17.友人
新学期、マリアンナはいつものように1番に来て席を確認した。
6年生も無事に1番スタートだ。
ふふふ。
何だかんだ言って頑張りが報われるのは嬉しいものだ。
フィリップはもちろんオリヴィエも無事に特別クラスに在籍できていることを確認し、マリアンナは席についた。
「…おはよう、マリー」
「フィリップ様、おはようございます。
早いですね」
フィリップはおはよう、と言いながらマリアンナが座っている席を見て苦虫を嚙み潰したような顔をした。
「6年生も2位か…」
「ふふ。そう簡単には譲りません」
「二人ともおはよう」
「オリヴィエ、おはよう」
「早いな」
オリヴィエも席が変わるタイミングの日は早い。
オリヴィエは10番だった自分の席を確認して荷物を置き、マリアンナたちのほうに来た。
「…そういえば、夜会はどうだった?
楽しかった?」
マリアンナは二人が帰るまでばっちり見ていた。
あの後二人でダンスを踊り、オリヴィエは他の男性に誘われ踊っていたのも見た。
しばらく会場の雰囲気を楽しんだ後早めに帰ったようだった。
さすがにじっと見ているわけにもいかなくて、気が付いたらいなくなっていた。
「そうなの、聞いて!
初めて夜会用に着飾ったの…!夢みたいだったわ」
オリヴィエは頬を赤らめ当日の事を思い出しているようだ。
「フィリップが首飾りを贈ってくれて…
そうだフィリップったらその時に」
「オリヴィエ。その話は止めよう」
「やだフィリップ!いたのね!」
「おい」
何だか二人の距離が更に縮まった気がする。
「教室に入った時から見えてただろ」
「ふふ、冗談よ」
このままイチャイチャし始めそうである。
マリアンナは慌てて話を進めた。
「ああ!すっごく素敵だった…んでしょうね。
フィリップ様はオリヴィエに似合うものが分かっている、でしょうし。
とても美しかった…と思う」
実際目の前で見た美しいオリヴィエを、見たことが無いように言うのは難しかった。
マリアンナは突然言葉がたどたどしくなってしまう。
「うふふ、そう思う?」
幸いオリヴィエは変に思わなかったようで、機嫌よく笑った。
「そうだ、わたくし精霊の乙女を誤解していたかもしれないわ」
オリヴィエが突然真面目な顔で話し始めた。
「第2王子殿下とご結婚されたでしょう?
王命だから仕方なく結婚したと思っていたの。それで愛人を探して他の男性にも近寄ってるんじゃないかって」
思っていたより酷い言われようだ。
マリアンナは軽くショックを受けた。
「だけど殿下しか目に入っていないみたいな仲睦まじい様子で、他の男なんか少しも近寄らせない雰囲気だったわ」
「えっ…そう、なの?」
客観的に見るとそんな感じに思われているとは。
「ああ、私が挨拶した時なんかさっさと終わらせたい感じで素っ気なかった」
そこまで酷かっただろうか。
本当に申し訳ない。
「ごめ…いえ、きっと殿下を深く…愛してるんでしょう」
マリアンナはうっかり謝罪しそうになってしまった。
「そう思うわ。ダンスも王子殿下と王太子殿下とだけ踊って、あとはずっとお二人で過ごしていたし。
他の男が入る隙なんて少しもない感じで」
実はマリアンナは未だにクラウディオとアレクシス以外と踊ったことがない。
なぜ誘われないのか不思議で仕方ないのだが、実は愛好会の者が牽制し合った結果、誰かが抜け駆けしないようにお互い見張っていることをマリアンナは知らなかった。
「それは愛想のない嫌な女に見えませんか」
マリアンナはそんなつもりではなかったのだが、不安になってしまう。
「いいえ。わたくしにはとても優しく声をかけてくださったの。
…本当に心を奪われるような美しさで、あれでは男性も骨抜きになるのは仕方がないわ」
「骨抜きというか、あれは別格の存在という感じだな。
畏れ多くて気軽に近寄れないというか」
「そう!俗物的な感じではなくて、もっと高尚な感じなの。
実際お会いすると、安い嫉妬をしていたのが馬鹿みたいな気持ちになったわ」
「男たちは恋焦がれているというよりは崇拝しているに近い感じだった」
それは一体どんな存在だ。
マリアンナは二人に思いっきり突っ込みたいところだったがぐっと堪える。
何だか居た堪れない。
「えっと、フィリップ様はそんな風には思わなかったのですか?」
フィリップは、他の男たちはそんな感じだったという口ぶりだった。
「ああ、私はなんというか…マリーに似ていると思ったな」
「ふえっ?!」
予想外である。
マリアンナは思わず変な声が出てしまった。
「姿が似ているとかではなく、雰囲気が」
「た、例えば?」
今後の参考にぜひ聞いておきたい。
マリアンナは食い気味に聞いた。
「…君は、私の事を本当にただの友人だと思っているだろう?」
「は?そうですね。それ以外の何者でもありません」
「他の者はそうでもないんだ。
もちろん婚約者がいる相手にあからさまに近寄ってきたりはしないが、なんというか視線が違う」
「はあ…」
「自分で言うのも何だが、私はそれなりに見た目が整っていると思う。
それに家柄も悪くない。…他の女は熱いねっとりとした視線…まではいかなくても何かしらの感情を持った目を向けてくるんだが」
確かにフィリップは見た目がそれなりどころか非常に整っている。
侯爵家嫡男であって頭も良いし、魔力だって多い。
結婚は無理でも愛人を狙う者はいるかもしれない。
「そういう意味で、マリーと精霊の乙女はまったく同じ目をしていると思った」
それは何というかフィリップ限定すぎて気をつけようがない話だった。
「マリーと同じなら、精霊の乙女を嫌う理由なんてないわ。
むしろ大好きでしかないわね!」
「そうだな、どちらかというと好ましい」
理由はともかく、オリヴィエに精霊の乙女を受け入れてもらえたようでほっとする。
「えっと…それはつまり、二人は私のことが大好きってことですね?」
「当然よ!」
「大好きと言っては語弊があるが、好ましい友人だと思っている」
マリアンナは冗談で言ったつもりが、フィリップにまで素直に言われて照れてしまった。
「まあ!フィリップがここまで言うなんて相当よ。
マリー、もういい加減フィリップにも友人らしくしてあげて」
「…どういう意味?」
「フィリップを呼んでみて」
「え?フィリップ様…?」
「それよ!」
ビシッとオリヴィエが指を立てる。
「いつになったら『様』を外すんだ」
「え、外す予定はありませんが」
「その口調もいただけない」
「そうよ、仲の良い友人だと思っているフィリップが可哀想じゃない。
わたくしが許すからもっと気さくな友人らしくしてあげて」
精霊の乙女からいつの間にこんな話になったんだろう。
まさかフィリップの婚約者であるオリヴィエからもっと気さくにしろなんて言われるとは。
「……フィリップ…?」
マリアンナは恐る恐る呼んでみる。
「ふっ、いいな」
「うふふ」
二人が殊の外嬉しそうで、マリアンナは恥ずかしくて俯いた。
「ああー!やっぱり無理!呼び捨てなんて!」
「あら、酷いわ」
「酷いな」
「友人がお願いしているのにきいてくれないなんて」
「友人だと思われていなかったのかもしれない」
「フィリップ、元気を出して」
「はあ…落ち込む」
三文芝居が始まってしまった。
「わ、分かりました!
…改めてよろしく、フィリップ」
マリアンナは何とか声を絞り出した。
「ああ、よろしく頼む」
「ふふっ」
何故かよく分からないが、友人とより親密になれたようだ。




