9.王子との対話
「ねえ、殿下が聞きたいことってシロがどういう存在かとか、なぜ自分たちだけ見えるのかってことだと思う?」
『まあ普通に考えてそうだろう』
「シロが加護を与えた初代王に魔力が似ているから殿下を助けたってことはいいとして…
私が間に入って殿下の魔力を吸い取って金の瞳になったことは黙ってていいかな」
『なぜだ。別に話していいんじゃないか』
「だめよ!そんなこと言ったら陛下まで出てきちゃう」
代々受け継いできた金の瞳が王族以外に出たのだ。
国の一大事として問題にされそうだ。
『ではマリーがなぜ私を認識するのかどう説明するつもりだ』
「うっ…」
『…何も知らせずあの場所に連れて行って、悪かった。
マリーは王子になど会いたくはなかっただろうが、王子に伝えたいことがあるんだ』
「えっあそこに殿下がいるのを分かって連れて行ったの?!」
『当然だ』
マリアンナはうう、と唸った。
『あの王子、いつまでたっても私の声が聞こえないからな。
マリーに私の言葉を伝えてもらいたい』
「…だったら初めからそう言ってくれればいいのに」
『馬鹿正直に王子に会いに行こうと言ったら拒否していたのではないか?』
完全にその通りだ。
マリアンナは反論できず黙るしかない。
「…そんなに大事なことなの?」
『今のところはまだ大丈夫だ。
火の粉が降りかかる前に対策しろ、といったところか』
今のうちに伝えておかないと、王子に不利益になるということか。
シロは王族全体を守っているという感じではなく、大事なのは直接加護を与えた初代王とその魔力が似ているらしい第2王子だけのようだ。
『私はマリーを頼ってこの世界に連れてきた。
助けてくれたお前が困るようなことにはしたくない。
王子の質問には私が適当に誤魔化して答えよう。マリーはただ私の言葉を伝えるだけだ。
…つまり、王族相手に少々偽ってもマリーに責任はない。
そんなに心配するな』
「うん…お願いね!」
『ただ、マリーに祝福を与えたのは伝える。
それで私が見えるようになったことにしよう』
「わかった」
『さあ、もう遅い。早く寝るぞ』
「はーい。おやすみ、シロ」
布団の中で話していたマリアンナは、隣に寝ていたシロに額を摺り寄せた。
その日の必修科目が終わった後、マリアンナは昼食を急いで済ませてシロと一緒にクラウディオとの約束の場所に向かった。
学園の裏手に位置するその場所に向かうまで、だんだん影を薄くして人気のないところで姿を消す。
茂みに入ったところで魔法を解除して奥に進んだ。
「っ…殿下!お待たせして大変申し訳ありません!」
マリアンナは早めに来たつもりだったが、そこには既にクラウディオが待っていた。
「いや、人に見られないように来るのは大変だろう。気にしなくていい」
クラウディオがハンカチを広げようとするのを制して、マリアンナは持参した敷物を敷いた。
「こんなもので申し訳ありませんが、どうぞ」
昨日もクラウディオは地面に直接座っていたのだ。
一人だけハンカチの上に座って非常に居心地が悪かった。
「ああ、これはいいな。
…君も座るといい」
促されてクラウディオの横に座ると、マリアンナの膝の上にシロが乗った。
まるで守ってもらっているようで心強い。
「ずいぶん懐いているんだな」
「そうですね。もう長い付き合いになります」
何しろ生まれる前からの付き合いだ。
「あの、殿下。本日、殿下のご質問にはシロが全て答えます。
わたくしはシロの言葉をそのままお伝えする役目ということでよろしいでしょうか」
「ああ、そのほうが良いな。
ただ、本当にそのまま伝えているかどうか私には判断できないが…」
『その時は蹴りの一つでも入れてやろう』
「…違うことを伝えれば、蹴りの一つでも入れるそうです」
マリアンナは恨めしそうにシロを睨んだ。
「蹴り…ではシロの口調もそのまま伝えてくれないか。
どのように話しているのか知りたい」
「…決してわたくしの言葉ではないと理解していただけるなら…」
シロの口調をそのままとなると下手をしたら不敬で処分されてしまう。
「もちろんだ」
クラウディオの了解が取れたので、マリアンナはそのまま伝えることを承知した。
「ではまず、シロはどういう存在なんだ?」
予想していた質問だ。
マリアンナはシロが言うまま、ヒトに『精霊』と呼ばれ初代王に加護を与えた存在であることを伝えた。
「では王家にとっては神のような存在ではないか…!
…今までの無礼をお許しいただけるだろうか」
「『お前たちに敬われるのは好かん。これまで通りで構わない』」
「…そうか。…ありがとう。
ならば、私たちだけに君が見えるのは何故なんだ?」
「『王子は初代王と魔力が殆ど同じくらい似ている。初代は最初から私を認識したし話せたのだ。
だからお前もそのうち私の言葉が分かるかもしれない。
…マリーには私が祝福を与えたからな』」
「なぜ彼女に祝福を?」
「…『お前の魔力暴走を防ぐのに協力してもらったからだ』」
「どういうことだ?」
クラウディオはマリアンナに視線をやった。
「『私は王子が生まれ、魔力暴走を起こした時に永い眠りから覚めた。
それ以来溢れる魔力を少しずつ吸い取っていたんだが、私を認識できない者に直接干渉するのが難しいのだ。
成長して魔力も多くなったところで再び暴走した時に防ぐことができなかった。
だから、その時丁度近くにいて魔力の相性が良かった彼女に祝福を与えて私を認識できるようにし、彼女を通して私が暴走した王子の魔力を吸い取った』」
マリアンナはシロの言葉を伝えながら、なるほどそういうことにしたのかと聞き入った。
「…つまり、シロは私が生まれた時から護っていてくれて、彼女は私に巻き込まれたということか…?」
クラウディオは口元に手をやって呆然としていた。
「『まあそういうことだな。
…マリーは一度お前の魔力を通したことで体に負担がかかって死にかけた。
私の勝手で命の危機に晒してしまったから、こうして今は共にいて守っている』」
いやいや、魔力補給が一番の目的でしょうううう!
猛烈に突っ込みを入れたかったが、マリアンナはなんとか耐えた。
「私が今無事に生きているのは、シロと彼女のおかげなんだな?」
「『私が初代を思い出して勝手にやったことだ。王子が気にすることではない。
それに、今の話が本当かどうか判断できないだろう?小さい頃は私を認識すらしていなかったのだから』」
「いや、あの時他の者が入れないはずの離宮で確かに子どもの声を聞いた。
精霊が干渉し、子どもを…彼女を連れてきたということなら納得できる」
クラウディオはマリアンナに向かい合った。
「…私のせいで、死にかけるような目にあわせて申し訳ない。
君がいなければ今の私はなかっただろう。一時は自暴自棄になった時もあったが、今は生きていて良かったと思う。
君と、シロのおかげだ。本当に、心から感謝する」
クラウディオの金の瞳が、まっすぐにマリアンナに向けられている。
「い、いえ。シロも言った通り、シロが勝手にやったことです。
今は健康そのもので何の問題もありませんのでどうか気になさらないでください」
「いや、それでは私の気が済まない。
何かできることがあれば言ってくれ」
「いえ、シロがいてくれるだけで十分です」
これ以上あなたと関わらないのが一番助かります、とははっきり言えない。
「だが…」
『そんなに気が済まないなら嫁にもらってやったらどうだ』
「よっ…!」
マリアンナは余計なことを言うな、と言いかけて慌てて口を噤む。
「…シロは何と言った?」
「何も」
マリアンナの腹に軽い猫パンチが入った。




