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45.決意

「マリオ、私は本当はもっとマリオと一緒にいたい」


ディオの両手が、そっとマリアンナの頬を包むように添えられた。

視線を合わせるように、少し上に向けられる。


「だけど、父上や母上が、待っていてくれるんだ…っ

それはとても嬉しい事なのに、マリオと別れるのが辛い。


両方を手に入れることができなくて、心が、張り裂けそうだ」


ディオの目が、真っ赤になっていた。



「兄さま…私と、別れるのは辛いんですか…?」

「ああ」


「寂しいですか?」

「ああ」


「…もっと、一緒に…いたいって、」


すとん、と急に全てが頭に入って、一気に目が熱くなった。

目の前のディオが、ゆらゆらと揺らいではっきり見えない。


「っ、ああ」


次の瞬間、マリアンナの鼻がディオの胸にぶつかった。


「兄さまっ、兄さま!」

「ああ」


ディオの服が濡れるのも構わず、マリアンナの涙はなかなか止まらなかった。



「家族、仲…良く、ひっく…できそう、ですか?」

「そうだな、多分」

「よかった、っ、です」

「ああ、ありがとう」

「帰る、まで…一緒に、いてくださいね」

「たくさん甘える」

「…膝に乗せる、のは、なしっです」

「無理だな」

「あーん、する、のも」

「毎日しよう」

「……」


マリアンナがむっとして顔を上げると、ディオが優しく微笑んでいた。


つられてマリアンナも笑ってしまう。



「大好きです、兄さま」


「私も、これ以上ないくらい大切で、大事で、大好きだ。マリオ」



思っていた何倍もの言葉が返ってきて、マリアンナは恥ずかしさのあまり顔を見ていられず、もう一度ディオの胸に飛び込んだ。





***




「…大丈夫?」


ちゃぷん、とお湯が音を立てる。

久しぶりにマルグリットにお風呂に誘われて、一緒に湯船に浸かった。


「全然…大丈夫ではないです」


本当は寂しくて寂しくて泣き喚きたいくらいだ。


「そう…なら良かった」

「えっ?」


大丈夫じゃないのに良かったとはどういう事だ。

マリアンナは訝しげに眉を寄せた。


「大丈夫じゃない事を、ちゃんと言ってもらえて良かったわ」


マルグリットはお湯に濡れた手で、赤くなってしまったマリアンナの目元をそっと触った。


「辛いのに、辛いって言えずに抑え込んだら後でもっと辛くなると思って」


「…そうですね。もっとたくさん泣き喚けば良かったです」


「ふふ、マリーはそんな事しないわよ」


泣き喚いて行かないでと大騒ぎしている自分が想像できなくて、マリアンナはそうですね、と納得した。



「ディオが帰ったら…」


寂しくなりますね…


「寂しくなる間もないくらいみっちりとお勉強しましょうね!」


そっちでしたか!


「はい!よろしくお願いします!」


今はお別れだけど、またいつか会えるはず。

その時に、恥ずかしくない自分でいたい。


たくさん指導してもらおうと、マリアンナは気合いを入れた。



「そうだ先生、相談があるのですが、夜にお部屋にお邪魔していいですか?」



***



皆が寝静まった頃、マリアンナはマルグリットの部屋の扉をそっと叩いた。


返事もなく扉が開かれたので、少し不用心でないかと心配になる。


マリアンナは中に招き入れてもらう。


「どうしたの?」

「あの…兄さまに何か贈り物をしたいのですが、私の口座のお金って使ってもかまいませんか?」


2の月から6の月まで、マリアンナが納品した分のお金が入っているはずだった。

最初はマルグリットに何か贈ろうと思っていたのだが、状況が変わってしまった。


「あら、あれはあなたのお金なんだから、好きに使ってもらっていいのよ。

ただ…秘密にしておくのは難しいかも。

こんな時間にこっそり来るくらいだから驚かせたいのよね?」


問題はそれだ。

有言実行とばかりに、あれからディオはマリアンナを離さなかった。お風呂と寝る時以外はべったりだ。

お別れまでこの調子な気がする。


最初こそ顔を合わせるために行ったけれど、今は商会への納品ですらマルグリットか使用人に任せている。


そんな状況でマリアンナが出かけるとなれば…ちょっと考えたくない。


「空の魔石って、どのくらいしますか?

それに私の魔力を込めて…お守りみたいに渡すのはどうでしょう」


「あら、素敵ね!」


あわよくばマルグリットの家にあって、夜にでも即座に準備できそうなものといえばそのくらいしか思い浮かばなかった。


「だったらそうね…魔石はそこそこのものを用意して、ちゃんとしたお守りにするのはどう?」

「ちゃんとした?」

「ええ。魔力を込めるときに、魔法攻撃力が上がりますように、とか防御力が上がりますようにって念じるだけなんだけど」

「へー!」


RPGでよくあるやつだ。

アクセサリーに炎+10みたいな効果が付いているようなあれに違いない。


「その効果が付いてるかどうかって見て分かるんですか?」

「いえ、専用の魔導具に入れてみないと分からないわ」


思わず、がくっと転びそうになる。


「だからディオにはただの魔石だってことで渡しておいて、効果がうまくついてたら万々歳ってことで」


うまく付与できるかどうか分からないのでそれで良いかもしれない。


「効果を付けられる魔石って、やっぱり高いんですか?」

「効果が付いて、鑑定までされているものはもの凄く高いけど、ただの空の魔石だったらそれほどでもないわよ。

10万から15万ってとこかしら」


高いのか安いのか全く分からない。


「私の口座にいくら入っているかによりますね…」

「あら、最初の月はなぜか追加注文もあったし、ぎりぎり大丈夫じゃないかしら」


そう、初めて納品した薬が、なぜかすぐに追加をお願いされたのだ。

その時は分からなかったが次に実家に帰った時に判明した。


なんと父さまとおじいさまが自腹購入して来店してくれた人に無料で配っていたのだ。

私が初めて納品したお祝いだとか。


それが記念品として家に5本ほどあった。

記念品を使うのが勿体ないと言うので、半永久保存魔法をかけてあげたらしっかりと保管された。



記念として保管したい人ばかりだ。…私もだけれど。



「お金は後見人の私だったら代理で下せるし、魔石は私が見繕ってくるわ。

どんな効果をつけたいか考えておいてね。また夜に話しましょう」


「はい!お願いします」



兄さまが喜んでくれますように。



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