ネコミミ晴子
「おーい晴子。新しいゲーム買ってきたから一緒にやろうぜ」
「お、マジで?」
部屋に入ると晴子が笑顔で出迎えてくれた。
俺の手にはとあるソフトが握られている。これはさっき買ってきた物だ。
「ほら。最新作だぞ。前からやりたかっただろ」
「いいね。そういやまだ買ってなかったっけ。さっそくやろうぜ」
「おう」
これは人気な対戦ゲームで俺も好きなシリーズの続編だ。
晴子も同じように気になっていたようで、嬉しそうに準備している。
だが俺はこれがやりたくて買ったわけじゃない。とある目的のためだ。
「オレが1Pな。春日は2Pでいいよな」
「どっちでもいいぜ。んじゃ起動するぞ」
ゲームを起動して画面が表示される。
操作して対戦を選択してから止まり、ある提案をすることにした。
「なぁ晴子。せっかくだから何か賭けないか」
「ん? なんだよいきなり」
「そうだな……勝った方が何でも言うこと聞くってのはどうだ?」
「マジでいきなりだな……」
そう。これがやりたかった。
俺の鞄には千葉から譲り受けたある物が入っている。
それを晴子に付けさせる為にソフトを買ってきたのだ。
既存のソフトだと晴子がやり込んでいるので勝ち目が薄い。だが新作ソフトならお互いにやったことが無いから実力は互角。十分勝てるはずだ。
なぜこんな回りくどいことをするかって?
直接言っても素直に聞いてくれないと思ったからだ。
少なくても俺なら拒否する。だから勝負に持ち込んで断りにくいように仕向けたのだ。
「さあどうだ? 勝負受けるか?」
「まぁいいよ。やってやるよ。その代わり覚悟しとけよ?」
よし。乗ってきた。
「でも勝った方の命令は絶対だからな?」
「いいぜ。春日には負けないっての。後悔するなよ?」
言質は取った。後は勝つだけだ。
そして戦いは始まった。
結果は――
「おっしゃ! 勝った!」
「くそぉ。あとちょっとで勝てたのに……」
あ、あぶねええええええええ!
ギリギリの勝利。もう必死だった。
「さーて晴子。約束は覚えているよな?」
「わ、分かってるよ。ったく。で? 何をやらせるつもりだ?」
「そうだなー。どーしよっかなー。んー」
「あ、あまり無茶苦茶な命令はやめろよ?」
「あ、そうだ。ちょっと待ってろ」
俺は鞄を引き寄せ、中を漁って目的の物を探す。
そしてそれを握り、晴子に前に出した。
「じゃーん。晴子にはこれを付けてもらおうか」
「……ッ! な、なんでそんなもん持ってんだよ!?」
俺が取り出したもの。
それは――『ネコミミ』だ。正確に言えば猫耳のカチューシャだ。
意外と出来が良く、毛まで付いていて手触りがいい。
「さぁ晴子。これを付けてもらおうか」
「お、お前まさか……最初からこれが狙いだったのか!?」
さすがに気づいたか。
だがもう遅い。
「何のことかな?」
「とぼけんな! そんなもの持ってなかっただろうが!」
そう。俺はこんなネコミミなんて買ったことがない。これは千葉から頼まれて貰ったものだ。
実は千葉が晴子のネコミミ姿が見たいとせがまれたんだよな。
ぶっちゃけ俺も一度見てみたかったし、なんとかして付けさせようと考えた。
その結果がこれ。対戦ゲームで勝てば何でも言うこと聞くという約束で付けさせようと思ったわけだ。
「ほーら。早く付けろよ」
「ふ、ふざけんな! そんなもの付けないからな!」
「これは命令だぞ? さっき言ったよな? 命令は絶対だって」
「そ、それはそうだけど……」
「晴子だって覚悟しろとか言ってたじゃんか。まさか自分がやられる度胸が無かったくせに勝負受けたのかー?」
「うぐっ……」
ふふふ。いつもからかってくるからな。その仕返しだ。
晴子はしばらく悩んでいたが、覚悟を決めたようでネコミミに手を伸ばしてきた。
