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047 錬金術士のブローチ

朝霧の中、早朝のアイロンスティールの街を歩く、実際にいたのは1ヶ月程の間だったが随分と長くこの街にいた様な気がする。


ビズミスが居なくなって数日経つが街に混乱は起きなかった、むしろ活気づいている。


「こんなに朝早く大通りを歩くのは初めてだな」


「出店もまだ出ていませんしね、あっ!パン屋さんは開いてるみたいですよ?いい匂いがします」


クンクンと鼻をならすサクヤ、相変わらずだな。


「寂しい、でもこれでいい」


昨日の内に別れの挨拶は済ませてきた、みんなには明日街を出るとだけ言っている。


黄昏の巨人亭の女将さんにも昨晩宿泊代を精算してもらい明日は早く出るからと別れの挨拶を済ませた。


街の出口に近づくと大勢の人影が見えた、まさか…


「ちょっとアンタ達!こんな時間に出るなんて見送りもさせてくれないつもり?」


人影の真ん中でタリアムが仁王立ちしていた。


「タリアム!?何でこんな早くに?」


「私だけじゃ無いわよ?どうせこんな事だろうと思ってアンタ達を張ってたの」


タリアムの横でカッパーさんが頭を掻いていた、全然気づかなかったぞ、流石は王家の密偵だ。


「参ったな、出発が辛くなるからこっそりと出ようと思ってたのに」


辺りを見ると知った顔が意地悪な笑顔で俺達を囲んでいた。


ガリアムさん、カッパーさん、女将さんに出店の店主達、騎士団の騎士達は整列して道を作っている、ゲッ!またあのメイドさんだ!でも今日は会えてちょっとだけ嬉しいな。


鼻水をすする音が聞こえたので横を見るとサクヤが顔をぐちゃぐちゃにして泣いていた、普段感情を見せないアイギスも目に涙を浮かべてる。


「これ、受け取って頂戴、サクヤとアイギスも」


タリアムは俺達に花の形をした銀色のブローチを手渡す。


「これは?ライムブラスの花?」


「そうよ、それと…やっぱりなんでもない!」


タリアムは何かを言おうとして途中でやめた、なんだったんだろう?


「アンタ達なら大丈夫だろうけどザラキマクまで気をつけて行くのよ」


「ありがとう、みんなの事は絶対に忘れない」


「バカね、転移魔法陣が完成したら距離なんて関係なくなるわ、いつでも会える様になるわよ」


タリアムも目に涙を浮かべ震える声で強がっている。


「そうだな、また会おう!みんなもだ!」


「この街の英雄!3人の旅人に敬礼!!」


団長らしき男の掛け声で騎士達が敬礼する。


俺達は何度も何度も振り返りながらアイロンスティールの街を後にした。


街が見えなくなった頃ふと気になった事を思い出す。


「タリアムのヤツ何を言いかけたんだろうな?」


「ユイトさん、それ本気で言ってます?」


「サクヤ、諦めるべき、主さまはにぶちん」


太陽はすっかり昇り草原に咲き誇るライムブラスの花を照らしていた。

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