48話 君の名は
手の上でぐったりと気絶している「スノウアーミン」。よく見るとHPバーも半分を切っている。
えっと、コレはどうすれば良いんだろうか? 一応、モンスターだよな??
ん? そういえば、森でフォレストボアに追いかけられた人が、木から落ちて気絶したリスモンスと一緒に逃げて、気がついたリスモンスにポーションとか木の実とかをあげたら、【従魔法】スキルが取得出来たんだっけ。
ということは、この子にもポーションとか食べ物を与えたら【従魔法】スキルが取得できて、従魔にできる? うーん、従魔かあ。ソルメイさんやミルミルキーさんの従魔達は、みんな可愛いし頼もしかったんだけど、いざ自分が持つとなるとなぁ……。
そう、ぐだぐだと悩んでいるうちに、手の上の「スノウアーミン」が身動きし始めた。どうやら、目が覚めたようだ。
「キュイ??」
体力が減ってるからなのか、気が付いたばかりだからなのか、少しふらつきながら身を起こす「スノウアーミン」。そして、その黒いつぶらな瞳がこちらを見つめる。
うるうるうるうる……
うっ、可愛い! ダメだ! この可愛さは見殺しに出来ない!! つぶらな瞳にノックアウトされてしまったので、急いでHP回復ポーションを取り出して、「スノウアーミン」に使用する。
後は、食べ物か。何を食べるんだろう?? とりあえず、色々出してみればいいかな。そう思って、幾つか小皿を出して、その上にドングリ、ベリー、果物、山菜、ミルク、生肉、串焼き肉、小魚、携帯食料などなど。自分が持っている食料アイテムを少量ずつ盛って、体力が回復した「スノウアーミン」の前に出してみた。
さあ、どれを食べるのかな? 小動物っぽいし、ドングリ系かな? それともネコみたいな顔だからお魚さんかな? ワクワクして見ていると、「スノウアーミン」は、それぞれの小皿を興味深そうに、一通りフンフンと匂いを嗅いでから、ある一つの小皿の上の食料にかぶりついた!
「スノウアーミン」が食べたのは……生肉だった。
えっ?! 生肉?? そんな可愛い顔で生肉食べるのか? しかも、ものすごい勢いでがっついている。あっという間に小皿に盛った生肉を食い尽くし、次は串焼き肉を食べ始めた。(串焼き肉は、串から外した肉を2個ほど盛り付けている)
こちらも、見る間に食べ尽くし、満足したのか、手や顔をペロペロと毛づくろいをし始めた。毛づくろいシーンは可愛いな。さっきまでの肉をがっついいたのは、ちょっとワイルドだったけど。
一通りペロペロが終わったのか、毛づくろいを止めて、こちらを見つめて来た「スノウアーミン」。そして現れるポップアップ。
『モンスターが貴方に興味を示しています。【従魔法】スキルが取得可能になりました! 取得しますか?』
予想通り【従魔法】スキルが取得可能になったな。「はい」っと。
『【従魔法】スキルを取得しました! 「スノウアーミン」がテイム可能状態です。【テイム】アーツを使用するとテイムできます』
「【テイム】!」
早速【テイム】アーツを発動すると、「スノウアーミン」の身体がポゥッと淡く光る。
『おめでとうございます! 「スノウアーミン」をテイムしました。名前を付けて下さい。』
えっ?! あ、そうか従魔にしたから名前を付けないといけないのか。どうしよう、何も考えて無かった。一応、デフォルトだとモンスター名がそのまま入ってるみたいだけど、それはちょっとなあ。うーん……。
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暫く考えた結果、何とか捻り出した名前は
「コユキ」。
ほら、雪の中で出会ったし、身体の色も真っ白だし! ……うん、単純な名前しか出てこなくてすまん。これじゃあソルメイさんの命名を笑えないなあ。
ちょっと落ち込み気味な自分とは正反対で、当のコユキは名前が気に入った様子で嬉しそうに飛び跳ねている。いや、ジャンプ力凄いな?! こっちの膝上くらいまでジャンプが届いてるぞ?
それから従魔になったので、早速ステータスを見てみた。体力や耐久力は低いが、筋力や俊敏力は高めだった。筋力と俊敏力が高めなのは自分と同じだけど、コユキ、お前そんな可愛い見た目で筋力高いの??