「ほ、ほら! 貸せよ! やればいいんだろやれば!」
「はいよ。証拠として1枚写真とるからな」
「っ! 好きにしろ!」
よしよし。これでミッション完了だ。あとはデータを千葉に見せればいい。
「こ、これでいいか……?」
「おお……」
やばい。予想以上に似合っている。
ネコミミは見事に晴子と融合している。このまま仮装パーティに出れそうだ。
モジモジとしながら顔を赤くなっているのがまたいい。
とりあえず記念にパシャリ。
「あ、あんまり見るなよぉ……」
「なかなか似合ってるぞ」
「うう……なんでオレがこんな目に……」
しかし本当に似合っているな。
この仕事を引き受けて大正解だった。千葉に感謝しないとな。
滅多にない機会だ。もう少し弄らせてもらおう。
「も、もういいか?」
「いーや。まだだ」
「うう………………」
「本当に似合ってるぞ。いっそのことずっと付けたままにしたらどうだ?」
「………………」
「ほーれ。にゃーって鳴いてみろよ。にゃーって」
「……ふしゃー!!!!」
顔を引っかかれた。すげぇ痛い。
「い、いてぇな! なにすんだ!」
「春日が変なことさせるからだろ!」
「べ、別にいいだろ! これも命令だぞ!」
「うるさい! もうおしまい! 外すからな!」
「あっ……」
晴子はネコミミを強引に外して床に叩きつけてしまった。もったいない。
まぁいい。いいものが見れた。
写真も取ったし、これで満足かな。
とある日のことである。
俺は学校が終わり帰ろうとした時だった。
「ん? あれは……晴子?」
校内に晴子の姿が見えたのだ。
晴子は少し遠くで歩いていて、校舎裏に行こうとしていた。
なんとなく気になって俺もついていくことにした。
校舎裏に着くと、晴子は座って何かを触っていた。
「こんな所にいたのか。久しぶりだなブチ」
あれは……野良猫の『ブチ』だ。
ブチは人気者で学校のマスコット的な存在だ。
そんなブチを晴子が撫でているようだ。
丁度いい。俺も触らせてもらおう。
そう思い近づこうとした時だった。
「…………寒くないのかにゃ~?」
………んん?
なんだ今の声?
「こんな冬に外に居て寒くないのかにゃ~?」
…………は、晴子?
まさかあいつ……猫に話しかけてるのか?
「野良猫は大変だにゃ~? でもモフモフしてて暖かそうだにゃ~。けど夏は暑そうだにゃ~」
……………………
「いつも外に要るのに綺麗な毛並みだにゃ~。いつも手入れしているのかにゃ~?」
ブチの手を握って楽しそうにして続ける。
「大変そうだけどぉ、オレもがんばるからがんばれにゃん♪」
………………
………………
………………
………………あれは何なんだろう。晴子は何をしているんだ……?
言っておくが俺はあんなことしない。絶対しない。100%やらない。してたまるか。
けどなぜ晴子はあんな真似を?
晴子は元々俺自身でもある。
つまり俺もああいうことしたいと思っている可能性があるのか……?
心の奥底でそんな願望があるのか……?
………………
…………ないないない! 絶対ない! ありえん!
いくらなんでもあんな馬鹿なマネをするほど恥知らずじゃない。
罰ゲームでもない限り絶対やらない。してたまるか。
…………と思いたいが、今の晴子を見ていると自信が無くなる。
やはり俺にもああいうことしたい願望があるのか?
それとも元からああいう性格だったのか?
………………
………………深く考えるのはやめよう。
そうだ。あれは幻覚だ。幻聴だ。
俺は何も見ていない。聞いていない。
何かの見間違いなんだ。疲れているかもしれない。すぐに家に帰ろう。
気づかれないようにその場からすぐに立ち去り、今日のことは記憶から抹消することにした。




