33.親との対面(クラウディオ視点)
「それで、婚約者の事で話というのは?」
クラウディオは王の執務室で父である陛下と2人きりになっていた。
2人で話がしたいと手紙を書いたのは自分だったが、魔力暴走の後呼び出された時のような緊張感がある。
「…私の婚約者の選定について、すぐに中止していただきたいのです」
クラウディオの婚約者については、アレクシスが選ばなかった候補がそのままクラウディオの候補になろうとしていた。
すでに調査等は終わっているため決めようと思えば即刻決まってしまう。
「…理由を聞いても?」
陛下の周りの空気が変わる。
部屋の温度が下がったようだった。
「既に心に決めた人がいます。
…彼女以外を妻に迎えるつもりはありません」
思えば父に自分の意思を伝えるのは初めてかもしれない。
一瞬空気が緩み、陛下の目が細められた気がした。
「どこの娘だ」
「陛下もご存じだと思いますが、幼い頃マルグリットの家で共に過ごした娘です。
…最近まで男の子だと思っていましたが」
「ああ、あの」
陛下が面白そうに笑った。
「だが彼女は平民ではないか。
マルグリットの家で養女にでもするつもりか?」
「いいえ。平民のまま国賓として迎えていただきたいのです。
彼女には、それだけの価値がある」
決して臆さないように、堂々と伝える。
兄上の婚約者は伯爵家の令嬢だが、マルグリットの家より格が下だ。
さらに実家が公爵家となれば兄上の婚約者にしたほうが良いなどと言い出す者がいないとは限らない。
「ほお…?」
それから精霊シロとの出会いとこれまでの事を伝えた。
…幼い頃に暴走を起こした際、精霊がマリアンナを連れてきたのは私の部屋だった事にして。
エドガーが見ていないことを指摘されれば、その時はシロと同様マリアンナの姿も見えなかったことにすれば良い。
「…それが誠なら確かに国賓として相応しい…が」
腕を組んで考え込んでいた陛下がクラウディオに視線をやった。
「精霊の存在を証明できるか?」
「…精霊に願えば、今この場に彼女を連れてきてもらうことも可能です」
「!そのようなことが可能だというのか?!」
初めて陛下が動揺を見せた。
マルグリットの家での話し合いの中で分かったことだが、シロが行ったことがある場所なら一緒に連れて転移するのは可能らしい。
シロを認識できる私とマリアンナに限るが。
「ええ。ですがこの方法は他の主要貴族に見せるつもりはありません。
国賓どころか危険人物にされそうですからね」
「いや、私にとっても一番の危険人物になりそうだが…」
「それはご自分の息子と精霊を信じていただくしかありません」
「…精霊を?」
「ええ。王家に加護を与えた精霊が、私たちに害をなすことはないでしょう。
…今は特に気に入りの私とマリアンナがいるため、他の者の益になるように動くつもりはないようですが」
『今は』どころか未来永劫そのようなことはないだろうが。
害をなすほど興味があるようにも思えない。
「そうか…」
「それから、他の者を連れて転移するのはかなり魔力を使用するようです。
私を助けてから何年も眠っていたらしいので、1度使えばしばらくは使えないでしょうね」
ついでに不利益になりそうなことについては釘をさしておく。
「まさか陛下は私やマリアンナを使って精霊を利用しようなどとは考えないでしょうが、精霊の怒りを買えば何が起こるか分かりませんからお気を付けください」
「そんな恐れ多いことをする訳がない!
…しかし、精霊はそこまで彼女を気にかけているというのか?」
「色々と巻き込んだ責任を感じているようですよ」
「…いいだろう。
精霊の証明ができれば、彼女を国賓として迎える。
そして本当に精霊に認められているのなら、利用するつもりはないが保護の目的でも目の届くところに置きたい。
そういう意味でもクラウディオの婚約者に迎えることは妥当な考えだ」
婚約者候補の選定については証明ができるまで保留とすることを伝えられ、クラウディオはやっと息をついた。
「今はアレクシスの婚約発表に向けて動いているからすぐには難しいだろうが、秘密裏に証明の場を整える。
母上と、私と…王妃にも来てもらおう。それで良いか?」
「はい、よろしくお願いいたします」
ようやく入口に立てた気分だった。
***
父上に報告してからすぐに、マルグリットに頼んでマリアンナの両親を呼び出してもらった。
マリアンナの両親、デニスとカミラは裏の家に立ち入ることはできないため、会うのは表の家になる。
私が表の家にいる所を見られないように、その日は使用人は排してもらった。
マリアンナがお茶を入れ、全員に配って私の隣に座った。
マリアンナの両親とは向かい合い、マルグリットは横に一人で座っている。
「それで、大事な話…というのは?」
私の事が気になるようで、マリアンナの父デニスがちらりとこちらに視線を向けた。
「はじめまして。私は、昔この家でマリアンナさんと一緒にお世話になったディオと申します」
一目で驚かせてはいけないと思い、今日は金髪碧眼に姿を変えていた。
「ああ!そうでしたか…」
マリアンナから色々聞いていたのだろうか。デニスが懐かしそうに目を細めた。
「実は、私がお二人を呼んでもらえるようにマルグリットに頼んだのです」
「何故…ですか?」
王族として申し込むのではない、一人の男として結婚を申し込む。
その状況に陛下と対面したのとは別の緊張感が生まれる。
「将来、マリアンナさんを私の妻に迎えたいのです。
どうかお許しをいただきたい」
手がじっとりと汗ばんでいた。
「いや、しかし…マリーは、マリアンナは平民です。
それに、結婚は…」
デニスが戸惑ったようにマリアンナを見た。
「父さま、母さま。私は兄さまが好きなんです。
私が結婚できる、ただ一人の人なの」
クラウディオは、ここで自分に会ったことは秘密にしてほしいと前置きして本来の姿になった。
その瞬間、デニスとカミラが飛び上がらんばかりに驚いたのは言うまでもない。
「おおお、おう、じ殿下…?!」
「そ、そんな…」
「ここで暮らしているときは身分を隠していました。改めて、第2王子のクラウディオです。
苦労をかけると思いますが、将来一緒に生きていけるとしたら、彼女しかいないのです。
マリアンナさんが金の瞳だからというのは関係なく、一人の女性として傍にいて欲しい」
「…あなた。マリーも望んでいるなら、私たちが反対することはできないわ」
「カミラ…」
デニスが姿勢を正した。
「王子殿下の申し出を拒否することなどできません。
…しかしどうか、どうかマリアンナが不幸になることだけはないようにお願いいたします」
「父さま…」
「もちろんです!」
それから、マリアンナを国賓の『精霊の乙女』として迎えることを説明する。
精霊についてはマリアンナから伝えてもらった。
「…私たちの娘は特別な子だとは思っていたが」
「単なる親ばかという訳ではなかったのね」
「マリアンナさんが在学中はその生活を守るため『精霊の乙女』は王族預かりとし、身元は隠したいと思います」
「それは願ってもないことです」
「卒業後もご実家が騒ぎになってはいけませんから、できる限り隠します」
それから今後起こりうることについて説明し、何があってもマリアンナの事は守ると約束した。
ここ最近では最大の精神的疲労だった。




