309 破魔の短刀
「…と思う?それってどう言う意味よ!?」
テミスが僕の胸倉を掴み睨みつけてきた。炎の様に紅い瞳が怒りに染まっている。
「僕もこの破魔の短刀を偽核に使った事はないんだ。だから効果を保証する事は出来ない」
「…ツッ!!なんなのよそれ!アンタなんか助けたく無かったけどユイトを元に戻せるって言うから助けたのに…こんなの詐欺じゃない!」
僕の胸倉から手を離したテミスが力なくその場にうずくまる。彼女のそんな姿を見て少し心が痛んだが仕方ない、効果を保証出来ないのは事実なんだ。
「テミス、泣くのはまだ早い。MMORPGで主さまがこの短刀を使っているのを見た事がある。確かこの短刀は…」
「私も覚えているわ。破魔の短刀、確かどんな呪いや状態異常でも一度だけ解除する事ができる短刀だったと思うんだけど」
メリッサが破魔の短刀を手に持ち入念に確認をする。彼女の言った通りだ、この破魔の短刀にはどんな強力な呪いや状態異常も解除する事が出来るMMORPGの世界のアイテムだ。
「メリッサの言った通り破魔の短刀を使えば多分鬼ぃさんを元に戻す事は可能だと思う。だけど効果が確実じゃない事以外にも問題があるんだ…」
「MMORPGのアイテム…賭けてみる価値はあるわね。それでもう一つの問題ってなんなの?」
テミスが涙を拭い立ち上がる。アイギスとメリッサの話を聞き希望を見出した様だ。
「偽核の力は強力だ。さっきも言ったけど鬼ぃさんを元に戻す為には直接胸の偽核に破魔の短刀を突き刺ささないといけない。今のとんでも無い力で暴れ回る鬼ぃさんの胸に有る偽核にね」
僕はレブの下僕達を相手に大立ち回りを繰り広げているユイトの方に目を向ける。丁度乗用車程の大きさのカマキリの姿をしたモンスターが数匹身体をバラバラにされ吹き飛ばされているところだった。やはり今の彼は危険過ぎる、その圧倒的な力は先程僕も身をもって思い知らされた。
「今の主さまは危険。きっと私達でも近寄れば攻撃されてしまう」
「それでも…それでもやるしか無いよ。短刀を突き刺さすのはボクにに任せてもらえないかな?多分皆の中じゃボクが1番素早く動けると思うんだ」
「確かにルメスちゃんが適任ね。でもルメスちゃんでも何の作戦も無しに今のユイト君に近づくのは危険過ぎるわ」
ルメスと呼ばれた少女。彼女は確か神靴ヘルメスの化身だった筈だ。
「ならば余がユイトの隙を作り出そう。今のユイトが相手とて我が幻影の術を使えばルメスが近づく隙を作る事くらいできようぞ」
彼女達は本気だ。確実にユイトを元に戻せる保証も無いのに命懸けで彼を元に戻そうとしている。




