21.第1王子の魅了対策
気持ちがいいので一緒に寝るのはやめられないとマリアンナが言うと、クラウディオはしぶしぶ承知した。
「マリアンナ、せめて着替えは見えないところでするように」
「…分かりました」
クラウディオとシロのやり取りを、何が起こっているのか全く分からないと傍観していたマルグリットとエドガーだった。
「そろそろ一度帰る?昼食後にまた来られるかしら」
「ああ」
「そうですね」
マリアンナは休みの日は寮で昼食が出る。
クラウディオも食事くらいは顔を出さないとまずい。
「魔力回復薬は持っていく?」
「いえ、大丈夫です。転移に魔石を使うようになって前より魔力を使わなくなりましたし」
「…魔石?」
クラウディオが不思議そうにマリアンナを見た。
「はい。転移の目印に置いてあるんです」
マリアンナは家の玄関扉の横に保存魔法をかけて置いてあった魔石を持ってきた。
台座の上に備え付けてある。
「この場所を思い浮かべながら魔力を込めておくんです。
そこそこ良い魔石じゃないとできなくて、何個も作れないんですけど。
『庭の魔石』を思い浮かべるだけで飛べるので便利ですよ」
「それはいいな。確か使っていない魔石が何個か転がっていたから後で持ってくる」
「転がって…」
王宮とはどんなところなんだろうとマリアンナが思案しているうちに、クラウディオは転移で去った。
***
「食事中にエドガーから聞いたけど、第1王子殿下がまずいことになってるんですって?」
「ああ、前は詳しく話せなくて要領を得ない話になっていたと思うが、実はシロから忠告があったんだ」
「精霊から…」
クラウディオはシロから聞いた話をエドガーに相談したのだが、『精霊から聞いた』ことを抜いて話したため何故そのようなことが分かったのか説明できず曖昧になっていた。
「あれから一度アレクシス様を見かけたので観察したのですが、魔術の痕跡は見当たりませんでした。
幼い頃からというのも、長年に渡って魅了の魔法に晒されていたなら誰かが気づきそうなものですが」
『おそらく、魅了していたほうも無意識にやっていたんだろう。
第1王子と婚約者とやらはうまくいっていたのか?』
「兄上の婚約者だったご令嬢か…
私も何度か会ったことがあるが、良い印象はないな。
亡くなったものを悪く言いたくはないが、周りの者は皆自分の望みを叶えてくれると思い込んでいるようなところがあった。
兄上は我儘なところも可愛いといった感じで気に入っていたようだが」
「アレクシス様の婚約者ですか?
…クラウディオ様にも秋波を送るような方でしたが」
「まあ!そのような子が選ばれるなんて陛下は何をやってたのかしら!」
シロの言葉はエドガーとマルグリットには聞こえていないが、クラウディオの発言を受けて会話は続く。
「実際見たわけではありませんが、婚約者候補が集められて開かれたお茶会で、アレクシス様が気に入りどうしてもという話でした。
本命のご令嬢は別にいたらしいのですが、アレクシス様の希望を叶えた形になったようです」
「その兄上の婚約者だったご令嬢が、幼い頃から無意識に魅了を使って兄上を惑わせていたのかもしれない」
「本人も無意識だったから、誰も見破れなかったのかもしれないわね。
…術者が亡くなったのだから自然に解除されないのかしら」
『術をかけられていた年数が長すぎる。
何年か経てば自然に消えるかもしれないが、それまで精神がもつか分からん』
「そんな…早く何とかしないと」
「そうだな。長年に渡って術をかけられているから、解けるのにも時間がかかるようだ。
自然に消えるまでに精神がもつか分からないと」
クラウディオがエドガーとマルグリットに説明する。
「…本人に自覚もなく、魔術の痕跡も無いものをどうやって解除するか」
マルグリットが腕組みして考え込んだ。
「魔術の解除自体は普通にできるのですか?」
「ああ。そういったことを専門にしている部門はあるが、体に染みついているようなものが一度の解除魔法で完全に解けるかどうか…」
「身に覚えもないのに、何度も解除魔法をかけられるのも不快だな」
「相手は王子殿下ですから無理強いもできませんしね」
うーん、と考え込んでいたところで、マリアンナが顔を上げた。
「あの、王族たるもの他人に惑わされるわけにはいかないからと理由をつけて、全員に魅了を防ぐ魔石を配るのはどうでしょうか。
第1王子殿下には解除魔法も一緒に込めたものを渡すんです」
「…いいかもしれないな。個人的に解除しようとすれば角が立つが、王族全員が対策するとなると拒否できない。
魔石ならずっと身に着けておくことができるから何度も魔法をかける必要もない」
「そういう提案なら王太后様にしていただくのがいいんでしょうけど、どうやって話を持っていこうかしらね」
解決策は浮かんだが、別のことで悩むことになった。
「私が精霊から忠告されたと言えなくもないが、兄上に不利になるような話を私から持っていくことはしたくない」
「そうね、ディオが王太子になるつもりがないならやめたほうがいいわ」
マリアンナは一瞬どういうことかと考えたが、『王太子』はまだ正式に決まっていない。
この状況で長年自覚のないまま魅了にかけられていたというのは不利な案件になるのだろう。
しかもそれを指摘したのが第2王子となれば、クラウディオこそ王太子に相応しいとされる可能性もある。
マルグリットがちらりとマリアンナに視線をやった。
何故か嫌な予感がしてマリアンナはぞくっとする。
「…私の弟子が、精霊に選ばれし『精霊の乙女』となりその言葉を伝えてきたというのはどうかしら」
「はい?!」




