063 時詠み
「いい声で鳴いてくれるじゃないか?もっと私を愉しませておくれ」
目の前の女がレイピアに付いた血を振り払いながら舌舐めずりする。
『ユイトさん!大丈夫ですか!?私達も応援に行きます!』
サクヤから念話が送られてくる、こっちの戦いを見ていたようだ。
『俺は大丈夫だ、そっちは村人の防衛と土人形の破壊に集中してくれ、考えがある』
刺された肩がジンジンと痛む、厄介な敵だ、しかし今の身体でも勝ち目がない事はない。
「さあ次は何処を突き刺してやろうかね?脚?それとも腕?じわじわと身体中穴だらけにしてやるよ」
女が瞬身のレイピアを構える、またスキルを使用する気だな。
『時詠み』
狩猟神の耳飾りに意識を集中する、周囲の景色がモノクロになり停止した、今俺が見ているのは現実の景色ではない、数秒先の未来だ。
「こっちだ!」
肩の痛みを堪えて咲夜を何もない空間に突き出す、次の瞬間女は咲夜の切っ先へと瞬間移動してきた。
「!?痛っ!感のいいやつだね!もう少しズレていたらやられていたよ」
瞬間移動した女は頬に咲夜の刃がかする、少しズレたか。
「何度も偶然は続かないよ!大人しく穴だらけになりな!」
偶然などではない、『時詠み』、狩猟神の耳飾りのもう一つ能力だ、数秒後の世界を使用者に見せる事の出来る強力なスキルだが精神力の消耗が激しい、気軽に使える物ではないがVRMMOでは何度もこのスキルのおかげでライバル達に勝利することが出来た。
「見えてるんだよ!クッ…」
再び女の姿が消えた、時詠みを発動させ瞬間移動した女が現れる場所にタイミングを合わせ斬りつける、が浅い、想像以上に鬼神化の反動で身体が動かない、振り抜いた刃は女の皮膚を切っただけだ、肉まで刃が達していない事が感触でわかった。
「お前…どういう理由かわからないけど私の技を見切っているね?」
「…こっちもギリギリなんでな、運が味方してくれた様だ」
「白々しいんだよ、でも体の動きがぎこちないね、どこか痛めているんだろ?」
聡いヤツめ、これで迂闊に瞬間移動は使ってこないだろう、時間がかかれば消耗している分こちらが不利になる、サクヤ達の方も土人形の数が多く手間取っているみたいだ。
「まだ試作品だけど使うしかないね、手負いでここまで手強いヤツだ、ここでしっかり殺しておかないとその内あのお方の脅威になるかもしれないからね」
女は胸の谷間から黒い魔核を取り出すと自分の切断された腕に埋め込んだ、土人形の物と似ているがそれよりも禍々しい気配が有る。
「あぁァァァァッ!!凄いよ…想像以上の力だ!これなら遅れを取る事も無いね、覚悟しな!」
切断された女の腕からは赤黒い触手の様な手が生えていた。




