第19話
結局、まりが約束の公園に辿り着いたのは夕日がちょうど沈む頃となってしまった。
一旦家に帰ってそれなりの告白練習を鏡の前で繰り返していたのも原因だが。
とにかく、まりは奥井龍一にこれから告白する。
自分の想いを伝えるのだ。
奥井龍一は何処に居るだろう。
そんなに広くない公園だが、姿が見当たらない……?
まりがきょろきょろと公園の入り口で辺りを見渡していると。
首筋に突如冷たい感覚が走った。
「ぎゃっ!」
「相変わらずの反応だな。定番すぎて笑いそうだ」
驚いて見上げると、奥井龍一が缶コーヒーを片手にクールに立っていた。
ここで敢えてまた説明しておくが、知る人が見れば奥井龍一自身はかなり笑っているそうだ。
(by鼻宛レンズ)
「お、奥井君! びっくりするじゃない!」
まりの抗議にもどこ吹く風。
奥井龍一は缶コーヒーのドリップを開けると飲み始めた。
(って私にくれるんじゃないのかい!)
まりはそう心の中でツッコんで逆に気持ちが落ち着いてきた。
「奥井君、あ、あのね!」
「ん? 何だ」
「えっと、えっとね」
言いながらまりは地団駄を踏みたい気持ちになってきた。
気持ちは落ち着いてきたはずなのに、鼓動は段々速くなってきた。
そしてさっきからまりの口から出る言葉と言えばしどろもどろでなかなか本題の告白に繋がらない。
そんなまりの様子を静かに見守ってくれているのか、奥井龍一は何も言わずにいた。
暗さに相まって瓶底眼鏡の奥も窺えない。
(あー! もう何で何で肝心の言葉が出てこないの!)
「華井」
「えっと、待って! 今ちゃんと言うから! お願い!」
「分かったから落ち着け。呼吸も整えろ。そのままじゃ過呼吸になるぞ」
「だって、だって!」
泣きそうになりながらまりはどうにか言われた通り呼吸を整えた。
だが胸の鼓動は益々速まるばかりだ。
その時だった。
風が強く吹いて二人の間を抜けていった。
「痛っ」
目の中に埃か砂でも入ったのかまりは小さく声を上げた。
「こするなよ、余計にひどくなるぞ」
「でも、痛い」
「顔こっちに向けろ。見てやるよ」
涙目になってぼやけた視界がぐいっと向きを変えられる。
何と奥井龍一がまりの顎を持って顔を近づけてきたのだ。
「っ!」
奥井龍一の顔が目の前にある。
もうまりの心臓はおかしくなりそうなくらい跳ねている。
「眼鏡取らないと分からないな。でも」
そこで奥井龍一は言葉を切った。
「やっぱり華井の瞳は綺麗だな」
(ああ、もうもう……!)
まりはバッと眼鏡を取った。
そして大事なはずの伊達眼鏡を地面に叩き付けた。
奥井龍一はまりの突然の行動に目を丸くして見開いている。
「奥井君!」
「……ああ」
数拍置いて、奥井龍一が静かに答える。
まりは大きく深呼吸をして叫んだ。
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