40話 雪の中で響く声
あれから、ひたすらに山を登り続ける日々。【登山】スキルのレベルもどんどん上がり、でこぼこの坂道でも難なく登れる様になった。
上に行けば行くほど敵も強くなったが、自分自身も少しずつレベルやプレイヤースキルが上がっているため、ちょっとずつ前進できている。
ここまで来ると、寒さが厳しくなってきて、毛糸3点セットだと物足りなくなって来てしまった。そんな時は、ほんのりピンク色の『レッドゴートのミルク』に砂糖を入れて温めたホットミルクを飲んであったまる。(山猫にやられた腹巻きは、夜なべして修復した)
レッドゴートは、荒れ地フィールドや山の下層にいたカラフルお供ヤギの内、【火魔法】を使う赤い毛皮のヤギだ。ドロップしたミルクをホットミルクにして飲むと、一定時間身体があったまる効果があり、そのおかげで寒くても状態異常にならなくて済む。味は、ちょっとクセがあるけど、アッサリめの味だった。
……ピンク色なのに、いちごの味はしなかった。残念だ。
ただ、『レッドゴートのミルク』はレアドロップだったので、数がそんなに無い。その為、メンマさんに頼んで口の固い【裁縫】スキル持ち生産プレイヤーを紹介してもらった。
今までために溜めた毛皮系アイテムを、メンマさん経由でその人に渡し、現在防寒効果のある防具を作成してもらっている。樹海から荒れ地に山といった、長いお散歩道中で熊やらカラフルお供ヤギやら山猫やらの毛皮が結構あったからな。
ちなみに毛皮を渡したメンマさんから「町に戻ってきたら〜、ちょっと〜お話ししましょう〜?」と誘われたんだが、こ、怖い……。
既に周りは木どころか草もまばらで、岩だらけになって来ている。ここまできたらもうきっと、雪が降っている場所は近いだろう。
慎重に山道を進んでいく。この辺りは岩陰に山猫が潜んでいたり、岩に擬態したモンスター「ロックリザード」などがいるため、【気配察知】が欠かせない。
ちなみに岩だらけなので、採掘スポットが沢山ある。『石ころ』や『青銅鉱石』に加えて、『ハルン鉱石』や『ハル石の原石』などの謎アイテムが取れている。これもメンマさんに相談したいんだが、再会した時のお話しが長くなりそうなので、まだ相談できていない。
そういえば、前に『ジャル石のブレスレット』を受け取った際、メンマさんから属性水晶系と原石(宝石)系の違いについて教えてもらった。
属性水晶系は非常に脆く、そのままアクセサリーや武具に着けると、耐久性が無さすぎて実用的ではないらしい。じゃあどう使うのかと言うと、なんと鉱石系のインゴットに【錬金】スキルで合成する事で、属性が付いたインゴットが出来るらしい。ただ、インゴットの耐久性は少し落ちるとのこと。
原石(宝石)系は、そのままでもアクセサリーなどに加工できるため、耐久性や防御力の面で、属性水晶系より有利らしい。ただし、属性強化値的には、属性水晶系の方が優る。
耐久性と属性強化値のどっちを取るかという感じだな。
ただ、出回っている原石(宝石)系アイテムが少な過ぎて、その辺りの検証はまだまだ確認する必要があるらしい。検証勢や鍛治系プレイヤー達に期待したい。
* * *
暫く山道を登り、カーブを曲がった時、サッと冷たい風が顔の横を掠めた。
目線を上げると、曲がった先の坂の上に微かに見える白いものが……!
思わず、周りも気にせずダッシュで駆け寄る。ほおを切る風は、凍てつく様な冷たさを持っている。吐く息も白い。
まさか、まさかっ??!
――サクッ
踏みしめた足元から聞こえる、今までとまったく異なる足音。
一歩一歩進むごとに、サクサク、ザクザクと足音が聞こえてくる。
そして広がる、白い景色。
ゆ、雪だ……。
思わずしゃがんで積もっている雪を掴む。冷たい。雪だ、雪だよこれ!
遂に、自分は雪のフィールドまでやって来たんだ!!
夢中になって、雪の中に飛び込んだり、あたりの風景のスクリーンショットを撮りまくる。そんな風に興奮していると目の前に現れるポップアップ。
『体温ゲージが半分以下になりました。暖かい場所へ移動する事を推奨いたします』
あ、まずい。調子に乗りすぎてホットミルクの効果が切れてしまったみたいだ! 急いで雪が降っていないところまで駆け戻る。さっきは夢中になって通り過ぎたけど、雪の手前にセーフティエリアがあったはず。そこに行って焚き火しなければ!
ザクザクと走って戻るが、だんだん動きが鈍ってくる。
『体温ゲージが危険域に入りました。【凍結】状態となり、俊敏力の低下及び定期的にダメージが発生します。暖かい場所へ移動する事を推奨いたします』
あああ! ヤバい、ヤバい!
思ったより体温ゲージが減るのが早いぞ?! もう状態異常になった!
雪フィールドの境界はもうすぐだ、あそこまでいけば! あれ? 足が動かな……。
ザク、ザク、ザッ… ドサッ
ああ、セーフティエリアは目の前なのに。リザードマンってこんなにも寒さに弱いんだな。砂漠のリザードマンさんも、こんな風に水分ゲージが激減りしたのだろうか?
そんな事を冷たい雪の上で考えつつ、動かない身体をなんとか起こそうとしてみる。だが、無情にも全く身体は動かない。
だんだんと暗くなる視界。ああ、死に戻りかと覚悟した。せっかく雪がある場所まで登って来たのに。いつも調子に乗ってやらかすんだよな。本当、どうにかしないと。考えている内に完全に暗転する。前に寄ったセーフティエリアはどの辺だったかな。
…………?
あれ? いつもなら、復活場所を選択する画面が出るのに何も出ない? VR機器壊れた?!
――バサッバサッ
ドスン!!
んん?! なんか近くに着地した??
どうなってるんだ? 見えないから周囲の状況がわからーん!
「これはこれは、なんとまぁ。懐かしき遠い同胞の気配がしたので来てみれば、本当に居るとはのう」
え? なんかマダムっぽい感じの声がする。
誰だ??
「しかし、どうするか。我はあの時からもう他者と関わるのは止めようと思っていたのじゃが」
あ、これは見捨てられるパターンか? 出来れば助けて欲しい所だが、ダメそう??
「ううむ。じゃが、気配につられたとはいえ、ここまで来てしまったしのう。……見つけてしまったのはしょうがないか。これも、創生神ピーリア様のお導きなのかもしれん」
グワシッ!
ひょっ?! なんか胴体をでかい何かに掴まれたぁ?!
――バサッバサッバサッ
な、なんか、浮遊感が??
まさか、飛んでる? 飛んでます?
ちょ、本当にどうなってるんだ? 死に戻りしないのか? 何かのイベント演出? すいません! せめて、目を開けさせてくれーー!!
・つやつやサテン
メンマさんのフレンド。【裁縫】持ちの衣服系防具の生産プレイヤーで、種族はヒューマン。武器は一応、鞭使い。この度、メンマさん経由で聞いたことも見たこともない謎の毛皮素材を一気に渡されて、びっくりしすぎてVR機器から体調警告アラートが出た。
・『ハルン鉱石』と『ハル石の原石』
アクセサリーや武具にすると、精神力が上がる。フィフローの鉱山では産出されないアイテム。もちろん、フリボに出したら阿鼻叫喚になること間違いなし。




