52.夜会 3
マリアンナを送っていた近衛騎士が国王陛下に『精霊の乙女』が突然消えたことを耳打ちしていた頃、シロがクラウディオの元に転移してきた。
「シロ?」
『王子、マリーが襲われた』
シロがそれを告げた瞬間、クラウディオは素早く会場を後にし廊下に出るとすごい勢いで走り出す。
マリアンナの居場所を一瞬で探知したクラウディオはあっという間にその部屋に到着した。
半開きになっていた部屋の扉をバン!と音を立てて開く。
「…な…っ!」
そこにはマリアンナの胸でしくしくと泣いている令嬢と、困った顔でクラウディオを見るマリアンナ、そして気を失った男が2人倒れていた。
入口付近、クラウディオの足元でのびている男は泡をふいているようだ。
「いったい何が?大丈夫か?」
『マリーが襲われたが返り討ちにして男が2人倒れているがどうしたらいい、と言おうとした』
「あの、その人生きてますよね…?
突然後ろから口を塞がれたので加減が出来なくて」
「何?!」
クラウディオはマリアンナに駆け寄り、床に座ったままのマリアンナの背に手をやる。
抱きしめたかったがマリアンナに令嬢が縋りついているためそれ以上近寄れない。
「君は、レベッカ嬢…?!」
泣いているのはアレクシスの婚約者のレベッカだった。
「クラウディオ様!」
部屋の外でクラウディオを呼ぶ声が聞こえる。
突然飛び出してきたため護衛が探し回っていたようだ。
「ここだ!アイリスとレベッカ嬢も一緒だ」
クラウディオは廊下に向けて声をかける。
「アイリス、レベッカ嬢、立てるか?
とりあえず部屋を移動しよう。話が聞きたい」
クラウディオは護衛騎士に命じて気を失ったままの男たちを拘束させる。
「ん…?ノルディン侯爵…?」
クラウディオはマリアンナが生きているかと心配していた方の男に見覚えがあった。
「えっ!侯爵…?」
「ああ…兄上の元婚約者の父親だ」
「えっ!どうしよう…」
マリアンナは青くなった。
「『精霊の乙女』に手を出した罰だ。問題ない」
クラウディオは男たちに魔力を封じる手枷をつけて貴族用の牢に入れるように指示し、マリアンナとレベッカを連れて客室に移動した。
「陛下と兄上に伝えてくれ。できれば兄上にはここに来て欲しい。
それからレベッカ嬢の父君…オーリン伯爵も探してくれないか」
クラウディオは使用人に伝言を頼み、メイドにお茶を入れるように指示した。
「…落ち着いたか?」
お茶を飲んで一息つくと、レベッカも泣き止んで落ち着いてきたようだ。
「はい、取り乱してしまい申し訳ありません」
「レベッカ嬢、アイリス、大丈夫か」
「レベッカ!!」
「兄上」
アレクシスがオーリン伯爵を伴って部屋に入ってきた。
「王太子殿下、お父様、ご心配をおかけして申し訳ありません」
レベッカは慌てて立ち上がり二人に謝罪する。
「急にいなくなって心配した」
伯爵がレベッカに駆け寄り抱き締めた。
「一体何があった」
「騎士様にレベッカを送り届けていただいたのですが、馬車まで向かう途中に忽然と娘が消えてしまったのです。
色々探し回ったのですが全く見つからず…」
「わたくしは父の後ろを歩いていたのですが、突然後ろから口を塞がれあの部屋に連れて行かれたのです。
途中周りに人がいたのに誰もこちらに気が付かなくて、訳が分からずもうダメかと思ったところでアイリス様が助けてくださいました」
「離宮に帰る途中、突然妙な空間に入り込んでしまったのです。
精霊シロによると結界に入り込んでしまったようで、その中では護衛騎士にも姿が見えないようでした。
すると男女の争う声が聞こえて、慌てて助けに入りました」
「アイリス様はわたくしの口を封じようとした男を弾き飛ばし、ご自分に襲い掛かってきた男も一瞬の間に倒してしまったのです。
お美しい上にお強いなんて…」
レベッカはマリアンナを見て頬を染めている。
マリアンナは慌てて否定した。
「いえっ、あれは…その、精霊がわたくしを守ってくれたのです!」
『自分で加減が出来なかったと言ってたじゃないか。
あの男が急に体が痺れたように動かなくなって、泡を拭いて倒れたことに不安になって王子を呼べと言ったくせに』
マリアンナはシロをじろりと睨んだ。
「結界か…指定範囲に他の者が入っても認識できないようにするものだろうか」
クラウディオは場違いに笑いそうになり、話題を逸らした。
『ああ。マリーは相手の魔力をかなり上回っていたから結界を無視して入り込んだんだろう』
「後はノルディン侯爵が目を覚ましたら事情聴取しよう。
レベッカ嬢とオーリン伯爵は客室に泊まって行くといい…が、伯爵家のほうが落ち着くか?」
アレクシスの問いに、家族と過ごしたいということでレベッカは帰ることになった。
帰り際、レベッカはマリアンナに近寄りその両手を取った。
「あの、本当にありがとうございました。
アイリス様が来てくださらなかったら、わたくしどうなっていたか…。
それで、その…『お姉さま』とお呼びしても構いませんか?」
「は…っ、ええ?!」
マリアンナが返答に困っている間に、レベッカは「ありがとうございました、お姉さま!」と言い残し帰ってしまった。
どうやらマリアンナは『お姉さま』になってしまったらしい。
レベッカよりも年下なのに。
「レベッカ嬢はおかしな方向に目覚めたんじゃないだろうな…」
アレクシスの呟きが、やけに響いた気がした。




