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340 忖度

満足そうに笑顔を浮かべたラッカさんが飲みかけていた紅茶のカップを食卓に置き小さく溜息をついた。そうだ、なぜ王都にいる筈のラッカさん達がこんな場所にいるのだろう?


「アレプデスの事を知ってるんですね?俺達はオウルさん達に届けられた冒険者ギルドからの命令書を見て助けに行く途中なんです」


オウルさんとシグマさんに届いた命令書。それにはアレプデスが襲撃にあった事が記されていた。


「やっぱりそうだったんだね。私達もアンタ達と同じ理由さ、二週間ばかり前アレプデスの代表から陛下宛てに救援要請の親書が届いた。それで私が兵士達を率いて救援に駆けつける事になったのさ」


「奥様はグランズ王国の公爵夫人であると同時にS級の冒険者としても勇名を響かせております。どのみち誰かが救援に向かうならと陛下に自分が救援部隊を指揮すると申し出たのでございます」


「やっぱりそうでしたか。じゃあラッカさんの所にもギルドからの命令書がきたんですね?」


S級冒険者であるシグマさんとオウルさんにはアレプデスの救援に向かう様に命令が下されていた。元々自由気ままな冒険者に対して命令が出される事は滅多に無いという話だったがラッカさんも2人と同じく最高位のS級冒険者、同じ内容の命令書が届いたのだろうか。


「いや、それが私の所には命令書は届いてないんだ。多分私の公爵夫人って地位を気にして変に気を使ったんだろうさ」


「ならなんでラッカさんが救援部隊を率いる事になったんですか?ギルドから命令は出てないんですよね?」


「だって腹が立つじゃないかい!?王都にいた他の高位ランク冒険者には皆命令が出されてたんだよ?それなのに私には忖度して何の知らせも無し。私はそんな風に立場や権力を傘にして自分がやるべき事もしない様な卑怯者が大嫌いなんだ!」


興奮したラッカさんがバン!食卓に拳を叩きつける。びっくりしたルナがデザートに出されたクッキーを地面に落としてしまった。うちのダークムーンプリンセスはかなりのビビリ症の様だ。


「それで奥様は陛下に直談判されたのです。冒険者ギルドがお呼びで無いならグランズ王国の貴族として自分がアレプデスの救援部隊を率いると…」


「それは何と言うか…ラッカさんらしいですね…」


絵に書いた様な自由奔放。それがラッカさんのラッカさんたる由縁だ。確かにこの人に対して変な忖度をしても逆効果、この公爵夫人はそんな風に特別扱いされる事を何より嫌う。


「その後私が調べたところ一部の貴族が冒険者ギルドに圧力をかけて奥様に出された命令を取り消させていた事が判明しました。大方奥様の性格も知らずに後々恩を売るつもりだったのでしょうが…この事はくれぐれも奥様には内密にお願いします」


無くなった紅茶のお代わりを注ぎながらペーギさんがそっと俺に耳打ちしてきた。確かにこの事が本人ね知られたらその一部の貴族は大変な目に合わせられるだろう。

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