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77話 小さな獅子

『なんだ?……声が聞こえたけど……誰かいるのか!』



 不意な声にマップを確認すると、隔離された空間から更に少し離れた場所、マップにも地形が表示されていない場所にNPCが居るのが分かった。ボスを討伐するまでは間違いなく居なかったはずだが……これはイベントの予感がする!



「ここに居るぞ!」



 そう返事を返しマップ上でNPCのいる場所に近付いてみるが姿は見えない。代わりに壁が少し崩れ隙間が空いているのが分かった。



「この隙間の中か?おーい、居るか?」


『大声を出すな!!"奴"に気付かれたらどうする!……今は"奴"の気配がないみたいだけどここは危険だ。お前だけでもさっさと逃げろ』



 壁に空いた隙間から鬼気迫るといった様子でNPCが語りかけてくるが、このNPCがいう"奴"とは恐らくさっき倒したボスの事だろう。



「そいつならさっき俺達が倒したから心配ないぞ。それより、お前そこから出られないのか?」


『俺達?倒した?……仲間がいるのかっ!?いや、確かに似た気配は感じるが……』



 このNPCは気配を感知する力でもあるのだろうか……(しき)りに気配、気配と口にして話している俺に対しても随分と警戒しているようだ。



「まぁとにかく出てこいよ。自力で出れないなら手伝うぞ?」


『……分かった。一人で出れる、少し離れていろ』



 そう言われ、少し距離をとると壁をコツコツと叩く音が聞こえ、少しするとガコッという重々しい音と共に、中からゆっくりと人間の子供のような大きさのシルエットが姿を見せた。そして壁から出てきた後も足音を立てないようにゆっくりと動いている。



「岩で塞いでたのか……しかし随分と慎重に出てくるな。見ての通りボスは倒したぞ?」



 僅かな隙間しか空いていないほどピッタリの岩で塞いでいたようで、そう言いながらNPCに近付き、ランタンを向ける。



『……俺は……目が見えないんだ。気配でしか周囲の様子が分からない』



 ランタンの光に照らされ見えたNPCの姿は、パズよりも少し体が大きいくらいの獣人だ。(たてがみ)にも見える髪から恐らくライオンの獣人だろう。しかし暗い所にいるからだろうか、鬣が黒っぽく見える。



「それはすまん!それより目、怪我したのか?治せるかもしれないから見せてみろ」



『違う!……これは生まれつきだ。それよりお前はなんだ?声は1つなのに、同じ気配が他にも5つ感じ取れる。魔法か何かで分身でもしてるのか?』



 このNPCが言っているのは召喚者達の事だろう。召喚者達は俺が召喚したため、あながち分身というのも的外れではないのだろうか……



「まぁ似たようなもんだ。それより何でこんな所にいるんだ?迷子……ではなさそうだけど」


『それは……俺はあのバケモノを倒して強くなりたかったんだ』



どうやら偶然ここに閉じ込められたのではなく、自分の意思でここに来ているようだ。



「……そうか……俺も特に用事がある訳じゃないし、お前も無事ならもう行く。お前はこれからどうするんだ?」


『俺は……俺もバケモノがいないなら用事はない。それより、アンタあのバケモノ倒したんだろ?強いよな?』


「まぁそこそこ強いと思うぞ?バケモノ倒したのは俺1人の力じゃないけどな!」



 俺がそう告げるとNPCは黙り、俯いたまま動かなくなってしまった。

 ボスを倒したとはいえ、ここはセーフティエリアではない。用事もない今、退路がないこの空間に長く留まるのは避けたいが、NPCを今更無視して引き返す事も出来ない。



「とりあえず一緒に地下の街まで行くか!このままここに居ても強くはなれないだろ」


『……分かった。俺は強くなりたい。だから強いアンタについて行く…………ゼノンだ』


「俺はゼルだ。よろしくなゼノン」



理由は分からないが、ゼノンはかなり強さに飢えているようだ。一緒に街へ行くことになったが、ここで1つ思い付いた事がある。

 NPCでもパーティに入れられることはパズ達の事から分かっている。地下にある街に向かう道中、強さを求めるゼノンとパーティを組んで敵を倒せば、少しでもゼノンに経験値が入ってレベルが上がり強くなるのではないかと思ったのだ。



 テラをパーティから外し【同化】、パズ達と同様にゼノンをパーティに誘ってみる。NPCはプレイヤーとは違いシステムメッセージによる【はい】 or 【いいえ】のようなボタンは表示されず、頭にパーティ加入申請の文字が直接表示される仕様だ。目が見えないゼノンでもパーティ加入の申請は見えるはず。



『こ、これは……アンタ、もしかして噂に聞く異界の冒険者って奴か?』


「そうそう!……よし、これで俺達はパーティだ。倒した敵の経験値は山分けだな」



 そう言ってみたものの、NPCに経験値やレベルの概念があるかどうか分からない。ゼノンには説明もし辛いため内緒でステータスを覗いてみた。



(レベル40!!俺より高いぞ……ステもかなり高いな)



