29話 新たなフレンドと身バレ
まったり楽しんだイベント初日から数日後、今日もまた帰宅してから諸々を片付けて、アトオンにログインしていた。
さてと、今日はどうしようかな。昨日は直ぐにイベントエリアに行ってしまったから、少しこの荒れ地フィールドを進んでいこうか。そう思って、次のセーフティエリアを見つけるまで、荒れ地フィールドを進むことにした。
目の前に山が視認できているおかげか、樹海を抜けてから、何回かの死に戻りを挟みつつ、少しずつ少しずつ目的地に近づいているのがわかって、最近は進むのが楽しい。
荒れ地には最初に見た犬や鷲、ダンゴムシの他にも、中型くらいの大きさの山猫「ワイルドキャット」や、やたら小さいが素早いトカゲ「スピードゲッコー」などがいた。
「スピードゲッコー」は、本当に小さくて攻撃が当たりづらいのに、周りをちょこまか走り回っては、口から石つぶてを飛ばして、イライラさせてくる敵だった。一度痛い目を見たので、次からは奴がいたら、たとえ一体だろうが構わずに範囲魔法を使う様にしている。
なるべく戦闘を避けれるように周囲に注意しつつ進んでいくと、目の前に一体の大きな焦茶色ヤギが率いるカラフルなヤギの群れが見えた。あ、あれは絶対に近づいちゃいけない奴だ。
大きな焦茶色ヤギが「ビッグアースゴート」という、土属性のクソ強モンスターである。あの一体だけでもヤバいのに、周りに土属性、風属性、火属性のカラフル毛皮のお供ヤギがいる。見つかったら最後、波濤の様な一斉魔法を食らって死に戻る。(前に【ウォーターウォール】で防御したが、紙の様に一瞬で突き破られた)
【隠密】スキルを使いつつ、群れから離れて迂回しつつ進む。逸れたお供ヤギだったら2回程倒せたんだけどなぁ、群れは無理だよ。
そうして15分程フィールドを慎重に進み、無事に岩に囲まれた次のセーフティエリアを見つけ出せたので、中に入ってメニューを開く。
イベント項目を選択して、イベントエリアへレッツゴー!
* * *
イベントエリアは、今日も賑わっていた。今日はどうしようかな? 今まで出店も堤防での釣りも楽しんだから、いよいよ船で沖に行ってみようか。
せっかくだし、ソルメイさんが居たら誘おうかと思ったが、残念ながらログアウト中だった。仕方ない、今日は一人船旅といこう。そう思って船着場へと向かった。
船着場に着くと、見覚えのあるビーストマン(猫)の人と見覚えの無い黒装束のドワーフの人が居た。
声をかけようか迷っていると、あちらから気づいて話しかけてくれた。
「プラナさんお久しぶり〜。そちらも〜、船で沖に出る感じです〜?」
「お久しぶりですメンマさん。はい、船釣りを試そうと思いまして。そちらの方は?」
「メンマさんの知り合いか。ワシは源三郎という。これでも忍者だ! ちゃんと【隠密】スキルも持っとるぞ!」
「忍者?!」
「源さんは、凄いんだよ〜? 俊敏力が低いドワーフなんだけど〜、忍者プレイする為に〜、装備とスキルで〜俊敏力を高めて〜、ゴリ押しで黒ローブとの追いかけっこをクリアして〜、【隠密】スキルを取得したんだよ〜。」
黒装束の時点でおや? と思っていたが本当に忍者プレイしている人だとは。
「ん? お前さん、短剣使いなのか。珍しいのう。短剣はリーチが短いから、あまりメインで使っておる奴が少ないというのに」
「ええ、まあ。ちょっと剣とかが不利なフィールドに居まして」
実は樹海の中で短剣に変えてから、荒れ地フィールドでも短剣装備のままだった。なんかもう、両手短剣の動きの方が使いやすいし、【短剣術】に加えて【双剣術】も取れたしね。
「ほうほう。それはまた、何処におるのか興味深いが、あまり詮索するとマナー違反になるからのう。そうじゃ! 短剣使いなら、こんなものはいらんか? 最新作なんじゃが」
そう言って源三郎さんが出して来たのは、ちょっと長めの片刃の短剣。……これは、忍者刀と言うやつでは?
「申し訳ないのですが、忍者刀はちょっと……」
「何故じゃ! 忍者は良いぞ!?」
「源さん〜。忍者の無理強いは〜、ダメだよ〜。」
少し話をすると、源三郎さんはドワーフ忍者かつ鍛治師プレイをしながら、忍者の布教をしているとの事。
鍛治師もしている理由は、自分で手裏剣などの忍具製作をしたいからというこだわりからだった。メンマさんとは生産仲間として、フレンドになりつつ、忍者っぽいアクセサリーの依頼をしているらしい。
いや、自分も【隠密】を持ってはいるが、暗殺者にも怪盗にも忍者にもなりませんっっ!!