あとは、スキルか。スキル欄を見てみると【牙術】【舞踏】【幻惑】【軽業】【氷魔法】を持っていた。
待て待て待て! 【牙術】と【軽業】はまだ分かる。噛みつき攻撃とかするんだろうし、なんだか身軽そうだし。【氷魔法】も、種族名に「スノウ」って入っているので、持っているのも納得だ。自分より先に【氷魔法】を持っているのは羨ましいが。
だが、【舞踏】【幻惑】は何でだ?! 【舞踏】って、つまりはダンスだろ? なんでダンス? 踊るのか? このひょろ長い身体で??! しかも【幻惑】ってなんだ? 掲示板に幻術とかは記載あったけど、こっちとは違うのか?
【幻惑】スキルの説明を見たら、自身の行動に相手を状態異常にする効果を付与するスキルらしい。今のスキルレベルだと、混乱効果を付与できるとか。え、普通に有能スキルなんだが。自分が欲しい。
色々と混乱したが、とりあえず今日は時間も時間なので、近くのセーフティエリアでログアウトした。ちなみに従魔は、プレイヤーがログアウト中は自動で【リターン】状態になるみたいなので、安心だ。
ログアウトしたら、寝る前に「アーミン」とは何の動物の事なのか調べないとな。
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ログアウトして、現在ベッドの上にでごろごろタイムだ。今日もまた色々あったなあ。現実世界も何が有るかわからないけど、ゲームの世界は更に輪をかけて何が起きるか分からなくて楽しいな!
そうだ、寝る前にちゃちゃっとネットで調べないと。えっとまずは「アーミン」で検索っと。あったあった! ほほう、「アーミン」はオコジョのことなのか。じゃあ「スノウアーミン」は「雪オコジョ」?
特徴や性格については……。
へえ、最初に見間違えたフェレットは、家畜品種で野生にはいないのか。で、オコジョは寒冷地や高山地帯に住んでいて他の近縁種より、体は小さめなんだな。確かにコユキは、普通の猫なんかより遥かに小柄だったな。
それから食性や性格は、えっ?! イタチやテンなんかは肉食よりの雑食なのに、オコジョは完全な肉食? しかも、気性が凄く荒い? かなり凶暴?? あんなに可愛い顔しているのに?
しかも、現実のオコジョは「死のダンス」という行動を取るらしい。コユキの【舞踏】スキルはこれが由来かな? 何々? 獲物の前で飛んだり跳ねたりして、獲物が困惑した隙にすかさず飛びかかり、頸動脈を食いちぎる……?
え、怖っ……!! Σ(゜д゜lll)
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次の日、仕事から帰ってきた夕方に、早速ログイン。そして【従魔法】スキルの【コール】アーツで、昨日仲間になったばかりのコユキを呼び出す。
「キュン!」
呼び出されるやいなや、高い声で鳴きながら足元を跳ね回るコユキ。見た目は可愛いんだけどなぁ。いや、本当に。
これで凶暴とか、頸動脈を食いちぎるとか、嘘だろう? きっと、ネットでは大げさに書いていたんだな!
「よっし! 今日から宜しくなコユキ。まずは、いったん里に戻ろう」
「キュ!」
コユキと一緒に意気揚々とセーフティエリアから出て、里のある洞窟に向かう。確か、林以外の雪フィールドには白くて角のある「スノウホーンラビ」や背中に氷の針がある「アイスヘッジホッグ」などが出るからな。コユキのレベルは、それほど高いわけじゃなかったから、気をつけて行こう!
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暫くして、里のある洞窟に戻って来た。そして、自分はネットに記載されていたオコジョの生態が誇張ではない事を思い知ったよ。道中のコユキの闘いっぷりは凄かった。
こちらの攻撃で体勢を崩した相手に、素早い動きで接近し、迷う事なく首の急所に噛みつくコユキ。相手が振り解こうと体を激しく動かしているのに、噛みついたまま離れず、そのまま倒してしまった。相手が大きかろうがお構いなしだ。
また、例の「死のダンス」も見せてくれた。相手の前でぴょこぴょこ飛んだり、ゴロゴロ転がったり。不思議なダンス?だ。そうしているうちに相手が混乱し始め、隙を見逃さずに駆け寄るコユキ。やはり首筋に回り込み、頸動脈めがけてガブりっ!!
