62話 最後の試練(前編)
烏は啼かなかった……
次の日、意気込んでアトオンへログインした。三つの試練クエストのうち、二つが遂に終わったのだ。残りはあと一つ。
フロストリザードマンの隠れ里に降り立ち、早速フリージア様の姿を探す。なんせ最後の試練については秘密だと言われていたからな。先の二つが終わったら詳細を教えてくれるって言われて、フリージア様が悪どい顔で笑っていたから、かなり気になっていたんだ。いったいどんな試練なんだろう? 少し里の中を歩き回ると、瓦礫の山の間にフリージア様が佇んでいるのを見つけた。
「こちらにいらっしゃったんですねフリージア様。良かった、今日は里にいらっしゃらないかと思いました」
「ん? おお、プラナか。なに、少々里内の見回りをしていたのだ。お主が来たということは、最後の試練についてかのう?」
「はい。最後の試練クエストについて、お聞きしたく思います。お願いできますか?」
「うむ、良いぞ。だが、こんな所で話すのもなんじゃのう……。ポータルの近くまで戻ってからにしようぞ」
そう言われたので、フリージア様と一緒にポータル前まで話しながら帰った。自分達の「スノウワイバーン(手負)」との戦いの話をしたり、フリージア様から山頂の話を聞いたり。話しながらだと時間が経つのも早いな、あっという間にポータル前までやってきた。
「では、プラナよ。あらためて、よくぞ二つの試練を乗り越えた! これより、最後の試練について教えようぞ!!」
ーーゴクリ。
声高らかにそう告げたフリージア様の気迫に押され、つい、息を呑んでしまう。そして……
「最後の試練、それはのう、
ズバリ! 我との一騎打ちじゃ!!」
「うぇええ!! フリージア様と??!」
は? は?? フリージア様との一騎打ち? 「スノウワイバーン(手負)」ですら、コユキとミントの力を借りてやっとだったのに? てゆうか、フリージア様は里の守護龍的なお人では? 戦っていいのか? いや、人じゃないけど。龍だけど。
告げられた内容にパニックになっていると、心配そうな顔でフリージア様が再度声をかけてくる。
「コホンッ。そう心配するでない、何も我を倒せというのではないぞ。我と戦ってその力を見せてくれれば良い。その力が我を納得させるものであれば、試練は終了じゃ」
ホッ。力試しだけか、良かった。とはいえ、これまで仲良くしてきたフリージア様相手に戦うのは、例え力試しでもちょっと心苦しいな。
「さて、プラナよ、お主が問題なければ直ぐにでも始められるが、どうするかの? やるかの?」
そう言って、キラキラと期待した瞳でこちらを見つめ、大きな身体でソワソワしているフリージア様。翼もパタパタしていて、地味に風が冷たい。こっちは心苦しいんだけど、フリージア様はやる気満々みたいだなぁ。どうしようか? うーん、まあここまできたら、やるだけやってみよう。多分、ダメだったら再チャレンジ可能だと思うし。
「はい、ではお願いします!」
「うむ! その心意気や良し! では、ゆくぞ、ついて参れ!!」
「うわっ?!」
満足げに頷いたフリージア様がポータルに触れると、ポウッとポータルが眩く光り出した。いきなりの光に思わず目を瞑ってしまう。
……再度目を開くとそこは、氷で包まれたドームの様な場所だった。何処からか差し込む光が氷のドームを通り虹色に煌めく様は、まるで万華鏡の中に居るかのよう。とても幻想的で美しい場所に自分とフリージア様は立っていた。
「……えーーっと、フリージア様。ここは一体何処でしょうか?」
「ふふふ。驚いたかのう? ここはな、ピーリア様より賜りし、我専用の空間じゃ。美しいであろう?」
「確かに、凄い綺麗ですねー」
ピーリア様からもらった専用空間? えっとつまり、フリージア様のマイルーム的な?
「ここなら、周囲の影響を考えずに思い切り戦えるからのう。試練にもピッタリじゃ! さてと、プラナよ、心の準備はよいか?」
「は、はい!!」
やべっ、反射的に答えてしまった。まだ、この状況を整理しきれて無いんだが?! ど、どうしよう。とりあえず、装備は「スノウワイバーン(手負)」と戦ったあと、手持ちの修復薬を使ってある程度耐久力を回復しているから、大丈夫なはず! 腰に差していた火属性双短剣を慌てて引き抜き、フリージア様に向かい合って構える。
「ではゆくぞ! お主のその力、高みに至らんとするその輝きを我に見せてみよ! 【氷結領域】!!」
ーービュュゥウ!!!