それから、なんとなく話の流れでメンマさんと源三郎さんと一緒の船に乗る事になった。船は前払いのレンタル式で、運転も全自動になっており、いきたい場所を運転席の地図でタップするだけというお手軽さ。しかも、海に落ちた時用に『シーフェスレスキューバッチ』というアイテムもくれた。
これは、アクセサリー枠を一つ消費するが、船から海に落ちた際に、自動で船に戻してくれる優れもの。船から降りたら回収されるらしい。水の苦手なドワーフである源三郎さんは、急いでバッチを身につけていた。
更に、投網をオプションで買えるらしく、投網を使うと複数の魚を一気に取る事ができる。ただ、その場合は複数エンカウント扱いになるので、腕に覚えのある人用。自分達は、お試しで一つ購入した。
前払い料金を割り勘で払い、3人とも船に乗り込むと、早速どこ辺りに行くか話し合う。
「確か、掲示板だと外洋に行くほどモンスターも強くなるんですよね?」
「そうなると、沖の中ほど辺りで一旦様子見かのう」
「そうだね〜。一応リアルだと海鳥が集まってる場所が〜、魚もいっぱいいるらしいけど〜、ここからじゃ見えないし〜」
話し合った結果、とりあえず地図の中程辺りをタップして向かった。
リアルと異なり、それほど船は揺れず、快適な出航だった。沖の中程まで来ると、ゆっくり船が停止する。
「さてさて〜。最初は釣りと投網、どっちからやる〜?」
「先ずは敵の強さを見る為、釣りで一匹ずつ対峙した方がよいじゃろう」
「そうですね。では、各自で一本釣りからやりましょう」
船上の思い思いの場所で各自釣りを始める。自分は、船尾の方にて、イベント用練り餌を使って釣ってみよう。
暫くゆったりと波を眺めて釣りタイム。船釣りは初経験なんだが、どんなのが釣れるんだろうな。タイかな? ヒラメかな? ブリかな?
「ちなみに〜、お二人は、どんなお魚がお好き〜? 私はサーモンが一番好き〜。」
「自分は、ブリですかね。お刺身も照り焼きも好きです」
「ワシは、サメじゃな。煮付けが美味い」
え?! サメ?? サメの煮付け? フカヒレとかじゃなくて?
「サメってフカヒレ以外も食べられるんです?」
「普通に鮮魚コーナーに切り身が売っとるじゃろう?」
「源さん〜、サメ肉を食べるのは一部地域のみで、一般的じゃ無いよ〜」
そんな感じで雑談をしていると、源三郎さんの竿に当たりがきた。
「よっし、最初の一匹じゃあ!」
釣り上げると、中々大きめの青魚だった、これは何の魚だろう? 針を口から外して、水を纏い、バトルモードになった魚。名前は……
「相手は、「シーフェスボニート」?」
「ボニートだから、カツオだね〜」
この魚カツオか! それにしても、メンマさんは博識だなあ。
バトルモードのカツオは、水流を纏った体当たりを連続でして来たり、水球を飛ばして来たり、素早い動きが手強かったが、源三郎さんが「土遁!」とか言いながら発動した【アースウォール】で動きを止められ、メンマさんの風属性を付与した矢で射抜かれ、自分が両手の短剣で使った【双剣術】のアーツ【ダブルスラッシュ】で切りつけられて、一気にボロボロになってしまった。
弱ったカツオは、最後に源三郎さんの鎖鎌で仕留められた。鎖鎌だとっ?! え、それは武器の分類的に何になるんだ??
「カツオの切り身ゲット〜」
「今日の昼メシは、カツオのタタキじゃな!」
その後も何回か釣りを行い、最後に投網で複数体と戦った。カツオ以外には、サーモンやサバやイカやタコ、それから堤防釣りと同じくアジにイワシ等が獲れた。大量、大量!
* * *
大満足で船着場まで帰って来た3人組。源三郎さんは【料理】スキルを持っていないとの事だったので、魚の食用素材だけメンマさんと自分で買い取ってお別れした。ちなみに源三郎さんとは、フレンドになって、後で武器をオーダメイドさせて貰える事になった。
魚の食用素材以外のドロップについては、ウロコや背ビレなんかがレアドロップしている。アレで武器とか作れるんだろうか? フリボには『海祭りの◯◯』という名前の剣とかが出ていたが、ウロコからどう作ってるんだろう?
メンマさんと2人でやって来たのは出店ゾーンの横にある料理場だ。ここの調理台は、1人で使ってもいいし、複数人でも使えるのだ。今日はせっかくなので、メンマさんと2人で料理をやってみる。
「じゃあ〜、プラナさんはカツオの切り身を丸ごと炙るのお願いしますね〜。タタキ用なので、中身はレアで〜」
「はい、任せて下さい」
結構大きめの塊でドロップした『シーフェスボニートの切り身』を取り出して、バーベキューコンロの上で、表面を炙る。藁焼きとかにしたいけど、藁が無いからなー。
ふと、メンマさんの方を見ると、キャベツっぽいのをザク切りに、イカとタコをぶつ切りにしていた。次に取り出したアレは……麺?!
