47話 その手に掴んだものは
昨日は一軒家のマイルーム入手に試練クエスト受注、【建築】スキルの情報など、色々新しいことがあって、とても楽しかった。
そんなウキウキ気分のまま、仕事に行ったのだが、今日帰ってきたら気分はどん底まで下がっていた……。
何があったって? まず、朝から電車がトラブルで遅延しまくって、激混みになり、ぎゅうぎゅうで出社。仕事場では、ちょっと嫌味な同僚に捕まって、横でぐだぐだ言われながら作業する羽目に。
更には、帰りに寄ったコンビニで、好きなアニメのくじがやっていたので、引き換え券を持ってレジに並んでいたら、一つ前の人がラストワン賞。そこで、くじ終了。
意気消沈して歩いていたら、道端で不良っぽい若者がたむろっている場面に遭遇。そちらを見ないようにして、そそくさと横を通ろうとしたら、何故か絡まれて、必死に走って逃げてきた。
で、クタクタになって帰宅したわけだ。
今日は厄日だったな……。疲れたぁ!! さっさとご飯を食べて、疲れた日常なんか忘れて、楽しいゲームをしよう!
* * *
そんなわけで、ログイン。昨日は、里の中を見て回って、使えそうなもの(まだ形を保っていた食器や石の丸テーブルなど)をゲットした。ちなみに、里の中の物を自由に使っていい事は、フリージア様に確認済みだ!
まだ、ポータルの周囲しか探索出来なかったけど、色々見つけられて良かったよ。特に石の丸テーブルは、助かった。マイルームに残っていた家具は木製だったようで、全部朽ちており、使い物にならなかったんだ。それらを全部片付けて、メニューから丸テーブルを配置したら、廃墟そのまんまだった部屋が、ちょっとは普通の部屋っぽくできた。後は、壁を早く直して、椅子と棚とベッドが欲しいな。
今日は、試練クエストのために『スノウアップルツリー』の林を探しに行く予定だ。ただ、里の外に行くにあたり、消費アイテムの補充をしないとな。フリボで買うのも良いが、ここからならサドンに転移できるし、一旦サドンに行って道具屋で直接補充しよう。ポータル広場の露店で掘り出し物がないかも見てみたいしね。
サドンへ転移し、手早く道具屋で消費アイテム類を購入。その後、予定通りに露店を見て回った。ちょうど良さそうな木のイスが売っていたので、二つ購入した。石の丸テーブルの側にイスを置いたら、一段と部屋らしくできるかな?
他にも掘り出し物が無いかみていると、声をかけられた。
「あー! プラナさん?? お久しぶりです! お買い物ですか?」
「きゅ!」
「えっと、ミルミルキーさん。お久しぶりです。はい、掘り出し物が無いかなと思いまして」
声をかけてきたのは、夏イベント以来で初めて会う、ビーストマン(兎)のミルミルキーさん。肩に乗ったリスモンスのコロちゃんも手を上げて挨拶してくれた。
「掘り出し物! 良いですね! たまにすっごい可愛いのとか、面白いのとかあるから、露店巡りはやめられないんですよねー。」
「ええ、リアルでもゲームでも、露店巡りは楽しいですよね」
「見てるだけでも楽しいですもんね! んん? あれ、プラナさん、もしかして何かありました? 何か疲れた顔してます」
「えっ?」
いきなり言い当てられて、びっくりしてしまった。そんなに疲れた顔してたかな?
