317 剣閃を超えて
「私…達?」
「えぇ、ユイトさんに元に戻って欲しいと願っているのは私だけではありません。今のユイトさんを見ればきっとアイギスちゃん達だってユイトさんを元に戻そうとする筈です」
「それはマズイぞ!今の俺は誰かれ構わずに傷付ける!もしアイギス達が今の俺に近づけばきっと…くそっ!早く逃げる様に伝えないと!」
再びスクリーンに映し出された光景に目をやるともう1人の俺はまだ頭を抱え苦しんでいた。
「私も何度もアイギスちゃん達に呼びかけてみましたが無駄でした…どうやら今の私の声は外に届かない様です。それに逃げる様に伝えたところできっとアイギスちゃん達は逃げませんよ」
「どうしてだ!?今の俺に近づくなんて自殺行為だぞ!?あのシグマさんですらもう1人の俺を止める事は出来なかったんだ!」
「私やアイギスちゃん達にとってユイトさんがかけがえの無い存在だからです。アイギスちゃん達は何がなんでもユイトさんを元にもどそうとします…あっ!アレはルメスちゃん!?」
サクヤが驚きの声をあげる。どうやらサクヤにも外の光景が見えている様だ。
「ルメス!何を考えているんだ!?こっちに来るんじゃない!逃げろ!!」
スクリーンにはモンスターの海を割ってもう1人の俺に駆け寄って来るルメスの姿が映し出されていた。手には短い刀の様な物を持っている。
「声は届かないか…それにあの短刀はどこかで見た覚えが…まさか!?破邪の短刀か!?」
何故ルメスがMMORPGのアイテムである破邪の短刀を持っているかは分からない。あのアイテムはどんな状態異常も治せる効果があった筈だ。ルメスは俺に破邪の短刀を使おうとしている。
「待っててねユイト!今元に戻してあげるからさ!」
「ルメスか…チョロチョロ動きまわるしか能の無いクソ雑魚が!」
もう1人の俺が咲夜を握り締める。ルメスの接近に気付いてしまった様だ。幾らルメスの動きが疾くても今の俺の身体に近づくには危険すぎる。頼む、俺の身体よ、もう少し、もう少しだけ俺の言う事を聴いてくれ。
「止まれ!止まれぇぇぇっ!!」
「ガァァァァッ!!痛ぇ!邪魔すんじゃねぇよこのクソ主人格サマがよぉ!大人しくコイツが血塗れのバラバラ死体になるのを眺めてやがれ!」
俺の抵抗は効果はあった様だ。もう1人の俺は再び頭を抱え叫ぶ。しかし手に咲夜が握られたままだ。俺の身体は叫びながら滅茶苦茶に咲夜を振り回し始めた。
「やめろぉぉぉぉっ!!ルメス!こっちに来るな!」
吹き荒れる剣閃の嵐を掻い潜りルメスが近づいてくる。そして…
「ハハハハハ!どうだ!?テメェの大切な仲間が1人死んじまったなぁ!?」
スクリーンに映し出された映像には咲夜によって首を跳ね飛ばされたルメスが映し出されていた。