「メンマさん、それはもしかして海鮮焼きそばですか?!」
「残念〜。まだ小麦粉は手に入ってないから〜、これは米粉麺のビーフンなんだ〜。だから、海鮮焼きビーフンだよ〜」
くっ、まだ小麦粉が無いのか。町のNPCは、パンは売ってくれるのに、何故か小麦粉とかは売ってくれないらしい。でも、焼きビーフンも美味しそうだ。
イベント用のお米をそのまま炊くんじゃなくて、米粉にして使うなんて、流石メンマさん。
感心してたら、カツオが焼けすぎてしまいそうになったので、慌てて網から外して粗熱をとる。
粗熱を取っている間に玉ねぎっぽいやつを薄切りにして、水に晒す。後はタレを作って……。うわ、メンマさんの方から海鮮焼きビーフンの良い匂いがする。ゲーム内だけど、お腹空くなあ。
作ったカツオのタタキと海鮮焼きビーフンは、それぞれ紙のミニ皿に取り分けて量産する。
最後にメンマさんが取り出したのは、なんと、一抱えもある氷だ!
「えっ!? その氷どうしたんですか??」
「いや〜。ある程度イベント素材から色々作って〜、出店で売ってたら〜、イベント出張所の商品ラインナップが〜変わるみたいでね〜? なんと、イベント用氷とレンタルカキ氷器が出て来たんだよ〜!」
カキ氷器!? 海の家の水鉄砲やビーチボールといい、運営は海の娯楽を満喫させようとしてくるな。嫌いじゃないぜ!
「悪いんだけど〜プラナさん、カキ氷の量産頼めるかな〜。カップはこれ〜。私は、シロップ作るから〜」
「ええ、大丈夫です。力仕事は任せて下さい。」
メンマさんから、氷とカキ氷器を貰った。カキ氷を作るなんていつ以来だろ? なんだかワクワクするな。
氷をセットしていると、メンマさんがシロップ用に果物を出していた。ミカンっぽいのに、イチゴっぽいの、あれはレモンかな? あとは、一個だけ有るアレは、もしかして『クォーハの実』かな? グァバっぽいやつ。
「それ『クォーハの実』です?」
「そうだよ〜、フリボで買ったんだ〜。隠し味に使おうと思って〜」
隠し味か。うーん、せっかくだったらクォーハだけで作ったグァバ風シロップでカキ氷を食べてみたいな。
「隠し味じゃなくて『クォーハの実』だけでシロップ作りましょうよ! 自分も出します!!」
そう提案して、アイテムボックスから『クォーハの実』を幾つか出す。スタルーは中々見つからないけど、クォーハとパパナは結構見つかったからな。
それを見たメンマさんが何故か驚いていた。そして、ちょっとこめかみに手を当てた後、手招きしてきた。
何だろうと思って近づくと、耳元でこっそり話しかけてきた。
「えーっと〜、プラナさん。もしかして〜「ジャングルの人」だったりする〜?」
……っ?! なんでそれを??!
あっ、『クォーハの実』! 油断して、アイテムボックスからポロポロ出してしまった!! これ、フリボにも出してるけど、自分は【商業】スキルないから、出品枠が少なくて、そんなには売ってないんだった!
ヤバいと思ったが、後の祭りである。青ざめて動揺していると、メンマさんが肩をポンと叩いてくれて。
「まあ〜、私は〜言いふらしたりはしないから安心して〜。とりあえず〜、この実は一つだけ貰っておくね〜。後は目立っちゃうから〜、しまいましょ〜」
メンマさん、大人や……。ありがたく、出しすぎた分を仕舞わせて貰った。
後は、無事にカキ氷を量産した。クォーハシロップは、二つの実から少量だけ作って、ちょっとお高い限定シロップとして売る事にした。
* * *
出店も共同で出せたので、2人で一緒に売り子をした。カキ氷はその場でシロップを選んでかける形態で売ったのだが、珍しいクォーハシロップは、あっという間に無くなってしまった。
売る前に、2人で味見してて良かった!
出店の商品が完売したので、別れる事になったのだが、帰り際にメンマさんから、身バレして目立ちたくないなら、気をつけなきゃダメだよと、念の為に他の人の身バレ過去例を教えて貰い、気をつけるポイントを学んだ。
メンマさん、本当に良い人だ!
ついでに、メンマさんにちょっと甘えさせてもらって、樹海で取れた謎アイテム『ジャル石の原石』を渡し、アクセサリーを作ってもらう事にした。
採掘スポットで、基本的に石ころしか取れなかったんだけど、偶にこの謎アイテムが取れたんだよな。原石ってことは、磨いたら宝石みたくなるかもしれないって事で、【細工】持ちのメンマさんに頼んだ!
身バレして焦ったけど、逆にこれからは身バレを気にせず、樹海や荒れ地フィールドの素材で、メンマさんにアクセサリーをお願いできるようになったし。良かったかもな!
……『ジャル石の原石』を受け取ったメンマさんがまたこめかみに手を当てていたけど、見なかったことにしよう。
ドワーフ忍者鍛治師がフレンドになった!! なぜ「ござる」口調じゃ無いかって? アレは掲示板限定でござる。
(通常プレイ中もござる口調のプレイヤーはいるが、ごく一部である)




