343 灯台の灯
アレプデスへ近づくにつれ気温が低くなってくるのがわかる。海は荒れ雪の混ざった風が吹き荒ぶ。冬の嵐とでもいうのだろうか、この天候ならば普通の船は半日と持たずに海の藻屑になってしまうだろう。
「シノーペさんは方角がわからなくなったら灯台の灯を目指せって言ってたけどアレがその灯台か?」
遥か遠くに小さく灯が見える。よく目を凝らすと灯台の下に薄っすら陸地も確認できた。どうやら迷子にはならなくて済んだらしい。
「今までは新しい街に着く前はワクワクしてたけど今回はそんな悠長な事も言ってられない」
『灯台に灯がともってるって事はまだ街は無事なんじゃないですかね?きっとそうに違いありませんよ』
俺の不安を感じとったのがサクヤが念話で語りかけてきた。確かに街が壊滅しているなら灯台の灯は消えているだろう。まだ街は無事だ、そう自分に言い聞かせる。
「テミスは何か感じ取れないか?どんな些細な事でもいいんだ」
『そうね、アレプデスはまだ無事と考えて大丈夫と思うわ多くの気配を感じるもの。だけど…』
「どうした?何か気になる事があるのか?」
『弱ってしまって今にも消えそうな気配も沢山感じるわ。きっと襲撃に巻き込まれた人達じゃないかしら…他にもアレプデスから少し離れた所にドラゴンの気配も感じるの、あまり楽観的な状況じゃないのは確かね』
「今現在街が襲われてるって訳でも無さそうだな…それなら…」
鬼神化を使おうとしたがドラゴンロックでの事を思い出してしまう。あの時は自分の内にあるドス黒い感情に支配され仲間を…大切な人達を傷つけてしまった。もしまた自分自身を制御できなくなったら…そんな恐怖が鬼神化を躊躇させた。
『大丈夫ですよ、ユイトさんは私達が守ります』
『主さまは自分の力を思う存分使うべき、どんとこい』
『アンタがまたおかしくなったらぶん殴ってでも私達が止めてあげるわよ』
『早くアレプデスに着ければそれだけ救える命がある筈よ、お願いユイト君。自分の力に臆病にならないで』
『鬼神化すればそれだけ早く街に着ける。ユイト…ボクの依代も誰かを救う力になりたがってる』
『案ずるでないユイト、余の主たる其方が闇の力に呑まれる筈がないではないか?闇を統べる余が保証する!』
「皆して言いたい事を言ってくれるな…でもその通りだ。俺は俺自身の力に臆病になっていた…いくぞサクヤ」
『はい、いつでもOKですよ』
『鬼神降臨!!』
身体中に力が溢れてくる。それにいつもと違うのは仲間達の、サクヤ以外にも5人の想いが俺の力になっている様な感覚だ。
「行くぞ皆!一人でも多くの命を救うんだ!全力で飛ばすぞ!!シークは俺の懐に入ってくれ!」
「クェーッ!!」
これ以上速度を増すとシークを置き去りにしてしまう。俺の言葉を聞いたシークは一鳴きするとスルスルと月下の外套の中へと滑り込んできた。間違えて潰さない様にシークの周囲にイージスを展開し衝撃から守る。
吹き荒ぶ暴風など問題にならない、今はひたすら灯台の灯を目印に真っ直ぐに飛ぶ。俺達は先程までとは比べ物にならない速度でアレプデスへの空路を急いだ。