「あー、ちょっと災難な目に立て続けに遭いまして、まあ気分転換にゲーム出来てるので大丈夫ですよ」
「っ! そうなんですね。じゃあ、今日はこれからいっぱい幸運が訪れますように!」
「きゅう!」
そう言ってミルミルキーさんは、こちらの手を両手でぎゅっと握って、ブンブン降ってきた。コロちゃんも、後から握った手にタッチしてくれた。いきなりの行動に驚いていると、どうやら家でよくやるおまじない的なものらしい。
「あはは、ありがとうございます」
その後、少し雑談しながら一緒に露店を見て回り、ポータル前で別れた。いきなり手を握られてびっくりしたけど、おまじないでも幸運を願ってくれて嬉しかったな。この後、いい事がありそうだ。
* * *
サドンのポータルから、隠れ里に戻ってきた。静かな通りを歩き、朽ちた大門に向かう。歩きながら、現実世界で夕飯を食べつつ見ていた掲示板の内容を思い出す。
確か、6つ目の町に辿り着いたり、和風な隠れ里が見つかったりしたんだったな。和風な隠れ里の場所は、前に総合版で森の真ん中に行けないとか書き込まれてた所かな? 醤油や味噌は、ちょっと興味ある。どうせ後々フィフローに行かないといけないし、町に着いたら寄ってみよう。入れるかは分からないけど……。
そんなこんなで朽ちた大門に到着。ボロボロな大門を出ると、初めてフリージア様と会った洞窟の中に出る。まさか、弱点克服のために雪山にきたら、ドラゴンに会って、廃里を見つけるなんてなあ。そんな事を考えつつ、洞窟を出る。
「うっ?! 眩しっ!!」
今日は、晴れの日だったらしい。燦々と輝く太陽の光が、一面の雪原に反射して、目に直撃した。予想外の一撃に、暫くのたうち回る羽目になってしまった。
雪フィールドでの初めての冒険の第一歩がこんなので、大丈夫だろうか……?
* * *
目が回復してから『水の標』を使って、近場の『スノウアップルツリー』の林を探す。いやー、ザッハ様に感謝だよ。『水の標』超便利!!
そうして、暫く標の導く先に歩いていくと、所々に岩が露出している山肌の雪原地帯に、忽然と現れた真っ白な林。リンゴの果皮が白いとは聞いていたが、まさか木肌から葉っぱまでも真っ白とは……。光合成とかどうなってるんだろうか?
驚きながら恐る恐る林の中へ。辺りを見渡したが、どうやらフリージア様が言っていた、強敵だろう白クマは居ないようだ。良かった良かった!
『スノウアップルツリー』は、先程見た通り葉も木肌も実も、雪みたいに真っ白な木で。高さは、自分の背丈より頭3つ分くらい高い木だった。
とりあえず、リンゴの実を幾つか採取しようと思ったのだが、と、届かないっ! 実が生っている位置が微妙な高さで、背伸びしても指先が触れる程度。
「あ、あとちょっと……うわっ!」
ずべしゃっっ
なんとか取ろうと頑張っていたら、バランスを崩して尻餅をついてしまった。冷たい……。
うん、横着しないで踏み台使おう。
そう考えて、部屋の中に置くはずだった買ったばかりのイスを取り出して、グラつかないようにしっかりと雪の中にイスの足を固定した。良い感じに置けたので、早速イスの上に乗って『スノウアップル』を採取する。
へえ、本当に青い雪の結晶マークがついてる。面白いなあ。マジマジと採取したばかりの『スノウアップル』を眺めていると、なんだか齧り付きたくなってしまった。服の袖でキュキュっと表面を磨いて、いざっ!!
シャリンッ
??? えっ、なんだこの食感?!
ジューシーなのに、シャリシャリしてて、でも程よく硬さもあって、冷たくて爽やかなリンゴシャーベットが、そのまま生ってたみたいな? いや、シャーベットよりはちょっと硬め?
予想外の食感に驚きながらも、シャリシャリと食べ進めていき、あっという間に一個丸々食べてしまった。味が爽やかで、全然くどくない。あれだ、黄緑色の果皮のリンゴの……えっと、確か王林だっけ? あのリンゴがよりさっぱり爽やかになった感じだ。
これいいな。クエストで収める以外にも、自分用とフレンド用に沢山取っていこう! かなり好みの味と食感だったため、俄然やる気になって、片っ端から採取を始めた。こう、くるっと上の方にリンゴを回すと、ポキンとヘタの上の細枝だけ折れて、簡単に取れる! リンゴ狩り楽しいな!