……アトオンの血飛沫表現がマイルドで良かったよ。
ちなみに、コユキの動きを見ていてわかったのだが、どうやら【舞踏】スキルと【幻惑】スキルの併用は出来ないみたいだ。相手を混乱させる【幻惑】の【混乱付与】アーツ使用時は、踊ってはいるが【舞踏】スキル効果は出ていない。
逆に、ちょっと端っこ辺りでぴょこぴょこ踊っている時は、相手は混乱したりしないが、【舞踏】スキルの【戦いの舞踏】アーツ効果が出ているらしく、踊り終わると自分とコユキの両方に赤いエフェクトが出て、筋力アップの効果がついた。
アタッカーにもバッファーにもデバッファーにもなれるなんて、凄いなコユキ! 万能だ!
でも一つ聞いていいか? 【氷魔法】はどうした? スキル持ってるはずだよな?? まだ、一回も見てないんだが。いや「キュン?」じゃなくて……! うーん、まあいつかは使うだろう。
洞窟の中を進み、里の中に戻ってきた。おっ、フリージア様がいる! ただいま戻りましたよフリージア様〜!! 新しい仲間のコユキも一緒です。
あれ、コユキどうした?! うわっ、いきなり駆け上がって、フードの中に潜るな! く、くすぐったい!!
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フリージア様に驚いたコユキがフードの中に入り込んでしまったトラブルはあったけど、なんとかフリージア様とコユキの初対面を終えることができた。
終始コユキはぶるぶる震えてしまっていたけど、フリージア様は新しい住人に大層嬉しそうだった。良かったなコユキ。
その後は、一つだけ手に入れた『スノウアップル (レア)』をフリージア様にお渡したり、マイルームに露店で購入したイスを配置したりした。更に、フリボでちょうど良さそうなカゴを買って、中に今使っていない『素朴な毛糸のもこもこマフラー』を敷いた。
「ほら、コユキ。お前の寝床を作ってみたぞ。どうかな?」
マフラー入りのカゴを前に、ちょっと警戒しながら匂いを嗅ぐコユキ。暫くして、大丈夫だと思ったのか中に入って、マフラーに潜り込み、少しもぞもぞした後で落ち着いたのか、満足げな顔だけ出してくつろいでいた。
気に入ってくれたみたいで良かった。自分のベッドより先に、従魔の寝床をマイルームに設置することになるなんてな。早く【建築】スキルを取得して、マイルームを修復しなきゃなあ。
さて、休憩がてら掲示板でも覗こうか、おや? 自分以外に初めてザッハ様の精霊泉に辿り着いた人が出たみたいだ! でも、精霊泉を本気で探していた精霊スレや魔法スレ、検証スレの人達ではなく、お散歩スレ民の人だった。
お散歩スレでたまにみたお嬢様言葉の人が、ダークエルフの里に行こうとして、ジャングル内を迷っていたら、偶然辿り着いたみたいだ。本人も凄くびっくりしてるwww。
自分の時も迷いに迷ったあげくに着いたし、ザッハ様の精霊泉は迷い人が辿り着ける場所なのかもな。それにしてもこの人は、ザッハ様に何を願うのだろうか。願い事が決めきれないから、スレ民達に助言を仰いでいるみたいだけど、みんな悪ノリしてる ( ^ω^ )!
ワクワクしながら、自分もこっそりスレに参加してみた。たまには山の人だと名乗らないで書き込みするのも楽しい! お嬢様言葉のお散歩スレ民さん、マトモな願い事になるよう応援してるぞ!! 頑張れ!
【幻惑】と幻術(【幻影魔法】)スキルの違いについて。
・【幻惑】スキル
所持者の行動に、相手を状態異常にする効果を付与するスキル。ダンス以外にも杖を目の前でグルグルするとか、決めポーズをとるとか、一定の行動に効果を付与する。与えられる状態異常は、混乱や恐怖、魅力などなど。ちなみにどちらかと言うと特技系スキルに分類される。
・幻術(【幻影魔法】)スキル
相手に幻を見せる魔法系スキル。実際には無い幻の木や岩を見せたりする。ビーストマン(狐)の隠れ里を隠していたのも、このスキルによるもの。高スキルレベルになると、幻を一時的に実体化させることも? あくまで、魔法系スキル。




