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剣を奪われた「剣聖」、「農夫魔導士」になる~農夫なので王都の支配者を雑草として間引きします~  作者: 赤木典子


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12.トビーの算術教室(後)

R15の残酷描写が含まれる場合がありますのでご注意ください。

 ズゥゥゥゥゥン!!




 倉庫の正面壁が吹っ飛んだ。 白煙の中から現れたのは、重厚な白銀の鎧を纏い、豪華な装飾を施された剣を構えた男。 騎士団長、ギデオン。その背後には、精鋭の重装騎士たちが整然と並んでいる。




「……小賢しい術比べは終わったか、トビー。お前のその『計算』が、いつまでもあの男に通用すると思っていたのか?」


「ギ、ギデオン様……なぜここに……!」


「ふん。お前の動きがおかしなことくらい、最初からわかっていたぞ。下手な小細工を」


 ギデオンはさも、見通してたかのように言った。実際は、用心深いギデオンがトビーの元にもこっそり自分の配下を忍ばせていたから筒抜けだったのだが、そんなことはおくびにもださなかった。


 ギデオンは一歩、また一歩とレイに近づく。その一歩ごとに、床が剣と鎧の重さに軋む。


「マチルダの私邸での失態、そして今の無様な負け犬の姿。……魔導士とは、どこまで行っても剣士にはかなわないと、これで思い知っただろう」


 ギデオンは剣をレイの方へと向けた。 「レイ・アカツキ。貴様が土をいじっている間に、…私は『剣』を極めた。魔導士の策の助けなどいらん。貴様は、私が切る」




(魔導士を馬鹿にしているのに、その剣や鎧には魔力が大量に含ませてあるというのか。とんだ矛盾だ。この魔力量、どこからくる?やはり魔力供給網(マナ・ライン)か)


 クリスティーヌが杖を構えようとするが、レイはそれを手で制した。


(こいつの相手は私がする)


 ギデオンのレイに対する執念は、何年もかけて熟成されたものであり、他人が介入できる類のものではなかった。 目の前にいるのは、かつての仲間であり好敵手であり、自分を陥れた敵であり、そして今、その「欲」を邪魔するものを残らず排除しようとしている男だ。



「……ギデオン。あなたが背負っている剣や鎧は相変わらず重いんですね」


 その姿はかつて「名門の家系」の期待の重みにつぶれそうになっているギデオンの姿と被った。レイには、かつて競った相手に対する怒りや恨みよりも、欲にまみれた彼への憐れみが勝っていた。



「その重さ……もはや『収穫』しきれるものではないですよ」


 豪華な剣と、泥に汚れた拳。 王都の暗い倉庫で、かつての仲間であり、最大の敵である二人が、五年の時を経て再びにらみ合う。



そんな場の空気を乱し、トビーがうわ言のように喋りだす。


「新しい疑問があるぞ!」


その場にいた全員が不審そうにトビーを見る。


「そうだ。レイ・アカツキのその魔力量はどこから来るのかってことを解明しないと.......]

「そんな必要はない。この男はここでわしが倒す」

ギデオンの有無を言わせない声が響く。


「……トビー? もうお前は黙っていろ。嘘の報告をして勝手なことをしたお前は用済みだ」

レイとの間をじりじりと詰めながらギデオンは言葉を続ける。


「用済み?」

「そう、用済みだ。もうお前などいらん。処分だ」

「処分?俺の計算は完璧だったはずだ。お前にはこのことは伝えてなかった筈だ。.......どこだ、どこで狂ったんだ。俺の計算が狂うはずがない。俺のーー!」



「……く、くくく。ハハハハハハハ!そうだ、俺の計算は狂ってないんだ。あれを使えば、あれを」


「なんで今まで思いつかなかったんだろう。ちゃんと用意していたのに。魔力計算機はどこだ。ああここだ」


 トビーが、狂ってしまったように魔力計算機を叩き始める。目の焦点は合わず、普通ではない。


「綺麗な計算の終わりだ。すべて0だ!全消去(自爆)!」

トビーは自らの胸に、骨の折れた指を突き立てた。





 ギデオンの顔色がかわったが装飾過多の鎧に隠れて誰にも気づかれなかった。

最終手段(自爆)か!止めるんだ!トビー!」

そこまで用意していたとはギデオンも予想外だった。


「こうなったら破壊してやる......終わりだ!すべて!.......俺の手で!そうすれば俺の勝ちだ!」


倉庫全体の空間が、ガラスが砕けるような音を立てて歪み始める。床が消失し、天井がねじれ、もうめちゃくちゃだ。中にいた者たちは何かにかき回されたようにあちこち飛んでいる。


「お前、正気か!? 全員道連れにするつもりか!」


ギデオンの顔に驚きが広がる。豪華な剣で空間の裂け目を斬り裂こうとするが、重すぎて思うようにいかない。




「レイ、危ないわ!どうしたら......」 クリスティーヌが叫び、必死に防御障壁を張るが、彼女の魔法もこの状況を止められない。




 レイは、あてにならない地面を諦め、静かに目を閉じた。 逃げ場はない。トビーの悪あがきは、この場の全てを破壊しようとしている。


(何かできないか。何か)


 その時。




 次元の狭間から、一本の古びた煙管(キセル)が投げ込まれた。


「――まったく、どいつもこいつも。教え方が悪かったかねぇ」


 空間を裂いて現れたのは、ウルスラだった。 彼女が杖を地面に突き立てると、倉庫の崩壊が止まった。




「ウルスラ先生……!」


「もたもたするんじゃないよ、馬鹿弟子!魔術の発動までの時間稼ぎだよ。あんまり長く止められないんだ。だから 地に足を着けるなと言っただろう!......ま、今言っても仕方ないか」


 ウルスラは空中に、黄金色に輝く巨大な「魔法の線」を一本、真っ直ぐに引いた。


「クリスティーヌ、子供たちを連れてこの道に乗れ! レイ、あんたは最後だ!」



「……待て! レイ・アカツキ、貴様はここで俺と勝負しろ……!」 ギデオンが瓦礫を蹴り、レイへと飛びかかろうとする。


 だが、ウルスラが煙管を軽く振り、ギデオンの足元を床に縫い付けてしまった。ギデオンは真っ赤になって興奮しているが動けない。


「騎士団長さんよ、あんたの相手はまた今度だ。今は、この不出来な弟子を連れて帰らせてもらうよ」

「……っ、魔導士風情が……!」




 レイは、クリスティーヌが子供たちを抱えてウルスラの作った「道」へと飛び乗るのを確認すると、最後に一度だけギデオンを見つめた。


「ギデオン。その鎧はあなたを守ってくれるかもしれないな。また会おう」


 レイはそれだけを言い残すと、崩壊する倉庫の奥、ウルスラが開いた脱出口へと飛び込んだ。




「魔法の線」が消え、ギデオンの動きが自由になる。


「……待てッ! 逃げるのか、レイィィィィッ!!」


ギデオンの咆哮が響き渡る中、北倉庫は凄まじい爆発と共に完全に消失した。





引き続き、理系の友人の助けをお借りしました。

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