調子に乗って次から次へとリンゴを採取していると、枝が大きく揺れて、上に積もっていた雪がドサッと頭の上に落ちて来てしまった。ブルブルッ! 冷たい! 楽しいけど、やっぱり雪山だから、色々気をつけないとなぁ。
それから暫くの間、幾つかの林を回ってリンゴ狩りを楽しんだ。ただ、かなりの量を採取したんだが、試練クエストで納品する雪の結晶マークが二つ付いているレアものは、一個しか取れなかった。流石は試練、道のりは長い。
ちなみに林の中に居たモンスターとしては、氷の粒が含まれた風の攻撃をしてくる小鳥や、ツノやハネの部分が氷になっている手のひらぐらいの大きさのカブトムシなんかが、襲ってきた。どちらも単体で襲ってきたので、攻撃をかわしつつ、何とか倒すことができたが、かなり時間がかかってしまった。
火山フィールドが見つかったらしいし、今度源三郎さんに火属性の武器を見繕ってもらおう。
そして、また新しい林に辿り着いた。そろそろログアウトしないといけないし、今日はこの林で終わりかな。そう思いながら林の中へ。うへぇ、この林の木は、みんなかなり雪が積もってるな、雪を被らないように気をつけないと。
キョロキョロと周りを見渡して、リンゴが実っている場所を確かめる。おっ、あのリンゴは低い位置に生ってるな。イス無しでも取れそうだ。
ウキウキとしながら枝の先にあるリンゴに手を伸ばす。リンゴに触れるか否かという所で、なんとリンゴがブルブルと震え始めた! なんだ?!
驚きながらリンゴと木を見ていると、なんと木肌にあった裂け目が広がり、顔の様になっていく。しかも、目が吊り上がっている怒り顔だ!
コ、コイツまさか、トレントか?! 急いで木の横を見つめると「スノウアップルトレント」と表示されていた。やっぱりトレントだ! いや、小動物や白クマが居るのは聞いていたけど、トレントまで居るなんて聞いてないぞ?! ちょっと、フリージア様ぁ!
「スノウアップルトレント」は、怒り顔のまま、しならせた枝をこちらに振りかぶってきた! とっさにバックステップで後ろに下がると、鼻の先を枝が通り過ぎていった。危なかった!
しかし、それだけで攻撃は終わらなかった。時間差で枝に積もっていた雪が、幾つかの塊となってバシバシとぶつかって来た! 冷たっ! 痛い!! これは、まずい! 一旦、体勢を整えないと!
手で顔の前をガードしながら、ぶつかってくる雪を払いつつ、後退する。うわっ! 近くの木もトレントだったのか?! さっきまでただの林だったのに、周りに何本も「スノウアップルトレント」が現れて、根っこを引き抜き、同じように枝を振りかぶって、雪を飛ばしながら、こちらに近づいてくる。
囲まれたら終わりだ! 撤退、撤退ぃいいい!! 雪合戦で集中砲火を食らっているかのように、雪が次から次へとぶつかってくる中、慌てて雪を躱したり、払ったりしながら何とか逃げる。
ボフッ むにゅり
ん? なんか雪じゃないのが飛んできた?? 雪を払っていた手に、雪ではない何かが触れたので、咄嗟に掴んでしまった。なんだか、ふわふわの手触りに、細長いむにゅんとした何か。
確かめたかったが、今は逃げるのが先決だ! 何かを掴んだまま、雪原に向けてダッシュで逃げる。なんとか林をぬけると「スノウアップルトレント」達は、追うのをやめて、林の端でワサワサと枝葉を揺らしながらこちらを睨みつけていた。そして、暫くすると林の中に帰っていった。
ふぅ〜。 なんとか逃げ切れたか。あんなの聞いてないよ、まったく。
全速力でダッシュしたせいで、ぜいぜいと荒ぶっている呼吸を、ゆっくり息を吐いて整える。ひとまず落ち着いた所で、そういえばと、手に握っていた何かを確かめることにした。
それを目の前に持ってくると、どうやら気絶している小動物系のモンスターだったようだ。に、握り潰さなくて良かった! 詳しく観察してみると、
耳の小さいネコの様な
ネズミの様な可愛らしい顔
ひょろりと細長い胴体
真っ白な毛皮に
ポツンと尻尾の先だけが真っ黒
こいつは何だ? あ、このひょろ長い胴体は、なんかペット動画とかで見たことあるぞ! 確か、フェ、フェレ、フェレなんとかだ!!!
そう思ってモンスター名を見ると、表示されていたのは「スノウアーミン」。
……フェレなんとかじゃ無かった。
ミルミルキー「幸運のお裾分けです!!」
* * *
実は『水の標』を使えば、『スノウアップルツリー』の林だけでなく、レアものをピンポイントで探せるんですが、何故かその事には気づいていない主人公。もっと頭を柔らかくするんだ!!




