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大人のレンアイってなんですか?  作者: 花澤 凛


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理性より感情ー5


 身体がだるい。喉が渇いた。

 千佳子は違和感を感じながら薄目を開けた。

 残念ながらコンタクトが霞んで視界が悪い。

 何度か瞬きしながら、ここはどこで自分は何をやっていたのかを思い出した。


 (……大学生じゃあるまいし)


 千佳子だってそれなりに経験はある。

 もちろん、若かりし頃は一日中ベッドの中で当時の恋人といちゃこらしていたことはあった。


 (恋人でもなんでもない男と…)


 今はもう若くもないし、体力なんてない。

 でもどうしてか、求められると拒めない。


 きっと槇は、槇だけは千佳子を純粋に女として求めてくれている。女としての価値がまだあると槇は言ってくれている気がして千佳子はそれが嬉しくて縋りたかった。


 (……結婚できない女は無価値、だなんて)


 そんな思考に染まったつもりはないけれど。

 それでもやっぱり40にもなって結婚できないのはどこか自分が欠陥品で女としても魅力がないのかも、なんて落ち込んでいたのかもしれない。


 (……実際、5年もまともな彼氏がいなかったしね)


 この間のヒモは論外だ。

 あれは恋人とも呼べない。

 

 それまでもちょっと付き合ってみたことはある。でもどれも結婚を前提にしたもの。純粋に恋人ならまだよかったかもしれない。

 でも彼らは千佳子との生活スタイルが合わないと思ったのだろう。何がダメだとはわからない。

 めちゃくちゃズボラだったわけではない。


 (小さな綻びがたくさんあればアレってなるけど)



 その点槇は初めからあそびだ。

 自分がそう提案した。槇も乗ってきた。


 だからきっと傍にいても楽で、居心地がいい。

 何も考えなくていいし、承認欲求が満たされる。


 「……起きてたんなら言いなさいよ」

 「なんかぼんやりしてるなーって」


 なんか視線を感じると思えば槇はすでに起きていた。また自分だけTシャツを着ている。


 「コンタクトで目がしょぼしょぼなの」

 「替えもってねーの?」

 「もってないわよ」


 千佳子はそもそもちょっと飲み会に出てその夜に帰ってくるつもりだった。槇と会うつもりもなければ泊まるつもりもなかった。ただちょっと話したくなったから呼び出しただけだ。話をして一杯二杯飲んで帰るつもりだった。彼の自宅に泊まる予定なんてさらさらなかったのに。


 「ふーん。老眼入ってていいなら俺の眼鏡あるぜ」

 「老眼って早くない?」

 「もともと目いい奴って老眼なるの早いっていうだろ?」


 槇は「俺もうジジイだから」と自虐的に笑った。


 

 こんなジジイいてたまるかっつーの。


 千佳子は槇の言葉に苛ついた。人を散々抱き潰した精力お化けめ。体力魔人!と心の中で罵る。


 いや、あれだ。これはお腹が空いたからイライラするんだ。そう、だって丸一日何も食べてない。


 「お腹すいた」

 「コンタクトは?」

 「お腹すいた。肉食べたい、肉」


 千佳子は空腹であることを主張した。

 「ビール飲みたい」と補足もする。


 「……わかったわかった」


 千佳子の無言の圧をちゃんと理解したのか。

 槇は「へいへい」と言いながら携帯を手にする。ロックを解除してデリバリーアプリを開いた。


 千佳子は仰向けで携帯をいじる槇に近づいてその画面を覗き込んだ。槇は千佳子の動きに気づいたらしい。


 「ん」

 「何よ」

 「選べよ」

 「なんでもいいの?」

 「あぁ」


 千佳子を後ろから抱きしめるようにころりと横を向く。腕が伸びてきて千佳子の目の前に槇の携帯が現れた。そして好きに選べ、と槇は言う。


 千佳子は少し迷いながら自身の経験から美味しかった炭火焼肉の店をチョイスした。

 できればほかほかで食べたいので距離は近い方がいい。


 「このお弁当美味しそう」

 「じゃあこれにする?」

 「それだけで足りる?」

 「盛り合わせもあるじゃん」


 んじゃ適当に、と槇がポチる。

 決済が済んで「ふぅ」と息を吐けば甘えるように槇が肩に顔を埋めた。


 「なによ」

 「いやー、久しぶりにこんな休日すごしたわ」

 「久しぶりって。二十年ぶりぐらい前よ」

 「ははははは」


 寝てセックスして寝てセックスして1日が終わってしまった。若い頃は、それこそ大学生の時は当時の恋人とそんな休日を過ごしたこともあったけど、社会人になるとそんな無駄な時間の過ごし方はしていない。


 「ま、あれだ。リフレッシュ」

 「したのはあんただけでしょ」

 「お前な。鏡見て言えよ。ツヤツヤしてん、痛」


 思い切り肘で打ってやった。槇は痛がりながらも笑ってる。


 「飯食う前に風呂入れば?」

 「そうする」


 千佳子はそういうと槇のTシャツを奪って風呂場に向かった。



 「あ、いい匂い」


 風呂から出てくればちょうど弁当が届いた。

 槇は冷蔵庫からビールを取り出しながら「座れよ」と千佳子に言う。


 「ありがと」

 「ん」


 千佳子は槇からビールを受け取るとプシュッといい音をさせてプルタブを開けた。


 「乾杯」

 「おう」


 ごち、と缶のままビールで乾杯する。

 炭火焼肉弁当と肉の盛り合わせ。

 肉付くしだが、それでいい。


 「この俳優さ、」


 美味い飯と酒が腹を満たしたせいか千佳子は非常にリラックスした状態で槇の自宅に居座った。槇も「帰れ」と言うことなく千佳子に付き合う。

 バラエティ番組を見ながら笑い、つまみに柿ピーを出してきた槇に千佳子は喜び、二人の夜は更けていったのだった。


 

 

 

 

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