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剣を奪われた「剣聖」、「農夫魔導士」になる~農夫なので王都の支配者を雑草として間引きします~  作者: 赤木典子


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13.ギデオンとレイ

R15の残酷描写が含まれる場合がありますのでご注意ください。

 王都の外れ、北倉庫からは離れた森の入り口。 クリスティーヌ、助け出された子供たちや魔導士たち、そしてレイ。全員が息を切らしながら、土の上に座り込んでいた。




「……助かった、のかしら」


クリスティーヌが、掠れた声で呟いた。


「ギリギリだったね。トビーのやつ、まさか自分の命を計算に入れるとは……。計算高いやつほど、最後に感情で動くと手がつけられないよ」


ウルスラは疲れ切った様子で、再び煙管(キセル)に火を灯した。




「……先生、ありがとうございました。また、借りを作ってしまいましたね」


「ふん、出世払いな。あれを持たせておいてよかったよ」


ウルスラは突入前、レイに追跡監視の魔道具を持たせていた。その場の、音声だけを送る魔道具である。

「……だがレイ、これではっきりした。ギデオンはもう、ただの剣士じゃない。あいつは、魔法を馬鹿にしていながら魔力供給網(マナ・ライン)を使って王都の魔力を吸い上げて自分自身の糧にしている。あんなのと真っ向からやり合うなら、あんたの魔法を、もう一段階『耕す』必要があるね」


レイは静かに立ち上がった。 かつての宿敵が公然と姿を現し、魔導士たちの抵抗も明らかになった。もはや、レイも隠れて過ごす必要はない。


「ええ。……収穫の時期に備えなければ」


そこには、先を予想する剣士の目と、農夫の目線、そして新たに手にした魔導の光が混ざり合っていた。


 最期にトビーが放った禁忌の術式「崩壊(自爆)」は、北倉庫を破壊した。

レイたちも、ウルスラに助けてもらっていなかったら......考えるだけでも恐ろしかった。




     *




 崩壊の嵐の中、ギデオンは逃げなかった。結局、鎧の魔力のおかげで彼にはかすり傷一つつかなかった。


「……トビー。己の欲に負けたか」


ギデオンは冷徹な言葉と共に、手にした剣を、崩壊しつつある「床」へと深々と突き立てた。


彼の剣は、王都を巡る巨大な魔力供給網(マナ・ライン)と接続できるようになっている。 ギデオンが剣を媒介に「命令」を下すと、王都全域から膨大な魔力が逆流し、彼の剣や鎧は魔力の壁をまとう。


たくさんの破片がギデオンの周りに飛ぶが、結界が張られているかのように彼には一つも当たらない。彼の周囲だけがやけに静かだった。


北倉庫が完全に消滅した瓦礫の山から、白銀の鎧を微塵も汚すことなく、ギデオンは静かに歩み出た。


とはいえ、彼が無傷で生還した代わりに、王都全域の街灯が消え、街の維持のために稼働していた街灯などの魔導具が次々と停止した。ギデオンの剣と鎧が、都市の生命線である魔力を強引に奪い尽くしたからだ。


「……レイ。貴様は古臭い魔導士の魔法で生き延びたが、この国はすべてを犠牲にして私を救ったのだ。……どちらが『支配者』にふさわしいか、考えるまでもない」


ギデオンはこれまで築いてきた自分を守るための魔力供給網(マナ・ライン)に満足していた。いざというときは思惑通りに自分を守ってくれた。


暗闇に包まれた王都で、ギデオンの剣と鎧だけが、奪い取った他者の魔力のおかげで不気味に輝いていた。




         *




 公式には倉庫の爆発事件をレイと不満分子の魔導士による「国家への反逆」としたギデオンは、トビーを「名誉の戦死」とし、当面、筆頭魔導師を生き残ったマチルダが務めると発表した。そしてそれと同時に王都全域に戒厳令を敷いた。


 街の至る所に重装騎士が配備され、魔導士が見つかれば老若男女問わず「再教育」の名目で収容所へと送られる。ギデオンは自らを「国王の守護者」へと祭り上げ、恐怖による独裁体制を完成させつつあった。


 国王のカストール・オ・デ・ラヴァリエールはギデオンに言った。

「ギデオン。必ず余を守れ。そのためには何も惜しまん。いいな」


 カストールの隣でギデオンはその豪華な剣を研ぐ。剣は、王都を巡る魔力供給網(マナ・ライン)と接続されることで、都市全体の魔力を吸い上げていた。




「……レイ。貴様が土にまみれて手に入れたちっぽけな魔力など、この圧倒的な力の前では微塵の価値もない」


ギデオンの瞳は、勝ち誇った支配欲でいっぱいだった。






      *






 一方、ウルスラの隠れ家は、かつてないほどの濃密な魔力に包まれていた。 地下の最深部。光すら届かぬ岩室の中で、レイは上半身を脱ぎ、静かに胡坐をかいていた。


「いいかい、レイ。ギデオンの剣は、もはやただの武器じゃない。王都の魔力を吸い上げ、周囲の魔導回路を強制的に止めてしまう。……普通の魔法を撃ったところで、あいつの剣に食われるのがオチさ」


ウルスラが煙管(キセル)を置き、レイの背中に話しかけた。




「あんたがすべきなのは、魔力を『放つ』ことじゃない。あんた自身の身体を、そして周囲の空間そのものを、あいつの剣が干渉できないほど強固な空間に書き換えよう」


「……干渉できない空間、ですか」


「そうだよ。 荒れた土地をただ耕すんじゃない。いい畑にしたいなら、肥料を混ぜ、微生物を育て、外敵を寄せ付けない豊かな土地にするもんだろう。それをあんたの魔力で作り上げるんだ。……剣士としての『間合い』を、魔法の『空間の支配』へ変えるんだ」




 その修行は根気のいるものだった。 ウルスラによる、不規則に法則が変わる攻撃魔術。それをレイは、自身の周囲だけという限定された空間の中で、魔力の密度を高めることで「無効化」する。


剣士として培った瞬発力。 農夫として培った予測できない現実を受け入れる心。


33歳の肉体は悲鳴を上げ、かつての古傷が疼く。満足に歩けない日もあった。だが、レイの瞳はかつての御前試合の時よりも意欲に満ちていた。




「……クリスティーヌ。私の今の魔力、どう見えますか?」


休憩中、レイが傍らで資料を整理していたクリスティーヌに尋ねた。 彼女は、レイの身体から立ち上る魔力の揺らぎを見つめ、溜息をついた。




「……信じられないわ。今のあなたの周りでは、そこだけ世界の法則が書き換えられているみたいに、魔法がものを言わない。……これなら、ギデオンの暴力的な魔力さえも、あなたの『空間』に入った瞬間に、ただの風に変わるかもしれない」


「……なら、いいんですが。もう少しです。収穫には、まだもう少し時間が必要だ」


レイはタオルで汗を拭い、再び岩室へと戻った。 彼の頭の中にあるのは、もはや剣術の型ですらない。 どうすれば、あいつの剣が纏う魔力を包み込み、大地へと戻せるか。




 ギデオンが座る「玉座の隣」と、レイが耕す「光の届かない岩室」。 対照的な二つの力が、王都の地下でもごもごとその時を待ってうごめいていた。



最後の戦いに向け、力を蓄えます。


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