32.金の瞳
先日出会った第1王子殿下は、あれからお茶会が開かれ無事に婚約者が決定したそうだ。
少し会話しただけだけれど、魅了が残っている感じもなかったし元気そうで良かった。
「第1王子殿下の婚約者は思っていたより早く決まったのね」
マルグリットが疑問に思ったらしい。
マリアンナとクラウディオが婚約を決めてから、マルグリットの執務室に定期的に集まり話し合いをしている。
今夜はエドガーは夜勤のため来ていなかった。
「それが…本当に誰でも良かったみたいで…」
クラウディオが言いにくそうにしている事に気が付き、マルグリットがその言葉を遮った。
「話せないような事だったらいいわ」
「いや、婚約者候補と少し会話をしただけで、あとは魔力が合うかで決めてしまった」
「え?!そんな決め方なのですか?」
魔力が合うかどうかは重要らしいのでおかしくはないが、性格が合うとか色々あるのではないか。
マリアンナは思わず声を上げた。
「相手はまだ3年生だから、これから王妃教育は十分できる。父上もまだまだ健在だからな。
選択肢が限られていて、考慮するところがそのくらいしかなかったそうだ」
「そ、そうなのですか…」
「まあ兄上のことは良い。
6の月の長期休暇の間に、王族主催で夜会が開かれる。
そこで正式に兄上の婚約が発表され、おそらく同時に王太子となるはずだ」
マリアンナは頷いた。
「私たちが動くのはその後と思っていたのだが、私の婚約者の選定が始まってしまいそうなんだ」
「っ、はい…」
きっとそうなるのだろうと覚悟はしていても、マリアンナの胸が締め付けられる。
「そうなる前に、父上と母上には想う人がいることを伝えようと思う。
マリアンナも城に呼ばれることになると思うが…覚悟はいいか?」
クラウディオの、第2王子の妻になる覚悟。
「…望むところです」
クラウディオが表情を緩ませた。
「それで一つ思い出したことがあって、確認しておきたいんだが…」
「何でしょうか」
マリアンナは姿勢を正した。
「昔マリオだった時に、結婚はせず一人で生きていくと言っていただろう?」
完全に忘れていた。
マリアンナは息を呑んだ。
「あれはもう良いのか?…どうしてそう考えていたか聞いてもいいだろうか」
マリアンナはマルグリットに目をやった。
「あなたがいいなら話してもいいと思うわ。
…私は薬室にいるわね」
マルグリットが部屋を出て行き、マリアンナとクラウディオの2人だけになった。
「…マルグリットは、知っているのか?」
「はい。先生に魔法を習う切っ掛けだったんです」
マリアンナはごくりと唾を飲んだ。
「昔兄さまの暴走した魔力を吸い取って倒れた時、先生にお世話になりました」
「ああ」
「熱が下がった時、姿が変わってしまい先生に相談したんです」
「その時に、髪の色が変わったんだったか」
「はい」
マリアンナは髪を解き色を白銀に戻した。
今日は学園があったので姿を戻しておらず地味なマリアンナのままだった。
「今まで黙っていましたが、実は目の色も変わってしまいました」
驚かないでくださいね、と前置きして、マリアンナは眼鏡をはずし目を閉じる。
深呼吸をして瞳にかけている魔法を解き、ゆっくりと目を開けた。
瞳の色を見ようとしてマリアンナを覗き込んでいたクラウディオと至近距離で目が合う。
クラウディオはマリアンナの目を見たまま動揺を隠せないようだった。
「!…その、目は…」
マリアンナの瞳が金色に輝いている。
クラウディオは息を呑んだ。
「はい、王族でもないのに金の瞳になってしまいました。
平民と結婚して子どもに受け継いでは大変ですので、一人で生きようと決めたのです」
そう伝えた瞬間、マリアンナはクラウディオの胸に抱かれていた。
「…私のせいで、しなくてもいい辛い思いをさせてしまった。
ずっと姿を偽って生きるのは苦しかっただろう」
クラウディオの声が震えていた。
マリアンナはクラウディオの背にそっと手を回す。
「大丈夫ですよ。私は優秀でしたので」
何しろ目を開けるだけで設定した瞳の色に変えることが出来る。
今では寝ても髪の色が戻ることもない。
「そうか。そういえば『マリオ』は昔から妬けるくらい優秀だったな」
クラウディオはふっと笑ってマリアンナの頭を撫でた。
マリアンナは顔を上げ、クラウディオの金の瞳と目を合わせる。
「一人で生きると決めていたのですが、その…」
言おうとしていることが恥ずかしすぎて、マリアンナの頬が赤く染まる。
「に、兄さまとだったら、金の瞳の子が生まれても問題ないでしょう…?」
マリアンナにつられるように、クラウディオも赤くなる。
「すまない、マリアンナは苦労して生きてきたんだろうが…」
解いたマリアンナの髪を、クラウディオの指が梳く。
「君が、私だけのために存在しているようで…堪らなく嬉しいんだ」
「はい、私は兄さまだけのものですよ」
何しろ生まれた理由がクラウディオなのだから、間違ってはいない。
マリアンナが笑うと、再度クラウディオがマリアンナを強く抱き締めた。
「あー、あと何年もこのままか…」
「兄さま?」
「いや…大事にする。
だから、父上と母上に会ってくれるか?」
「はい。もちろんです」
マリアンナは再度力強く頷いた。