 俺はここに来るまでの道中と、ボス討伐でレベルが上がりLv39になったが、ゼノンはステータスのうち筋力は俺より高く、戦士系統のプレイヤー並だ。

 さらに話を聞いたところ、ゼノンは優れた聴覚で自分の足音の反射を聞き分け地形を把握し、嗅覚で敵を察知、気配を感じ取る不思議な能力で戦闘も出来るようだ。



「十分強いと思うけどなぁ」


『アンタが倒したバケモノに勝てなくて壁の中に逃げ込む羽目になったんだ。全然足りねぇよ』



 ゼノンは体もパズより少し大きいくらいである事から、恐らくまだ子供だ。そんな子供でありながら強くなる事を望み、ソロで地下渓谷に踏み込むばかりか、ボスと戦闘をして生き残っている。劣勢に追い込まれ、やむ無く壁の隙間に逃げ込み身を潜めることになったとの事だが、相当な実力者なのは間違いない。



 倒したい敵がいるのか、単純に強さに飢えているのか、不自然なほど強さを求めるゼノンだが、敵が出てくる場所の為あまり踏み込んだ事は聞けないまま渓谷を下る。



 その後、無事地下渓谷を下りきり、洞窟となっている通路を抜けると巨大な空間が広がり、眼下には街並みが存在していた。

 一際大きな遺跡のような建物を中心に街が広がり、吊り橋がそこら中に張り巡らされ、壁を大きくくり抜いて住居にしている場所も多く見られた。さらに街中からカンカンと金属を叩く音が聞こえてくる。



「おぉー、さすが地下の街!どんな奴らが住んでるんだろ」


『なぁ、俺は__』


「ゼノン!まずは飯でも食おうぜ。地上に戻りたいなら俺がすぐに送ってやるからさ」


『なっ!ちょっ、ちょっと、おい……』



 せっかく知り合ったという事もあるが、この【地底の街】に辿り着くまでゼノンの腹がグーグー鳴り続けていた。少し強引だが一緒に街に向かい、まずは飯屋を探す。



「やっぱドワーフはこうだよなぁ……まさにイメージ通りだ」



【地底の街】にいるのはドワーフというファンタジーお馴染みの種族で、身長はやや低くずんぐりむっくりな体型に豪快な髭を携えている。ドワーフの女性もそれなりに多いが身長が少し低い以外、特に人間と変わった所はないように思える。



 街に到着した時からゼノンとはパーティを解散しているが、ドワーフ達が暮らす街を一緒に歩いて召喚者全員と一緒に飯屋に入る。



▽▽▽



 全員満足いくまでご飯を食べ、一息ついたタイミングでゼノンに話しかけてみる。



「なぁゼノン、お前はなんでそこまで強くなりたいんだ?十分強いと思うけど、何か理由があるのか?」


『それは…………』


「何か理由があるなら、俺が手伝える事があるかもしれないし、喋りたくないんだったら喋らなくてもいい」


『……俺は__』



 ここまでの道中で俺の事を信用してくれたのか、ゼノンがぽつりぽつりと自身について話してくれた。



 ゼノンの鬣はかなり黒みを帯びている。これは俺の見間違いではなく、特有の物らしい。

 ゼノンの種族はライオン獣人の中でも強靭な肉体を持つ【ライオネル】という種族のようで、ライオネルは鬣が黒いのが特徴なんだそうだ。



 しかしライオン獣人のエリートであるライオネルは、その強靭さを活かし戦いに身を置く事が多く、弱い者はすぐに切り捨てられるそうだ。

 そんな理由から生まれながらに目が見えず、他の者と比べて体が小さかったゼノンは群れから追い出され、子供の時に捨てられたそうだ。



 確かにゼノンはまだ子供であるパズより少し体が大きいくらいだ。勘違いしていたが、ゼノンはすでに成長した大人で、それでもなお体が小さいのだ。



『だから俺はそんな俺を捨てた奴らを見返したい!だから強くなりたい!…………それだけだ』


「……じゃあライオネルって種族は相当強いんだなぁ……俺はまだ見た事ないけど、今のゼノンでも強さが足りないとなると、俺には想像もつかない」


『……まぁ正直なところ、さっき話した内容は確かに原動力になってるけど、固執してるわけでもないんだ。ただ純粋に強くなりたい。それに理由なんてない』


「うーん、まぁ確かにな」



 俺もこのゲーム内で最強を目指したりしている訳じゃないが強くはなりたい。自分のやりたいことを成す為に、邪魔されないように強さを求める。それ以外に理由はない。自身の成長を楽しめるって理由も多少はあるか……



 しかしそうなるとゼノンの想いに俺が手を貸すべきじゃない。むしろ邪魔になる。

 倒したい宿敵がいるなどの理由であれば喜んで手伝うが、話を聞いた感じ、ゼノンは捨てられたことに対して復讐しようとも思ってなさそうだ。それならばこれ以上無理に関わるべきじゃない。



「だったら俺が手伝えることはなさそうだ。まぁ無理はしないようにな」


『あぁ、俺はもう行くぜ?…………あー、それと……その、アンタと会えて良かったぜ。ご馳走様』


「おぅ、俺もだ!またどこかで会おうぜ」


『あと、これはホンの礼だ。たまたま見つけたんたけど金じゃなさそうだし、アンタが好きに使ってくれ』



 そう言ってゼノンは机に何かを置いて街の中へと消えていった。



「メダル……だけど、くすんでるな。召喚に使うメダルじゃないのか?」



 ゼノンから【くすんだメダル】というアイテムを貰ったが、用途が分からない。出会った記念ってことで大事に持っておくことにしよう。


読んで頂きありがとうございます。

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