うわっ、いきなりの吹雪?! フリージア様を中心に急に吹雪が吹き荒れた。なんとか踏みとどまろうとしたが、耐えきれずに吹き飛ばされて、ブワッと数秒浮いたかと思うと、その後体勢を崩したままゴロゴロと地面を転がってしまった。急いで目を開けたが、真っ白で何も見えないし、さ、寒い! え、寒い? 寒いだって?!
嫌な予感がして詳細なステータス画面を慌てて表示すると、毛皮装備のはずなのに体温ゲージがジリジリと下がっていた! 嘘だろ?! 仕方ない、「スノウワイバーン(手負)」用に準備したけど、結局使わなかったアレを使おう。そう思い、せっかく構えた双短剣を片方鞘にしまって、アイテムボックスから『ヒートパウダー』を出して使用する。これは、源三郎さんから貰った、一定時間の耐寒を付与してくれるアイテムだ。火山地帯にいるという「ファイヤーモス」なる火属性のモンスターのドロップ品から作っているらしい。ドロップ品そのままだと火傷効果になるみたいだが、その効果を緩和させる形で、忍者仲間の人がなんやかんやして作ったらしい。忍者仲間の人すごいな。
「スノウワイバーン(手負)」戦で凍傷攻撃とか、防具破壊とかされたらと思って、念のため準備しておいたのが功を奏したみたいだ。良かった良かった。因みに、同じく一定時間の耐寒を付与できる『レッドゴートのミルク』は、過去の雪山フィールド探索中、とっくに使い切っていたりする。
さて、これで状態異常対策はできたな。風の勢いもさっきより弱まっていて、吹き飛ばされるほどでは無くなった。でも、周りはホワイトアウトしていて何も見えない。フリージア様は何処だ? 吹雪が吹き荒れる前には、確か真っ正面にいたはずだけど……。とにかく前に進んでみよう。
真っ白な視界の中、なんとか腕で目の当たりを庇いながら前に進んでいく。もちろん【気配察知】を使って、警戒しながら歩いている。だが、視界は真っ白で【気配察知】にもさっぱり引っかからない。どうしよう、これじゃあ戦う以前の問題だ。そう思いながらも足は止めずに進んでいく。すると、右側の目の端でチカリと何かが光った気がした。……【気配察知】に反応はない。だけど、どうしてもその場所が気になったため、花火玉を【投擲】してみた。
パァーン! と小さな光の花が吹雪の中で炸裂する。すると、その光を反射する何かがそこにいるのが見えた。あそこだ! そう確信して駆け寄る。すると、視界を埋め尽くすような吹雪の中、悠然と佇むフリージア様が居た。
「ほう。この【氷結領域】の中、我を見つけるとは。流石、プラナじゃ」
にんまりとご満悦な顔で笑うフリージア様。セリフの内容と先ほど【気配察知】に引っかからなかった事も踏まえて、この【氷結領域】とやらは、吹雪を発生させるほかに、隠密系の効果ももたらしているのかもしれない。とにかく、フリージア様を見つけた事で試練の第一段階は突破したみたいだ。悠然と佇んでいたフリージア様がゆっくりと動き出す。
「さて、それでは次じゃ!」
クォオオーン!!!
フリージア様がこちらに口を開けたかと思うと、大きな鐘のような声が響き渡る。思わず耳を塞ぐと、フリージア様の周りにパキパキとツララが何本も形成されているのが見えた。うわっ、あれはヤバい!
「【ウォーターレイン】!!」
【ウォーターウォール】ではあの数は受けきれないと瞬時に判断し、範囲攻撃の【ウォーターレイン】で少しでもツララの威力と速度を削ぎにいった。そして、自分も転がるように回避行動に移る。吹雪と雨と何本ものツララが辺りに飛び散り、どんな悪天候だと思いながら、なんとか回避する。うわっ! なんか尻尾に掠った!!
「逃げてばかりでは、試練は乗り越えられぬぞ!」
次から次へと丸太くらいあるツララがビュンビュン飛んでくる! いや、逃げてばかりって、逃げるだけでも精一杯なんですが?! とはいえ、確かに回避だけではダメだろう。どうにか攻撃に移らなければ。逃げながら必死にメニューのショートカットを操作し、アイテムボックスから「スノウワイバーン(手負)」戦でも大活躍した『ネズミ花火』を取り出す。ツララの隙をみてフリージア様の足元に【連続投擲】!
