35.精霊の乙女 1(クラウディオ視点)
長期休暇の最終日にあたる日、遂に『精霊の乙女』を証明することになった。
兄上の婚約発表が終わったばかりだというのに、重大発表として呼び出された貴族たちは何事かと思っているだろう。
初代国王の開かずの箱については、あれからシロが宝物庫に忍び込み文字を再確認してマリアンナに伝えたらしいので問題ないはず。
ちなみに宝物庫は王太后様と陛下、宰相が揃っていないと開かない仕組みになっているので事前にどうこうできるものではない。
今朝3人が揃って箱を持ち出し、その後は警護付きで宰相が誰にも触らせないように管理している。
今日、多くの貴族が集められたのは謁見の間だ。
数段上に位置する玉座に陛下が座り、そのすぐ下に私たち王族が並んでいる。
陛下に近い方から王妃、王太子、私、王女と揃っていた。
反対側には王弟殿下と宰相が並んでいる。
王太后様はマリアンナを任せているので後ほど彼女を連れてくることになっていた。
各貴族は王に近い方から公爵家、侯爵家と順に並んでいる。
周りには近衛騎士が所狭しと配置されていた。
「本日諸君に集まってもらったのは、わが国の今後に関わる重大な出来事があったからだ」
陛下の言葉に、謁見の間がざわついた。
事前に知らされていなかった兄上とソフィアも動揺しているようだ。
「精霊に愛され、その存在を認識し、言葉を交わす者が見つかり王家で保護した」
先ほど以上に騒がしくなった。
「そのような者をどうやって見つけたというのですか」
貴族から声が上がる。
「ここで詳細は伝えないが、その者が精霊に聞いた王家の危機を伝えてくれたのだ。
実際その情報により助けられた」
「おお」
「何ということだ」
「本当か?」
次々に声が上がった。
「本日は皆の前で精霊と意思の疎通が出来ることを証明し、証明できた暁にはその者を国賓として迎えることとする!
これへ」
陛下が扉を守る騎士に目配せした。
後ろの扉が開かれる。
まず入ってきたのは王太后様だ。
続いて入ってきたマリアンナの姿に、室内が一気に静かになった。
私の欲目かもしれないが、マリアンナはその存在だけで精霊に愛された者だと認識させる美しさがある。
今日はローブは纏っておらず、マルグリットがマリアンナのために仕立てたドレスを身に着けていた。
白銀の髪はハーフアップにされ、美しい髪が歩みとともに揺れ輝く。
伏し目がちの瞳は薄青で、その色に合わせたブルーのドレスは髪の色に合わせて銀糸で所狭しと刺繍がされていた。
薄くほどこされた化粧がマリアンナの美しさを更に引き立てている。
つい見惚れてしまっていたが、マリアンナの足元をトコトコついていくシロが目に入り我に返った。
「何だその動物は!どこから入った?」
しんとしていた謁見の間に、私の声だけが響いた。
ここからが私の出番だ。
前々から私も精霊を認識していたことが分かれば何かいらぬ疑いを持たれるかもしれない。
話し合った結果、私はこの場で初めて精霊を認識する事にした。
演技などしたことがないから自信はないが、どうか不自然でないことを願う。
「動物?」
「どこだ」
もちろん他の者はシロを認識できない。
「まあ、殿下は見えるのですか?
この子が精霊なのですよ」
マリアンナが可愛らしい声を出す。
普段と違って少し作ったような声なのは緊張しているのだろう。
マリアンナが屈んでシロを抱き上げた。
「精霊…?それが?」
信じられないものを見た…という表情ができているだろうか。
「殿下にも見えるというのか?」
「何と…」
「素晴らしいではないか」
「いやしかし…」
「静かに!まずはアイリス、皆に挨拶を」
「はい、王太后様」
マリアンナが皆の方を向き、シロを置いて綺麗な淑女の礼をした。
「アイリスと申します。皆様、よろしくお願いいたします」
にっこりと笑ったマリアンナに、皆が目を奪われているのが分かる。
…あまり見るな。
「クラウディオ、其方にも精霊が見えるのか?」
陛下から声がかかった。
「…ええ、それが精霊というなら…見えます」
『はー、とんだ茶番だな』
うるさい。
「おお、それは素晴らしい!王族の其方にも見えるというなら証明は必要ないかもしれないが…
折角準備したものがあるのだ。アイリス、皆に見せてもらっていいか」
「もちろんです、陛下」
陛下が宰相に指示を出す。
宰相が護衛の者を引き連れてマリアンナに歩み寄った。
布で包んでいた黒い箱を皆に見えるように掲げる。
「これは初代国王陛下が、精霊のために用意した贈り物だ。
これまで500年近く、誰にも開けることができなかった。
これより精霊の指示のもとアイリス殿に開けていただく」
箱がマリアンナに渡され、シロがマリアンナの肩に飛び上がった。
重さは感じていないようなので浮いているのだろう。
『箱に魔力を流しながら合言葉を唱えるんだ』
シロの言葉に頷いたマリアンナは、両手で箱を持ちそれを顔の高さに上げた。
マリアンナが魔力を流したのだろう、上部が金色に光る。
「《ひらけごま!》」
マリアンナが唱えたのは、これまで一度も聞いたことがない言葉だった。