「うん? また先ほどの火の玉かの? じゃが、投げたところが悪かったの、これでは地面に当たってしまう、ぞ、うんっ?!」
ただの花火玉だと思い、油断していたフリージア様の足元でシュババババババ!!と火花をあげて回りながらフリージア様に向かっていく『ネズミ花火』。
「ななな?! なんじゃコレは??! これ、こちらに来るでない!」
慌てて、後退しながら翼を動かして『ネズミ花火』を吹き飛ばすフリージア様。うんうん、ネズミ花火って遠くで回ってるのを見る分は楽しいけど、足元にくると怖いよな。と冷静に考えつつ、ツララが止んだので体勢を整えて、フリージア様に向かっていく。
「【マインスピードアップ】【ダブルインパクト】!」
アーツを発動し、両手の火属性短剣をフリージア様の後ろ足に叩きつけようとする。しかし、
ガキンッ!!
ッ?! 後ろ足を庇うように、いきなり地面から氷柱が生えて、攻撃を防がれた! マジか!
「僅かな隙も見逃さずに、攻撃に入るのは素晴らしいの。しかし、それだけでは我に一太刀入れることはかなわんぞ」
フリージア様がそう言って、尻尾を振り上げて鞭のように叩きつけてくる。腕をクロスして防御しながらも、叩きつけられた反動で吹っ飛ばされてしまった。せっかく近づけたのに! なんだあの氷柱オートガード!
不意を突いたつもりの一撃をあっさりガードされてしまった。しかも、吹っ飛ばされた反動で身体がぐらついた所にツララが飛んできて、避けきれずにガッツリくらってしまう。ヒィッ、HPが一気にレッドゾーンに?! 仕方ないので、少し離れて回復ポーションを使う。離れたら直ぐに吹雪でフリージア様の姿が見えなくなってしまった。やっぱり、この吹雪は厄介だなぁ。
うーん、攻撃するにはツララを避けた上で、あの氷柱オートガードが出ない箇所を狙わないといけないんだな。どうするか……。せめてコユキとミントがいたら、2匹に気を引きつけてもらって、隙を狙って多段攻撃を入れられるんだが。どうやらこの試練はソロ専用らしく【コール】が使えない。まあ、いないものはしょうがない! 別の方法を考えよう。
あの氷柱は、地面から生えていたから、上から狙うのはどうだろう? それとも【投擲】で氷柱を出させてから別の場所から切り込もうか? そんな事をつらつらと考え込んでいると、吹雪で周りがホワイトアウトしている中、先ほどまでフリージア様が居た方向とは逆の場所からツララが飛んできた。
「うわっ?!!」
驚きながらもなんとか回避し、ツララが飛んできた方を向くが、当然ホワイトアウトしていて何も見えない。フリージア様が移動したのか? とりあえず、まだ作戦を考えたかったので、ツララが飛んできた場所の反対方向へと走る。すると、目に映ったのは先程と同じ場所に悠然と佇むフリージア様。
「えっ? フリージア様、移動していたのでは??」
「いや? 我は動いてはおらぬぞ。ふふふっ、雪と氷のある場所は全て我の領域じゃからな。こういう事は朝飯前じゃ」
そう言うと、フリージア様の側では無く、自分の両横で雪が固まり、ツララがパキパキと生成される。っ?! この吹雪の領域内だと、何処でもこのツララが作れるのか??! これ、試練だからフリージア様が手加減してくれているけど、本気になったら四方八方からツララが飛んでくるのでは? 視界も塞がれ、体温も奪われ、こっちは動くこともままならないのに、フリージア様は隠密状態で隠れながら、何処からでもツララで攻撃する事が可能。なんとかフリージア様を見つけて攻撃しても、氷柱のオートガード。……チートでは???
バトルシーンを書くのが苦手なのに、なんでバトルが続くんだ! 誰だこんなプロット書いた奴!! (自分です)
しかも、このあと闘技大会だと?! またバトルシーンじゃないか! 誰だ、こんなプロットにした奴!! (自分です)
ボロボロのバトルシーンから始まる新章ですが、生温かく見守っていただければ幸いです。まだまだ残暑が続くみたいですから、皆様お身体にお気をつけ下さい。




